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第五章 秘伝と天使と悪魔
247 頑張るしかない
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高耶は突然現れた瑠璃に引っ張られ、玻璃の元へやってきた。
全部クティやイスティア達に任せるつもりだったので、それを察していながらも、ここに連れてきた瑠璃に、少し驚いている。
玻璃のためというわけでも無さそうなのだ。だが、この場に連れて来られて、高耶は何をして欲しいのかを理解した。
「……なるほど……完全に癒すのは無理か……」
《高耶……兄さま……っ……た、足りないの……っ、全部戻せない……っ》
ハラハラと涙を溢す玻璃に、周りの批難の目が高耶へと集中する。
「っ……分かった……何とかする……」
《っ、ん、おね、お願い……っ》
「おお……」
瑠璃は、こうなることを知っていたのだろう。そして、高耶ならと信じて迎えに来たのだ。
「……本当に玻璃に弱いよな……」
この場合は、瑠璃だけではなく、うんうんと頷くイスティア、キルティス、エルラントにも言えるだろう。
「……全員味方にするとか……まったく……」
集中してくる視線の数に辟易しながら、高耶はそれに近付いていく。
転がる鎧に一度目を向け、半分崩れた状態で揺らいでいる悪魔と天使の状態を改めて確認した。
「鎧に残ってる残滓で補填するにも、少な過ぎるな……なら……」
そして、高耶は彼らと目を合わせるように屈み込んだ。
「お前達、一緒になるか?」
《……っ》
《っ……》
個を生かすには、消滅した部分が多過ぎる。残っていた部分は玻璃によって癒され、確かなものになっているが、全てを元通りに出来るほどの元となる力が既に残っていないのだ。
仮に、このまま癒えたとしても、存在が弱くなっている。自我を保つのも難しくなってくるだろう。今の状態では、彼らは中級の存在にも劣る。足りない部分は補わなくてはならない。
「このままだと、お前達はゆっくりと消滅していくしかない。分かるよな?」
《……わか……る……》
《このままでは……くるう……》
「そうだ。だから、足りない部分を、お前達自身で補いあえば良い。それに……」
重要なのは、それだけではない。
「お前達は、生まれ変わる必要があるはずだ」
《……できる……のか……》
《うまれかわる……それ……それって……》
期待のこもった六対の目を向けられ、高耶はふうと息を吐く。答えは決まったようだ。
高耶が立ち上がると、揺らめく六つの悪魔と天使も、のろのろと立ち上がった。どうすればいいのか、彼らはわかっているのだろう。
「イスティっ、じいちゃん……ばあちゃん、ここの結界を解いてもらえますか……」
「はいよ! きちんと土地の影響からは切り離したままの状態でなっ」
「いいわよー。他の天使や悪魔が取り込まれないように別に結界張るわー」
普通に名前を呼ぼうとしたら、泣きそうな顔と目が合い、咄嗟にじいちゃん、ばあちゃん呼びに切り替えたが、正解だったらしい。何をするのかも理解済みだ。それに伴い、結界も張り直してくれた。
「……はじめよう」
高耶は鎧に残る残滓も引き寄せながら、誓約の術式を組む。
一つの大きな魔法陣が六体の天使と悪魔の下に広がった。
「……へえ……分解して再構成……か……これを誓約の術式に組み込むなんてねえ。すげえじゃん」
「一緒にするとか……絶妙じゃない? さすがっ、高耶ちゃんっ」
制御バランスが難しい上に、使う力もかなりのものになる。当然だ。今回など特に六体分の悪魔の天使を分解し、それを留めたまま一つに再構成するのだ。
一瞬でも気を抜けば、いくら補い合うとはいえ、一つになりきれず、崩れることになる。
「っ……キツイな……」
そう声を洩らした時、玻璃がそっと高耶の前にいづきから借りた指輪を差し出した。
《これ……使える……?》
「その指輪っ……ああ。使える。ありがとな」
《っ、ん、頑張って……っ》
そう玻璃に言われては、頑張るしかない。
指輪を握り、高耶は気合いを入れる。そして、一際眩しい光が魔法陣を輝かせたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
全部クティやイスティア達に任せるつもりだったので、それを察していながらも、ここに連れてきた瑠璃に、少し驚いている。
玻璃のためというわけでも無さそうなのだ。だが、この場に連れて来られて、高耶は何をして欲しいのかを理解した。
「……なるほど……完全に癒すのは無理か……」
《高耶……兄さま……っ……た、足りないの……っ、全部戻せない……っ》
ハラハラと涙を溢す玻璃に、周りの批難の目が高耶へと集中する。
「っ……分かった……何とかする……」
《っ、ん、おね、お願い……っ》
「おお……」
瑠璃は、こうなることを知っていたのだろう。そして、高耶ならと信じて迎えに来たのだ。
「……本当に玻璃に弱いよな……」
この場合は、瑠璃だけではなく、うんうんと頷くイスティア、キルティス、エルラントにも言えるだろう。
「……全員味方にするとか……まったく……」
集中してくる視線の数に辟易しながら、高耶はそれに近付いていく。
転がる鎧に一度目を向け、半分崩れた状態で揺らいでいる悪魔と天使の状態を改めて確認した。
「鎧に残ってる残滓で補填するにも、少な過ぎるな……なら……」
そして、高耶は彼らと目を合わせるように屈み込んだ。
「お前達、一緒になるか?」
《……っ》
《っ……》
個を生かすには、消滅した部分が多過ぎる。残っていた部分は玻璃によって癒され、確かなものになっているが、全てを元通りに出来るほどの元となる力が既に残っていないのだ。
仮に、このまま癒えたとしても、存在が弱くなっている。自我を保つのも難しくなってくるだろう。今の状態では、彼らは中級の存在にも劣る。足りない部分は補わなくてはならない。
「このままだと、お前達はゆっくりと消滅していくしかない。分かるよな?」
《……わか……る……》
《このままでは……くるう……》
「そうだ。だから、足りない部分を、お前達自身で補いあえば良い。それに……」
重要なのは、それだけではない。
「お前達は、生まれ変わる必要があるはずだ」
《……できる……のか……》
《うまれかわる……それ……それって……》
期待のこもった六対の目を向けられ、高耶はふうと息を吐く。答えは決まったようだ。
高耶が立ち上がると、揺らめく六つの悪魔と天使も、のろのろと立ち上がった。どうすればいいのか、彼らはわかっているのだろう。
「イスティっ、じいちゃん……ばあちゃん、ここの結界を解いてもらえますか……」
「はいよ! きちんと土地の影響からは切り離したままの状態でなっ」
「いいわよー。他の天使や悪魔が取り込まれないように別に結界張るわー」
普通に名前を呼ぼうとしたら、泣きそうな顔と目が合い、咄嗟にじいちゃん、ばあちゃん呼びに切り替えたが、正解だったらしい。何をするのかも理解済みだ。それに伴い、結界も張り直してくれた。
「……はじめよう」
高耶は鎧に残る残滓も引き寄せながら、誓約の術式を組む。
一つの大きな魔法陣が六体の天使と悪魔の下に広がった。
「……へえ……分解して再構成……か……これを誓約の術式に組み込むなんてねえ。すげえじゃん」
「一緒にするとか……絶妙じゃない? さすがっ、高耶ちゃんっ」
制御バランスが難しい上に、使う力もかなりのものになる。当然だ。今回など特に六体分の悪魔の天使を分解し、それを留めたまま一つに再構成するのだ。
一瞬でも気を抜けば、いくら補い合うとはいえ、一つになりきれず、崩れることになる。
「っ……キツイな……」
そう声を洩らした時、玻璃がそっと高耶の前にいづきから借りた指輪を差し出した。
《これ……使える……?》
「その指輪っ……ああ。使える。ありがとな」
《っ、ん、頑張って……っ》
そう玻璃に言われては、頑張るしかない。
指輪を握り、高耶は気合いを入れる。そして、一際眩しい光が魔法陣を輝かせたのだ。
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