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第六章 秘伝と知己の集い
288 外は楽しかったようです
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優希達が買い物から帰って来る頃には、場の調整も問題なく出来ていた。
玄関を開けて、春奈は開口一番にほうと息を吐いて呟いた。
「ステキな曲……」
目を潤ませ、その曲に聴き入った。玄関の戸を開ける時も、極力音を立てないようにして入ってきたのだ。
曲が終わるまで、春奈だけでなく優希達もそこから動かなかった。
「……何て曲かしら……とってもステキだったわ」
これに優希が答えた。この中では、優希だけが知っていたのだ。
「小学校のコウカだよ? クラシックバージョン!」
「「「え?」」」
春奈と昊、それと、部屋から出てきた克樹が思わずと言うように声を上げる。
「ふわ~、うちの小学校のコウカって、こんなステキだったんだねえ」
「あれでしょ? ジャズバージョンもあるんだよね? ききたいな~、ききたいな~」
優希から聞いていたらしい可奈と美由は、楽しそうにはしゃいだ。
玄関で靴も脱がずに固まってしまった一同に、珀豪が笑って促す。
《せっかくもらった野菜も萎びてしまうぞ。早く上がられよ》
「あっ、そうだったわっ」
《今日は暑いですからね。冷たいレモネードをお作りしましょうか》
「わあっ、エリーちゃんのレモネードだいすき!」
《光栄です。ではすぐに》
そうして、ようやく家に上がって来た。
そこで、調整も終わり、ほっとした高耶が迎え出る。
「お帰りなさい」
これに、春奈は頬を赤らめて答えた。
「あっ、た、ただいま。そのっ、高耶くんっ。さ、さっきのステキだったわっ」
「さっきの……ああ、気に入りましたか? よければ、後で最初から弾きますね」
「本当!? 聞きたいわっ」
本当にピアノが好きなようだ。それに、出掛けて行った時よりも、笑顔も自然で顔色も良い。ぎこちなさのあった体の動きも良くなっていたのだ。
思わず高耶は笑った。
「お出かけ、楽しかったみたいですね」
「え、あっ、ふふっ、そうなのっ。なんで今まで外に出なかったのかしらって、不思議なくらい……私がいつまでもうじうじしてても、あの子は喜ばないのに……気付くのにこんなにも時間がかかるなんて……」
親友を亡くしてから、何もやる気が出なくなった春奈。乗り越えなくてはと思ってはいても、出来ないもどかしさに囚われ、身動き出来なくなっていた。
今日、ようやく踏み出しきれなかった一歩を踏み出したのだ。
「それにね。心配してくださる人たちが居たんだって知れたわ。帰って来るまでに、お野菜沢山貰ってしまったのよ」
「そういえば、スーパーで買うには、量が多かったですね。それに土がついてましたし」
珀豪が持ち歩いているエコバック以外にもビニール袋に入った野菜が沢山あったなと、台所の方へ向かった珀豪達の方を振り返りながら告げる。
「ご近所の方たちが、くださったの。元気なようで良かったって言って……もう十何年も会っていなかったのに……」
「天気も良かったですし、会えて良かったですね」
「本当ねっ」
気候も良かったから、畑仕事に出てきた人たちも多かったのだろう。そうして、外に居た人たちが、賑やかな子ども達と、更に目立つ珀豪やエリーゼが居たことで、目を惹き、春奈の存在が目についたのだ。
「沢山お話しも出来ましたか?」
「ええ。珀豪さんやエリーゼさんもお話し上手だから、みんなで盛り上がってしまってっ」
「お邪魔にならなかったのなら良かったです」
「まあっ、そんなことにはならないわ。ふふふっ」
本当にとても元気になったようで、見ていた克樹も嬉しそうだった。
《春奈さん。お茶にいたしましょう》
「ええ」
そこで、春奈や昊は更に増えていた式神に驚く。
「あっ、果泉と瑪瑙のことを説明してませんでしたね」
《わたし、果泉! えっと、おじゃましてます!》
《メノウです。こんにちは……》
「まあまあっ。こんにちは。春奈です。よろしくね」
はい!
子どもの笑顔には負ける。それも果泉と瑪瑙だ。すぐに溶け込んでいった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
玄関を開けて、春奈は開口一番にほうと息を吐いて呟いた。
「ステキな曲……」
目を潤ませ、その曲に聴き入った。玄関の戸を開ける時も、極力音を立てないようにして入ってきたのだ。
曲が終わるまで、春奈だけでなく優希達もそこから動かなかった。
「……何て曲かしら……とってもステキだったわ」
これに優希が答えた。この中では、優希だけが知っていたのだ。
「小学校のコウカだよ? クラシックバージョン!」
「「「え?」」」
春奈と昊、それと、部屋から出てきた克樹が思わずと言うように声を上げる。
「ふわ~、うちの小学校のコウカって、こんなステキだったんだねえ」
「あれでしょ? ジャズバージョンもあるんだよね? ききたいな~、ききたいな~」
優希から聞いていたらしい可奈と美由は、楽しそうにはしゃいだ。
玄関で靴も脱がずに固まってしまった一同に、珀豪が笑って促す。
《せっかくもらった野菜も萎びてしまうぞ。早く上がられよ》
「あっ、そうだったわっ」
《今日は暑いですからね。冷たいレモネードをお作りしましょうか》
「わあっ、エリーちゃんのレモネードだいすき!」
《光栄です。ではすぐに》
そうして、ようやく家に上がって来た。
そこで、調整も終わり、ほっとした高耶が迎え出る。
「お帰りなさい」
これに、春奈は頬を赤らめて答えた。
「あっ、た、ただいま。そのっ、高耶くんっ。さ、さっきのステキだったわっ」
「さっきの……ああ、気に入りましたか? よければ、後で最初から弾きますね」
「本当!? 聞きたいわっ」
本当にピアノが好きなようだ。それに、出掛けて行った時よりも、笑顔も自然で顔色も良い。ぎこちなさのあった体の動きも良くなっていたのだ。
思わず高耶は笑った。
「お出かけ、楽しかったみたいですね」
「え、あっ、ふふっ、そうなのっ。なんで今まで外に出なかったのかしらって、不思議なくらい……私がいつまでもうじうじしてても、あの子は喜ばないのに……気付くのにこんなにも時間がかかるなんて……」
親友を亡くしてから、何もやる気が出なくなった春奈。乗り越えなくてはと思ってはいても、出来ないもどかしさに囚われ、身動き出来なくなっていた。
今日、ようやく踏み出しきれなかった一歩を踏み出したのだ。
「それにね。心配してくださる人たちが居たんだって知れたわ。帰って来るまでに、お野菜沢山貰ってしまったのよ」
「そういえば、スーパーで買うには、量が多かったですね。それに土がついてましたし」
珀豪が持ち歩いているエコバック以外にもビニール袋に入った野菜が沢山あったなと、台所の方へ向かった珀豪達の方を振り返りながら告げる。
「ご近所の方たちが、くださったの。元気なようで良かったって言って……もう十何年も会っていなかったのに……」
「天気も良かったですし、会えて良かったですね」
「本当ねっ」
気候も良かったから、畑仕事に出てきた人たちも多かったのだろう。そうして、外に居た人たちが、賑やかな子ども達と、更に目立つ珀豪やエリーゼが居たことで、目を惹き、春奈の存在が目についたのだ。
「沢山お話しも出来ましたか?」
「ええ。珀豪さんやエリーゼさんもお話し上手だから、みんなで盛り上がってしまってっ」
「お邪魔にならなかったのなら良かったです」
「まあっ、そんなことにはならないわ。ふふふっ」
本当にとても元気になったようで、見ていた克樹も嬉しそうだった。
《春奈さん。お茶にいたしましょう》
「ええ」
そこで、春奈や昊は更に増えていた式神に驚く。
「あっ、果泉と瑪瑙のことを説明してませんでしたね」
《わたし、果泉! えっと、おじゃましてます!》
《メノウです。こんにちは……》
「まあまあっ。こんにちは。春奈です。よろしくね」
はい!
子どもの笑顔には負ける。それも果泉と瑪瑙だ。すぐに溶け込んでいった。
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