303 / 405
第六章 秘伝と知己の集い
303 いい奴……
しおりを挟む
高耶から胡乱げな目を向けられ、俊哉の肩が少し上がる。
「うっ、だってよお、ここにもやっぱ、神様とか居るんだろ? 昔からの土地っぽいし。なら、弾けた方がいいと思ってさ」
「……俊哉……お前……」
そんな事を考えていたのかと、高耶は少し驚いた。
「なんだよっ。ちょっとでも手間が省けるかと思って……高耶、結局仕事になりそうだもんよお」
「……」
部屋に入ってきて、胡座をかいて座り、不貞腐れたように口を尖らせる。どうやら、本当に気を利かせたらしい。
俊哉は高耶以上に、高耶に休暇を楽しんでもらいたいと思っているようだ。
これに、時島は優しく嬉しそうに笑った。
「和泉は蔦枝と遊びたかったのか」
「っ、だってさ、俺らはまだ遊んでてもいい年じゃん。実際、ここまで出席率が良いのは、時間に余裕がある証拠だろ? けど、高耶は俺が無理やり連れてきたし……」
「いや、無理やりではないが……」
寧ろ、家族からも背中を押されまくり、出てきた高耶だ。
《は~、まあそうだなあ。十で当主になっちまったし、子どもの遊びってのはよお分からんかったしなあ》
「充雪のじいさんも、子どもん時から稽古、稽古だったんだろ。高耶見てたら分かるわ」
《おう。よく分かったな》
充雪自身、それが当たり前で育ったため、特に気にすることもなかった。ただ、最近になって、優希達と関わることで、このくらいの子どもはと色々考えるようになったようだ。
因みに、この場では充雪が自分を時島にも視えるようにしているため、俊哉も当たり前のように話をしている。
「けどさ。高耶に今更、仕事抜きでって言っても無理じゃん。ほら、家族旅行でも結局仕事になったらしいし、もうそこは求めない方が良いって、統二も言ってた」
「……」
なんだか、仕事人間なのはしょうがないとはっきり認識されている気がして、高耶は複雑な気持ちになる。
「だからさっ。それなら、ちょっとでもその仕事の部分が早く終わるように手伝うのが正解かなって」
「確かに。それが正解かもしれんな」
《うんうん》
「……」
これは、時島にもそう認識されたということだろう。どう反応すべきか困る高耶だ。
「ってことで! 今からでも弾けるけど、どうする!?」
「……いや……なら、ちょっと周りを見て回ってくる」
「あっ、そっか。分かった! 一緒に散歩だな! 行く行く! 彰彦達にも伝えてくる!」
「え、あっ、いや、俺だけで……」
「待っててくれよ~!」
「おい……」
言うだけ言って、部屋を飛び出して行く俊哉。一人で行くからいいと、止める暇もなかった。
「本当に、和泉は落ち着きがないなあ……」
《最近、ご主人様について回りたい犬に見える時があるわ……》
「なるほど……」
「……」
主人が散歩に行くと言うのならば、勇んで出掛ける準備をする犬のようだと言われて納得される俊哉。今回のは、ハーネスを自分で取りに行く犬に思えてきた。
この時、高耶は何とも言えない顔をしていた。それに気付き、時島は熱いお茶を差し出す。
「まあ、その……一杯飲め」
「……はい……」
時島も、良い友達を持ったなとは微妙に言えなくなり、複雑な心境だ。
《あいつは、ほんと、予想できねえなあ》
「「ほんとうに……」」
『いい奴なんだが……』と、毎回続けられる。どうしても確実に『いい奴だ』とはならない。そんな微妙な存在。
そうして、戻ってきた俊哉の後ろには、彰彦と同室の二人もついて来ていた。
「三人も、高耶と散歩したいってよっ!」
「……分かった……」
キラキラしたその表情から、三人も自分と心は一緒だと喜ぶ気持ちが見えた。これに逆らえるはずがない。
そうして、高耶は友人四人を連れて散策に出かけることになった。
この時、もうすっかり焔泉の占いについては忘れていたのだが、この占いは外れないのだと、またすぐ思い出すことになるのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「うっ、だってよお、ここにもやっぱ、神様とか居るんだろ? 昔からの土地っぽいし。なら、弾けた方がいいと思ってさ」
「……俊哉……お前……」
そんな事を考えていたのかと、高耶は少し驚いた。
「なんだよっ。ちょっとでも手間が省けるかと思って……高耶、結局仕事になりそうだもんよお」
「……」
部屋に入ってきて、胡座をかいて座り、不貞腐れたように口を尖らせる。どうやら、本当に気を利かせたらしい。
俊哉は高耶以上に、高耶に休暇を楽しんでもらいたいと思っているようだ。
これに、時島は優しく嬉しそうに笑った。
「和泉は蔦枝と遊びたかったのか」
「っ、だってさ、俺らはまだ遊んでてもいい年じゃん。実際、ここまで出席率が良いのは、時間に余裕がある証拠だろ? けど、高耶は俺が無理やり連れてきたし……」
「いや、無理やりではないが……」
寧ろ、家族からも背中を押されまくり、出てきた高耶だ。
《は~、まあそうだなあ。十で当主になっちまったし、子どもの遊びってのはよお分からんかったしなあ》
「充雪のじいさんも、子どもん時から稽古、稽古だったんだろ。高耶見てたら分かるわ」
《おう。よく分かったな》
充雪自身、それが当たり前で育ったため、特に気にすることもなかった。ただ、最近になって、優希達と関わることで、このくらいの子どもはと色々考えるようになったようだ。
因みに、この場では充雪が自分を時島にも視えるようにしているため、俊哉も当たり前のように話をしている。
「けどさ。高耶に今更、仕事抜きでって言っても無理じゃん。ほら、家族旅行でも結局仕事になったらしいし、もうそこは求めない方が良いって、統二も言ってた」
「……」
なんだか、仕事人間なのはしょうがないとはっきり認識されている気がして、高耶は複雑な気持ちになる。
「だからさっ。それなら、ちょっとでもその仕事の部分が早く終わるように手伝うのが正解かなって」
「確かに。それが正解かもしれんな」
《うんうん》
「……」
これは、時島にもそう認識されたということだろう。どう反応すべきか困る高耶だ。
「ってことで! 今からでも弾けるけど、どうする!?」
「……いや……なら、ちょっと周りを見て回ってくる」
「あっ、そっか。分かった! 一緒に散歩だな! 行く行く! 彰彦達にも伝えてくる!」
「え、あっ、いや、俺だけで……」
「待っててくれよ~!」
「おい……」
言うだけ言って、部屋を飛び出して行く俊哉。一人で行くからいいと、止める暇もなかった。
「本当に、和泉は落ち着きがないなあ……」
《最近、ご主人様について回りたい犬に見える時があるわ……》
「なるほど……」
「……」
主人が散歩に行くと言うのならば、勇んで出掛ける準備をする犬のようだと言われて納得される俊哉。今回のは、ハーネスを自分で取りに行く犬に思えてきた。
この時、高耶は何とも言えない顔をしていた。それに気付き、時島は熱いお茶を差し出す。
「まあ、その……一杯飲め」
「……はい……」
時島も、良い友達を持ったなとは微妙に言えなくなり、複雑な心境だ。
《あいつは、ほんと、予想できねえなあ》
「「ほんとうに……」」
『いい奴なんだが……』と、毎回続けられる。どうしても確実に『いい奴だ』とはならない。そんな微妙な存在。
そうして、戻ってきた俊哉の後ろには、彰彦と同室の二人もついて来ていた。
「三人も、高耶と散歩したいってよっ!」
「……分かった……」
キラキラしたその表情から、三人も自分と心は一緒だと喜ぶ気持ちが見えた。これに逆らえるはずがない。
そうして、高耶は友人四人を連れて散策に出かけることになった。
この時、もうすっかり焔泉の占いについては忘れていたのだが、この占いは外れないのだと、またすぐ思い出すことになるのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
127
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる