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第六章 秘伝と知己の集い
294 軍配は上がりました
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相田優也は、間違いなく高耶のファンだ。
町中でばったり会ったら、運命だと一瞬にしてテンションがMAXになるくらいに。
どうしてここにと問いかけるより先に、嬉しくて証拠写真をと思うくらいに大好きだった。よって、今更ながらに気付いたようだ。
「はっ! もしかして、師範もモデルなんですか!?」
「ああ……」
そこで、そういえばと高耶は先程までの統二達の行動を思い出す。
「相田……優也は、妹がいるのか」
統二が言っていた相田という女子生徒。そう、同じ苗字もないだろう。その女子生徒が優也の妹かと当たりを付ける。
それは正解だったらしい。
「はいっ」
「妹がいるなんてはじめて聞いたな」
「あははっ。まあ、そうっすね。師範に紹介なんてしませんから。男兄弟でもいるって言わないっすよ。もちろん、妹に師範の事も絶対話しません!」
「……」
これは嫌われてないかと高耶は不安に思った。それを聞いて、改めて思い出してみても、指導している者たちの兄弟の話を、一度として直接聞いていないと気付く。
兄弟がいると伝わってきても、それを確かめることがなかった。その話に加わることもなかったのだ。上手くそれを避けられていた気もする。
もちろん、高耶にその話題を避けていたのは、彼らなりの理由があった。
「妹や姉なんて、師範を見たら一発で惚れますもんっ。それで師範の手を煩わせるとか、仕事の邪魔するとかあったら死にたくなるじゃないっすか!」
「……え……」
「うわ~……」
「「さすが」」
意味が分からず戸惑う高耶。俊哉は、分かるけどそこまでかと感心。統二と二葉は同意するとはっきり頷いた。
「他の人たちもそうっすよ。何より、ライバル増えるの困るんで」
「……ライバル……?」
「はい! それなりに戦いはあるんすよっ」
「……」
どう反応すればいいのか、高耶には分からなかった。
そこで、統二と二葉が高耶の前に出る。
「統二? 二葉くん?」
「兄さんは何も言わなくていいから」
「寧ろ、話しかけるとか許す気ないんで」
「はあ……」
どうやら、相田という女生徒。優也の妹が近付いて来たようだ。しかし、統二達よりも先に、実の兄という検問があった。
「ちょっと兄貴。知り合いなの?」
「ん? ああ。けど、お前は話しかけるの禁止。頭が高い」
「はあ? な、なんでよ! 意味わかんない。妹だって紹介するだけじゃない!」
「師範に妹を紹介するのは協定違反だ」
「どこのよ!」
「色々だ。特に『思春期頃~二十代の女』は要注意でな。お前はダメだ」
「だからっ、なんでよ!」
周りは、完全に見物に回っていた。高耶とお近付きになりたくても、知り合いの妹さえダメというなら、近づけない。
「この時点でダメなんだよ。俺に紹介しろってことは、知り合いである俺の妹っていう優位性を見込んでんだろ? 師範には、そんな俗物な感情で近付いて欲しくねえの」
「っ、それこそ意味分かんないわよっ」
相田という女生徒、今自分がどういう表情をしているか分かっていないのだろう。かなり必死の表情だ。あまり良い顔ではない。
「先ず、行儀良くしろ。遠くから見るのは許す。声かけは挨拶の範囲内のみ。写真は同意を得てから。気軽なお触りは当然禁止だ」
「どこのファンクラブよ!」
「師範のファンクラブだ。非公式だけどな!」
「なによっ、それ!」
充雪にファンクラブだと言われたことはあるが、完全に冗談だと思っていた高耶だ。
そこで、統二が口を挟んだ。
「相田さん。言ってましたよね? 兄さんには頼まれたって近付かないって」
「っ、それは……っ」
「気軽に話しかけられると思わないでください」
「そうそう。何より、自分で言ったことは、守らないとなあ」
「っ……」
統二と二葉に言い負かされ、悔しそうな顔をする相田。兄も味方にはならないと知り、睨んでいた。
そうこうしていると、全校生徒達が集まり始めたらしい。統二が担当の教師へ声をかける。
「先生。打ち合わせを始めないといけないかと」
「っ、あ、ああ。では、この後の流れの説明をさせていただきます」
そうして、この混乱はなんとか収めることができた。
その後、高耶が舞台に上がると、ものすごい歓声が響いた。さすがの高耶も驚いたほどだ。
思えば、ピアノを弾く所では、皆が行儀よく、無闇に騒ぐことはない。相手が立場もある大人だからというのもあるだろう。気絶する時も静かだというのは、聞いたことがあった。
こうした、若い子相手にというのは、高耶としては初めての経験だったのだ。
舞台を下りると、俊哉が笑いながら肩を叩く。
「いやあ、すごかったなあ。若いって怖いわ。見たか? 座り込んだ女の子とかいたぞ」
「……面白がるな……」
「いや、もっとドタバタ倒れるの想定してたからさ~。あれか? あんま目向けないようにしてたのか?」
「……出る時に優也が、そうした方が良いって言ったんだよ……」
「マジかっ、ナイス! ファインプレー!」
「……」
やっぱり神気だろうかと、はじめて知る状況に高耶は内心、少しばかり混乱していた。
そうした落ち着かない心中に戸惑っていると、不意に、何かを感じた。
「……なんだ……?」
どこからだろうかと気配を探るも、次の打ち合わせ場所に案内すると言われ、断念する。
「……危ない感じ……ではないか……」
「兄さん? どうしました?」
統二が不思議そうに高耶の顔を見上げてくる。危機的な感覚はない。統二も気にしていないということなら大丈夫だろうと、問題も頭の端に寄せる。
「いや……で? 次は何をするんだ?」
「生徒会メンバーと、デザイナーとの顔合わせですっ」
嬉しそうな統二に手を引かれ、高耶はこの場を後にする。
その時、トクリと闇が拍動したことには気付かなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
町中でばったり会ったら、運命だと一瞬にしてテンションがMAXになるくらいに。
どうしてここにと問いかけるより先に、嬉しくて証拠写真をと思うくらいに大好きだった。よって、今更ながらに気付いたようだ。
「はっ! もしかして、師範もモデルなんですか!?」
「ああ……」
そこで、そういえばと高耶は先程までの統二達の行動を思い出す。
「相田……優也は、妹がいるのか」
統二が言っていた相田という女子生徒。そう、同じ苗字もないだろう。その女子生徒が優也の妹かと当たりを付ける。
それは正解だったらしい。
「はいっ」
「妹がいるなんてはじめて聞いたな」
「あははっ。まあ、そうっすね。師範に紹介なんてしませんから。男兄弟でもいるって言わないっすよ。もちろん、妹に師範の事も絶対話しません!」
「……」
これは嫌われてないかと高耶は不安に思った。それを聞いて、改めて思い出してみても、指導している者たちの兄弟の話を、一度として直接聞いていないと気付く。
兄弟がいると伝わってきても、それを確かめることがなかった。その話に加わることもなかったのだ。上手くそれを避けられていた気もする。
もちろん、高耶にその話題を避けていたのは、彼らなりの理由があった。
「妹や姉なんて、師範を見たら一発で惚れますもんっ。それで師範の手を煩わせるとか、仕事の邪魔するとかあったら死にたくなるじゃないっすか!」
「……え……」
「うわ~……」
「「さすが」」
意味が分からず戸惑う高耶。俊哉は、分かるけどそこまでかと感心。統二と二葉は同意するとはっきり頷いた。
「他の人たちもそうっすよ。何より、ライバル増えるの困るんで」
「……ライバル……?」
「はい! それなりに戦いはあるんすよっ」
「……」
どう反応すればいいのか、高耶には分からなかった。
そこで、統二と二葉が高耶の前に出る。
「統二? 二葉くん?」
「兄さんは何も言わなくていいから」
「寧ろ、話しかけるとか許す気ないんで」
「はあ……」
どうやら、相田という女生徒。優也の妹が近付いて来たようだ。しかし、統二達よりも先に、実の兄という検問があった。
「ちょっと兄貴。知り合いなの?」
「ん? ああ。けど、お前は話しかけるの禁止。頭が高い」
「はあ? な、なんでよ! 意味わかんない。妹だって紹介するだけじゃない!」
「師範に妹を紹介するのは協定違反だ」
「どこのよ!」
「色々だ。特に『思春期頃~二十代の女』は要注意でな。お前はダメだ」
「だからっ、なんでよ!」
周りは、完全に見物に回っていた。高耶とお近付きになりたくても、知り合いの妹さえダメというなら、近づけない。
「この時点でダメなんだよ。俺に紹介しろってことは、知り合いである俺の妹っていう優位性を見込んでんだろ? 師範には、そんな俗物な感情で近付いて欲しくねえの」
「っ、それこそ意味分かんないわよっ」
相田という女生徒、今自分がどういう表情をしているか分かっていないのだろう。かなり必死の表情だ。あまり良い顔ではない。
「先ず、行儀良くしろ。遠くから見るのは許す。声かけは挨拶の範囲内のみ。写真は同意を得てから。気軽なお触りは当然禁止だ」
「どこのファンクラブよ!」
「師範のファンクラブだ。非公式だけどな!」
「なによっ、それ!」
充雪にファンクラブだと言われたことはあるが、完全に冗談だと思っていた高耶だ。
そこで、統二が口を挟んだ。
「相田さん。言ってましたよね? 兄さんには頼まれたって近付かないって」
「っ、それは……っ」
「気軽に話しかけられると思わないでください」
「そうそう。何より、自分で言ったことは、守らないとなあ」
「っ……」
統二と二葉に言い負かされ、悔しそうな顔をする相田。兄も味方にはならないと知り、睨んでいた。
そうこうしていると、全校生徒達が集まり始めたらしい。統二が担当の教師へ声をかける。
「先生。打ち合わせを始めないといけないかと」
「っ、あ、ああ。では、この後の流れの説明をさせていただきます」
そうして、この混乱はなんとか収めることができた。
その後、高耶が舞台に上がると、ものすごい歓声が響いた。さすがの高耶も驚いたほどだ。
思えば、ピアノを弾く所では、皆が行儀よく、無闇に騒ぐことはない。相手が立場もある大人だからというのもあるだろう。気絶する時も静かだというのは、聞いたことがあった。
こうした、若い子相手にというのは、高耶としては初めての経験だったのだ。
舞台を下りると、俊哉が笑いながら肩を叩く。
「いやあ、すごかったなあ。若いって怖いわ。見たか? 座り込んだ女の子とかいたぞ」
「……面白がるな……」
「いや、もっとドタバタ倒れるの想定してたからさ~。あれか? あんま目向けないようにしてたのか?」
「……出る時に優也が、そうした方が良いって言ったんだよ……」
「マジかっ、ナイス! ファインプレー!」
「……」
やっぱり神気だろうかと、はじめて知る状況に高耶は内心、少しばかり混乱していた。
そうした落ち着かない心中に戸惑っていると、不意に、何かを感じた。
「……なんだ……?」
どこからだろうかと気配を探るも、次の打ち合わせ場所に案内すると言われ、断念する。
「……危ない感じ……ではないか……」
「兄さん? どうしました?」
統二が不思議そうに高耶の顔を見上げてくる。危機的な感覚はない。統二も気にしていないということなら大丈夫だろうと、問題も頭の端に寄せる。
「いや……で? 次は何をするんだ?」
「生徒会メンバーと、デザイナーとの顔合わせですっ」
嬉しそうな統二に手を引かれ、高耶はこの場を後にする。
その時、トクリと闇が拍動したことには気付かなかった。
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