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第六章 秘伝と知己の集い
336 徹夜しました
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意外にも何とかなるものだと思える半日だった。
「……終わった……」
高耶は長々と息を吐く。日が昇って白い太陽の光が目に痛い。夜中ずっと神様を宥め、接待のような事をしていたのだ。
心身ともに物凄く疲れたというのが高耶の感想だった。
そして、徹夜明けのせいか、絶望的な状況を経験したせいなのか、神楽部隊を中心として、神々の相手をして来た一同のテンションは高めだった。
「いやあ~っ、本当に、今回は特に秘伝の御当主がいらっしゃらなかったらと思うと、ゾッとしますよっ」
「普通に死を覚悟しましたね……本当にっ、本当にっ、ありがとうございました!!」
高耶を拝む者が六割。
「土砂降りになった時は本当にどうしようかとっ……っ、龍神様の姿が三つあると気づいた時の絶望はもうっ……ううっ……雨怖い……っ」
「息出来ないくらいの雨って……滝か? 滝行か? うん。滝行かも……」
未だ混乱するのが一割。
雨雲が来るなあと見つめていた先に、一体だと思っていた龍神の顔が三つ確認できた一同はひっと息を呑んだ。それが最初の衝撃だった。
「さすがは、秘伝の御当主です。あれを見ても特に慌てもせず、顔色も変えないのですからねえ。頼もしかったですよっ!」
「いや……その……何とかなって良かったです……」
その時、高耶は『キングギ◯ラか!?』と、思わず興奮して目を輝かせたのだが、それは気付かれなかったようだ。
そして、残りの三割は珍しいものを見たなあと、その話で今から酒盛りでも始めようかという元気さ。
「あっはっはっはっ。いやあ、本当に、出雲もびっくりな大集合でしたなあっ」
「ちょっ、なんで笑えるの!? おじいっ、頭おかしくなった!?」
「笑うしかない状況だったしなあっ。俺も笑えたっ」
「あんなに慌てたのは初めてだわいっ。これがテンパったってやつだなあっ」
年配の者達ほど、晴れやかに笑っている。あまりの異常事態に、笑うしかなかったというわけだ。
目に見えて異常が出たのは、雨が降ったことだけ。あとはちょっとガラの悪くなった怒り心頭の神達を宥めるだけで済んだのは幸いだった。
高耶が廊下で息を吐いていれば、部屋から出て来た蓮次郎が、戸に寄り掛かりながらしみじみと細い目を更に細めた。
「ふう~。いやあ~、良い天気だねえ~。目に染みるよ。まったく、不毛の地とかにされたらヤバかったねえ。神様は祟るから~」
振り返って確認した蓮次郎の顔には、明らかな疲れが見えた。ひたすら神具の手入れをし、浄化をしていたのだ。徹夜したため顔色が悪い。
それらの神具などは、行脚師達も使い、本来の場所に戻されていっている。現在もまだ走り回っていた。
「ええ……それも、ここの土地神は休眠状態のようなので、手を出されたらどうなっていたか……」
高耶が気にしていたのはそこだ。よって全力で接待した。
「高耶くんもだけど、神格持ちのセッちゃんが居てくれて助かったよ……今回は本当に、神楽部隊もほぼ全員集まってたってのも大きいね……」
「素早く対応できたのは良かったです。休暇になるはずだった伊調さん達には申し訳なかったのですが……」
懐かしい女将達との交流と、懐かしい場所でのゆったりとした時間を過ごせるはずが、まさかの徹夜作業だ。巻き込んでしまって申し訳ないと高耶は思っていた。
しかし、それは高耶にもいえること。
伊調が晴れやかな様子で声をかけてくる。
「御当主こそ、楽しい同窓会だったはずですのに。貴重なご友人達との時間を奪ってしまいました」
「あ、いえ……」
友人達と一緒に居たとしても、高耶には楽しく騒ぐなんてことが出来たかと言われれば、多分それほどでもない。恋バナとか、最近の話題とか、そうしたものに高耶は中々交ざれない。前の晩も早々に床についていたのだから、昨晩もそう変わらなかっただろう。
そうした、今時の若者の友人達との付き合い方が分からない高耶は、何と言ったらいいのかと少し困っていれば、そこに俊哉がやって来た。様子を見に来たらしく、不安顔の武雄と一緒だ。
「高耶の場合は、同年代の奴らとの騒ぎ方を知らねえから夜寝るだけだって。こっちのが賑やかに過ごせたんじゃね? ってか、何? もしかして徹夜? おっさんも?」
俊哉が蓮次郎に、顔を向ける。
「やべえ顔色してんじゃん……飯は?」
「忘れてたね」
「確かに、忘れていましたね。夕食からバタバタでしたし」
「っ、わぁぁぁっ、すみません! 何か入れる雰囲気じゃなくてっ。というか、なんでかここに入れなくてっ」
武雄が頭を下げる。朝食さえも食べられますかと聞ける雰囲気ではなかったのだ。というか、物理的に武雄達は入れなかった。
「いや、食べてる暇なかったし、珀豪達もこっちに呼んじまったしな……というか、女将達が入って来てたら危なかった。だから、結界で入れなくしてたんだよ」
そう高耶が説明すると、武雄が少し落ち着く。
「結界って……本当に何か壁があるみたいになってて……あれが結界……」
「ああ。悪いが、今から軽く食べられるものを頼んで良いか? あと、温泉今から入れるか?」
「あ、うん。その確認したくて俊哉がそろそろ入れるっていうから来たんだ。食事の用意するよ。えっと……何人分?」
そうだったと高耶は部屋の方に目を向ける。
現在、転がっているのも居るが、元達や清掃部隊の者、橘家の者、焔泉が呼んだ者など、かなりの人数が来ている。
今現在、外に出ている者も居た。
「軽く五、六十人分いいか? 大鍋で、自分たちで取ってもいいから」
「あ~、うん。分かった。あっ、あと、温泉も大丈夫。大浴場も好きに入って」
「助かる。蓮次郎さん、伊調さん達も、温泉入って、軽く食べてから休みましょう。先ず水分は摂ってください」
「そうするよ。はあ……うん、温泉かあ。いいねえ」
「いいですねえ。さっぱりしてきましょうか。濡れた者もいますから」
そうして、怒涛の夜の戦いが終わった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「……終わった……」
高耶は長々と息を吐く。日が昇って白い太陽の光が目に痛い。夜中ずっと神様を宥め、接待のような事をしていたのだ。
心身ともに物凄く疲れたというのが高耶の感想だった。
そして、徹夜明けのせいか、絶望的な状況を経験したせいなのか、神楽部隊を中心として、神々の相手をして来た一同のテンションは高めだった。
「いやあ~っ、本当に、今回は特に秘伝の御当主がいらっしゃらなかったらと思うと、ゾッとしますよっ」
「普通に死を覚悟しましたね……本当にっ、本当にっ、ありがとうございました!!」
高耶を拝む者が六割。
「土砂降りになった時は本当にどうしようかとっ……っ、龍神様の姿が三つあると気づいた時の絶望はもうっ……ううっ……雨怖い……っ」
「息出来ないくらいの雨って……滝か? 滝行か? うん。滝行かも……」
未だ混乱するのが一割。
雨雲が来るなあと見つめていた先に、一体だと思っていた龍神の顔が三つ確認できた一同はひっと息を呑んだ。それが最初の衝撃だった。
「さすがは、秘伝の御当主です。あれを見ても特に慌てもせず、顔色も変えないのですからねえ。頼もしかったですよっ!」
「いや……その……何とかなって良かったです……」
その時、高耶は『キングギ◯ラか!?』と、思わず興奮して目を輝かせたのだが、それは気付かれなかったようだ。
そして、残りの三割は珍しいものを見たなあと、その話で今から酒盛りでも始めようかという元気さ。
「あっはっはっはっ。いやあ、本当に、出雲もびっくりな大集合でしたなあっ」
「ちょっ、なんで笑えるの!? おじいっ、頭おかしくなった!?」
「笑うしかない状況だったしなあっ。俺も笑えたっ」
「あんなに慌てたのは初めてだわいっ。これがテンパったってやつだなあっ」
年配の者達ほど、晴れやかに笑っている。あまりの異常事態に、笑うしかなかったというわけだ。
目に見えて異常が出たのは、雨が降ったことだけ。あとはちょっとガラの悪くなった怒り心頭の神達を宥めるだけで済んだのは幸いだった。
高耶が廊下で息を吐いていれば、部屋から出て来た蓮次郎が、戸に寄り掛かりながらしみじみと細い目を更に細めた。
「ふう~。いやあ~、良い天気だねえ~。目に染みるよ。まったく、不毛の地とかにされたらヤバかったねえ。神様は祟るから~」
振り返って確認した蓮次郎の顔には、明らかな疲れが見えた。ひたすら神具の手入れをし、浄化をしていたのだ。徹夜したため顔色が悪い。
それらの神具などは、行脚師達も使い、本来の場所に戻されていっている。現在もまだ走り回っていた。
「ええ……それも、ここの土地神は休眠状態のようなので、手を出されたらどうなっていたか……」
高耶が気にしていたのはそこだ。よって全力で接待した。
「高耶くんもだけど、神格持ちのセッちゃんが居てくれて助かったよ……今回は本当に、神楽部隊もほぼ全員集まってたってのも大きいね……」
「素早く対応できたのは良かったです。休暇になるはずだった伊調さん達には申し訳なかったのですが……」
懐かしい女将達との交流と、懐かしい場所でのゆったりとした時間を過ごせるはずが、まさかの徹夜作業だ。巻き込んでしまって申し訳ないと高耶は思っていた。
しかし、それは高耶にもいえること。
伊調が晴れやかな様子で声をかけてくる。
「御当主こそ、楽しい同窓会だったはずですのに。貴重なご友人達との時間を奪ってしまいました」
「あ、いえ……」
友人達と一緒に居たとしても、高耶には楽しく騒ぐなんてことが出来たかと言われれば、多分それほどでもない。恋バナとか、最近の話題とか、そうしたものに高耶は中々交ざれない。前の晩も早々に床についていたのだから、昨晩もそう変わらなかっただろう。
そうした、今時の若者の友人達との付き合い方が分からない高耶は、何と言ったらいいのかと少し困っていれば、そこに俊哉がやって来た。様子を見に来たらしく、不安顔の武雄と一緒だ。
「高耶の場合は、同年代の奴らとの騒ぎ方を知らねえから夜寝るだけだって。こっちのが賑やかに過ごせたんじゃね? ってか、何? もしかして徹夜? おっさんも?」
俊哉が蓮次郎に、顔を向ける。
「やべえ顔色してんじゃん……飯は?」
「忘れてたね」
「確かに、忘れていましたね。夕食からバタバタでしたし」
「っ、わぁぁぁっ、すみません! 何か入れる雰囲気じゃなくてっ。というか、なんでかここに入れなくてっ」
武雄が頭を下げる。朝食さえも食べられますかと聞ける雰囲気ではなかったのだ。というか、物理的に武雄達は入れなかった。
「いや、食べてる暇なかったし、珀豪達もこっちに呼んじまったしな……というか、女将達が入って来てたら危なかった。だから、結界で入れなくしてたんだよ」
そう高耶が説明すると、武雄が少し落ち着く。
「結界って……本当に何か壁があるみたいになってて……あれが結界……」
「ああ。悪いが、今から軽く食べられるものを頼んで良いか? あと、温泉今から入れるか?」
「あ、うん。その確認したくて俊哉がそろそろ入れるっていうから来たんだ。食事の用意するよ。えっと……何人分?」
そうだったと高耶は部屋の方に目を向ける。
現在、転がっているのも居るが、元達や清掃部隊の者、橘家の者、焔泉が呼んだ者など、かなりの人数が来ている。
今現在、外に出ている者も居た。
「軽く五、六十人分いいか? 大鍋で、自分たちで取ってもいいから」
「あ~、うん。分かった。あっ、あと、温泉も大丈夫。大浴場も好きに入って」
「助かる。蓮次郎さん、伊調さん達も、温泉入って、軽く食べてから休みましょう。先ず水分は摂ってください」
「そうするよ。はあ……うん、温泉かあ。いいねえ」
「いいですねえ。さっぱりしてきましょうか。濡れた者もいますから」
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