246 / 412
第五章 秘伝と天使と悪魔
246 玻璃のデビュー戦?
しおりを挟む
玻璃の姿を見た時、天使も悪魔も動きを止めた。だが、それは一瞬だ。今は力を抜ける時ではないと思い出し、チラチラと玻璃を見ながら集中、集中と暗示をかける。
この状態で分かるように、彼らは揃って動揺していた。当然といえば当然だろう。上位の存在に生まれ変わった成功例など、実際目にするのは初めてだったのだ。そうしなければ上位の存在にはなれないとわかってはいても、本当にというのが信じられなかった。
高耶が契約した者が、上位の存在に生まれ変わったとは聞いていても、顔を合わせたことはない。今回のように玻璃が注目されることを、瑠璃が嫌がったのだ。
瑠璃も、上司である天使に話すことさえ避けていた。それだけ瑠璃にとって玻璃は大事な存在だったということだ。
だが、玻璃自身は、変わろうとしていた。瑠璃にいつまでも甘えていてはいけないと思っているのを、高耶は感じていたのだ。だからこそ、今回、玻璃を行かせた。
《あ……あの……っ、こんにちは……っ》
人慣れしていない玻璃が、真っ先にこの場で頭に浮かんだのは、高耶にかつて言われたことのある言葉。『先ずは挨拶』だった。
《っ……かわっ》
悶えたのは天使達だ。可愛いは正義というのは真実だったと証明された瞬間だった。
《っ、こ、こんにちは……っ》
悪魔達は、クティさえも虜になっていた。ちゃんと挨拶を返す。これに、玻璃は嬉しそうに笑った。
《っ……お姉様っ、あ、挨拶、返してもらえた》
《そうねっ。よかったわねっ》
《うん……っ》
これにも悶える一同。因みに、イスティア、キルティス、エルラントは耐性があるらしく、まるで可愛い孫娘の社交デビューを見るような目で玻璃を見ていた。
《さあ、玻璃。お仕事をしましょう》
《ん……頑張る……》
両手を握り、ぐっと気合いを入れる様子さえも可愛らしい玻璃。それにデレデレしながらも、慣れてきたのか、力は抜かずに現状を維持する天使と悪魔達。
そんな彼らに、玻璃は一歩ずつゆっくりと歩み寄っていく。
そして、手のひらに握っていた、ゆづきから借り受けた指輪を見せるように、右手で摘んで頭の上に掲げた。
すると、クティ達がびくりと鎧の方を見る。
《手応えが……変わった?》
《変わりましたわね……何かに反応……あの指輪?》
核を引き抜こうとすることで、受けていた抵抗力が少し弱まったのだ。
《これ……鎧と同じ……持ち主……彼らの契約者だった》
「え、そんな指輪が?」
「すごいっ。よく見つけたわねっ」
イスティアとキルティスは、術式を渡しただけで、鎧の製作には関わっていない。よって、その指輪についても知らなかった。
《ここに……本当の願いがある……知りたくない?》
これは、次元の狭間にある核となった者へ語りかけている。すると、明らかに先程よりも抵抗力が弱まったようだ。
《行ける! タイミングを合わせるよ》
《わかりましたわ。あなた達もいいわね》
《こっちもいいね。カウント三からいくよ!》
《ええ》
《三、二、一、ゼロ!》
それぞれの鎧と繋がっていた六体の中級の天使と悪魔が姿を現す。この瞬間、鎧との繋がりが消え、カラカラと鎧がバラけて地面に散乱した。
引き抜かれた六体の天使と悪魔は、呆けたように指輪を見つめる。彼らは、指輪に込められていた契約者の本当の願いを受け取ったのだ。
その時点で、瑠璃がこの場から姿を消していることには、誰も気付かなかった。
玻璃は、指輪を持ったまま、彼らに近付いていく。
《もう……泣いてもいいよ》
その言葉を待っていたかのように、彼らは静かに涙を流した。
《《《《っ……》》》》
涙する彼らからは、悔いる感情が感じられた。主人を失くしたことを受け入れがたく思っていることも。そして、何よりもっと主人の力になりたかったという思いが溢れていた。
けれど、そんな思いとは裏腹に、彼らの体はボロボロと崩れ始めている。力を使い過ぎたのだろう。無理に狭間に留まっていたのも良くなかった。
天使も悪魔も、精神の部分が存在のほとんどを占めている。その崩壊が始まれば、体の維持はできない。
そんな彼らに、玻璃は固有の癒しの力を発動させる。それは、上位の天使でさえ使える者がほとんどいない精神回復の力だった。当然、天使達は驚く。
《これはっ……そんなっ。悪魔である彼女が使えるなんて……っ》
一方、クティは感心しながらも確信を得ていた。
《なるほどね……悪魔も天使も、根本は同じってことかな》
これを聞いた天使は、驚きながらも納得していく。
《え……ああ……そうなのですね……》
目の前で癒されていく天使と悪魔。不思議な光景だ。同じ存在だからこそ、同じ癒しの術で癒されていく。それが答えだった。
そこに、高耶がやって来た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
この状態で分かるように、彼らは揃って動揺していた。当然といえば当然だろう。上位の存在に生まれ変わった成功例など、実際目にするのは初めてだったのだ。そうしなければ上位の存在にはなれないとわかってはいても、本当にというのが信じられなかった。
高耶が契約した者が、上位の存在に生まれ変わったとは聞いていても、顔を合わせたことはない。今回のように玻璃が注目されることを、瑠璃が嫌がったのだ。
瑠璃も、上司である天使に話すことさえ避けていた。それだけ瑠璃にとって玻璃は大事な存在だったということだ。
だが、玻璃自身は、変わろうとしていた。瑠璃にいつまでも甘えていてはいけないと思っているのを、高耶は感じていたのだ。だからこそ、今回、玻璃を行かせた。
《あ……あの……っ、こんにちは……っ》
人慣れしていない玻璃が、真っ先にこの場で頭に浮かんだのは、高耶にかつて言われたことのある言葉。『先ずは挨拶』だった。
《っ……かわっ》
悶えたのは天使達だ。可愛いは正義というのは真実だったと証明された瞬間だった。
《っ、こ、こんにちは……っ》
悪魔達は、クティさえも虜になっていた。ちゃんと挨拶を返す。これに、玻璃は嬉しそうに笑った。
《っ……お姉様っ、あ、挨拶、返してもらえた》
《そうねっ。よかったわねっ》
《うん……っ》
これにも悶える一同。因みに、イスティア、キルティス、エルラントは耐性があるらしく、まるで可愛い孫娘の社交デビューを見るような目で玻璃を見ていた。
《さあ、玻璃。お仕事をしましょう》
《ん……頑張る……》
両手を握り、ぐっと気合いを入れる様子さえも可愛らしい玻璃。それにデレデレしながらも、慣れてきたのか、力は抜かずに現状を維持する天使と悪魔達。
そんな彼らに、玻璃は一歩ずつゆっくりと歩み寄っていく。
そして、手のひらに握っていた、ゆづきから借り受けた指輪を見せるように、右手で摘んで頭の上に掲げた。
すると、クティ達がびくりと鎧の方を見る。
《手応えが……変わった?》
《変わりましたわね……何かに反応……あの指輪?》
核を引き抜こうとすることで、受けていた抵抗力が少し弱まったのだ。
《これ……鎧と同じ……持ち主……彼らの契約者だった》
「え、そんな指輪が?」
「すごいっ。よく見つけたわねっ」
イスティアとキルティスは、術式を渡しただけで、鎧の製作には関わっていない。よって、その指輪についても知らなかった。
《ここに……本当の願いがある……知りたくない?》
これは、次元の狭間にある核となった者へ語りかけている。すると、明らかに先程よりも抵抗力が弱まったようだ。
《行ける! タイミングを合わせるよ》
《わかりましたわ。あなた達もいいわね》
《こっちもいいね。カウント三からいくよ!》
《ええ》
《三、二、一、ゼロ!》
それぞれの鎧と繋がっていた六体の中級の天使と悪魔が姿を現す。この瞬間、鎧との繋がりが消え、カラカラと鎧がバラけて地面に散乱した。
引き抜かれた六体の天使と悪魔は、呆けたように指輪を見つめる。彼らは、指輪に込められていた契約者の本当の願いを受け取ったのだ。
その時点で、瑠璃がこの場から姿を消していることには、誰も気付かなかった。
玻璃は、指輪を持ったまま、彼らに近付いていく。
《もう……泣いてもいいよ》
その言葉を待っていたかのように、彼らは静かに涙を流した。
《《《《っ……》》》》
涙する彼らからは、悔いる感情が感じられた。主人を失くしたことを受け入れがたく思っていることも。そして、何よりもっと主人の力になりたかったという思いが溢れていた。
けれど、そんな思いとは裏腹に、彼らの体はボロボロと崩れ始めている。力を使い過ぎたのだろう。無理に狭間に留まっていたのも良くなかった。
天使も悪魔も、精神の部分が存在のほとんどを占めている。その崩壊が始まれば、体の維持はできない。
そんな彼らに、玻璃は固有の癒しの力を発動させる。それは、上位の天使でさえ使える者がほとんどいない精神回復の力だった。当然、天使達は驚く。
《これはっ……そんなっ。悪魔である彼女が使えるなんて……っ》
一方、クティは感心しながらも確信を得ていた。
《なるほどね……悪魔も天使も、根本は同じってことかな》
これを聞いた天使は、驚きながらも納得していく。
《え……ああ……そうなのですね……》
目の前で癒されていく天使と悪魔。不思議な光景だ。同じ存在だからこそ、同じ癒しの術で癒されていく。それが答えだった。
そこに、高耶がやって来た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
137
お気に入りに追加
1,425
あなたにおすすめの小説
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる