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第六章 秘伝と知己の集い
297 対策して損はない
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学校の様子を確認しながらも、高耶は衣装合わせを行っていた。
仮とはいえ、既にほぼ完成された服だ。それに着替えてカーテンで仕切られた手作り感溢れるフィッティングルームから出ると、小さな歓声が上がった。
「っ、す、すてき……っ」
「どうしようっ……服が完全に負ける……っ、けどイイ!」
「っ、ヤバい、ヤバいっ……これはヤバいっ」
女子高生の熱量は高い。本気で逆上せそうになっている子もいるようだ。
人数は限定されているから、今の状態でも問題はないだけで、集団の中でとなったらどうなるのかというのが心配だ。
「……」
「あ~あ、これ、本番ヤバいぜ? 氷嚢とまではいかなくても、氷は用意しといた方が良くないか?」
「ですね。生徒会に伝えておきます。本気にしてくれるかは分かりませんけど」
「な。ちょっと冗談みたいだもんな~」
腰砕けになっている女子生徒もいるのだが、この状況を見ていないと本気には思えないだろう。何より、ただでさえ忙しくなるのだ。そのままスルーされてもおかしくない。
「集会で見ててもな~」
「ですよね……となると……今から連れてきます」
「え? 誰を?」
「副会長が二葉の知り合いのお姉さんらしくて。お願いして来ます」
「おっ、それなら、ちょっとこのままだな。どうせ、女の子達も落ち着く時間が必要だし」
「はい。すぐに。行ってきます」
「よろ~」
「……」
高耶はただ一人、立って待っていることしか出来なかった。
「高耶。椅子やる。座っとけ」
「……ああ……」
「それにしても。ファンとかが倒れるってのが良く分かるぜ。あと、女子高生に御当主モードは刺激が強かったかもな」
この場にいる生徒達は、こっちの話など聴こえていないだろう。
「けど、こうして見ると……いい体してるよな」
「……」
どうやら、高耶が初日に着てきた服と同じ、腕は七分丈らしく、逞しい腕に男子生徒達も釘付けだ。
スタイルの良さが際立つ細身にも見えるシャツとズボンが、余計に高耶の魅力を引き出していた。
「あれだろ? このデザイン。統二のなんだろ? 藤の姉さん達監修だし、高耶にピッタリだよな」
「……そうか?」
「そりゃそうだろ。まあ、素材が良いのは仕方なくね?」
「……」
高耶を想定してデザインされた服なら、イメージもピッタリで正解だ。
「けど、ここまで高耶に合っちまうと、ちょいコンセプトとは外れてねえか? 一応『大衆向け』の服じゃねえとダメなんだろう? 奇抜じゃないのは良いけど、これだけ高耶に合うとさあ」
「「「……あっ」」」
これを聞いて、数人の生徒達が正気に戻った。
「確かに……コンセプトから外れているかも……いや、でも、誰もがカッコよく着られる服としてのデザインだし……」
「シンプル過ぎるとか?」
「あまり絵から変えるのもね……減点だし……」
デザイン画から、いかに離れ過ぎず、それでいてカッコよく手を加えられるかどうか。理想とするものから、着やすさや見た目をどれだけ追求できるかが試されるのだ。
手の加え過ぎで、デザイン画とは似ても似つかない感じになってはいけなかった。
自分たちの改めて起こしたデザイン画を広げ、頭を突き合わせる。
「ここ、もう少し摘んでみる?」
「ベルトみたいなのにしてみない? 少し自分で調整できるように」
「あ、だったら……」
話し合いが始まったようだ。
まだ高耶に見惚れている者もいるが、一応は正常に動き出した。
そこに、統二が二葉と副会長だという女子生徒を連れてやって来た。
「お待たせ、兄さん」
「うわっ、ちょっ、これは確かにヤバいわ。高耶兄さん、さすが!」
「っ、これはっ、わ、分かったわ。理解したわっ。氷、必要ね! クーラーボックスを持ってる子達に声をかけておくわ! 運動部なら確実だしっ。あと、保健室は開けておいてもらわないと……っ、お兄さん! 本番もよろしくお願いします!!」
「あ、ああ……」
「ありがとうございます! 失礼します!」
「……」
元気な副会長さんだ。
「姐さんって感じだな」
「ああ……」
そうして、なんとか衣装合わせは終了したのだが、帰り際に一人の生徒に声をかけられた。
「あの……失礼します。秘伝の御当主ですよね?」
「ん?」
高耶が当主であることを知っている者が、この学校に居るということに、少し驚きながら振り向く。そこに居たのは、ボサボサ頭の丸渕メガネ、ヨレヨレの制服を着た、いかにもな暗キャな男子生徒だった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
仮とはいえ、既にほぼ完成された服だ。それに着替えてカーテンで仕切られた手作り感溢れるフィッティングルームから出ると、小さな歓声が上がった。
「っ、す、すてき……っ」
「どうしようっ……服が完全に負ける……っ、けどイイ!」
「っ、ヤバい、ヤバいっ……これはヤバいっ」
女子高生の熱量は高い。本気で逆上せそうになっている子もいるようだ。
人数は限定されているから、今の状態でも問題はないだけで、集団の中でとなったらどうなるのかというのが心配だ。
「……」
「あ~あ、これ、本番ヤバいぜ? 氷嚢とまではいかなくても、氷は用意しといた方が良くないか?」
「ですね。生徒会に伝えておきます。本気にしてくれるかは分かりませんけど」
「な。ちょっと冗談みたいだもんな~」
腰砕けになっている女子生徒もいるのだが、この状況を見ていないと本気には思えないだろう。何より、ただでさえ忙しくなるのだ。そのままスルーされてもおかしくない。
「集会で見ててもな~」
「ですよね……となると……今から連れてきます」
「え? 誰を?」
「副会長が二葉の知り合いのお姉さんらしくて。お願いして来ます」
「おっ、それなら、ちょっとこのままだな。どうせ、女の子達も落ち着く時間が必要だし」
「はい。すぐに。行ってきます」
「よろ~」
「……」
高耶はただ一人、立って待っていることしか出来なかった。
「高耶。椅子やる。座っとけ」
「……ああ……」
「それにしても。ファンとかが倒れるってのが良く分かるぜ。あと、女子高生に御当主モードは刺激が強かったかもな」
この場にいる生徒達は、こっちの話など聴こえていないだろう。
「けど、こうして見ると……いい体してるよな」
「……」
どうやら、高耶が初日に着てきた服と同じ、腕は七分丈らしく、逞しい腕に男子生徒達も釘付けだ。
スタイルの良さが際立つ細身にも見えるシャツとズボンが、余計に高耶の魅力を引き出していた。
「あれだろ? このデザイン。統二のなんだろ? 藤の姉さん達監修だし、高耶にピッタリだよな」
「……そうか?」
「そりゃそうだろ。まあ、素材が良いのは仕方なくね?」
「……」
高耶を想定してデザインされた服なら、イメージもピッタリで正解だ。
「けど、ここまで高耶に合っちまうと、ちょいコンセプトとは外れてねえか? 一応『大衆向け』の服じゃねえとダメなんだろう? 奇抜じゃないのは良いけど、これだけ高耶に合うとさあ」
「「「……あっ」」」
これを聞いて、数人の生徒達が正気に戻った。
「確かに……コンセプトから外れているかも……いや、でも、誰もがカッコよく着られる服としてのデザインだし……」
「シンプル過ぎるとか?」
「あまり絵から変えるのもね……減点だし……」
デザイン画から、いかに離れ過ぎず、それでいてカッコよく手を加えられるかどうか。理想とするものから、着やすさや見た目をどれだけ追求できるかが試されるのだ。
手の加え過ぎで、デザイン画とは似ても似つかない感じになってはいけなかった。
自分たちの改めて起こしたデザイン画を広げ、頭を突き合わせる。
「ここ、もう少し摘んでみる?」
「ベルトみたいなのにしてみない? 少し自分で調整できるように」
「あ、だったら……」
話し合いが始まったようだ。
まだ高耶に見惚れている者もいるが、一応は正常に動き出した。
そこに、統二が二葉と副会長だという女子生徒を連れてやって来た。
「お待たせ、兄さん」
「うわっ、ちょっ、これは確かにヤバいわ。高耶兄さん、さすが!」
「っ、これはっ、わ、分かったわ。理解したわっ。氷、必要ね! クーラーボックスを持ってる子達に声をかけておくわ! 運動部なら確実だしっ。あと、保健室は開けておいてもらわないと……っ、お兄さん! 本番もよろしくお願いします!!」
「あ、ああ……」
「ありがとうございます! 失礼します!」
「……」
元気な副会長さんだ。
「姐さんって感じだな」
「ああ……」
そうして、なんとか衣装合わせは終了したのだが、帰り際に一人の生徒に声をかけられた。
「あの……失礼します。秘伝の御当主ですよね?」
「ん?」
高耶が当主であることを知っている者が、この学校に居るということに、少し驚きながら振り向く。そこに居たのは、ボサボサ頭の丸渕メガネ、ヨレヨレの制服を着た、いかにもな暗キャな男子生徒だった。
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