秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
271 / 403
第六章 秘伝と知己の集い

271 負けました

しおりを挟む
屋敷に戻った所で、まず高耶は賑やかだなと思った。

この屋敷がこれほど賑やかになるのは初めてだ。瑶迦も大きな声を上げる人でもないし、ここに来る優希は子どもらしくはしゃぐ時もあるが、瑶迦のようなお姫様を目指しているため、それも控えめだった。

「皆さん、もう集まっているんでしょうか……これは……あちらの世界からですよね?」
「ああ……」

その声は、よくよく聞けば、瑶迦が作り出した世界の入り口の方から聞こえる。それが、屋敷の方まで響いてくるとは、どれほどの騒ぎようなのか。

「なんや? まだ開始の時間ではないやろう?」
「そうですねえ。昼過ぎですし、まだ三時間はあります」

食事会は、夕方の四時から。初めてあちらで食事をしたホテルで行うことになっている。そこの大ホールだ。

《お祭りでもあるのかい?》

将也には、美咲に会えるということが重要で、誰が来るかという詳しい説明を受けていなかった。経緯も知らないから呑気なものだ。

「ホテルでやるのに、ここまで声が聞こえるのはおかしいですよ。兄さん、早く行ってみましょう」
「ああ……」

高耶は嫌な予感がしていた。考え込む高耶に気付き、統二がその顔を覗き込んだ。

「どうしたんです?」
「……寿園のやつが珍しく動いていたのが気になってな……何か、やらかしていそうだなと……」
「どういうことが出来るんです?」
「予知、千里眼、透視……視ることに特化しているんだが……」
「すごいですね……」

視るだけのはずだ。だから、大それたことはできないと油断していると、痛い目に合う。

「この前は、藤さんと組んで……服が、全部偶然出先で会った迅さんと同じデザインの服だったんだ……っ」

その時の絶望感は忘れない。二度目でも泣きそうだった。

「それも五回っ……っ」

三回目で、もうないだろうと思った後に、まだ続いたのだ。さすがに心が折れそうになった。

「……兄さん……」
「……高坊……」
「……高耶くん……」

物凄く不憫な子を見る目で見られた。迅が異常なくらい高耶を好いているのは彼らも知っている。きっとエライことになっただろうと同情的だ。

両手で顔を覆い、高耶は弱々しく呟く。

「寿園のやつ……っ、何が気に入らなかったんだ……っ」
「「「……」」」

どれだけ高耶が強くても、精神力をも鍛えていても、寿園には敵わないことが証明された。

同時に、最古の屋敷精霊は、いじめっ子ではないかという疑惑が出てきた。

「絶対にあいつが何かしてる……っ」
「兄さん……すごく、さっきより気迫が……」
「心を強く持つんだっ。今日こそは鋼のメンタルを証明する!」

初めて見る。高耶が自分に言い聞かせている所。

「……兄さんが壊れた……っ」
「「……っ、これもいい」」

統二は心配になり、蓮次郎と焔泉はときめいた。

《頑張るんだぞ~、高耶!》

将也は純粋に、息子を応援していた。

「行くぞっ」

決意し、そこを通過すると、目の前では、野外上映会が行われていた。

「っ!!」

高耶は衝撃にふらついた。慌てて統二が支える。

「っ、兄さんっ」

そこに映っていたのは、紛れもない、先程本家で高耶がやってきたことをまとめた映像だった。編集まで完璧だ。

統二は、高耶を支えながらも、それに目を奪われた。因みに、スクリーンの所だけ闇の力で暗くしているため、はっきりと昼の日差しも関係なく見られている。

「えっと……兄さん……その……っ」
「っ、あ、ああ、すまん……」

あまりの衝撃に、支えてくれていた統二にも気付かなかった高耶が、重かったかと謝る。しかし、統二が気にしたのはそこではない。

「っ、いえっ、僕も見てきていいですかっ」
「……へ?」
「僕もっ、近くで見たいです!!」
「っ……」

興奮気味に、目を煌めかせて、統二はスクリーンを指差す。高耶の目から光が消えていっていることには気づかない。

「っ、あっ、ブラックな兄さんっ、正面からっ! ちょっ、ちょっと行ってきます!!」
「……」

既に、蓮次郎と焔泉は居なかった。将也も紛れ込んでいる。そして、高耶本人を他所に、アイドルを応援するファン達のように、大盛り上がりしていたのだ。

そして、ニヤリと笑う寿園と目が合った。

「……っ、逃げよう」

観客達に見つかったらまずいと、高耶はこの場から逃走した。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

処理中です...