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第六章 秘伝と知己の集い
340 頼ってほしい大人達
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女将達と起き出して来た神楽部隊の者達などを中心にしてお茶を楽しむ。懇親会のようなものになった。
元々、社交的な女将達は、近寄りがたいと思っていたであろう焔泉にも楽しそうに喋りかけている。
それは、焔泉達の業界のことについてが主だ。神楽部隊がどのような仕事をしているのかというのを聞き、目を輝かせていた。
「それは大変なお仕事ですわね……でしたら、常に日本中を回っておられるのですか?」
「ええ。その土地、土地に数ヶ月滞在しますからね」
「それでは、お家にお帰りになるのは……」
「扉が繋がっている場所もありますから、それほど不自由はしませんよ」
「扉というのは……アレですわよね?」
アレと言って目を向ける先には、神楽部隊がやって来た扉がある。
これに、伊調が笑う。
「ええ。本来ならば、あれもそうそう簡単に繋げられるものではないのです。多くの力ある能力者で力を合わせて繋げることが可能となります」
「そうなのですか……?」
そこで、女将達だけでなく、武雄やその両親も高耶へと目を向ける。これに気付いた焔泉が軽やかに笑った。
「ふははっ。そうやねえ、高坊は別格でなあ。九人おる首領の中でも力はトップやろうな……高坊の式達には会っとるやろ?」
「はい……」
「分かりやすく言えば、あの子らは、うちらの式達の王みたいなものや」
「王……」
王と言われても、理解し難いだろう。それを、焔泉も感じたのだろう。
「あの子らを怒らせた高坊の一族のもんがなあ、式を全く使えんくなった事もあるんよ。今でもまだ、使えん者がおる」
「……」
「ふふふっ。絶句するやろ。何とも言えん顔になるわなあ。高坊に自覚もないしなあ。なあ、高坊」
「そこで振らないでください……」
高耶も困る。微妙な顔をしていれば、蓮次郎も話に入ってくる。
「高耶君は最近、当主としての威厳も出て来たし、何より、神楽部隊も電話一本で集合するしねえ。清掃部隊までいつの間にか手懐けてるし? もうね、高耶君を総代表みたいなものにしちゃおうかって話が出るほど有能で困るよ」
「……やめてください……」
切実に、そこはやめて欲しいと断っておく。
「……高耶って凄いんだ……同い年なのに……」
武雄が複雑そうな顔を向ける。
「そうだねえ。孫くらい若いのに、頼ってもらえないのは寂しいしね」
「ほんになあ……何でもでき過ぎるのも困るわ……せやけど……高坊にしか任せられそうにないこともあるでな……」
「それなんだよね……」
二人が高耶を申し訳なさそうに見る。そして、焔泉が問いかける。
「……どうにかなりそうかや?」
高耶が、昨日からずっとこの土地の神のことを調べているのは分かっていたようだ。あれだけ他の地の神が押し寄せても反応がない土地神。それを焔泉たちは、不気味に、不安に思っていた。
それでもそちらへと手を回さなかったのは、それだけの余裕がなかったというのが大きいが、手を出せなかったのだ。こんな事態は初めてで、術者であっても神への対応を間違えることもある。
それは、この地に住む者全てに降りかかる厄災を呼ぶ可能性もあるのだ。その怖さを知っているから、下手に手を出せなかった。
しかし、高耶ならばと感じていたのだ。多くの神の加護を持ち、神となった者を傍に置き、天使や悪魔さえも目をかける高耶ならば、どうにかできるのではないかと。それは直感のようなものだった。
術者の勘は侮れない。それも、焔泉や蓮次郎といった高い能力を持つ者達の勘は信じない方がまずいことになる。
伊調達も、この場の誰もが高耶へと目を向ける。これを受けて、高耶はため息をゆっくりと吐いた。
「……っ……場所はわかりました。眠っているのは確かです。ですが……少し弱ってもいるようです……」
「っ……高耶君……離れるかい?」
「いえ……今すぐに消滅するほどではありませんから、気を付ければ大丈夫……だと思います……」
最後に自信がなくなったのは、感じているからだ。昨晩、多くの神と相対したことで、今まで自覚できなかった自分の中から溢れ出てくる神気に。
指にはまる指輪を見る高耶に、焔泉が確認する。焔泉や蓮次郎も、もう気のせいとは思えなくなっていた。高耶から神気を感じることに。
「……抑えられんか……」
「すぐに制御はさすがに……数日、いただけますか?」
「構わん。すぐにどうにかなるものでもないんやろ?」
「ええ。そこは、充雪も確認しています」
「なら、ええ。ただ……無理はせんことや」
「はい……」
「「……」」
心配そうに高耶を見る蓮次郎や焔泉、神楽部隊の者達。その様子に、武雄が不安げに口を挟む。
「何か……高耶……病気とか?」
「いや……」
高耶がどう説明しようかと迷っていれば、焔泉が事もなげに答える。
「ちょっと人の枠を外れはじめとるだけや」
「え?」
「……その言い方は……」
逆に不安にさせるだろうと高耶が顔をしかめる。すると、焔泉は暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように笑った。
「ふふふっ。違わんやろ? 人やなく、神になりかけとるんやから。まあ、ちょっとあれや。今よりもっと神々しく見えるようになるってだけやわ」
「信者が増えるだろうねえ。あ、今はファンか」
「想定より早いですけどねえ。さすがに半世紀は生きてからにして欲しかったのですけれど」
「……面白がってますか?」
「「「ふふふっ」」」
「……」
彼らにとっては、それほど悪いことではないのだ。誰よりも神との向き合い方を知っているからこそだろう。
土地神とならなければ、その土地に繋がれなければ問題はない。
「まあ、高坊は気をつけることが多くなるでなあ、面倒かもしれんが……土地に捕まらんように、うちらも気をつけるわ」
「……お願いします……」
「ふふふっ。これで少しは頼ってもらえそうや」
「ああ、それはあるねえ。いやあ、良かった」
「そうですねえ」
「……」
高耶には喜べなかった。
「高耶……無理しないようにね」
武雄が本当に心配そうに声をかけてきた。これに、高耶はうんと頷く。
「ありがとな……」
その言葉掛けに、心が少し癒されるのを感じた。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
元々、社交的な女将達は、近寄りがたいと思っていたであろう焔泉にも楽しそうに喋りかけている。
それは、焔泉達の業界のことについてが主だ。神楽部隊がどのような仕事をしているのかというのを聞き、目を輝かせていた。
「それは大変なお仕事ですわね……でしたら、常に日本中を回っておられるのですか?」
「ええ。その土地、土地に数ヶ月滞在しますからね」
「それでは、お家にお帰りになるのは……」
「扉が繋がっている場所もありますから、それほど不自由はしませんよ」
「扉というのは……アレですわよね?」
アレと言って目を向ける先には、神楽部隊がやって来た扉がある。
これに、伊調が笑う。
「ええ。本来ならば、あれもそうそう簡単に繋げられるものではないのです。多くの力ある能力者で力を合わせて繋げることが可能となります」
「そうなのですか……?」
そこで、女将達だけでなく、武雄やその両親も高耶へと目を向ける。これに気付いた焔泉が軽やかに笑った。
「ふははっ。そうやねえ、高坊は別格でなあ。九人おる首領の中でも力はトップやろうな……高坊の式達には会っとるやろ?」
「はい……」
「分かりやすく言えば、あの子らは、うちらの式達の王みたいなものや」
「王……」
王と言われても、理解し難いだろう。それを、焔泉も感じたのだろう。
「あの子らを怒らせた高坊の一族のもんがなあ、式を全く使えんくなった事もあるんよ。今でもまだ、使えん者がおる」
「……」
「ふふふっ。絶句するやろ。何とも言えん顔になるわなあ。高坊に自覚もないしなあ。なあ、高坊」
「そこで振らないでください……」
高耶も困る。微妙な顔をしていれば、蓮次郎も話に入ってくる。
「高耶君は最近、当主としての威厳も出て来たし、何より、神楽部隊も電話一本で集合するしねえ。清掃部隊までいつの間にか手懐けてるし? もうね、高耶君を総代表みたいなものにしちゃおうかって話が出るほど有能で困るよ」
「……やめてください……」
切実に、そこはやめて欲しいと断っておく。
「……高耶って凄いんだ……同い年なのに……」
武雄が複雑そうな顔を向ける。
「そうだねえ。孫くらい若いのに、頼ってもらえないのは寂しいしね」
「ほんになあ……何でもでき過ぎるのも困るわ……せやけど……高坊にしか任せられそうにないこともあるでな……」
「それなんだよね……」
二人が高耶を申し訳なさそうに見る。そして、焔泉が問いかける。
「……どうにかなりそうかや?」
高耶が、昨日からずっとこの土地の神のことを調べているのは分かっていたようだ。あれだけ他の地の神が押し寄せても反応がない土地神。それを焔泉たちは、不気味に、不安に思っていた。
それでもそちらへと手を回さなかったのは、それだけの余裕がなかったというのが大きいが、手を出せなかったのだ。こんな事態は初めてで、術者であっても神への対応を間違えることもある。
それは、この地に住む者全てに降りかかる厄災を呼ぶ可能性もあるのだ。その怖さを知っているから、下手に手を出せなかった。
しかし、高耶ならばと感じていたのだ。多くの神の加護を持ち、神となった者を傍に置き、天使や悪魔さえも目をかける高耶ならば、どうにかできるのではないかと。それは直感のようなものだった。
術者の勘は侮れない。それも、焔泉や蓮次郎といった高い能力を持つ者達の勘は信じない方がまずいことになる。
伊調達も、この場の誰もが高耶へと目を向ける。これを受けて、高耶はため息をゆっくりと吐いた。
「……っ……場所はわかりました。眠っているのは確かです。ですが……少し弱ってもいるようです……」
「っ……高耶君……離れるかい?」
「いえ……今すぐに消滅するほどではありませんから、気を付ければ大丈夫……だと思います……」
最後に自信がなくなったのは、感じているからだ。昨晩、多くの神と相対したことで、今まで自覚できなかった自分の中から溢れ出てくる神気に。
指にはまる指輪を見る高耶に、焔泉が確認する。焔泉や蓮次郎も、もう気のせいとは思えなくなっていた。高耶から神気を感じることに。
「……抑えられんか……」
「すぐに制御はさすがに……数日、いただけますか?」
「構わん。すぐにどうにかなるものでもないんやろ?」
「ええ。そこは、充雪も確認しています」
「なら、ええ。ただ……無理はせんことや」
「はい……」
「「……」」
心配そうに高耶を見る蓮次郎や焔泉、神楽部隊の者達。その様子に、武雄が不安げに口を挟む。
「何か……高耶……病気とか?」
「いや……」
高耶がどう説明しようかと迷っていれば、焔泉が事もなげに答える。
「ちょっと人の枠を外れはじめとるだけや」
「え?」
「……その言い方は……」
逆に不安にさせるだろうと高耶が顔をしかめる。すると、焔泉は暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように笑った。
「ふふふっ。違わんやろ? 人やなく、神になりかけとるんやから。まあ、ちょっとあれや。今よりもっと神々しく見えるようになるってだけやわ」
「信者が増えるだろうねえ。あ、今はファンか」
「想定より早いですけどねえ。さすがに半世紀は生きてからにして欲しかったのですけれど」
「……面白がってますか?」
「「「ふふふっ」」」
「……」
彼らにとっては、それほど悪いことではないのだ。誰よりも神との向き合い方を知っているからこそだろう。
土地神とならなければ、その土地に繋がれなければ問題はない。
「まあ、高坊は気をつけることが多くなるでなあ、面倒かもしれんが……土地に捕まらんように、うちらも気をつけるわ」
「……お願いします……」
「ふふふっ。これで少しは頼ってもらえそうや」
「ああ、それはあるねえ。いやあ、良かった」
「そうですねえ」
「……」
高耶には喜べなかった。
「高耶……無理しないようにね」
武雄が本当に心配そうに声をかけてきた。これに、高耶はうんと頷く。
「ありがとな……」
その言葉掛けに、心が少し癒されるのを感じた。
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