318 / 418
第六章 秘伝と知己の集い
318 運命……ではないはず
しおりを挟む
二日目の土曜日。
この日の夕方四時頃から同窓会が始まる。
軽く昼ごはんを食べ、もうじき二時になるという頃。
高耶と同室の片瀬満と新田嶺は、二人の共通の友人が来るのをエントランスの端にある休憩所で待っていた。
「会うのは二年振りだよな~」
「そう……なるよな。高二の夏くらいからメールも来てねえし」
嶺は、スマホの最後のメールを確認していた。
「……妹ちゃん、まだ見つからねえのかな……」
「……もう五年だろ……そうだな……」
五年前、その友人の妹が、旅行先で行方不明になった。六つ歳の離れた妹は、とても活発で言い方を変えればとってもやんちゃだった。
旅行先は登山客も多い山の麓のキャンプ場。水遊びできる川もあるし、興味を引くものは多かっただろう。
父母は居なくなった妹のことばかりで、一時期はかなり荒れていた。それまでも、歳の離れた妹だ。両親はそちらばかり気にする。荒れるのも仕方がないだろう。
小学校の頃も、やさぐれていて友人といえば幼馴染だった満と嶺しか居なかった。
「ちょっと心配だけどな……」
「いや、だっておじさんやおばさんにもよろしくって頼まれたし……今は離れて暮らしてるから、さすがに落ち着いてるだろ」
二人は、今回の同窓会の話をもらって、すぐに気にしたのはその友人のこと。『あいつはどうするかな』と話し合っていた所に、その友人の母親から連絡があった。誘ってやってくれと。
「ヤバい所に出入りしてるってのは、大丈夫だと思うか?」
「……けど、行くって言ったし……普通、嫌がるだろ。そういう所出入りしてたらさ。先生達も居るし……」
いつまでも、教師には頭が上がらないものだ。だから、多少でも道を外していれば、気まずくてこういった集まりに顔を出そうなんて思わないだろう。
「……メールも素っ気ないしな……」
「いや、絵文字使ってきたら怖えよ……」
「それもそうか……」
二人は今更ながらに不安になって来ていた。そこに、高耶と俊哉がやって来る。
「部屋に居ねえからどこ行ったかと思った。何してんの?」
俊哉が問いかける。
「槇を待ってんだよ」
「もうそろそろ来るって言ってた時間なんだ」
「ん? マキ……ああっ、白木槇かっ。そういや、出席になってたわ……」
そうかそうかと納得した後、俊哉は静かになる。そして、俊哉は屈み込み、声を落として満と嶺に確認する。
「なあ……今も荒れてんの? 中学ん時すごかったじゃん。先生達には、一応注意して欲しいって女子達から言ってるっぽいけど、実際どうなのかな~って」
幹事として、出席者の確認もしている俊哉は、同窓会が台無しにならないかと心配はしていたようだ。
「……俺らもメールでさえ二年振りだったんだよ。高校は別だったし」
「それも、高校で退学になったってメールが最後」
「……お前らが来るから大丈夫だと思ってたんだけど……マジか……もっと確認するんだった……」
だからといって、素行調査をするものでもないだろう。不安げに気持ちを沈ませる三人。
黙っている高耶は、白木槇という人物を必死で思い出そうとしていた。
その時、入り口辺りでざわざわと空気が変わった。
外を見ると、黒塗りの車が入り口に横付けされているのが見えた。そして、そこから奇抜な髪型をしたスーツ姿の若い男が降りて来る。
「「っ、槇っ!」」
満と嶺が声を上げながら立ち上がる。
明らかに普通とは違う雰囲気に、エントランスに居た同級生達が怯えていた。教師達も出て来る。
そこで、同じ車から厳つい顔をした壮年の男性が降りて来て、黒い旅行カバンを槇に押し付ける。
そんな様子を見ながら、誰も動こうとはしない。だが、その壮年の男性に高耶は見覚えがあった。
よって、そのまま自然に歩き出した。
「っ、ちょっ、高耶!?」
俊哉が慌てている。だが、気にしない。
外に出て何やら問答している槇と男性。
「ごちゃごちゃ言わず、行ってこいって言ってんだろ!」
「っ、迷惑になるに決まってるっ……」
「そんなもん、分からんだろうがっ」
言い合うのに夢中で高耶には気付かない。その男性へと声をかけようとしたのだが、それよりも先に運転席の窓が開いて、高耶より少し年上の男が笑顔で挨拶してきた。
「師範じゃねえっすかっ。また会うとか運命かっ。迅さんにメールしよ」
「優也……バイトか?」
「ウィッス。師範は……はっ、ちょっ、槇と同級生だったり? 同窓会!?」
「ああ……」
「ちょっ! 槇! 羨まし過ぎる! そんな嫌がるなら俺が代わるわ!」
「……相田先輩……?」
そして、ここで壮年の男性も高耶に気付いた。
「高耶君!? なに!? 槇と同級生だと!? 槇! このヤロウ! なんでそれ早く言わねえんだっ」
「……なんで俺……」
よく分からない事態になった。
そんな様子を誰もが遠巻きに眺めていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
この日の夕方四時頃から同窓会が始まる。
軽く昼ごはんを食べ、もうじき二時になるという頃。
高耶と同室の片瀬満と新田嶺は、二人の共通の友人が来るのをエントランスの端にある休憩所で待っていた。
「会うのは二年振りだよな~」
「そう……なるよな。高二の夏くらいからメールも来てねえし」
嶺は、スマホの最後のメールを確認していた。
「……妹ちゃん、まだ見つからねえのかな……」
「……もう五年だろ……そうだな……」
五年前、その友人の妹が、旅行先で行方不明になった。六つ歳の離れた妹は、とても活発で言い方を変えればとってもやんちゃだった。
旅行先は登山客も多い山の麓のキャンプ場。水遊びできる川もあるし、興味を引くものは多かっただろう。
父母は居なくなった妹のことばかりで、一時期はかなり荒れていた。それまでも、歳の離れた妹だ。両親はそちらばかり気にする。荒れるのも仕方がないだろう。
小学校の頃も、やさぐれていて友人といえば幼馴染だった満と嶺しか居なかった。
「ちょっと心配だけどな……」
「いや、だっておじさんやおばさんにもよろしくって頼まれたし……今は離れて暮らしてるから、さすがに落ち着いてるだろ」
二人は、今回の同窓会の話をもらって、すぐに気にしたのはその友人のこと。『あいつはどうするかな』と話し合っていた所に、その友人の母親から連絡があった。誘ってやってくれと。
「ヤバい所に出入りしてるってのは、大丈夫だと思うか?」
「……けど、行くって言ったし……普通、嫌がるだろ。そういう所出入りしてたらさ。先生達も居るし……」
いつまでも、教師には頭が上がらないものだ。だから、多少でも道を外していれば、気まずくてこういった集まりに顔を出そうなんて思わないだろう。
「……メールも素っ気ないしな……」
「いや、絵文字使ってきたら怖えよ……」
「それもそうか……」
二人は今更ながらに不安になって来ていた。そこに、高耶と俊哉がやって来る。
「部屋に居ねえからどこ行ったかと思った。何してんの?」
俊哉が問いかける。
「槇を待ってんだよ」
「もうそろそろ来るって言ってた時間なんだ」
「ん? マキ……ああっ、白木槇かっ。そういや、出席になってたわ……」
そうかそうかと納得した後、俊哉は静かになる。そして、俊哉は屈み込み、声を落として満と嶺に確認する。
「なあ……今も荒れてんの? 中学ん時すごかったじゃん。先生達には、一応注意して欲しいって女子達から言ってるっぽいけど、実際どうなのかな~って」
幹事として、出席者の確認もしている俊哉は、同窓会が台無しにならないかと心配はしていたようだ。
「……俺らもメールでさえ二年振りだったんだよ。高校は別だったし」
「それも、高校で退学になったってメールが最後」
「……お前らが来るから大丈夫だと思ってたんだけど……マジか……もっと確認するんだった……」
だからといって、素行調査をするものでもないだろう。不安げに気持ちを沈ませる三人。
黙っている高耶は、白木槇という人物を必死で思い出そうとしていた。
その時、入り口辺りでざわざわと空気が変わった。
外を見ると、黒塗りの車が入り口に横付けされているのが見えた。そして、そこから奇抜な髪型をしたスーツ姿の若い男が降りて来る。
「「っ、槇っ!」」
満と嶺が声を上げながら立ち上がる。
明らかに普通とは違う雰囲気に、エントランスに居た同級生達が怯えていた。教師達も出て来る。
そこで、同じ車から厳つい顔をした壮年の男性が降りて来て、黒い旅行カバンを槇に押し付ける。
そんな様子を見ながら、誰も動こうとはしない。だが、その壮年の男性に高耶は見覚えがあった。
よって、そのまま自然に歩き出した。
「っ、ちょっ、高耶!?」
俊哉が慌てている。だが、気にしない。
外に出て何やら問答している槇と男性。
「ごちゃごちゃ言わず、行ってこいって言ってんだろ!」
「っ、迷惑になるに決まってるっ……」
「そんなもん、分からんだろうがっ」
言い合うのに夢中で高耶には気付かない。その男性へと声をかけようとしたのだが、それよりも先に運転席の窓が開いて、高耶より少し年上の男が笑顔で挨拶してきた。
「師範じゃねえっすかっ。また会うとか運命かっ。迅さんにメールしよ」
「優也……バイトか?」
「ウィッス。師範は……はっ、ちょっ、槇と同級生だったり? 同窓会!?」
「ああ……」
「ちょっ! 槇! 羨まし過ぎる! そんな嫌がるなら俺が代わるわ!」
「……相田先輩……?」
そして、ここで壮年の男性も高耶に気付いた。
「高耶君!? なに!? 槇と同級生だと!? 槇! このヤロウ! なんでそれ早く言わねえんだっ」
「……なんで俺……」
よく分からない事態になった。
そんな様子を誰もが遠巻きに眺めていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
171
お気に入りに追加
1,484
あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~
千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。
おおかみ宿舎の食堂でいただきます
ろいず
キャラ文芸
『おおかみ宿舎』に食堂で住み込みで働くことになった雛姫麻乃(ひなきまの)。麻乃は自分を『透明人間』だと言う。誰にも認識されず、すぐに忘れられてしまうような存在。
そんな麻乃が『おおかみ宿舎』で働くようになり、宿舎の住民達は二癖も三癖もある様な怪しい人々で、麻乃の周りには不思議な人々が集まっていく。
美味しい食事を提供しつつ、麻乃は自分の過去を取り戻していく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる