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第六章 秘伝と知己の集い
338 友人の葛藤
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同窓会は終わり、もういつ帰っても良い。最終のチェックアウトの時間は夕方の五時。
昼食も頼めば食べられる。高耶や俊哉達は、俊哉が幹事の一人ということもあり、五時にチェックアウトするつもりでいる。
だから、まだゆっくりする時間的余裕があった。
「おっ、高耶おはよ」
「はよー。旅行に来て徹夜仕事とか、大変だな」
満と嶺が俊哉と彰彦、槇とトランプをしながら声を掛けてきた。
「ああ……おはよう」
そこに、高耶が起きたというのを察知して、珀豪がコーヒーを持って部屋にやってきた。
《主よ。疲れは取れたか?》
珀豪は、高耶の目の前まで来て膝をつき、顔色を確認するように見て、コーヒーの載ったトレーを差し出す。
それに苦笑しながら、コーヒーを受け取り、高耶は確認した。
「ああ。伊調さん達は?」
《まだ寝ている者も多いようだ。だが、伊調や橘の長や安部の長は起きていたな。主が起きたなら、旅館の女将達と一緒に話しをしたいと言っていた》
「分かった。これを飲んだら離れに行く」
《うむ。我が女将に伝えておこう》
「頼んだ」
そうして、珀豪は立ち上がる。しかし、ふと槇の方へと視線を向け、次に見上げてくる俊哉へと目を向けてから口を開く。
《俊哉よ。時島先生を連れて来ると良い。同じものが見えている同年の者達ではなく、年長者からの意見は、助けになるだろう》
「ん? あ~、分かった!」
俊哉は、珀豪の視線が槇に向かうのを見て、何となく何かを察したようだ。すぐに立ち上がり、部屋を出て行った。
それを追うようにして、珀豪も部屋を出ていく。
ほっと息をつきながら、高耶はコーヒーを飲む。熱めのコーヒーは香りも良く、体に染み込んでいくように感じた。
そこで、槇が高耶へと怖いほど真剣な目を向けていることに気付いた。
「どうかしたか?」
高耶が声をかければ、槇は気まずげに少し視線を彷徨わせた。しかし、すぐに何かを決意したようにまっすぐな視線が返された。
「考えたんだ。妹のこと……」
少し目を伏せ、槇は考えながら告げる。
「おふくろや親父なら、どんな姿でも妹が帰って来るなら良いと言うと思う……けど、多分、今の家には居られないだろ? 妹が……年を取っていないなんて……そんなこと……」
この世界ではない、狭間の世界に取り残されている槇の妹。彼女は、仮死状態でそこを彷徨っている。そして、肉体は年を取っていないはずだ。時間の流れが違うのだから仕方がない。
高耶ならばそこから引き上げることが出来るが、年を取らせることは出来ない。囚われた時のままの姿で戻ってくることになる。
「周りは、近所のやつらも、妹の事は知ってる。探して欲しいってポスターやチラシだってばら撒いてたから、今あの姿のまま戻って来たら……」
「大混乱するだろうな……かなり騒がれる」
「ああ……だから、妹が戻って来るなら、家の奴らを知らない場所に引っ越すしかない……それでも、おふくろ達なら、それを選ぶんじゃないかと……思うんだ……」
「……そうだろうな……」
もう二度と、知り合いに会えないかもしれない。それでも、娘が帰って来るならと、親なら思うだろう。高耶もそれは分かっている。
「けど……本当にそれだけか?」
「……」
「知り合いとの関わりを断つだけで済むのか? それだけで、元通りの生活に戻れるのか?」
「……そうだな……それだけじゃない。学校に通えるようにするには、生まれた年とか、色々と嘘を吐かせることになる。それは……かなり精神的にも負担になるだろうな。子どもには特に」
「……」
心を許した親友にも本当の事を言えないことは時にとても辛いことだ。信じてくれている人たちに、嘘を吐くのは心にとても負担がかかる。
子どもならば特に、つい口にすることも出来ないのだから、いつでも緊張状態を強いることになるだろう。今回のことで言えば、その嘘がバレれば、奇異の目で見られることになるとなれば、怖さもある。
「それに、ご両親達も、彼女が大人になるまで、戻って来たと誰にも言えない」
「……それは……もし見られた時に、見た目が成長していないって知られるのがダメだからか……」
「そうだ。ある程度大人になれば、少し若く見えた所で童顔だとか、言われるくらいで済む」
ここで知人に知られた所で、子どもから大人になった姿を見せるならば、見つかって良かったと言われて終われるだろう。
いくら親しくても、どこに居たのかとか、どうしていたのかとか根掘り葉掘り聞いてくることもないはずだ。
そして、他の解決策もないこともない。
「後は、もっと年月が経っていれば、槇の娘だってことにしても良いんだがな」
「え?」
「お前の娘が、妹そっくりってのはあり得るだろ?」
「……ああ……そうか……そう……だな」
「戸籍も、こっちの業界でどうにかできる。ただ、そうなると槇の妹としては生きられない。ご両親も祖父母として生きてもらわなくちゃならなくなる」
「……」
「だから、もう少し考えてみてくれ。大丈夫だ。あと十年、二十年くらい現状維持してやるから」
「……ああ……分かった……」
「もちろん、それもご両親と相談しても良いんだ。まあ、信じるか信じないかって問題はあるがな」
「……考えてみる……」
そうして、思考にハマっていく槇を見つめ、高耶は立ち上がった。
「俺はちょっと出かける。帰る時間には戻って来られるようにするよ。残りの時間、楽しんでくれ」
「ははっ。仕事もほどほどにな」
「待ってっから」
「あまり無理は良くないぞ」
そう言って、満と嶺、彰彦が手を振って見送ってくれた。
「分かってるよ」
そうして、高耶は部屋を出る。
槇のことは、時島が相談相手になってくれるだろう。珀豪が言ったのはそのことだった。
きっと、良い相談相手になってくれるはずだと思い、高耶は軽い足取りで離れへと向かった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
昼食も頼めば食べられる。高耶や俊哉達は、俊哉が幹事の一人ということもあり、五時にチェックアウトするつもりでいる。
だから、まだゆっくりする時間的余裕があった。
「おっ、高耶おはよ」
「はよー。旅行に来て徹夜仕事とか、大変だな」
満と嶺が俊哉と彰彦、槇とトランプをしながら声を掛けてきた。
「ああ……おはよう」
そこに、高耶が起きたというのを察知して、珀豪がコーヒーを持って部屋にやってきた。
《主よ。疲れは取れたか?》
珀豪は、高耶の目の前まで来て膝をつき、顔色を確認するように見て、コーヒーの載ったトレーを差し出す。
それに苦笑しながら、コーヒーを受け取り、高耶は確認した。
「ああ。伊調さん達は?」
《まだ寝ている者も多いようだ。だが、伊調や橘の長や安部の長は起きていたな。主が起きたなら、旅館の女将達と一緒に話しをしたいと言っていた》
「分かった。これを飲んだら離れに行く」
《うむ。我が女将に伝えておこう》
「頼んだ」
そうして、珀豪は立ち上がる。しかし、ふと槇の方へと視線を向け、次に見上げてくる俊哉へと目を向けてから口を開く。
《俊哉よ。時島先生を連れて来ると良い。同じものが見えている同年の者達ではなく、年長者からの意見は、助けになるだろう》
「ん? あ~、分かった!」
俊哉は、珀豪の視線が槇に向かうのを見て、何となく何かを察したようだ。すぐに立ち上がり、部屋を出て行った。
それを追うようにして、珀豪も部屋を出ていく。
ほっと息をつきながら、高耶はコーヒーを飲む。熱めのコーヒーは香りも良く、体に染み込んでいくように感じた。
そこで、槇が高耶へと怖いほど真剣な目を向けていることに気付いた。
「どうかしたか?」
高耶が声をかければ、槇は気まずげに少し視線を彷徨わせた。しかし、すぐに何かを決意したようにまっすぐな視線が返された。
「考えたんだ。妹のこと……」
少し目を伏せ、槇は考えながら告げる。
「おふくろや親父なら、どんな姿でも妹が帰って来るなら良いと言うと思う……けど、多分、今の家には居られないだろ? 妹が……年を取っていないなんて……そんなこと……」
この世界ではない、狭間の世界に取り残されている槇の妹。彼女は、仮死状態でそこを彷徨っている。そして、肉体は年を取っていないはずだ。時間の流れが違うのだから仕方がない。
高耶ならばそこから引き上げることが出来るが、年を取らせることは出来ない。囚われた時のままの姿で戻ってくることになる。
「周りは、近所のやつらも、妹の事は知ってる。探して欲しいってポスターやチラシだってばら撒いてたから、今あの姿のまま戻って来たら……」
「大混乱するだろうな……かなり騒がれる」
「ああ……だから、妹が戻って来るなら、家の奴らを知らない場所に引っ越すしかない……それでも、おふくろ達なら、それを選ぶんじゃないかと……思うんだ……」
「……そうだろうな……」
もう二度と、知り合いに会えないかもしれない。それでも、娘が帰って来るならと、親なら思うだろう。高耶もそれは分かっている。
「けど……本当にそれだけか?」
「……」
「知り合いとの関わりを断つだけで済むのか? それだけで、元通りの生活に戻れるのか?」
「……そうだな……それだけじゃない。学校に通えるようにするには、生まれた年とか、色々と嘘を吐かせることになる。それは……かなり精神的にも負担になるだろうな。子どもには特に」
「……」
心を許した親友にも本当の事を言えないことは時にとても辛いことだ。信じてくれている人たちに、嘘を吐くのは心にとても負担がかかる。
子どもならば特に、つい口にすることも出来ないのだから、いつでも緊張状態を強いることになるだろう。今回のことで言えば、その嘘がバレれば、奇異の目で見られることになるとなれば、怖さもある。
「それに、ご両親達も、彼女が大人になるまで、戻って来たと誰にも言えない」
「……それは……もし見られた時に、見た目が成長していないって知られるのがダメだからか……」
「そうだ。ある程度大人になれば、少し若く見えた所で童顔だとか、言われるくらいで済む」
ここで知人に知られた所で、子どもから大人になった姿を見せるならば、見つかって良かったと言われて終われるだろう。
いくら親しくても、どこに居たのかとか、どうしていたのかとか根掘り葉掘り聞いてくることもないはずだ。
そして、他の解決策もないこともない。
「後は、もっと年月が経っていれば、槇の娘だってことにしても良いんだがな」
「え?」
「お前の娘が、妹そっくりってのはあり得るだろ?」
「……ああ……そうか……そう……だな」
「戸籍も、こっちの業界でどうにかできる。ただ、そうなると槇の妹としては生きられない。ご両親も祖父母として生きてもらわなくちゃならなくなる」
「……」
「だから、もう少し考えてみてくれ。大丈夫だ。あと十年、二十年くらい現状維持してやるから」
「……ああ……分かった……」
「もちろん、それもご両親と相談しても良いんだ。まあ、信じるか信じないかって問題はあるがな」
「……考えてみる……」
そうして、思考にハマっていく槇を見つめ、高耶は立ち上がった。
「俺はちょっと出かける。帰る時間には戻って来られるようにするよ。残りの時間、楽しんでくれ」
「ははっ。仕事もほどほどにな」
「待ってっから」
「あまり無理は良くないぞ」
そう言って、満と嶺、彰彦が手を振って見送ってくれた。
「分かってるよ」
そうして、高耶は部屋を出る。
槇のことは、時島が相談相手になってくれるだろう。珀豪が言ったのはそのことだった。
きっと、良い相談相手になってくれるはずだと思い、高耶は軽い足取りで離れへと向かった。
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