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第六章 秘伝と知己の集い
315 お試し
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扉から、次々と出で来た神楽部隊の面々。
彼らは荷物を部屋に置きに行ったりと忙しなく動く。年中各地を移動する彼らにとっては、荷物整理もすぐに終わるし、部屋割りも問題など起きない。
「この別館は、常々我々で買い取りたいと思っていたのですよ。立地も良く、山からの音も良く聞こえますから」
「確かに、場所としては最高ですね」
高耶にも聞こえている。だが、何か薄い布越しに聴くような、そんなくぐもった感じにも聞こえており、眉を寄せる。
これに、伊調は気付いて苦笑する。
「気になりますか……そうです。音は鮮明ではない……何かが遮ってしまっている……それがここでの普通だと思っていたのですが……」
長く離れていたから、その違和感が今、伊調には強く感じられているようだ。
「さて、女将。我々が詐欺師、ペテン師の類いではないとお分かりいただけたでしょう。陰陽師は実際に居ります。その頭の一人がこちらの秘伝の御当主です」
「は、はい……」
女将達は、恐縮しながらも、伊調と高耶へと目を向ける。それを確認し、高耶は伊調から引き継いだ。
「今一度、ご提案させていただきます。この旅館を、買い取らせてください。従業員の入れ替えはしません。扱いとしてはそうですね……会社の社員がいつでも使える別荘という感じのものになりますが……」
「会社の別荘……ですね。とてもわかりやすいです」
個人のお手伝いさんということではなく、会社、組織のものという扱いだ。
「ただ、補充される従業員は、先ほどの藤のような存在も含まれます」
「っ……お姉さんのような……? ここで、働く? ということですか?」
「ええ。その……今までも、藤から送り込まれて来た精霊達が中居をしていたこともあるかと」
これに、女将は考え込む。そして、夫と目を合わせてハッとした。
「あっ、ありましたっ。人数が足りず、困っていた時に……手が回らないはずが、しっかり仕事が回っていて……そう言う時は、食事の時に人数が合わないんです……」
「それですね……すみません。研修の場に使っていたようです……」
「そうでしたか……」
何とも言えない沈黙が落ちる。明らかな不法侵入。だが、仕事を手伝ってくれたので文句は言えない。従業員用の賄いで、一つ二つ、数が違うと思ったくらいで特に困ることもなかった。
女将が何かを決意したように口を開いた。
「あのっ……このお話、お受けしたく思います。その……不可思議なことも多く、知らない世界で不安もありますが……やる事に変わりはないようですし……」
初めから、家族の中ではそれを決定していたようだ。だが、陰陽師などという非現実的な事を言われ、戸惑っただけらしい。
「そうですね。仕事内容はほぼ変わりません。ただ、そうですね……藤達のような存在に慣れてもらう必要はあります。他の従業員の方々にも、納得してもらわないといけませんし……」
「なるほど……」
どうしようかなと高耶が考え込むと、伊調が提案する。
「では、御当主の式様達をお見せになってはどうでしょう。こちらを利用することになる連盟の方々は、独自の式をお持ちですし、その存在に慣れることは必要です」
「それはありますね……わかりました。【珀豪】【天柳】【清晶】【綺翔】」
流石にキラキラ勇者の見た目の常盤と、夜の女王な黒艶は合わないだろう。
《む。主よ。ここは……藤の気配が濃いな》
《本当だわ……ちょっと、主様? まさか、藤を喚んだりしまして?》
《また無茶したんだ? ちょっと、熱あるんじゃないの?》
《……》
綺翔は黙って責めるような目を向けていた。揃って高耶に詰め寄る四神。このままでは話が進まなくなる。
「あ~、その、今は先に話すことがある。ここの旅館を連盟で買い取ることになった。だから、お前達に慣れてもらえるようにしたい。お試しで」
《ふむ……旅館か。よかろう。従業員と交流しながら仕事をすれば良いのだろう?》
「そう……頼めるか?」
《天柳と綺翔は中居の仕事を。清晶は裏方だな。我は厨房を希望しよう。大将はそなたか?》
「っ……ああ……」
女将の夫へと珀豪が声をかけた。
《我は珀豪。料理は得意だ。懐石料理から薬膳料理、フランス料理やイタリアン、もちろん、家庭料理も出来るし、子どもから大人も喜ぶキャラ弁もお手のものだぞ。存分に使ってくれ》
「わ、わかりました……」
珀豪のやる気に大将は押され気味だ。
次に天柳が女将の前に優雅に進み出て座る。
《女将さんはあなたかしら?》
「あ、はいっ」
《わたくしは、天柳。中居の仕事は藤から教えられています。こちらの綺翔もです。人とは違うので、疲れ知らずですから、遠慮なく指示してくださいな。力もありますから、この机なども、片手で持てましてよ》
「へ……あ、ああ……人ではない……のですね。わかりました……」
この机と指差した座卓は、大人の男二人で持ってもかなりの重さがあるものだ。それを片手でと女将は信じられない思いを抱きながらも、人ではないのだということを思い出して何とか納得する。
次に清晶がいつもの不貞腐れたような顔で腕を組んで告げる。
《見た目は変える気ないから、適当に裏方仕事割り振ってよ。愛想笑いとか無理》
《清晶……努力する気もないか……いや、期待はしておらんが……》
《主以外どうでもいいもん》
《それは仕方ないな》
「「「「「……」」」」」
これも慣れるべきかと、女将達は目を合わせて頷き合っていた。
「では、よろしくお願いします」
「「「「「はい……」」」」」
そうして、お試し期間が始まった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
彼らは荷物を部屋に置きに行ったりと忙しなく動く。年中各地を移動する彼らにとっては、荷物整理もすぐに終わるし、部屋割りも問題など起きない。
「この別館は、常々我々で買い取りたいと思っていたのですよ。立地も良く、山からの音も良く聞こえますから」
「確かに、場所としては最高ですね」
高耶にも聞こえている。だが、何か薄い布越しに聴くような、そんなくぐもった感じにも聞こえており、眉を寄せる。
これに、伊調は気付いて苦笑する。
「気になりますか……そうです。音は鮮明ではない……何かが遮ってしまっている……それがここでの普通だと思っていたのですが……」
長く離れていたから、その違和感が今、伊調には強く感じられているようだ。
「さて、女将。我々が詐欺師、ペテン師の類いではないとお分かりいただけたでしょう。陰陽師は実際に居ります。その頭の一人がこちらの秘伝の御当主です」
「は、はい……」
女将達は、恐縮しながらも、伊調と高耶へと目を向ける。それを確認し、高耶は伊調から引き継いだ。
「今一度、ご提案させていただきます。この旅館を、買い取らせてください。従業員の入れ替えはしません。扱いとしてはそうですね……会社の社員がいつでも使える別荘という感じのものになりますが……」
「会社の別荘……ですね。とてもわかりやすいです」
個人のお手伝いさんということではなく、会社、組織のものという扱いだ。
「ただ、補充される従業員は、先ほどの藤のような存在も含まれます」
「っ……お姉さんのような……? ここで、働く? ということですか?」
「ええ。その……今までも、藤から送り込まれて来た精霊達が中居をしていたこともあるかと」
これに、女将は考え込む。そして、夫と目を合わせてハッとした。
「あっ、ありましたっ。人数が足りず、困っていた時に……手が回らないはずが、しっかり仕事が回っていて……そう言う時は、食事の時に人数が合わないんです……」
「それですね……すみません。研修の場に使っていたようです……」
「そうでしたか……」
何とも言えない沈黙が落ちる。明らかな不法侵入。だが、仕事を手伝ってくれたので文句は言えない。従業員用の賄いで、一つ二つ、数が違うと思ったくらいで特に困ることもなかった。
女将が何かを決意したように口を開いた。
「あのっ……このお話、お受けしたく思います。その……不可思議なことも多く、知らない世界で不安もありますが……やる事に変わりはないようですし……」
初めから、家族の中ではそれを決定していたようだ。だが、陰陽師などという非現実的な事を言われ、戸惑っただけらしい。
「そうですね。仕事内容はほぼ変わりません。ただ、そうですね……藤達のような存在に慣れてもらう必要はあります。他の従業員の方々にも、納得してもらわないといけませんし……」
「なるほど……」
どうしようかなと高耶が考え込むと、伊調が提案する。
「では、御当主の式様達をお見せになってはどうでしょう。こちらを利用することになる連盟の方々は、独自の式をお持ちですし、その存在に慣れることは必要です」
「それはありますね……わかりました。【珀豪】【天柳】【清晶】【綺翔】」
流石にキラキラ勇者の見た目の常盤と、夜の女王な黒艶は合わないだろう。
《む。主よ。ここは……藤の気配が濃いな》
《本当だわ……ちょっと、主様? まさか、藤を喚んだりしまして?》
《また無茶したんだ? ちょっと、熱あるんじゃないの?》
《……》
綺翔は黙って責めるような目を向けていた。揃って高耶に詰め寄る四神。このままでは話が進まなくなる。
「あ~、その、今は先に話すことがある。ここの旅館を連盟で買い取ることになった。だから、お前達に慣れてもらえるようにしたい。お試しで」
《ふむ……旅館か。よかろう。従業員と交流しながら仕事をすれば良いのだろう?》
「そう……頼めるか?」
《天柳と綺翔は中居の仕事を。清晶は裏方だな。我は厨房を希望しよう。大将はそなたか?》
「っ……ああ……」
女将の夫へと珀豪が声をかけた。
《我は珀豪。料理は得意だ。懐石料理から薬膳料理、フランス料理やイタリアン、もちろん、家庭料理も出来るし、子どもから大人も喜ぶキャラ弁もお手のものだぞ。存分に使ってくれ》
「わ、わかりました……」
珀豪のやる気に大将は押され気味だ。
次に天柳が女将の前に優雅に進み出て座る。
《女将さんはあなたかしら?》
「あ、はいっ」
《わたくしは、天柳。中居の仕事は藤から教えられています。こちらの綺翔もです。人とは違うので、疲れ知らずですから、遠慮なく指示してくださいな。力もありますから、この机なども、片手で持てましてよ》
「へ……あ、ああ……人ではない……のですね。わかりました……」
この机と指差した座卓は、大人の男二人で持ってもかなりの重さがあるものだ。それを片手でと女将は信じられない思いを抱きながらも、人ではないのだということを思い出して何とか納得する。
次に清晶がいつもの不貞腐れたような顔で腕を組んで告げる。
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《主以外どうでもいいもん》
《それは仕方ないな》
「「「「「……」」」」」
これも慣れるべきかと、女将達は目を合わせて頷き合っていた。
「では、よろしくお願いします」
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