266 / 412
第六章 秘伝と知己の集い
266 出会えた喜び
しおりを挟む
蓮次郎と焔泉が、思わず身を乗り出して声を上げる。同時に、秘伝家に仕えている者たちも声なき悲鳴を上げていた。
「「危ない!」」
「「「っ!!」」」
そんな警告など気にせず、高耶は目を煌めかせていた。
「おっ。槍術っ、それも斧槍術かっ。大当たりじゃないかっ」
珍しく高耶は子どものようにはしゃぎながら、振り下ろされる攻撃を後ろに飛んで避けていた。そして、その形状を改めて確認したのだ。
それは、ハルバードとも呼ばれるもの。槍の先端に斧のような形の刃もついた西洋の武器の一つだ。
一方、蓮次郎や焔泉達は、気が気ではない。
「っ、なんであんな楽しそうに……っ」
「高坊の実力は知っておるつもりやったが……これは怖いなあ……」
斬られたら終わりの真剣勝負。そんなもの、陰陽師達にはほとんど縁がない。結界で防ぐのではなく、身体能力によって避けるなんて考えないものだ。
「だ、大丈夫そうだけど……」
「ほんに……楽しそうやしなあ……」
二人の心配など、高耶には不要のものだった。今、高耶はこの出会いの幸運に、本気で喜んでいたのだ。
「今の時代じゃ、使い手にまず出会えないと思ってたんだが………っ、ここで出会えるとか奇跡だろっ」
先ずは動きを見ようと、攻撃を全てギリギリを見定めて避ける。その間、高耶の頬は緩みっぱなしだ。
「あの人たちの技じゃないんだ……」
統二が、初めて見る高耶の一面に呆然としながらも思わず呟いたのはそんな言葉。姿もそれに近いのだから、当然父達の持つ技を使ってくると思っていたのだ。
その隣で、もうほとんど処置が終わったらしく、完全に高耶の方の見ものに加わった充雪が説明する。
《奴の中で最も強かった精神の記憶が選ばれるんでな。秘伝の精神の味や質は良くても、強さを見ると……コイツらじゃ劣るんだろ》
充雪は、ポツポツと目覚め出した者たちを振り返って確認する。
《まだまだだな。将也どころか、あいつの小学生の頃よりも鍛え方が足りんわ》
あいつというのは、高耶のこと。小学生の高耶よりも秀一達が弱いと聞き、統二は当然だと自慢げにし、勇一は肩を落とした。
「嫉妬して罠にかけるしかなかったほどですし、最初から負けを認めてる人たちが強いわけないですよね」
《そういうこった》
「……」
勇一は呆っと、たった今目を覚ました状態の父秀一を憐れな人だという目で見つめた。
助けてくれた人が自分達が見殺しにした将也だと知ったら、どうなるか分からない。勇一は静かに秀一の下へ向かった。
一方、高耶は瑶迦から託された刀を抜いて、今度は攻撃を受け止め、いなす。
「ハッ!」
《……》
息を詰める場面であっても、呼吸を必要としない『深淵の風』は、相手にしづらくもある。
予備動作の中には、呼吸の仕方の変化も出るはず。それが読みづらいのだ。だが、そこは多くの種類も様々な技を会得してきた高耶だ。経験からそれを補っていく。
「なるほど……重心の取り方は当然違ってくるよな……」
槍術や薙刀とも取り回し方が違う。攻撃を受け止めることで、力の伝わり方を高耶は正確に読み込んでいった。そして、ある程度まで理解すると、高耶は手にしていた刀に霊力を込める。
「よし、やってみるか」
刀が形を変えていく。相手と同じ得物へと変化していった。それを見た統二や、今や目を覚ましてそれに自然と見入っていた秘伝家の者たちも目を瞠る。
そんな中、蓮次郎と焔泉は、驚きながらも高耶の持つ刀の正体を察していた。
「アレ……実在してたんですね……」
「ほんになあ……もしや、瑶姫かや? 霊力によってその姿を変えるという……幻の霊刀『幻幽刃』……」
「我々『幻幽会』の名の由来になったソレの……実物を見られるなんて……」
かつて、神刀、妖刀など、多くの力ある刀を打ってきた刀匠の一族がいた。その一族が、究極の一振りを作ろうと心血を注いで作り上げたのがこの霊刀だった。
しかし、普通の人が持てば精神が狂い、狂人となる。真に力ある陰陽師達だけが扱えるものだと言われていた。とはいえ、陰陽師が刀を持って戦う場面は少ない。その上、この刀は容赦なく持った者の霊力を吸い取り、力としていく。とても実用に耐えられるものではなかった。
ただし、捨て身で強力な妖や怨霊を退治しようとすれば最強の武器となる。いわば、諸刃の剣と呼ぶべきもの。
使い手を選ぶ神刀や妖刀より、更に使い手を選ぶ刀。やがて、どこぞかに封印され、その名の通り、幻となったのだ。
「あの刀が時代や使い手で姿を変えるように、時や場所、一族によって我々も姿や力を変えて対応する……そして、幻のように在るべきとして、『幻幽会』を名乗ったのでしたよね……」
「実際に見ると……なんや、感慨深いなあ……」
斧槍の形を取ったソレは、鮮やかに高耶によって光の軌跡を作る。
「これが……当主……」
それが誰の口から溢れ出た言葉なのかを認識出来ないほど、この場の誰もが半ば息を止めて、高耶の動きに見惚れていたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「「危ない!」」
「「「っ!!」」」
そんな警告など気にせず、高耶は目を煌めかせていた。
「おっ。槍術っ、それも斧槍術かっ。大当たりじゃないかっ」
珍しく高耶は子どものようにはしゃぎながら、振り下ろされる攻撃を後ろに飛んで避けていた。そして、その形状を改めて確認したのだ。
それは、ハルバードとも呼ばれるもの。槍の先端に斧のような形の刃もついた西洋の武器の一つだ。
一方、蓮次郎や焔泉達は、気が気ではない。
「っ、なんであんな楽しそうに……っ」
「高坊の実力は知っておるつもりやったが……これは怖いなあ……」
斬られたら終わりの真剣勝負。そんなもの、陰陽師達にはほとんど縁がない。結界で防ぐのではなく、身体能力によって避けるなんて考えないものだ。
「だ、大丈夫そうだけど……」
「ほんに……楽しそうやしなあ……」
二人の心配など、高耶には不要のものだった。今、高耶はこの出会いの幸運に、本気で喜んでいたのだ。
「今の時代じゃ、使い手にまず出会えないと思ってたんだが………っ、ここで出会えるとか奇跡だろっ」
先ずは動きを見ようと、攻撃を全てギリギリを見定めて避ける。その間、高耶の頬は緩みっぱなしだ。
「あの人たちの技じゃないんだ……」
統二が、初めて見る高耶の一面に呆然としながらも思わず呟いたのはそんな言葉。姿もそれに近いのだから、当然父達の持つ技を使ってくると思っていたのだ。
その隣で、もうほとんど処置が終わったらしく、完全に高耶の方の見ものに加わった充雪が説明する。
《奴の中で最も強かった精神の記憶が選ばれるんでな。秘伝の精神の味や質は良くても、強さを見ると……コイツらじゃ劣るんだろ》
充雪は、ポツポツと目覚め出した者たちを振り返って確認する。
《まだまだだな。将也どころか、あいつの小学生の頃よりも鍛え方が足りんわ》
あいつというのは、高耶のこと。小学生の高耶よりも秀一達が弱いと聞き、統二は当然だと自慢げにし、勇一は肩を落とした。
「嫉妬して罠にかけるしかなかったほどですし、最初から負けを認めてる人たちが強いわけないですよね」
《そういうこった》
「……」
勇一は呆っと、たった今目を覚ました状態の父秀一を憐れな人だという目で見つめた。
助けてくれた人が自分達が見殺しにした将也だと知ったら、どうなるか分からない。勇一は静かに秀一の下へ向かった。
一方、高耶は瑶迦から託された刀を抜いて、今度は攻撃を受け止め、いなす。
「ハッ!」
《……》
息を詰める場面であっても、呼吸を必要としない『深淵の風』は、相手にしづらくもある。
予備動作の中には、呼吸の仕方の変化も出るはず。それが読みづらいのだ。だが、そこは多くの種類も様々な技を会得してきた高耶だ。経験からそれを補っていく。
「なるほど……重心の取り方は当然違ってくるよな……」
槍術や薙刀とも取り回し方が違う。攻撃を受け止めることで、力の伝わり方を高耶は正確に読み込んでいった。そして、ある程度まで理解すると、高耶は手にしていた刀に霊力を込める。
「よし、やってみるか」
刀が形を変えていく。相手と同じ得物へと変化していった。それを見た統二や、今や目を覚ましてそれに自然と見入っていた秘伝家の者たちも目を瞠る。
そんな中、蓮次郎と焔泉は、驚きながらも高耶の持つ刀の正体を察していた。
「アレ……実在してたんですね……」
「ほんになあ……もしや、瑶姫かや? 霊力によってその姿を変えるという……幻の霊刀『幻幽刃』……」
「我々『幻幽会』の名の由来になったソレの……実物を見られるなんて……」
かつて、神刀、妖刀など、多くの力ある刀を打ってきた刀匠の一族がいた。その一族が、究極の一振りを作ろうと心血を注いで作り上げたのがこの霊刀だった。
しかし、普通の人が持てば精神が狂い、狂人となる。真に力ある陰陽師達だけが扱えるものだと言われていた。とはいえ、陰陽師が刀を持って戦う場面は少ない。その上、この刀は容赦なく持った者の霊力を吸い取り、力としていく。とても実用に耐えられるものではなかった。
ただし、捨て身で強力な妖や怨霊を退治しようとすれば最強の武器となる。いわば、諸刃の剣と呼ぶべきもの。
使い手を選ぶ神刀や妖刀より、更に使い手を選ぶ刀。やがて、どこぞかに封印され、その名の通り、幻となったのだ。
「あの刀が時代や使い手で姿を変えるように、時や場所、一族によって我々も姿や力を変えて対応する……そして、幻のように在るべきとして、『幻幽会』を名乗ったのでしたよね……」
「実際に見ると……なんや、感慨深いなあ……」
斧槍の形を取ったソレは、鮮やかに高耶によって光の軌跡を作る。
「これが……当主……」
それが誰の口から溢れ出た言葉なのかを認識出来ないほど、この場の誰もが半ば息を止めて、高耶の動きに見惚れていたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
149
お気に入りに追加
1,425
あなたにおすすめの小説
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる