秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

303 いい奴……

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高耶から胡乱げな目を向けられ、俊哉の肩が少し上がる。

「うっ、だってよお、ここにもやっぱ、神様とか居るんだろ? 昔からの土地っぽいし。なら、弾けた方がいいと思ってさ」
「……俊哉……お前……」

そんな事を考えていたのかと、高耶は少し驚いた。

「なんだよっ。ちょっとでも手間が省けるかと思って……高耶、結局仕事になりそうだもんよお」
「……」

部屋に入ってきて、胡座をかいて座り、不貞腐れたように口を尖らせる。どうやら、本当に気を利かせたらしい。

俊哉は高耶以上に、高耶に休暇を楽しんでもらいたいと思っているようだ。

これに、時島は優しく嬉しそうに笑った。

「和泉は蔦枝と遊びたかったのか」
「っ、だってさ、俺らはまだ遊んでてもいい年じゃん。実際、ここまで出席率が良いのは、時間に余裕がある証拠だろ? けど、高耶は俺が無理やり連れてきたし……」
「いや、無理やりではないが……」

寧ろ、家族からも背中を押されまくり、出てきた高耶だ。

《は~、まあそうだなあ。十で当主になっちまったし、子どもの遊びってのはよお分からんかったしなあ》
「充雪のじいさんも、子どもん時から稽古、稽古だったんだろ。高耶見てたら分かるわ」
《おう。よく分かったな》

充雪自身、それが当たり前で育ったため、特に気にすることもなかった。ただ、最近になって、優希達と関わることで、このくらいの子どもはと色々考えるようになったようだ。

因みに、この場では充雪が自分を時島にも視えるようにしているため、俊哉も当たり前のように話をしている。

「けどさ。高耶に今更、仕事抜きでって言っても無理じゃん。ほら、家族旅行でも結局仕事になったらしいし、もうそこは求めない方が良いって、統二も言ってた」
「……」

なんだか、仕事人間なのはしょうがないとはっきり認識されている気がして、高耶は複雑な気持ちになる。

「だからさっ。それなら、ちょっとでもその仕事の部分が早く終わるように手伝うのが正解かなって」
「確かに。それが正解かもしれんな」
《うんうん》
「……」

これは、時島にもそう認識されたということだろう。どう反応すべきか困る高耶だ。

「ってことで! 今からでも弾けるけど、どうする!?」
「……いや……なら、ちょっと周りを見て回ってくる」
「あっ、そっか。分かった! 一緒に散歩だな! 行く行く! 彰彦達にも伝えてくる!」
「え、あっ、いや、俺だけで……」
「待っててくれよ~!」
「おい……」

言うだけ言って、部屋を飛び出して行く俊哉。一人で行くからいいと、止める暇もなかった。

「本当に、和泉は落ち着きがないなあ……」
《最近、ご主人様について回りたい犬に見える時があるわ……》
「なるほど……」
「……」

主人が散歩に行くと言うのならば、勇んで出掛ける準備をする犬のようだと言われて納得される俊哉。今回のは、ハーネスを自分で取りに行く犬に思えてきた。

この時、高耶は何とも言えない顔をしていた。それに気付き、時島は熱いお茶を差し出す。

「まあ、その……一杯飲め」
「……はい……」

時島も、良い友達を持ったなとは微妙に言えなくなり、複雑な心境だ。

《あいつは、ほんと、予想できねえなあ》
「「ほんとうに……」」

『いい奴なんだが……』と、毎回続けられる。どうしても確実に『いい奴だ』とはならない。そんな微妙な存在。

そうして、戻ってきた俊哉の後ろには、彰彦と同室の二人もついて来ていた。

「三人も、高耶と散歩したいってよっ!」
「……分かった……」

キラキラしたその表情から、三人も自分と心は一緒だと喜ぶ気持ちが見えた。これに逆らえるはずがない。

そうして、高耶は友人四人を連れて散策に出かけることになった。

この時、もうすっかり焔泉の占いについては忘れていたのだが、この占いは外れないのだと、またすぐ思い出すことになるのだ。








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読んでくださりありがとうございます◎
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