秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

262 覚悟してました

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勇一は異変を確認してすぐ、他の者たちに言われて、仕事を先に切り上げると、その場に急いだ。

場所は式の居る場所として分かるので、困ることはない。

その道場を管理する家の者たちは、突然の勇一の来訪に驚く。

「っ、次期様っ……あ、当代様ならば道場に……」

高耶ではなく自分が正当な当主だと言ってはばからない父、秀一は『当代様』と呼ばれ、勇一は次期じき当主であるとして『次期様』と呼ばれる。

今思えば、『当主』と呼ばれない、呼ばせないことこそ、自身が当主ではないと認めているようなもの。とても滑稽こっけいだ。

そんな内心の自嘲じちょうを隠しながら、勇一は声を張り上げた。

「道場の方で異変が起きている! 手を貸してくれ!」
「え、あ、はい!  あなた方も行きますよ。他にも何人か呼んでくるように」
「「「「「はい!」」」」」

近くに居た者たちも連れ立って、勇一を先頭に道場へ駆ける。

道場を覗くと、式神の目で見た通り、中に居た十数人の男たちが倒れ伏していた。

「これはっ!? あ、旦那様っ」

この家の代表に駆け寄っていくのを見ながら、勇一は周りを慎重に確認する。式神は、この家の周りを上空から見回している。あの時に見た黒い何かがどこに行ったのか分からない。また戻って来ないとも限らないための見回りだ。

道場の中も確認し、倒れ伏している秀一の元へ向かった。

「父上」
「っ……」

弱々しく、目が薄く開けられた。だが、どうやら体に力が入らないようだ。起き上がれないようだった。

「何があったのですか」
「……っ、……からん……、つぜん……暗く……っ、力………っ」

耳を傾け、聞いたところによると、秀一にもわからないようだ。突然視界が暗くなったかと思うと、一気に体が冷え、力が抜けたらしい。そのまま気絶したのだろう。

「っ、すぐに病院へ……っ」
「っ、めだ!」
「……なぜ、ダメなのです……この状態では……」
「監視がっ……バレ……っ」
「っ……」

勇一も分かっていた。前の自分ならば、同じように考えたはずだ。この状態で病院に行けば、連盟も知ることとなり、正式な当主である高耶に何をしていたのかバレてしまう。

それはとてもみっともなく、本家直系としては許せないことだ。特にプライドの高い秀一は絶対に許せないだろう。

「っ、眠れば……問題ない……」

これに、勇一は頷いてしまった。高耶を呼んだとしても、秀一やそのシンパであるこの場の者たちは、高耶へ失礼な態度を取るだろう。

助けようとした所で、余計なことはするなと突っぱねる様が、目に浮かんだ。

「分かりました……ですが、どうなるか分かりません……他の者たちはこの場か、本家へ」
「「「「「はい!」」」」」

本家へ移動することが決まった。合宿なども行うことがあるため、大型のバンなど出すことができる。それに乗せて、全員を本家へと移動させた。

それから五日ほどが経った。

侍医も本家には居るので、見てもらったが、何かの影響を受けており、精神的な力が削られているのではないかとの見立てだった。

秀一をはじめ、あれから誰も目を覚さない。衰弱の仕方も酷くなってきており、かなりギリギリの者もいる。

何とかできるのは、恐らく高耶だけだ。それが勇一には分かった。けれど、秀一や本家に従う者たちは、高耶の実父を死に追いやった過去がある。助けなど求められない。

統二にも連絡をしている。いつ死んでもおかしくない状況なのだ。

いよいよ危ない者が出てきた。そこで統二に再び連絡を入れた。

自分は何もできない。弟にも見捨てられている。それが、とても惨めだった。けれどこれは、自分達の行ってきたものの結果だ。受け入れるしかない。

秀一の側に座り、衰弱したその顔を見つめる。

「……これは、報いです……せめて、向こうでは……素直に謝ってください」

高耶の実父、将也にきちんと謝ってほしい。決して非を認めず、未だ高耶に頭を下げなかった秀一。せめて死んだなら、きちんと反省してほしいと願った。

そこに統二と高耶が来たのだ。

「この人は死んでもダメだと思う」
「統二……はあ、まったく、こういうことは報告しろ」
「っ……」

冷たい統二の言葉と、呆れたようなため息を吐く高耶の声に、勇一は泣きそうになりながら振り返る。

高耶の態度から、助かるのだとわかったのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
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