271 / 411
第六章 秘伝と知己の集い
271 負けました
しおりを挟む
屋敷に戻った所で、まず高耶は賑やかだなと思った。
この屋敷がこれほど賑やかになるのは初めてだ。瑶迦も大きな声を上げる人でもないし、ここに来る優希は子どもらしくはしゃぐ時もあるが、瑶迦のようなお姫様を目指しているため、それも控えめだった。
「皆さん、もう集まっているんでしょうか……これは……あちらの世界からですよね?」
「ああ……」
その声は、よくよく聞けば、瑶迦が作り出した世界の入り口の方から聞こえる。それが、屋敷の方まで響いてくるとは、どれほどの騒ぎようなのか。
「なんや? まだ開始の時間ではないやろう?」
「そうですねえ。昼過ぎですし、まだ三時間はあります」
食事会は、夕方の四時から。初めてあちらで食事をしたホテルで行うことになっている。そこの大ホールだ。
《お祭りでもあるのかい?》
将也には、美咲に会えるということが重要で、誰が来るかという詳しい説明を受けていなかった。経緯も知らないから呑気なものだ。
「ホテルでやるのに、ここまで声が聞こえるのはおかしいですよ。兄さん、早く行ってみましょう」
「ああ……」
高耶は嫌な予感がしていた。考え込む高耶に気付き、統二がその顔を覗き込んだ。
「どうしたんです?」
「……寿園のやつが珍しく動いていたのが気になってな……何か、やらかしていそうだなと……」
「どういうことが出来るんです?」
「予知、千里眼、透視……視ることに特化しているんだが……」
「すごいですね……」
視るだけのはずだ。だから、大それたことはできないと油断していると、痛い目に合う。
「この前は、藤さんと組んで……服が、全部偶然出先で会った迅さんと同じデザインの服だったんだ……っ」
その時の絶望感は忘れない。二度目でも泣きそうだった。
「それも五回っ……っ」
三回目で、もうないだろうと思った後に、まだ続いたのだ。さすがに心が折れそうになった。
「……兄さん……」
「……高坊……」
「……高耶くん……」
物凄く不憫な子を見る目で見られた。迅が異常なくらい高耶を好いているのは彼らも知っている。きっとエライことになっただろうと同情的だ。
両手で顔を覆い、高耶は弱々しく呟く。
「寿園のやつ……っ、何が気に入らなかったんだ……っ」
「「「……」」」
どれだけ高耶が強くても、精神力をも鍛えていても、寿園には敵わないことが証明された。
同時に、最古の屋敷精霊は、いじめっ子ではないかという疑惑が出てきた。
「絶対にあいつが何かしてる……っ」
「兄さん……すごく、さっきより気迫が……」
「心を強く持つんだっ。今日こそは鋼のメンタルを証明する!」
初めて見る。高耶が自分に言い聞かせている所。
「……兄さんが壊れた……っ」
「「……っ、これもいい」」
統二は心配になり、蓮次郎と焔泉はときめいた。
《頑張るんだぞ~、高耶!》
将也は純粋に、息子を応援していた。
「行くぞっ」
決意し、そこを通過すると、目の前では、野外上映会が行われていた。
「っ!!」
高耶は衝撃にふらついた。慌てて統二が支える。
「っ、兄さんっ」
そこに映っていたのは、紛れもない、先程本家で高耶がやってきたことをまとめた映像だった。編集まで完璧だ。
統二は、高耶を支えながらも、それに目を奪われた。因みに、スクリーンの所だけ闇の力で暗くしているため、はっきりと昼の日差しも関係なく見られている。
「えっと……兄さん……その……っ」
「っ、あ、ああ、すまん……」
あまりの衝撃に、支えてくれていた統二にも気付かなかった高耶が、重かったかと謝る。しかし、統二が気にしたのはそこではない。
「っ、いえっ、僕も見てきていいですかっ」
「……へ?」
「僕もっ、近くで見たいです!!」
「っ……」
興奮気味に、目を煌めかせて、統二はスクリーンを指差す。高耶の目から光が消えていっていることには気づかない。
「っ、あっ、ブラックな兄さんっ、正面からっ! ちょっ、ちょっと行ってきます!!」
「……」
既に、蓮次郎と焔泉は居なかった。将也も紛れ込んでいる。そして、高耶本人を他所に、アイドルを応援するファン達のように、大盛り上がりしていたのだ。
そして、ニヤリと笑う寿園と目が合った。
「……っ、逃げよう」
観客達に見つかったらまずいと、高耶はこの場から逃走した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
この屋敷がこれほど賑やかになるのは初めてだ。瑶迦も大きな声を上げる人でもないし、ここに来る優希は子どもらしくはしゃぐ時もあるが、瑶迦のようなお姫様を目指しているため、それも控えめだった。
「皆さん、もう集まっているんでしょうか……これは……あちらの世界からですよね?」
「ああ……」
その声は、よくよく聞けば、瑶迦が作り出した世界の入り口の方から聞こえる。それが、屋敷の方まで響いてくるとは、どれほどの騒ぎようなのか。
「なんや? まだ開始の時間ではないやろう?」
「そうですねえ。昼過ぎですし、まだ三時間はあります」
食事会は、夕方の四時から。初めてあちらで食事をしたホテルで行うことになっている。そこの大ホールだ。
《お祭りでもあるのかい?》
将也には、美咲に会えるということが重要で、誰が来るかという詳しい説明を受けていなかった。経緯も知らないから呑気なものだ。
「ホテルでやるのに、ここまで声が聞こえるのはおかしいですよ。兄さん、早く行ってみましょう」
「ああ……」
高耶は嫌な予感がしていた。考え込む高耶に気付き、統二がその顔を覗き込んだ。
「どうしたんです?」
「……寿園のやつが珍しく動いていたのが気になってな……何か、やらかしていそうだなと……」
「どういうことが出来るんです?」
「予知、千里眼、透視……視ることに特化しているんだが……」
「すごいですね……」
視るだけのはずだ。だから、大それたことはできないと油断していると、痛い目に合う。
「この前は、藤さんと組んで……服が、全部偶然出先で会った迅さんと同じデザインの服だったんだ……っ」
その時の絶望感は忘れない。二度目でも泣きそうだった。
「それも五回っ……っ」
三回目で、もうないだろうと思った後に、まだ続いたのだ。さすがに心が折れそうになった。
「……兄さん……」
「……高坊……」
「……高耶くん……」
物凄く不憫な子を見る目で見られた。迅が異常なくらい高耶を好いているのは彼らも知っている。きっとエライことになっただろうと同情的だ。
両手で顔を覆い、高耶は弱々しく呟く。
「寿園のやつ……っ、何が気に入らなかったんだ……っ」
「「「……」」」
どれだけ高耶が強くても、精神力をも鍛えていても、寿園には敵わないことが証明された。
同時に、最古の屋敷精霊は、いじめっ子ではないかという疑惑が出てきた。
「絶対にあいつが何かしてる……っ」
「兄さん……すごく、さっきより気迫が……」
「心を強く持つんだっ。今日こそは鋼のメンタルを証明する!」
初めて見る。高耶が自分に言い聞かせている所。
「……兄さんが壊れた……っ」
「「……っ、これもいい」」
統二は心配になり、蓮次郎と焔泉はときめいた。
《頑張るんだぞ~、高耶!》
将也は純粋に、息子を応援していた。
「行くぞっ」
決意し、そこを通過すると、目の前では、野外上映会が行われていた。
「っ!!」
高耶は衝撃にふらついた。慌てて統二が支える。
「っ、兄さんっ」
そこに映っていたのは、紛れもない、先程本家で高耶がやってきたことをまとめた映像だった。編集まで完璧だ。
統二は、高耶を支えながらも、それに目を奪われた。因みに、スクリーンの所だけ闇の力で暗くしているため、はっきりと昼の日差しも関係なく見られている。
「えっと……兄さん……その……っ」
「っ、あ、ああ、すまん……」
あまりの衝撃に、支えてくれていた統二にも気付かなかった高耶が、重かったかと謝る。しかし、統二が気にしたのはそこではない。
「っ、いえっ、僕も見てきていいですかっ」
「……へ?」
「僕もっ、近くで見たいです!!」
「っ……」
興奮気味に、目を煌めかせて、統二はスクリーンを指差す。高耶の目から光が消えていっていることには気づかない。
「っ、あっ、ブラックな兄さんっ、正面からっ! ちょっ、ちょっと行ってきます!!」
「……」
既に、蓮次郎と焔泉は居なかった。将也も紛れ込んでいる。そして、高耶本人を他所に、アイドルを応援するファン達のように、大盛り上がりしていたのだ。
そして、ニヤリと笑う寿園と目が合った。
「……っ、逃げよう」
観客達に見つかったらまずいと、高耶はこの場から逃走した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
124
お気に入りに追加
1,407
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる