秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
337 / 405
第六章 秘伝と知己の集い

337 若い者としての役目です

しおりを挟む
とりあえず温泉に入り、食事を摂る。

全員、食べ終わると、ほっとしていた。

「はあ……やっと落ち着きましたね……」

伊調がゆっくりとお茶を飲みながら穏やかな表情をしていた。

「沁みるよねえ……自覚なかったけど、かなり体が冷えてたみたいで……うん……眠くなってきたかも……」

蓮次郎もほかほかとした顔でお茶を啜っていた。

「ここの温泉はええねえっ。最高やったわっ」
「本当にっ。お肌がスベスベですよっ」
「徹夜したのに、スッキリしましたっ」

テンションが違うのは、焔泉を中心とした女性達だ。

そんな中、高耶は武雄にお願いしていた。

「武雄、この辺の空いてる部屋、全部使っていいか? 寝るところを確保したいんだ」

高耶は徹夜組の中で一番若い。蓮次郎や伊調達を徹夜させたということで、罪悪感があった。彼らは実年齢より若く見えるが、七十を過ぎていたりする。

そんな人たちを徹夜させたのだ。もちろん、夜に活動することには慣れている。しかし、今回は特にハードだった。

一晩中、神気に当たっていたようなものなのだ。かなり精神的にも追い詰められていた。よって、早く休ませたい。

「いいよ! すぐ用意するよ」
「助かる。離れの方は、こっちで勝手に布団を敷くから」
「えっ。いいの?」
「ああ。エリーゼ達に任せる。エリーゼ、天柳、綺翔と……清晶もいいか?」

珀豪は、そろそろ朝食の時間のため、調理場で忙しくしているはずだ。

《お任せください。ご主人様》
《ふふっ。修学旅行みたいになりますわね》
《いっぱい敷く》
《余ってるの他の所にあるなら運ぶよ。ぎっちり敷き詰めてやる》

男性は全部、この離れで雑魚寝ということで、詰め込むことに決まった。

高耶も他の空いている部屋から布団を運ぶのを手伝う。武雄が案内だ。

「なあ、高耶。偉い人も居るんじゃないの? 俊哉が組織をまとめるまとめ役が結構居たって言ってたんだけど……部屋、この辺は空いてるし、こっちに来てもらってもいいんだけど……」

離れから反対側の方は旧館らしく、同級生達にも解放していない。そこから布団も運んでいる。

「まあ、ちょっと倉庫代わりになってる部屋もあるけど、一応はきちんと掃除もしてあるし……」
「いや。固まっていた方が落ち着くんだ。ちょっと強敵の相手をしてたからな」
「……えっと……因みにどんな?」
「神だ」
「……ん?」
「神様だ。物凄い大集合だったんだぞ?」
「……へ……へえ……」

まあ信じられないだろうなと思いながら、布団を運んだ。

そして、三十分後には、全員が眠っていた。

それを見届けて、高耶もようやく力を抜く。

「ふう……」

げんともう一人の刑事は、橘の血を引く刑事の一人を置いて、犯人達を連行している。その残された橘の者は、今や死んだように眠っていた。

伊調達神楽部隊の者も、力尽きて眠っている。一晩中でも演奏し、舞を踊れる人たちが、本気で疲れたと言っていたのだから相当だ。

布団に入って、数分で完全に眠りに落ちていった。

「神気……やばかったもんな……」
《主様がかなり調整しておられましたけどね》
「まあ、可能な限りな……」

密かに、高耶は神気を上空に流していた。土地に影響を出してほしくないというのがあったので、そこは気を付けていたのだ。

高耶が欠伸をすると、エリーゼが申し出る。

《ご主人様。私がここを見ております。お部屋でお休みください》

天柳達、高耶の式は、存在感があり過ぎる。それこそ、神気も纏っているため、ただでさえ、神気を浴び続けたことで過敏になっている者達にとっては、同じ部屋に居るだけでも、ストレスを与えるだろう。

だが、屋敷精霊であるエリーゼならば、守護する者達として傍に居ることで威圧感を与えてたりしない。

「ああ……頼む」
《お任せください》

高耶は俊哉達が居る部屋へと戻った。

迎えてくれた満、嶺、槇、彰彦、俊哉は、高耶を労ってくれた。

「高耶、お疲れ~」
「お疲れ~」
「おう….」

そうして労われ、高耶は笑みを浮かべた。

高耶は二時間ほど眠り、次に目を覚ました時、槇が真面目な顔で告げた。

それは、彼の妹のことに対しての話だった。









**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...