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第六章 秘伝と知己の集い
256 良い先生達です
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校長室に、各学年の代表の教師達が集まった。
「あ、あの。はじめまして。幸花さんの担任の三輪と申します。今回は、無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございますっ」
それは、一年生の担任らしい、元気な女の先生だった。年は三十頃だろうか。新任という感じではないように思える。
次に、同じ年頃の女性が立ち上がって挨拶をする。
「音楽を担当しています。杉です。すみません。父兄の方の手をお借りすることになるなんて……」
彼女は申し訳なさそうに、何度も頭を下げる。それに苦笑しながら、高耶は答えた。
「いえ。高耶と申します。可能な限り、協力させていただきます」
「はい! お願いします!」
「ありがとうございます……」
細かい打ち合わせに入る。それぞれの学年で楽譜を渡された。
「低学年は短いですが、曲数が多いのです。あと、高学年の方は、かなり難しくて……」
音楽教師の杉は、ずっと申し訳なさそうだ。そして、他の学年の教師達も苦笑する。
「我々は曲の難度など分かりませんから、演目を決めてから、まずいことに気付きました」
「いやあ、それに何より、今時はピアノを習っている子どもも少ないようで、いざピアノが弾ける人はと聞いたらほとんど手が上がらなくて」
「一年で辞めたという子が多いようです。ドレミだけ何とか読めるという程度で辞めたみたいですね」
学芸会は二年に一度。よって、二年前はピアノを出来ていたという子に声をかけたら、もうやってないから出来ないという回答が来てびっくりしたらしい。
時島先生の教え子で、校長とも顔見知りということを知られていることもあり、教師達は和やかに話を続ける。
たまに全くの部外者である俊哉が口を挟んでも問題に思う者はいない。
「なんか、音楽教室も、月謝がすげえ高くなったとか聞いたし、習わせるのも考えるよな~。今は、習い事が色々あるし」
「そうなんだよ。前は、そろばん、習字、ピアノってセットだったのにね」
「私の頃でもそうでしたよ。今は、ダンスとか、スポーツ系ですよね」
「それもすぐに辞めるし? 子ども達が何かを達成するっていう感覚も掴まないまま、次に行ってる感じがあるよ。反応悪い時多いし」
「それは、先生がたまに親父ギャグを打っ込むからでしょ」
「ははっ。それ言う?」
教師達も仲の良い学校のようだ。以前は湯木だけが不和を招いていたというのは、後で聞く。
「できれば、今回のピアノを弾いてくれる子達だけは、きちんと本番を迎えて、達成感を味わってほしいよね。もちろん、他の生徒達も、本番の緊張感を味わって、きちんと満足できるものにしてほしいね……」
「せめて学校では、そういうものも教えられる場所でありたいよ」
ここの教師達は、子ども達のことをよく考えてくれる良い人達のようだ。こういう人達の力にはなりたいと思う。
「でしたら、せっかくですし、もう一度、生徒達に聞いてみてくれませんか? 遠慮している子もいると思うんです。それこそ、去年までやっていたけど、という子や、やりたいけど自分では弾けないかもと思っている子が」
そう提案した理由は、もちろん、子ども達のことを考える先生達に触発されてということもあるが、未だ少し不安定なここの土地神に、守護する子ども達によって演奏されるものを聞かせたいと思ったからだ。
これに杉が反応する。
「あっ、確かにそうです。それに、最近のピアノ教室では、月に一回とか二回の所もあるらしくて……それであまり自分の力も把握できていない子もいるんじゃないかと」
他の習い事との兼ね合いを考えれば良いのかもしれないが、練習時間も少なくなるし、曲の進みも遅くなり、途中でもう次の曲ということもあるようだ。
メリハリがつかないから、成長速度も遅くなるし、実力も充分に発揮されない。
「発表会があると、難しい曲でも頑張れたりしますから、案外出来る子はまだいると思います。もちろん、体調が当日悪くなったりもするでしょうから、録音は行って、よければ少し、曲も簡単にしましょう」
「えっ、お兄さん、編曲も出来るんですか!? 音大生?」
なぜか、杉がすごく驚いていた。
「いえ、普通の大学生ですよ。ピアノは……ご存じでしょうか……もう亡くなられましたが、ピアニストの霧矢賢さんに、数年ですが師事していました」
「えっ、霧矢賢って、霧矢修さんのお父様のっ。私、霧矢修さんの大ファンなんです!」
「そうでしたか」
彼女は、ピアノ専攻ではないらしく、専ら、ピアノは聴く方だったようだ。
「私、専攻はクラリネットなんです……楽器の楽譜をピアノ用に移調とかはできるんですけど……簡単にするとか、編曲まではできなくて……」
そういう考えも頭になかったようだ。ここで、校長の那津が得意げに笑った。
「うふふ。彼はすごいんですよ。学校の校歌をクラッシック風にアレンジして弾いたり、素敵に弾いてくれたことがあるんです」
「校歌を……聞いてみたいです……」
「では、機会がありましたら」
「はいっ」
一週間後に、再び一部の子ども達も交えて顔を合わせるということになり、この日は解散した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今年もよろしくお願いします!
「あ、あの。はじめまして。幸花さんの担任の三輪と申します。今回は、無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございますっ」
それは、一年生の担任らしい、元気な女の先生だった。年は三十頃だろうか。新任という感じではないように思える。
次に、同じ年頃の女性が立ち上がって挨拶をする。
「音楽を担当しています。杉です。すみません。父兄の方の手をお借りすることになるなんて……」
彼女は申し訳なさそうに、何度も頭を下げる。それに苦笑しながら、高耶は答えた。
「いえ。高耶と申します。可能な限り、協力させていただきます」
「はい! お願いします!」
「ありがとうございます……」
細かい打ち合わせに入る。それぞれの学年で楽譜を渡された。
「低学年は短いですが、曲数が多いのです。あと、高学年の方は、かなり難しくて……」
音楽教師の杉は、ずっと申し訳なさそうだ。そして、他の学年の教師達も苦笑する。
「我々は曲の難度など分かりませんから、演目を決めてから、まずいことに気付きました」
「いやあ、それに何より、今時はピアノを習っている子どもも少ないようで、いざピアノが弾ける人はと聞いたらほとんど手が上がらなくて」
「一年で辞めたという子が多いようです。ドレミだけ何とか読めるという程度で辞めたみたいですね」
学芸会は二年に一度。よって、二年前はピアノを出来ていたという子に声をかけたら、もうやってないから出来ないという回答が来てびっくりしたらしい。
時島先生の教え子で、校長とも顔見知りということを知られていることもあり、教師達は和やかに話を続ける。
たまに全くの部外者である俊哉が口を挟んでも問題に思う者はいない。
「なんか、音楽教室も、月謝がすげえ高くなったとか聞いたし、習わせるのも考えるよな~。今は、習い事が色々あるし」
「そうなんだよ。前は、そろばん、習字、ピアノってセットだったのにね」
「私の頃でもそうでしたよ。今は、ダンスとか、スポーツ系ですよね」
「それもすぐに辞めるし? 子ども達が何かを達成するっていう感覚も掴まないまま、次に行ってる感じがあるよ。反応悪い時多いし」
「それは、先生がたまに親父ギャグを打っ込むからでしょ」
「ははっ。それ言う?」
教師達も仲の良い学校のようだ。以前は湯木だけが不和を招いていたというのは、後で聞く。
「できれば、今回のピアノを弾いてくれる子達だけは、きちんと本番を迎えて、達成感を味わってほしいよね。もちろん、他の生徒達も、本番の緊張感を味わって、きちんと満足できるものにしてほしいね……」
「せめて学校では、そういうものも教えられる場所でありたいよ」
ここの教師達は、子ども達のことをよく考えてくれる良い人達のようだ。こういう人達の力にはなりたいと思う。
「でしたら、せっかくですし、もう一度、生徒達に聞いてみてくれませんか? 遠慮している子もいると思うんです。それこそ、去年までやっていたけど、という子や、やりたいけど自分では弾けないかもと思っている子が」
そう提案した理由は、もちろん、子ども達のことを考える先生達に触発されてということもあるが、未だ少し不安定なここの土地神に、守護する子ども達によって演奏されるものを聞かせたいと思ったからだ。
これに杉が反応する。
「あっ、確かにそうです。それに、最近のピアノ教室では、月に一回とか二回の所もあるらしくて……それであまり自分の力も把握できていない子もいるんじゃないかと」
他の習い事との兼ね合いを考えれば良いのかもしれないが、練習時間も少なくなるし、曲の進みも遅くなり、途中でもう次の曲ということもあるようだ。
メリハリがつかないから、成長速度も遅くなるし、実力も充分に発揮されない。
「発表会があると、難しい曲でも頑張れたりしますから、案外出来る子はまだいると思います。もちろん、体調が当日悪くなったりもするでしょうから、録音は行って、よければ少し、曲も簡単にしましょう」
「えっ、お兄さん、編曲も出来るんですか!? 音大生?」
なぜか、杉がすごく驚いていた。
「いえ、普通の大学生ですよ。ピアノは……ご存じでしょうか……もう亡くなられましたが、ピアニストの霧矢賢さんに、数年ですが師事していました」
「えっ、霧矢賢って、霧矢修さんのお父様のっ。私、霧矢修さんの大ファンなんです!」
「そうでしたか」
彼女は、ピアノ専攻ではないらしく、専ら、ピアノは聴く方だったようだ。
「私、専攻はクラリネットなんです……楽器の楽譜をピアノ用に移調とかはできるんですけど……簡単にするとか、編曲まではできなくて……」
そういう考えも頭になかったようだ。ここで、校長の那津が得意げに笑った。
「うふふ。彼はすごいんですよ。学校の校歌をクラッシック風にアレンジして弾いたり、素敵に弾いてくれたことがあるんです」
「校歌を……聞いてみたいです……」
「では、機会がありましたら」
「はいっ」
一週間後に、再び一部の子ども達も交えて顔を合わせるということになり、この日は解散した。
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