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第五章 秘伝と天使と悪魔
249 神聖なものになりました
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高耶は、目線を合わせるように身を屈めると、目の前に現れた存在へ、最初の声をかける。
「誕生おめでとう……君の名は……【瑪瑙】だ」
《っ、メノウ……めのう……瑪瑙っ、ボクは【瑪瑙】! あるっ、あるじさま、ありがとう》
喜びに頬をほんのり赤く染め、紫がかった黒い瞳を輝かせながら、ばさりと大きく黒い翼を羽ばたかせる。すると、その翼は銀の光を散らした。
それは、存在が固定された瞬間だった。
無事に一個体として定着したなと高耶はほっとしながら、そわそわしている玻璃と瑠璃に声をかけた。
「瑪瑙は、玻璃と瑠璃の弟だな」
《ボク、おとうと……弟?》
弟って何となっている。そうして首を傾げる姿も可愛らしい。三歳頃の幼い容姿と声音だけでも周りが魅力されまくっているのだ。そこにその仕草は反則だった。
「っ、カワイイ! カワイイ!!」
「これはすごい。天使? 小悪魔ちゃん? どっちもありだな!」
「いやいや。ありか、なしかじゃなく、実際両方だからね。けど、確かにアレは可愛いね」
キルティスとイスティアが興奮気味なのに対し、エルラントは冷静に答えているが、それでもしっかり本音が出ている。
それを聞きながら、高耶は玻璃と瑠璃を手招きながら小さな声で続けた。
「玻璃ね……いや、玻璃姉様と瑠璃姉様と呼んでやってくれるか?」
《ねぇさま……ねえさま……?》
「そうだ。ほら」
頭をひと撫でし、瑪瑙の背中へ手を当てて、ゆっくりと歩み寄ってきた玻璃と瑠璃へ向き合わせる。
玻璃は一度高耶に目をやり、胸元で手を組む。良いのかと迷う様子を見せる玻璃に頷けば、嬉しそうに笑って瑪瑙の前に立った。
《弟……私の弟。瑪瑙……よろしく……ね》
《よろしくおねがいします。えっと……玻璃ねえさま……?》
《っ、ね、姉様……うん。うん、私、玻璃姉様よ……っ》
感極まって涙ぐみながら、玻璃は瑪瑙に手を伸ばす。そして、そのまま抱き締めた。こうして彼女が行動に移すのは珍しい。余程嬉しいのだろう。
そんな二人の様子に、瑠璃は悶えていた。
《可愛いっ……どう、どうしましょうっ……わたくしの妹と弟がっ……かわっ、可愛い過ぎますっっっっ!》
瑠璃はあまり顔に出ないから良いものの、かなりいっぱいいっぱいのようだ。
「……はあ……まあ、なんとかなったな……」
そのでようやく、高耶も肩の力を抜いた。
鎧はもう、ただの鎧になっており、残滓も何も残っていない。それを確認していると、イスティア達が近付いてくる。
「綺麗に取ったもんだなあ。ここまで綺麗にされると、逆に神聖というか……」
これに同意したのは、天使と悪魔のクティだ。
《そうですわね。我々天使にとっても、なんだか畏れ多いというのかしら……近寄り難いですわ》
《本当にね。私たち悪魔も触りたくないかな。下位の者は、触ったらそのまま消えそうだ。一体、どうやったんだい?》
高耶は、少しでも存在の足しになればと、鎧に残されていた天使や悪魔の残滓を掬い取って、注ぎ込んだ。
「鎧自体が、長年悪魔や天使の力を帯びていたことで、霊力をよく通すようになっているようでしたので、浮かせて弾くみたいな……」
《そんな……掃除みたいに……》
《……》
こんな主夫の知恵的な考え方になったのは、頭の端に、まさに、掃除というか、こべりついた鍋を楽しそうに洗って磨く珀豪が出てきたからだったのだが、そこは黙っておく。
昨日の晩、通販で買った洗剤の威力に感動していた珀豪に付き合ったのは良かったのか悪かったのか。ここは良かったとしておこうと判決を下す。
鎧をマジマジと見て確認していたキルティスが、思わずというように声を上げた。
「うわ~、ちょっと高耶ちゃん。あなたの霊力、いよいよヤバいわよ? 神気が混じってきてるわ。もしかして、加護を結構貰ってる?」
「え、あ~……そうですね。なるほど……少し前から感じてた違和感はそれか……」
「高耶ちゃん……普通はここまで加護が強くなってると、力が安定しなくなって、違和感どころじゃなくなるんだけど?」
神気など、神でなければ扱えない代物だ。だから、加護を得た者は、それが体に馴染むまで力が安定しなくなる。大前提として、その馴染むことも、霊力として変換されるということだ。神気のままというのは、まずない。人が扱えないのだから当然だ。
しかし、高耶の場合は違った。
「え? 安定というか……なんだか扱いやすくなった気がしていたんですけど……」
「……」
「……」
「……」
キルティス、イスティア、エルラントも絶句した。この三人が言葉を失くすというのは、普通じゃないという証拠だ。
これの答えをくれたのは、瑪瑙を抱き締め、そのまま瑠璃に抱き締められていた玻璃だった。
《高耶兄さまは……珀兄さま達と契約してる……珀兄さま達も、神格がある……だから……高耶兄さまが神格を持っててもおかしく……ない》
「あ、そっか、そうじゃん。あっちじゃ精霊王だし、それを一体じゃなく、四……じゃない、六体契約してるもんなあ。それに、雪くんもいるし?」
「確かにそうね。でも、これだとますます、土地神にならないように気を付けないとダメよ?」
「はい……」
マズイ気はひしひしと感じていたので、気を付けていたが、一層、気を付けないといけなさそうだ。
「ん? なら、その鎧は、神気を帯びているということかな?」
エルラントがキルティスに確認する。
「ええ。とっても神聖な遺物になったわね♪ 邪なモノを避け、天使も敬意を払う……下手な結界より確実よ♪」
「欲しいなそれ! これ、今どういう扱いになってんだ? どいつと交渉すればいい? いくらでも払うぞ」
「う~ん。これを家に置いておけば、娘達も少しは居着くかな?」
「寧ろ、離れなくならない? 高耶ちゃんの気配するっ! って」
「それはそれで困るねえ」
鎧の購入を考え出す一同。これはもう、終わったということで良いだろうか。
高耶は一歩下がった。そして、天使達とクティに声をかける。
「これ、もう解決ですよね? 瑪瑙は任せてくださって大丈夫なので」
《あ~、そうだね。帰ろうかな。あの霊穴の向こう側は閉じておくよ》
《わたくしたちも、戻りますわ。またお会いしましょうね》
「機会がありましたら」
そうして、別れようとしたのだが、そこでレスターと蓮次郎から待ったがかかった。
「ちょっとお待ちを!」
「一つお願いしたいことがあるんだけど」
《私たちに?》
《何かしら?》
「そのっ……あなた方のような上位の存在に出会う機会はまずありません。ですので……どうか、アレらに少しだけお力を見せていただきたく……」
レスターは汗を拭きながら、そう告げる。クティと天使は顔を見合わせ、どういうことかと考える。しかし、すぐに蓮次郎が補足した。
「若いあの辺の子達が、高耶くんを下に見てバカにするんですよ。力の差……分からせたいな~と」
《高耶くんを……なるほど……》
《そういうことですの……わかりましたわ》
「く、クティ……ちょっ……っ」
クティと天使の雰囲気が変わった。それと同時に、聴こえていたらしいキルティス達の気配も変わった。
「へえ……高耶ちゃんを下にね~」
「ふっふっふっ、これだからガキは……」
「死ななければいいかな?」
これはマズイと、高耶は素早く対策に入る。
「は、玻璃、瑠璃っ、命だけは助けてやってくれっ」
《ん……仕方ないです……》
《直前で構いませんわね?》
何の直前かなどと、聞く暇はなかった。結界が唐突に消えたのだ。
その後、若い祓魔師達が、涙と鼻水などでぐちゃぐちゃになった顔を呆然と上げたまま座り込む様を、同情しながら見ることになったのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
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《っ、メノウ……めのう……瑪瑙っ、ボクは【瑪瑙】! あるっ、あるじさま、ありがとう》
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それは、存在が固定された瞬間だった。
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「瑪瑙は、玻璃と瑠璃の弟だな」
《ボク、おとうと……弟?》
弟って何となっている。そうして首を傾げる姿も可愛らしい。三歳頃の幼い容姿と声音だけでも周りが魅力されまくっているのだ。そこにその仕草は反則だった。
「っ、カワイイ! カワイイ!!」
「これはすごい。天使? 小悪魔ちゃん? どっちもありだな!」
「いやいや。ありか、なしかじゃなく、実際両方だからね。けど、確かにアレは可愛いね」
キルティスとイスティアが興奮気味なのに対し、エルラントは冷静に答えているが、それでもしっかり本音が出ている。
それを聞きながら、高耶は玻璃と瑠璃を手招きながら小さな声で続けた。
「玻璃ね……いや、玻璃姉様と瑠璃姉様と呼んでやってくれるか?」
《ねぇさま……ねえさま……?》
「そうだ。ほら」
頭をひと撫でし、瑪瑙の背中へ手を当てて、ゆっくりと歩み寄ってきた玻璃と瑠璃へ向き合わせる。
玻璃は一度高耶に目をやり、胸元で手を組む。良いのかと迷う様子を見せる玻璃に頷けば、嬉しそうに笑って瑪瑙の前に立った。
《弟……私の弟。瑪瑙……よろしく……ね》
《よろしくおねがいします。えっと……玻璃ねえさま……?》
《っ、ね、姉様……うん。うん、私、玻璃姉様よ……っ》
感極まって涙ぐみながら、玻璃は瑪瑙に手を伸ばす。そして、そのまま抱き締めた。こうして彼女が行動に移すのは珍しい。余程嬉しいのだろう。
そんな二人の様子に、瑠璃は悶えていた。
《可愛いっ……どう、どうしましょうっ……わたくしの妹と弟がっ……かわっ、可愛い過ぎますっっっっ!》
瑠璃はあまり顔に出ないから良いものの、かなりいっぱいいっぱいのようだ。
「……はあ……まあ、なんとかなったな……」
そのでようやく、高耶も肩の力を抜いた。
鎧はもう、ただの鎧になっており、残滓も何も残っていない。それを確認していると、イスティア達が近付いてくる。
「綺麗に取ったもんだなあ。ここまで綺麗にされると、逆に神聖というか……」
これに同意したのは、天使と悪魔のクティだ。
《そうですわね。我々天使にとっても、なんだか畏れ多いというのかしら……近寄り難いですわ》
《本当にね。私たち悪魔も触りたくないかな。下位の者は、触ったらそのまま消えそうだ。一体、どうやったんだい?》
高耶は、少しでも存在の足しになればと、鎧に残されていた天使や悪魔の残滓を掬い取って、注ぎ込んだ。
「鎧自体が、長年悪魔や天使の力を帯びていたことで、霊力をよく通すようになっているようでしたので、浮かせて弾くみたいな……」
《そんな……掃除みたいに……》
《……》
こんな主夫の知恵的な考え方になったのは、頭の端に、まさに、掃除というか、こべりついた鍋を楽しそうに洗って磨く珀豪が出てきたからだったのだが、そこは黙っておく。
昨日の晩、通販で買った洗剤の威力に感動していた珀豪に付き合ったのは良かったのか悪かったのか。ここは良かったとしておこうと判決を下す。
鎧をマジマジと見て確認していたキルティスが、思わずというように声を上げた。
「うわ~、ちょっと高耶ちゃん。あなたの霊力、いよいよヤバいわよ? 神気が混じってきてるわ。もしかして、加護を結構貰ってる?」
「え、あ~……そうですね。なるほど……少し前から感じてた違和感はそれか……」
「高耶ちゃん……普通はここまで加護が強くなってると、力が安定しなくなって、違和感どころじゃなくなるんだけど?」
神気など、神でなければ扱えない代物だ。だから、加護を得た者は、それが体に馴染むまで力が安定しなくなる。大前提として、その馴染むことも、霊力として変換されるということだ。神気のままというのは、まずない。人が扱えないのだから当然だ。
しかし、高耶の場合は違った。
「え? 安定というか……なんだか扱いやすくなった気がしていたんですけど……」
「……」
「……」
「……」
キルティス、イスティア、エルラントも絶句した。この三人が言葉を失くすというのは、普通じゃないという証拠だ。
これの答えをくれたのは、瑪瑙を抱き締め、そのまま瑠璃に抱き締められていた玻璃だった。
《高耶兄さまは……珀兄さま達と契約してる……珀兄さま達も、神格がある……だから……高耶兄さまが神格を持っててもおかしく……ない》
「あ、そっか、そうじゃん。あっちじゃ精霊王だし、それを一体じゃなく、四……じゃない、六体契約してるもんなあ。それに、雪くんもいるし?」
「確かにそうね。でも、これだとますます、土地神にならないように気を付けないとダメよ?」
「はい……」
マズイ気はひしひしと感じていたので、気を付けていたが、一層、気を付けないといけなさそうだ。
「ん? なら、その鎧は、神気を帯びているということかな?」
エルラントがキルティスに確認する。
「ええ。とっても神聖な遺物になったわね♪ 邪なモノを避け、天使も敬意を払う……下手な結界より確実よ♪」
「欲しいなそれ! これ、今どういう扱いになってんだ? どいつと交渉すればいい? いくらでも払うぞ」
「う~ん。これを家に置いておけば、娘達も少しは居着くかな?」
「寧ろ、離れなくならない? 高耶ちゃんの気配するっ! って」
「それはそれで困るねえ」
鎧の購入を考え出す一同。これはもう、終わったということで良いだろうか。
高耶は一歩下がった。そして、天使達とクティに声をかける。
「これ、もう解決ですよね? 瑪瑙は任せてくださって大丈夫なので」
《あ~、そうだね。帰ろうかな。あの霊穴の向こう側は閉じておくよ》
《わたくしたちも、戻りますわ。またお会いしましょうね》
「機会がありましたら」
そうして、別れようとしたのだが、そこでレスターと蓮次郎から待ったがかかった。
「ちょっとお待ちを!」
「一つお願いしたいことがあるんだけど」
《私たちに?》
《何かしら?》
「そのっ……あなた方のような上位の存在に出会う機会はまずありません。ですので……どうか、アレらに少しだけお力を見せていただきたく……」
レスターは汗を拭きながら、そう告げる。クティと天使は顔を見合わせ、どういうことかと考える。しかし、すぐに蓮次郎が補足した。
「若いあの辺の子達が、高耶くんを下に見てバカにするんですよ。力の差……分からせたいな~と」
《高耶くんを……なるほど……》
《そういうことですの……わかりましたわ》
「く、クティ……ちょっ……っ」
クティと天使の雰囲気が変わった。それと同時に、聴こえていたらしいキルティス達の気配も変わった。
「へえ……高耶ちゃんを下にね~」
「ふっふっふっ、これだからガキは……」
「死ななければいいかな?」
これはマズイと、高耶は素早く対策に入る。
「は、玻璃、瑠璃っ、命だけは助けてやってくれっ」
《ん……仕方ないです……》
《直前で構いませんわね?》
何の直前かなどと、聞く暇はなかった。結界が唐突に消えたのだ。
その後、若い祓魔師達が、涙と鼻水などでぐちゃぐちゃになった顔を呆然と上げたまま座り込む様を、同情しながら見ることになったのだった。
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