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第六章 秘伝と知己の集い
305 たぶん想いは本物
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結界は、感じられる者には違和感を抱かせる。だが、何かを守っていたり、見えないようにしているのだ。違和感があるからといって、マジマジと見たり、明らかに不思議そうにしたりはしない。
これはもう習性だ。何でもない振りは得意中の得意技だった。
今はしっかりした護符を持った俊哉だけではないのだ。そのまま、素知らぬ振りで茶屋に入った。
「あっ、いらっしゃいませ~。お好きな席へどうぞ~。ご注文が決まりましたらお声がけくださ~い」
とっても明るい看板娘がいた。着物に緑のエプロン。同じ色の三角巾にお団子頭という、団子屋にピッタリな見た目だ。
「うわ……かわいい」
「着物いいよな……」
満と嶺が見惚れていた。
「おーい。ここ座ろうぜ」
俊哉はさっさと席を決めている。これに、満と嶺が意外そうにしていた。
「俊哉も彼女いないんだよな? 良いと思わなかったのか?」
満が席につきながら尋ねれば、俊哉は自信満々に告げた。
「俺は浮気はしねえ」
「「彼女いたのか!?」」
思わず、満と嶺は二人で大きな声を上げる。
因みに、この時、高耶と彰彦は、俊哉と満、嶺のついた四人がけのテーブルの隣りの二人掛けの方に向かいに座ってメニューを見ていた。
そして、俊哉が鼻を鳴らしながら自慢げに続けた。
「絶賛片想い中だ! だから浮気はしねえ。俺、一途なの」
「えっ、どんな子?」
「俊哉から好きなタイプとか聞いたことねえけど、明るいタイプじゃね?」
俊哉の前に座った二人は目を輝かせている。そんな事など気にせず、高耶と彰彦はメニューを決める。
「この三味セットにするか」
「うむ。甘いのと酸味のあるのと、甘辛なものとは……中々やるな、この店。これは異世界でもウケるだろう」
こんな時でも、彰彦は異世界に行ったら自分ならと考えるらしい。これが通常モードなので、高耶も慣れた様子でそうだなと頷く。
一方、俊哉は
「へっへっへっ。聞いて驚け! 普段はクールビューティー! 戦闘もお手のもの! あんまり喋らないから、時々口を利いてくれるとめっちゃテンション上がんのっ。食べるのが好きらしくてさ~あっ、それも、お菓子よりご飯ものが良いんだって。食いしん坊なとこが可愛いだろ!? それにっ」
俊哉が立ち上がって力説しているのを、高耶は頬杖をついて見ていたが、終わりそうにないので、彰彦と二人分を先ず注文しておいた。
俊哉は止まらない。目の前の二人が、未だうんうんそれは可愛いとか、時々真面目に相槌を打つから余計だ。
「名前もいいんだよ! 綺翔さんっていうんだけどさっ。もう名前の通り綺麗で! 走る姿はまさに『翔』って文字が見えるようでさあっ」
「……」
高耶は感心していた。
届いた団子を食べながら、俊哉が本気で綺翔を気に入っているのが分かったからだ。高耶はあまりこの話を聞いてやらないから、ここまで饒舌になるとは思わなかった。
彰彦も何気に聞いてはいたらしい。
小さな声で、高耶に尋ねる。
「高耶は知ってる子か?」
「……ああ……」
「その間の真意は?」
「……身内みたいなやつだから……」
「なるほど。俊哉はよっぽど高耶が好きらしい」
「いや、俺基準じゃねえからな?」
「高耶と関係があったから、目に留まり、恋が始まったということではないか」
「……一目惚れだって言ってたぞ」
「同じ事だろう」
彰彦は冷静に分析していた。
その時、ようやく俊哉達が、高耶と彰彦がもう団子を食べている事に気付いたようだ。
「「「あっ、いつの間に!」」」
「ふっ。我らは気配を消すのは得意だからな」
「……」
別に消してないというのは、口にしなかった。それから、俊哉が店員を呼ぼうとあの女性を探す。
「ん? あれ? 奥かな。すいませ~ん」
「は、はい、はいっ」
「んん?」
出てきたのは、年配の女性だった。あからさまに、満と嶺はがっかりしていた。
そこで、高耶は不意に先程まで居た女性店員が店の裏から駆け出ていく気配を感じた。それは、結界があるという違和感を感じた方に向かい、その結界に入ったのだろう、忽然と気配が消える。
注文を受けた年配の女性も、少し挙動不審だ。明らかに高耶の方を気にしている。
「……」
これは確認すべきかと思い、高耶は神楽部隊の伊調へと、この場所に結界がある事について尋ねるメールを打った。
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読んでくださりありがとうございます◎
これはもう習性だ。何でもない振りは得意中の得意技だった。
今はしっかりした護符を持った俊哉だけではないのだ。そのまま、素知らぬ振りで茶屋に入った。
「あっ、いらっしゃいませ~。お好きな席へどうぞ~。ご注文が決まりましたらお声がけくださ~い」
とっても明るい看板娘がいた。着物に緑のエプロン。同じ色の三角巾にお団子頭という、団子屋にピッタリな見た目だ。
「うわ……かわいい」
「着物いいよな……」
満と嶺が見惚れていた。
「おーい。ここ座ろうぜ」
俊哉はさっさと席を決めている。これに、満と嶺が意外そうにしていた。
「俊哉も彼女いないんだよな? 良いと思わなかったのか?」
満が席につきながら尋ねれば、俊哉は自信満々に告げた。
「俺は浮気はしねえ」
「「彼女いたのか!?」」
思わず、満と嶺は二人で大きな声を上げる。
因みに、この時、高耶と彰彦は、俊哉と満、嶺のついた四人がけのテーブルの隣りの二人掛けの方に向かいに座ってメニューを見ていた。
そして、俊哉が鼻を鳴らしながら自慢げに続けた。
「絶賛片想い中だ! だから浮気はしねえ。俺、一途なの」
「えっ、どんな子?」
「俊哉から好きなタイプとか聞いたことねえけど、明るいタイプじゃね?」
俊哉の前に座った二人は目を輝かせている。そんな事など気にせず、高耶と彰彦はメニューを決める。
「この三味セットにするか」
「うむ。甘いのと酸味のあるのと、甘辛なものとは……中々やるな、この店。これは異世界でもウケるだろう」
こんな時でも、彰彦は異世界に行ったら自分ならと考えるらしい。これが通常モードなので、高耶も慣れた様子でそうだなと頷く。
一方、俊哉は
「へっへっへっ。聞いて驚け! 普段はクールビューティー! 戦闘もお手のもの! あんまり喋らないから、時々口を利いてくれるとめっちゃテンション上がんのっ。食べるのが好きらしくてさ~あっ、それも、お菓子よりご飯ものが良いんだって。食いしん坊なとこが可愛いだろ!? それにっ」
俊哉が立ち上がって力説しているのを、高耶は頬杖をついて見ていたが、終わりそうにないので、彰彦と二人分を先ず注文しておいた。
俊哉は止まらない。目の前の二人が、未だうんうんそれは可愛いとか、時々真面目に相槌を打つから余計だ。
「名前もいいんだよ! 綺翔さんっていうんだけどさっ。もう名前の通り綺麗で! 走る姿はまさに『翔』って文字が見えるようでさあっ」
「……」
高耶は感心していた。
届いた団子を食べながら、俊哉が本気で綺翔を気に入っているのが分かったからだ。高耶はあまりこの話を聞いてやらないから、ここまで饒舌になるとは思わなかった。
彰彦も何気に聞いてはいたらしい。
小さな声で、高耶に尋ねる。
「高耶は知ってる子か?」
「……ああ……」
「その間の真意は?」
「……身内みたいなやつだから……」
「なるほど。俊哉はよっぽど高耶が好きらしい」
「いや、俺基準じゃねえからな?」
「高耶と関係があったから、目に留まり、恋が始まったということではないか」
「……一目惚れだって言ってたぞ」
「同じ事だろう」
彰彦は冷静に分析していた。
その時、ようやく俊哉達が、高耶と彰彦がもう団子を食べている事に気付いたようだ。
「「「あっ、いつの間に!」」」
「ふっ。我らは気配を消すのは得意だからな」
「……」
別に消してないというのは、口にしなかった。それから、俊哉が店員を呼ぼうとあの女性を探す。
「ん? あれ? 奥かな。すいませ~ん」
「は、はい、はいっ」
「んん?」
出てきたのは、年配の女性だった。あからさまに、満と嶺はがっかりしていた。
そこで、高耶は不意に先程まで居た女性店員が店の裏から駆け出ていく気配を感じた。それは、結界があるという違和感を感じた方に向かい、その結界に入ったのだろう、忽然と気配が消える。
注文を受けた年配の女性も、少し挙動不審だ。明らかに高耶の方を気にしている。
「……」
これは確認すべきかと思い、高耶は神楽部隊の伊調へと、この場所に結界がある事について尋ねるメールを打った。
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