秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
270 / 412
第六章 秘伝と知己の集い

270 寿園

しおりを挟む
高耶が焔泉に場所を譲る。そこで、当主とはどういうものかなど、常識的なことを伝え、更に、このような事態を隠すとはどういうことかと叱った。

その間、高耶は屋敷の前の辺りに結界を張る。稽古するのに良い広さを確保した。

「ん?」
「どうしたの、兄さん」

高耶は何かを感じて顔を上げる。それに統二が声をかけ、高耶が見ている同じ辺りに目を向けた。

「……寿園じゅえんか……」

高耶がそう呟くと、驚いて目を丸くする。

「え? 寿園って……師匠の……」
「ああ。瑶迦さんの所の屋敷精霊だ。どうやら、目を飛ばしていたらしい」
「……気付かなかった……」

統二はキョロキョロと上の方を見回す。そして肩を落とした。その痕跡も見つけられなかったようだ。

強い屋敷精霊は、式にも負けない能力を持っている。場所に縛られる分、その欠点を補える特別な能力を使えるようになる場合があった。ただし、それは何百年と月日を経て手に入れる力だ。

「仕方ないさ。恐らく最古の屋敷精霊だしな」

瑶迦があの場所に住み着く頃から存在するのだ。間違いなく最古の屋敷精霊だろう。

「そうなんですね……見たことないんですけど……姿もあまりはっきりしなくて……どんな方ですか?」
「っ……まさか、挨拶されてないのか!?」
「え、ええ……良くないですか……?」
「はあ……いや、揶揄からかわれてるんだろ……イタズラ好きでな……後で教えてやる」
「それは良いの?」

何か会うのに資格がいるのではないかと、統二は不安なのだろう。だが、そんなことは全くない。

「好きな遊びが『かくれんぼ』なんだよ……それも勝手に始めて、見つけてもらえないと拗ねるんだ……多分、盛大に拗ねてるぞ」
「ええっ!?」

統二としては、紹介されてもいないので分からない。だが、寿園としたら、屋敷に足を踏み入れた時点で既に遊び相手として認識しており、勝手にかくれんぼを始めているのだ。

そして、見つけてくれないと拗ねる。厄介だ。

「寿園は二つの姿を持ってる。犬と子どもだ。オカッパ頭の女の子で……白銀なんだが……」
「……それ……珀豪さんの子どもにしか見えない感じですか……それなら見たことが……」

見覚えがあったらしい。

「声かけないとダメだぞ」
「そうなんですか……」

微妙に面倒臭い。

「ああ……最近は、珀豪がアレな服着るだろ……それを真似しだして……不良少女っぽくなっちまってな……」
「……」

高耶が思わず遠い所を見る。アレはどうかと思うのだ。それまでは、黒髪ではないが、座敷童子っぽいなという見た目だった。そんなにお喋りな子でもないので、交流は少ないが、この間は犬の姿で、首輪にドクロのアクセサリーを付けていた。それもすごく自慢げに。本格的におかしな趣味に走り出していた。

「ま、まあ、戻ったら教えてやる」
「……はい。お願いします……」
「おう」

一緒にがっかりしようと、高耶は心で呟いて頷いた。

「結界もこれでいいだろう。帰るぞ」
「はい」

そこに、勇一が申し訳なさそうな顔で近付いてきた。それを見てふっと笑うと、高耶は彼に告げた。

「勇一、ここは任せる」
「っ、はい!」

弾かれたように顔を上げた勇一は、嬉しそうに返事を返してきた。これなら大丈夫そうだ。

それから高耶は、ふらふらと歩き回っていた将也に声をかける。自分を見て怯える者達を確認して楽しんでいたようだ。

「父さんも行くぞ」
《はいは~い。では、充雪殿。よろしくお願いします》
《任せろっ》

そして、高耶は焔泉や蓮次郎も連れて、瑶迦の屋敷へと戻った。だが、そこで唖然とする。

「……なんだこれ……」

屋敷では、先程までの高耶の行動を記録した映像の上映会が開催されていたのだ。主犯は寿園。銀髪の不良娘が、得意げにニヤリと笑っていた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 547

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...