299 / 405
第六章 秘伝と知己の集い
299 修行するアイドル
しおりを挟む
しばらくして、統二が戻ってきた。
「兄さん、体育館は使っているんですが、舞台の方は使っていないので、そこでも大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
これに、俊哉が首を傾げる。
「何に使ってんだ? 部活も今はやってねえんだろ?」
「大きな段幕作るのに使ってるみたいです」
「あ~、教室だと他にもやる事あるし?」
「ですね」
運動部が使っている訳ではないので、側を通過するのに邪魔にはならないだろう。舞台へ行くくらいは問題なさそうだ。
「けど、一応、人払いの術は掛けた方がいいかもしれないです」
「御当主様は雰囲気だけでも目を惹きますからね。是非、その魅力の出し方をお教えいただきたいです」
「……」
魅力の出し方と言われても、高耶には全く分からないものだ。
そこで、律音が、再び髪をボサボサにし直しているのを見て、統二が目を瞬かせる。
「えっと……先輩ですよね? さっきと雰囲気が……」
「統二も知らねえの? アレだよ! 最近人気のアイドル! リツト!」
「え……っ、あっ! え!? この学校だったんですか!?」
「あはは。よく擬態できてるでしょう?」
「はい……兄さんのステルスモードよりすごいですね……」
統二は、高耶の普段のオタクルックをステルスモードと言った。これに、俊哉が吹き出した。
「ぷっ。ステルスモード! あははっ。確かにぃ。大学じゃ、術も使ってないのに、人に紛れるんだよな~」
「人払いの術……使わずに……ですか? やはり、それは秘伝の……」
律音が興味津々の様子を見せる。頭はボサボサになったが、まだメガネをかけていないので、それほど変化はない。爽やか少年だ。
期待する律音に向けて、高耶は苦笑しながら答える。
「……まあ……歩き方とか、動き方だけでも、人に紛れることはできるから……そう難しくはない」
「っ、是非教えていただけないでしょうか!」
「……構わないが……アイドルなら、忙しいだろう」
「いえ。『無理なく』『仕事より勉強』がモットーの事務所なので。これも勉強の一つとしてやらせていただきますっ」
勉強や修行しながらすることで、アイドルとしての力にもなるということらしい。
俊哉が感心しながら、机に頬杖を突いて口を開く。
「ガツガツしてなくて良いんじゃね? ほら、アイドルって、裏あるって言うじゃん。見せてる顔と普段は違うってえの? それも演技出来てるって感じでカッコいいけどさあ、やっぱ、普段も見せてる顔のままでいて欲しいって思うじゃん」
「そうですね。私もそう思います。なので、是非ともステルスモードというのは、習得したいですね」
前向きな子だった。音一族は、努力する一族だ。これを断れる高耶ではなかった。
「……時間の調整をして、後日連絡するってことでもいいか?」
「もちろんです! 他の家の者も良いでしょうか!」
「ああ。個人指導にはならないかもしれないが」
「十分です! ありがとうございます!」
そうして、話がまとまった所で、体育館へと向かった。
人払いの術を掛けて注目されないようにしながら舞台に上がり、高耶は過去視をする。
「……間違いないな。社の位置は、あの右端くらいだ」
「そうですか……では、御当主様にお願いが」
改めて、真面目な顔で、今は陰気な姿をしている律音が高耶の前に立った。その改まった様子に、高耶は少しだけ身構えた。
「俺が出来ることならいいが……」
これを待ってましたとばかりに、律音は笑顔を浮かべた。
「はい! 御当主様は、ピアノを弾かれるとか。文化祭の最後に、軽音など、発表する場があるのですが、そこで私と、舞台に上がっていただけないでしょうかっ」
「……」
「一緒に奉納ライブをしてください!」
まさかの提案に、高耶も統二や俊哉でさえ、言葉を失った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「兄さん、体育館は使っているんですが、舞台の方は使っていないので、そこでも大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
これに、俊哉が首を傾げる。
「何に使ってんだ? 部活も今はやってねえんだろ?」
「大きな段幕作るのに使ってるみたいです」
「あ~、教室だと他にもやる事あるし?」
「ですね」
運動部が使っている訳ではないので、側を通過するのに邪魔にはならないだろう。舞台へ行くくらいは問題なさそうだ。
「けど、一応、人払いの術は掛けた方がいいかもしれないです」
「御当主様は雰囲気だけでも目を惹きますからね。是非、その魅力の出し方をお教えいただきたいです」
「……」
魅力の出し方と言われても、高耶には全く分からないものだ。
そこで、律音が、再び髪をボサボサにし直しているのを見て、統二が目を瞬かせる。
「えっと……先輩ですよね? さっきと雰囲気が……」
「統二も知らねえの? アレだよ! 最近人気のアイドル! リツト!」
「え……っ、あっ! え!? この学校だったんですか!?」
「あはは。よく擬態できてるでしょう?」
「はい……兄さんのステルスモードよりすごいですね……」
統二は、高耶の普段のオタクルックをステルスモードと言った。これに、俊哉が吹き出した。
「ぷっ。ステルスモード! あははっ。確かにぃ。大学じゃ、術も使ってないのに、人に紛れるんだよな~」
「人払いの術……使わずに……ですか? やはり、それは秘伝の……」
律音が興味津々の様子を見せる。頭はボサボサになったが、まだメガネをかけていないので、それほど変化はない。爽やか少年だ。
期待する律音に向けて、高耶は苦笑しながら答える。
「……まあ……歩き方とか、動き方だけでも、人に紛れることはできるから……そう難しくはない」
「っ、是非教えていただけないでしょうか!」
「……構わないが……アイドルなら、忙しいだろう」
「いえ。『無理なく』『仕事より勉強』がモットーの事務所なので。これも勉強の一つとしてやらせていただきますっ」
勉強や修行しながらすることで、アイドルとしての力にもなるということらしい。
俊哉が感心しながら、机に頬杖を突いて口を開く。
「ガツガツしてなくて良いんじゃね? ほら、アイドルって、裏あるって言うじゃん。見せてる顔と普段は違うってえの? それも演技出来てるって感じでカッコいいけどさあ、やっぱ、普段も見せてる顔のままでいて欲しいって思うじゃん」
「そうですね。私もそう思います。なので、是非ともステルスモードというのは、習得したいですね」
前向きな子だった。音一族は、努力する一族だ。これを断れる高耶ではなかった。
「……時間の調整をして、後日連絡するってことでもいいか?」
「もちろんです! 他の家の者も良いでしょうか!」
「ああ。個人指導にはならないかもしれないが」
「十分です! ありがとうございます!」
そうして、話がまとまった所で、体育館へと向かった。
人払いの術を掛けて注目されないようにしながら舞台に上がり、高耶は過去視をする。
「……間違いないな。社の位置は、あの右端くらいだ」
「そうですか……では、御当主様にお願いが」
改めて、真面目な顔で、今は陰気な姿をしている律音が高耶の前に立った。その改まった様子に、高耶は少しだけ身構えた。
「俺が出来ることならいいが……」
これを待ってましたとばかりに、律音は笑顔を浮かべた。
「はい! 御当主様は、ピアノを弾かれるとか。文化祭の最後に、軽音など、発表する場があるのですが、そこで私と、舞台に上がっていただけないでしょうかっ」
「……」
「一緒に奉納ライブをしてください!」
まさかの提案に、高耶も統二や俊哉でさえ、言葉を失った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
109
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる