秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

295 心配……ではあります

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統二の高校での一回目の打ち合わせ、顔合わせから二週間が経ち、二度目の訪問の日がやってきた。

「今日は、仮縫いした服を試着するんだろ?」
「みたいだな」

今回も、俊哉が護衛してくれるらしい。朝から張り切っていた。

「担当の子達、めちゃくちゃ気合い入ってたし、楽しみだな~」
「……」

モデルはクジで決まったのだが、決まった瞬間の歓喜の声は凄かった。

「決まった時、マジ泣きしてたし、今日は大丈夫かね?」
「……」

服を作るのは、代表となる子と、作業を手伝う三、四人のグループ。手伝うと言っても、代表の子に指示された作業をするだけ。

選ばれたデザインから、パターンの製作をするのは代表の子だ。

合う布を探したり、仮縫いをしたり、その服に合う靴や帽子などを選んだり、見つけてきたりするのが三、四人のサポートメンバーというわけだった。

そのサポートメンバーと代表の子が、高耶を引き当てた時の歓喜の声といったら、もう優勝が決まったかのような声だった。

「けど、高耶が圧倒的な存在感を出し過ぎてて、ちゃんと審査できるかは心配だわ」
「……」

本当に、神気は抑えられているよなと指輪を確認するのは、もう日常的になっていた。

「で? 高耶は何が気になってんだ?」
「……何のことだ?」

突然何かと高校に向かって最寄りの駅から歩きながら眉を寄せた。

「いや。だって、この前行った時から、なんか気にしてるだろ。校内歩いてる時に、二回くらい、お前なんかどっか違うとこ見てたじゃん」
「……っ」

俊哉が気付いていたことに驚いた。その驚きの顔を振り返り、俊哉がニヤリと笑う。

「俺、すげえだろ? 姫様にも勘が良いって褒められたんだぜ?」
「……」

得意げに言われ、高耶は何とも言えない顔をする。それが、俊哉には不満だったようだ。

「え? なんでそんな顔するん? 良いことだろ?」
「……いや……良いこととは言い切れないんだが……」

勘も良過ぎるのは良くないと高耶は思っている。見え過ぎるのも、感じ過ぎるのも、何事も過ぎる力というのは良くないだろう。

それを扱い切れるならば、上手く付き合っていけるだろうが、難しい場合が多いものだ。

高耶は俊哉のことが少し心配になった。

「……お前……あまり俺の側から離れるなよ」
「っ……高耶……」

心から、自然に出た言葉だった。

いつも明るく振る舞う俊哉だ。本当は悩みがあっても、話さないだけかもしれない。

高耶は、同年代の友人との付き合い方というのが分からない。だから、見落としているのではないかと心配になったのだ。

しかし、俊哉はいつもの俊哉だった。

「っ、高耶、今の……っ、俺、女子がキュンとするのが分かった!」
「……心配した俺がバカだった……」

一気に現実に戻される感覚だった。

「ちょっ、え? いやいや、真面目に! 大真面目に、キュンってしたんだよ!」
「大声で訳の分からんこと言うなっ。もう知らん!」
「ちょっと、高耶~ぁ」

多分、俊哉は悩みを悩みのままにしない。思ったこと、考えたことを必ず口にする。

こういう人は大丈夫だと高耶は内心、ほっとした。

「さっさと行くぞっ。それと、いいかっ、変なものが視えたら報告しろ。つついたり、ガン見したりするんじゃねえぞっ」
「つつくって……俺、小学生のガキと同じ? 大丈夫。分かってるって、視えても見えない振りだろ? 俺、視線外すの得意」

俊哉は、わざと視線をずらして見てない振りは、大学でも良くやっている。周りの興味ある会話に興味なさそうに耳を傾けることも多いようだ。情報通なのは、そういった行動を得意としているからだろう。

そこまで考えて、高耶もまさかと思った。

「けど俺、聴こえる方が強いらしいんだけど」
「っ、そういうことを報告しろって言ったんだよ!」

視えるよりも、聴く力を強く持っているというのは厄介だ。

「だから、大丈夫だって。聴こえない振りも得意だからさっ」
「……何か気になることがあったら、きちんと声かけろよ……」
「りょ~かい!」
「……」

本当に大丈夫だろうかと、少々の不安を抱えながら、高耶は学校へと足を早めた。






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読んでくださりありがとうございます◎
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