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第六章 秘伝と知己の集い
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統二は、元気に挨拶をする。
「おはようございますっ。遅くなりました」
「おはよう、統二くん。珍しいわねえ。宿題多かったの?」
統二は、本家から離れ、瑶迦の所で暮らしている。体を使うより、才能のある術の方を極めたい統二にとっては、瑶迦は得難い師だった。進学校に通う統二は、勉強も大変だろう。宿題も多い。だが、無理なくきちんとこなしているようだ。
「いえ。文化祭の用意で、準備しなくてはならないものを忘れていて。さっきまで作ってました」
「あら。何するの?」
「クラスでは、カフェなのでまだ大丈夫なんですけど、生徒会で、ファッションショーをすることになっていて、服のデザインを二つ頼まれてたんです」
「えっ。デザイン?」
「あ、採用するかはまだです。クラスで五人ずつ、案を出すようにということで、そこから選ぶそうですから」
統二の通う学校は、進学校として有名だ。ただ、勉強、勉強と追い立てられる校風ではなく、芸術系に力を入れているらしい。よって、クラスの一割は確実に芸術系の大学に入るという。更には、モデルや演劇など、芸能関係に進む者も何名か出る。
そんな特色もあり、生徒会としての文化祭の催しの一つがファッションショーなのだそうだ。やるならば半端な事は許されない。それが学校の方針だった。
「柊さんと松さんが協力してくれたんですけど、夢中になってしまって……」
「あの二人ならありそうだねえ。高耶くんも、ほぼ毎回ダメ出しされてるしね」
「……あの二人……ファッション誌での勉強を欠かさないので……」
「自作ですしね」
「えっ。あ、そうだったっけ!」
樹が目を丸くする。そう。瑶迦の屋敷にある高耶用の服は、藤や柊、松の手作りだ。素材から作った、完全なハンドメイドだった。
「お兄ちゃん、オタクルックじゃなければ、かっこいいもんねっ」
「……誰だ。オタクルックって教えたやつ……」
髪も野暮ったくセットし、目立たない服を着て、リュックを背負えば、立派なステルスモードだ。大学ではこれで通している。
しかし、その姿のまま優希を迎えに行くと、やり直しと言われる。その日は不機嫌になるので、注意が必要だ。今日も気を付けようと心に決める。お嬢様のご機嫌取りは大変なのだから。
「それで、兄さん……その……もしかしてなんですけど……一般モデルを頼んだら……受けてもらえますか?」
「ん? モデル? それは学祭の?」
「はい。学生モデルと一般でスカウトした人にモデルを頼むものがあるんです……」
学生ではないので、当然、限られた時間を上手く使って仕上げていかなくてはならない。そういった、計画性を学ぶためらしい。
同時に、服飾系の企業や店から協賛を取る。過去には、デザインを採用されたこともあるという。一般モデルも正式に協賛企業にスカウトされる者もあったとか。
「最近は、そのスカウトを狙って、良くない人も近付いてくるみたいで……伝統だし、止めるというところまでの問題もないので、今年も例年通り行うってことになったんですけど……出来れば、身内に近い人をというのが第一目標になりました」
「それで俺……?」
「あっ、まだ決定じゃないです。候補ってことで……ダメでしょうか」
少し面倒だなと思ってしまう。その時、優希が腕に掴みかかった。
「お兄ちゃん! ぜったいやるべき! モデルのお兄ちゃん、見たい!」
「……」
「あ、優希ちゃんも、候補に入れてもいい? その場合は、兄さんと一緒になんだけど」
「っ、ゆうきも!? いいよ!! お兄ちゃんとやる!!」
「ゆ、優希……」
ものすごい食い付き具合だ。高耶は圧倒された。これは、断れない。
「……優希がやるなら……分かった……」
「ありがとうございます! 大丈夫です。まだ候補ですから!」
「ああ……」
わざわざ言われると、避けられなくなりそうだと思うのは、勘が働いているからだろうかと、高耶は嫌な予感に、ため息を吐いた。
朝食を終え、高耶は父母と統二、優希を見送ってから、のんびりと大学へ向かう。その途中、安倍焔泉からメールが来た。
「……はあ……じいさん。瑶迦さんに、伝言頼む……」
《お? ほお。あの嬢ちゃんとレンちゃんも参加か。まあ、頑張れ。そんじゃな》
「……」
週末の食事会に、焔泉と蓮次郎が参加するとのメールだった。神子である優希のことも気になっているのだろう。これは仕方ないと諦めるほかなかった。
そこに追加で焔泉の占いメールが届く。
「……」
メールにはこうあった。
『集いを避けるべからず
いくつもの集いが約束され、いくつもの繋がりが生まれる。それを断ち切らんとするモノを憎まず、正しく導く必要があるだろう』
珍しく長い。いつもならば最初の一行のみで、不安に駆られる高耶を楽しんでいるのではないかと考えられる。だが、今回は注釈ありだ。逆に怖い。
「……なんでだ……」
今のところ、その『集い』に関するのは、週末の食事会だけ。
更に気が重くなった。そのまま大学に向かうと、俊哉がいつも通り、明るく声をかけて来た。そして、集いが追加された。
「高耶~。前に言ってた、時島先生との同窓会。やるぞ~」
「……」
これかなと察し、少し気が遠くなった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「おはようございますっ。遅くなりました」
「おはよう、統二くん。珍しいわねえ。宿題多かったの?」
統二は、本家から離れ、瑶迦の所で暮らしている。体を使うより、才能のある術の方を極めたい統二にとっては、瑶迦は得難い師だった。進学校に通う統二は、勉強も大変だろう。宿題も多い。だが、無理なくきちんとこなしているようだ。
「いえ。文化祭の用意で、準備しなくてはならないものを忘れていて。さっきまで作ってました」
「あら。何するの?」
「クラスでは、カフェなのでまだ大丈夫なんですけど、生徒会で、ファッションショーをすることになっていて、服のデザインを二つ頼まれてたんです」
「えっ。デザイン?」
「あ、採用するかはまだです。クラスで五人ずつ、案を出すようにということで、そこから選ぶそうですから」
統二の通う学校は、進学校として有名だ。ただ、勉強、勉強と追い立てられる校風ではなく、芸術系に力を入れているらしい。よって、クラスの一割は確実に芸術系の大学に入るという。更には、モデルや演劇など、芸能関係に進む者も何名か出る。
そんな特色もあり、生徒会としての文化祭の催しの一つがファッションショーなのだそうだ。やるならば半端な事は許されない。それが学校の方針だった。
「柊さんと松さんが協力してくれたんですけど、夢中になってしまって……」
「あの二人ならありそうだねえ。高耶くんも、ほぼ毎回ダメ出しされてるしね」
「……あの二人……ファッション誌での勉強を欠かさないので……」
「自作ですしね」
「えっ。あ、そうだったっけ!」
樹が目を丸くする。そう。瑶迦の屋敷にある高耶用の服は、藤や柊、松の手作りだ。素材から作った、完全なハンドメイドだった。
「お兄ちゃん、オタクルックじゃなければ、かっこいいもんねっ」
「……誰だ。オタクルックって教えたやつ……」
髪も野暮ったくセットし、目立たない服を着て、リュックを背負えば、立派なステルスモードだ。大学ではこれで通している。
しかし、その姿のまま優希を迎えに行くと、やり直しと言われる。その日は不機嫌になるので、注意が必要だ。今日も気を付けようと心に決める。お嬢様のご機嫌取りは大変なのだから。
「それで、兄さん……その……もしかしてなんですけど……一般モデルを頼んだら……受けてもらえますか?」
「ん? モデル? それは学祭の?」
「はい。学生モデルと一般でスカウトした人にモデルを頼むものがあるんです……」
学生ではないので、当然、限られた時間を上手く使って仕上げていかなくてはならない。そういった、計画性を学ぶためらしい。
同時に、服飾系の企業や店から協賛を取る。過去には、デザインを採用されたこともあるという。一般モデルも正式に協賛企業にスカウトされる者もあったとか。
「最近は、そのスカウトを狙って、良くない人も近付いてくるみたいで……伝統だし、止めるというところまでの問題もないので、今年も例年通り行うってことになったんですけど……出来れば、身内に近い人をというのが第一目標になりました」
「それで俺……?」
「あっ、まだ決定じゃないです。候補ってことで……ダメでしょうか」
少し面倒だなと思ってしまう。その時、優希が腕に掴みかかった。
「お兄ちゃん! ぜったいやるべき! モデルのお兄ちゃん、見たい!」
「……」
「あ、優希ちゃんも、候補に入れてもいい? その場合は、兄さんと一緒になんだけど」
「っ、ゆうきも!? いいよ!! お兄ちゃんとやる!!」
「ゆ、優希……」
ものすごい食い付き具合だ。高耶は圧倒された。これは、断れない。
「……優希がやるなら……分かった……」
「ありがとうございます! 大丈夫です。まだ候補ですから!」
「ああ……」
わざわざ言われると、避けられなくなりそうだと思うのは、勘が働いているからだろうかと、高耶は嫌な予感に、ため息を吐いた。
朝食を終え、高耶は父母と統二、優希を見送ってから、のんびりと大学へ向かう。その途中、安倍焔泉からメールが来た。
「……はあ……じいさん。瑶迦さんに、伝言頼む……」
《お? ほお。あの嬢ちゃんとレンちゃんも参加か。まあ、頑張れ。そんじゃな》
「……」
週末の食事会に、焔泉と蓮次郎が参加するとのメールだった。神子である優希のことも気になっているのだろう。これは仕方ないと諦めるほかなかった。
そこに追加で焔泉の占いメールが届く。
「……」
メールにはこうあった。
『集いを避けるべからず
いくつもの集いが約束され、いくつもの繋がりが生まれる。それを断ち切らんとするモノを憎まず、正しく導く必要があるだろう』
珍しく長い。いつもならば最初の一行のみで、不安に駆られる高耶を楽しんでいるのではないかと考えられる。だが、今回は注釈ありだ。逆に怖い。
「……なんでだ……」
今のところ、その『集い』に関するのは、週末の食事会だけ。
更に気が重くなった。そのまま大学に向かうと、俊哉がいつも通り、明るく声をかけて来た。そして、集いが追加された。
「高耶~。前に言ってた、時島先生との同窓会。やるぞ~」
「……」
これかなと察し、少し気が遠くなった。
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