秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

320 付き合いは悪かった

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俊哉は予想通りというか、三分も保たなかった。

「くっ……無念っ」
「いや、分かってたし」
「保った方じゃないか?」
「ふっ。実際は三分も経っていないがな」
「「「マジ?」」」

どうやら俊哉含め、満も嶺も五分くらいは保ったと思っていたらしい。

「彰彦が言うならそうなんだろう」

高耶が保証する。

「うむ。正確に三十分までは体感で計れるのでな」
「延びたな。俺が知ってるのは、五分までだったが」
「我の成長は留まることを知らぬ」
「良い事だな。さすがだ」
「うむ」

さすがは努力の人だと感心しきりだ。

そんな一同の後ろを、白木しらきまきが黙ってついてくる。

「白木、ここが俺らの部屋だ」
「……ああ……」

部屋の前で、俊哉が振り返って告げた。槇はまだ少し緊張気味のようだ。

「じゃあ、中でゆっくりしててくれ。俺は打ち合わせあるから行って来るっ。あっ、高耶、ピアノは一応用意しとくからっ」
「ああ。まあ、状況によるが……」
「けど、あった方が気持ちよく食事とか出来るんだろ? あそこ、結構飛んでたからさあ」
「……そういえば視えるんだったか……なら、始まる前にやるか」

俊哉はそれなりに妖が視える。恐らく、これから会場となる場所に口灯蛾こうとうがが居たのだろう。

「その方がいいかも。あ、けど珀豪さんとかが先にどうにか……」

高耶が手を回さなくても、珀豪達式神が場を整えるのではないかと俊哉は思ったようだ。

しかし、この旅館であまり珀豪達が力を主張するのはよくない。

高耶は山のある方へ目を向けて答える。

「あまり派手にやるのはな……」
「なんか刺激する?」
「大丈夫……だとは思いたい」
「珍しく曖昧じゃん。まあ、じゃあピアノでいいな。今から行く?」
「そうだな……会場の準備の邪魔にならんようにする」
「オッケー」

そんな会話を、当然だが察しの良い彰彦以外は何のことかと不思議そうにしている。ただ、高耶がピアノを弾くというのが分かったくらいだ。

嶺が尋ねる。

「高耶、ピアノ弾くの?」
「ああ。少し」

これに俊哉が笑う。

「少しじゃねえじゃんっ。今度、霧矢修のコンサートに友情出演するくらいだしっ」
「っ、霧矢修っ……」

反応したのは槇だった。

「え? 何? 槇、それ有名な人?」
「俺ら知らんのだけど……知らんのダメなやつ?」

満と嶺は全く興味がないのだろう。霧矢という名にも反応がなかった。

「あ、いや……っ、オヤジさん……社長が今度のコンサートの話してて……久し振りに日本に帰ってきてのコンサートだから、絶対に行くんだって……海外の方で有名らしい……」
「へえ」
「海外でやれるってことは、結構有名ってことだよな」
「ああ……」

槇が高耶の方を向いた。その目には、何かを期待するような光が宿っているのが見て取れる。しかし、すぐにその光がかげる。

「その……っ、蔦枝……だっけ……俺……昔、仲間外れにしたり……」
「ん? 俺が?」
「いやっ、俺がお前を……」
「お前に……? 仲間外れ……?」

高耶は首を捻る。全く思い当たらない。その様子を見て、俊哉が笑う。

「ぶははっ。大丈夫だって、白木。高耶、全然認識してねえからっ。家の事忙し過ぎて、ほぼ学校であったこと覚えてねえもんっ」
「え……」
「うむ。高耶にとっては、仲間外れにされたという認識がないだろう。寧ろ、誘った所で断っただろうからな」
「そうそうっ。付き合い悪い奴って女子にも思われてたから」
「……そこは……すまん……」

最近、ようやくこれだけ昔の事が思い出せないというのは、おかしいのかもしれないと自覚し始めた高耶。

彰彦との思い出が多いのは、それが鍛錬に繋がるからだ。俊哉は煩いほどあちらから絡んできたので覚えていることもある。

だが、その他のクラスメイトとの思い出は、ほぼ覚えていない。

修学旅行も参加していないのだ。思い出がないのは当然と言えば当然だ。

少しばかり高耶が反省していると、俊哉が背を叩く。

「ってことだから、高耶は気にしてねえよ。何? 白木も修さんのファン?」
「修さん……俊哉、会った事……」
「飯一緒に行ったり、メールとかもする仲。高耶がマメじゃねえし、マネージャーみたいな? 連絡取り合ってんの」

着々と、俊哉は高耶の周りの人々と連絡先を交換していく。そして多分、高耶のことを報告していたりもする。

「あと、白木と一緒じゃね? 護衛も兼ねるっ」

胸を張ってそれを主張する俊哉に、槇は目を瞬かせた。

「護衛……」
「そっ。変な女とか寄って来んように。この御当主モードは、マジで女共を引き寄せるから」
「ごとうしゅモード……?」
「ああ。白木は知らんよな。高耶は、一族をまとめる当主なんだよ。秘伝家っていえば、武術系の家には神様的な、神聖な一族って思われてるらしい。俺んとこ、じいちゃんの本家が剣道場やっててさ。半年くらい前に世話になったんだけど、最近はなんか、高耶が浄化してくれた刀を拝んでる」
「浄化……拝む……」
「……」

槇は大分混乱中。高耶としても初耳なので少しばかり動揺した。

「んでさあ」

俊哉が、真面目な顔で槇に向き直る。

「高耶は、陰陽師ってやつでもあるんだ。だから、お前の妹……どうなってるか調べてもらったらどうだ?」
「っ……」

槇が明らかに息を呑んだ。それに慌てて満と嶺が割り込む。

「ちょっ、俊哉っ」
「そんなこと出来るのかっ!?」

これに、高耶もそういえばそんな話しをしていたなと思い出し、槇を見る。そして、頷いた。

「妹……かどうかは知らんが……身内に拐かされたのが居るってのは分かる」
「っ、拐かされるってどういうことだっ? どこのどいつがっ」

槇が高耶へと詰め寄ってきた。見た目不良の槇が詰め寄ると威圧感が凄いのだが、高耶は特に気にならない。だから、普通に答える。

「ん? いや、人じゃない」
「……は?」

ここで俊哉が高耶と槇の間に入る。

「おいおい。落ち着けって。言っただろ。高耶は陰陽師だって。だから、妖とか。あ~……神様とかもある」
「あやかし……神……」
「そうそう。高耶はあまりにも有能過ぎて、死んだら神様になるって言われてるんだぜ? 今も神気が出てるからそれを抑えるものを神様からもらってるらしいし」
「……意味が……」

かなり言っていることがめちゃくちゃだ。けれど、一つも嘘を言っていない。全部真実というから困りものだ。

「……」

高耶としては、それを俊哉が知っているというのが謎だ。その思いを察したらしい。

「この前、姫様から聞いた」
「……そうか……」

瑶迦にはその辺の事も話しているので、情報源としては間違いないだろう。

そして、俊哉は高耶のマネージャーを自負するに相応しく、話を進める。

「で? 高耶。相手は?」
「多分、この感じだと、質の悪い妖に引っかかってたのを土地神が引っ張ったんだろう……で、狭間にそのまま放置」
「え……」

槇は呆然としていた。










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読んでくださりありがとうございます◎
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