秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
297 / 405
第六章 秘伝と知己の集い

297 対策して損はない

しおりを挟む
学校の様子を確認しながらも、高耶は衣装合わせを行っていた。

仮とはいえ、既にほぼ完成された服だ。それに着替えてカーテンで仕切られた手作り感溢れるフィッティングルームから出ると、小さな歓声が上がった。

「っ、す、すてき……っ」
「どうしようっ……服が完全に負ける……っ、けどイイ!」
「っ、ヤバい、ヤバいっ……これはヤバいっ」

女子高生の熱量は高い。本気で逆上せそうになっている子もいるようだ。

人数は限定されているから、今の状態でも問題はないだけで、集団の中でとなったらどうなるのかというのが心配だ。

「……」
「あ~あ、これ、本番ヤバいぜ? 氷嚢とまではいかなくても、氷は用意しといた方が良くないか?」
「ですね。生徒会に伝えておきます。本気にしてくれるかは分かりませんけど」
「な。ちょっと冗談みたいだもんな~」

腰砕けになっている女子生徒もいるのだが、この状況を見ていないと本気には思えないだろう。何より、ただでさえ忙しくなるのだ。そのままスルーされてもおかしくない。

「集会で見ててもな~」
「ですよね……となると……今から連れてきます」
「え? 誰を?」
「副会長が二葉の知り合いのお姉さんらしくて。お願いして来ます」
「おっ、それなら、ちょっとこのままだな。どうせ、女の子達も落ち着く時間が必要だし」
「はい。すぐに。行ってきます」
「よろ~」
「……」

高耶はただ一人、立って待っていることしか出来なかった。

「高耶。椅子やる。座っとけ」
「……ああ……」
「それにしても。ファンとかが倒れるってのが良く分かるぜ。あと、女子高生に御当主モードは刺激が強かったかもな」

この場にいる生徒達は、こっちの話など聴こえていないだろう。

「けど、こうして見ると……いい体してるよな」
「……」

どうやら、高耶が初日に着てきた服と同じ、腕は七分丈らしく、逞しい腕に男子生徒達も釘付けだ。

スタイルの良さが際立つ細身にも見えるシャツとズボンが、余計に高耶の魅力を引き出していた。

「あれだろ? このデザイン。統二のなんだろ? 藤の姉さん達監修だし、高耶にピッタリだよな」
「……そうか?」
「そりゃそうだろ。まあ、素材が良いのは仕方なくね?」
「……」

高耶を想定してデザインされた服なら、イメージもピッタリで正解だ。

「けど、ここまで高耶に合っちまうと、ちょいコンセプトとは外れてねえか? 一応『大衆向け』の服じゃねえとダメなんだろう? 奇抜じゃないのは良いけど、これだけ高耶に合うとさあ」
「「「……あっ」」」

これを聞いて、数人の生徒達が正気に戻った。

「確かに……コンセプトから外れているかも……いや、でも、誰もがカッコよく着られる服としてのデザインだし……」
「シンプル過ぎるとか?」
「あまり絵から変えるのもね……減点だし……」

デザイン画から、いかに離れ過ぎず、それでいてカッコよく手を加えられるかどうか。理想とするものから、着やすさや見た目をどれだけ追求できるかが試されるのだ。

手の加え過ぎで、デザイン画とは似ても似つかない感じになってはいけなかった。

自分たちの改めて起こしたデザイン画を広げ、頭を突き合わせる。

「ここ、もう少し摘んでみる?」
「ベルトみたいなのにしてみない? 少し自分で調整できるように」
「あ、だったら……」

話し合いが始まったようだ。

まだ高耶に見惚れている者もいるが、一応は正常に動き出した。

そこに、統二が二葉と副会長だという女子生徒を連れてやって来た。

「お待たせ、兄さん」
「うわっ、ちょっ、これは確かにヤバいわ。高耶兄さん、さすが!」
「っ、これはっ、わ、分かったわ。理解したわっ。氷、必要ね! クーラーボックスを持ってる子達に声をかけておくわ! 運動部なら確実だしっ。あと、保健室は開けておいてもらわないと……っ、お兄さん! 本番もよろしくお願いします!!」
「あ、ああ……」
「ありがとうございます! 失礼します!」
「……」

元気な副会長さんだ。

「姐さんって感じだな」
「ああ……」

そうして、なんとか衣装合わせは終了したのだが、帰り際に一人の生徒に声をかけられた。

「あの……失礼します。秘伝の御当主ですよね?」
「ん?」

高耶が当主であることを知っている者が、この学校に居るということに、少し驚きながら振り向く。そこに居たのは、ボサボサ頭の丸渕メガネ、ヨレヨレの制服を着た、いかにもな暗キャな男子生徒だった。






***********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...