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第五章 秘伝と天使と悪魔
241 とっておきの応援を呼びました
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高耶はため息混じりで席を立つ。
「すみません、一分待ってください。応援を呼びます」
一人で倒れるのを覚悟してやるよりも、ここは常日頃から言われている『頼る』ということを選んだ。何より、確実性を取るべきだろうと判断する。
《う~ん。いいよ。こちらも少し打ち合わせするから》
《無理はいけませんしね……構いませんわ》
少しばかり残念そうな様子を見せる二人。本気で倒れた高耶を拐うつもりだったらしい。それでも納得して、彼らはそれぞれ天使と悪魔で固まり、話し合いを始めた。
少しヒヤリとしたが、二人の許可が出たので、蓮次郎とレスターにも断りを入れる。
「三人、人を呼びます。さすがに手に余りますので」
「分かった」
「はい」
すぐに、この件で頼りにできそうな三人にメールを打った。内容は全部同じ。
三人目にメールを送信した時、一人目の返信が来た。二秒後に二人目、その一秒後に三人目の返信を受け取る。
「……兄さん……返信? 早くない?」
「ああ……大体いつも、秒で返ってくるんだ……すぐ来てくれるらしい」
返事が早いのはとっても助かる。だが、それなりに忙しい人もいるのだ。どうやって処理しているのか謎だった。
「それで応援って、誰を呼ぶんだい?」
蓮次郎が確認してくる。急ぐと思い、先程は追及しなかったが、今ならと思ったのだろう。
「エルラントさんと、イスティアさんと、キルティスさんです」
「「っ!!」」
蓮次郎とレスターは目を剥いた。
「っ、ちょっ、え、エルラント殿は分かるけどっ、い、イスティア様!? それにキルティスって……最古の魔女のキルティス・ファルムヴィア様かい!?」
「はい……」
まあ、驚くのも無理はないのかもしれない。特に魔術師のイスティアと魔女キルティスとは、現代で交流を持っている者はごく僅か。
二人とも既に伝説となっており、姿を見た者など、この何百年といないと言われているほどだ。
「『あ、あのお二人と交流が……さ、さすがタカヤ様です……』」
レスターも動揺し過ぎて日本語ではなくなっていた。
しかし、高耶にとって二人は、時折会いに行く田舎のおじいちゃんとおばあちゃんの感覚。見た目は未だ初老にも差し掛かっていないが、普段の様子や関係性は、まさに祖父母と孫だった。
「二人とも出不精で。たまに外に連れ出さないと、体に悪いんですよ。研究ばかりで、寝たい時に寝て、食べたい時に食べる生活で……悠々自適なスローライフとか言ってますけど、間違いなく不健康な生活をしてますから」
寿命の終わりが見えないのは不安なものだ。だから興味ある研究をして、気を紛らわせているということもある。友人や弟子を可愛がっても、自分より先に逝くと分かっているので、関係も薄くなる。
そうすると、本当に家から出なくなるのだ。
「最近は、こちらも忙しくてメールだけになってたんで、今回のはいい機会です」
「「……」」
そこで、何もない所に、唐突に豪華な白い扉が現れた。場所は、結界の外側だ。細工も美しい扉がゆっくりと開くと、そこから水色の可愛らしいワンピースを着た女性が駆け出してくる。そして、そのまま高耶へ両手を広げて抱きついた。
「高耶ちゃんっ」
ふわふわの茶金色の髪は肩に付かないギリギリの長さ。まん丸パッチリの大きな茶色の瞳。背の高さは百六十くらいだろうか。小柄で可愛らしい人。この人が最古の魔女のキルティスだ。
「高耶ちゃん、また大きくなったねっ。あっ、お小遣いあるよ! 貰って、貰って~」
「いや……もうすぐ成人なんですけど……」
「え? 成人したらあげちゃいけないの? ねえ、ティア、おばあちゃんなら孫にお小遣い、何歳になってもあげるよね?」
抱き着いたまま、キルティスは後ろを振り向いて、扉をくぐって来た男性に問いかける。
「ああ、間違いねえよ。孫に小遣いは一生やるもんだ」
「だよねっ! あのね~、あのね~、ヨウちゃんに、折り紙の本を送ってもらったのっ。可愛い袋が出来たんだよっ。ほら、うさちゃんっ。それで、こっちはクマさんだよ! どっちもあげる!」
可愛く折ってある。折り紙サイズの紙ではなく、わざわざ切り出した用紙だろう。多分、折り紙の本にあった出来上がりサイズより三倍は大きい。
だが、それは仕方がない。多分、入らなかったのだ。入れたい金額が。
「……あの……」
「多くないよ?」
「でも……」
「ずっと会えなかったでしょ?」
「……ふ、二つは……」
「一つじゃ入りきらなかったからっ」
「……ありがとうございます……」
「うんっ」
断れなかった。
そして、こっちも来た。
「じゃあ、じいちゃんからも受け取れ」
「……はい……ありがとうございます」
「うむ」
ここで彼からのを断れば、『俺からのは受け取れないってえのか? あ?』とメンチを切られ、無理やりポケットに押し込まれるのは目に見えていた。
イスティアは、見た目四十前半。あり得ないほど綺麗な銀髪で、顔も小さく背も高い。間違いなく美形。なのに、言葉遣いはヤンチャなじいちゃん。中身と外見がチグハグ過ぎて、大抵の人は戸惑う。
普通に違う人が喋ったと思って、周りを見回す。これが稀代の大魔術師イスティアだ。
そんな二人と違い、見た目も中身も大人なのがエルラントだった。
「はははっ。二人とも、嬉しいのはよく分かるが、今回は仕事だよ。珍しくも彼の方から助けてくれと言われたんだ。頼りになる所を是非とも見せなくてはね」
「エルラントさん……」
なんだかほっとした。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
「すみません、一分待ってください。応援を呼びます」
一人で倒れるのを覚悟してやるよりも、ここは常日頃から言われている『頼る』ということを選んだ。何より、確実性を取るべきだろうと判断する。
《う~ん。いいよ。こちらも少し打ち合わせするから》
《無理はいけませんしね……構いませんわ》
少しばかり残念そうな様子を見せる二人。本気で倒れた高耶を拐うつもりだったらしい。それでも納得して、彼らはそれぞれ天使と悪魔で固まり、話し合いを始めた。
少しヒヤリとしたが、二人の許可が出たので、蓮次郎とレスターにも断りを入れる。
「三人、人を呼びます。さすがに手に余りますので」
「分かった」
「はい」
すぐに、この件で頼りにできそうな三人にメールを打った。内容は全部同じ。
三人目にメールを送信した時、一人目の返信が来た。二秒後に二人目、その一秒後に三人目の返信を受け取る。
「……兄さん……返信? 早くない?」
「ああ……大体いつも、秒で返ってくるんだ……すぐ来てくれるらしい」
返事が早いのはとっても助かる。だが、それなりに忙しい人もいるのだ。どうやって処理しているのか謎だった。
「それで応援って、誰を呼ぶんだい?」
蓮次郎が確認してくる。急ぐと思い、先程は追及しなかったが、今ならと思ったのだろう。
「エルラントさんと、イスティアさんと、キルティスさんです」
「「っ!!」」
蓮次郎とレスターは目を剥いた。
「っ、ちょっ、え、エルラント殿は分かるけどっ、い、イスティア様!? それにキルティスって……最古の魔女のキルティス・ファルムヴィア様かい!?」
「はい……」
まあ、驚くのも無理はないのかもしれない。特に魔術師のイスティアと魔女キルティスとは、現代で交流を持っている者はごく僅か。
二人とも既に伝説となっており、姿を見た者など、この何百年といないと言われているほどだ。
「『あ、あのお二人と交流が……さ、さすがタカヤ様です……』」
レスターも動揺し過ぎて日本語ではなくなっていた。
しかし、高耶にとって二人は、時折会いに行く田舎のおじいちゃんとおばあちゃんの感覚。見た目は未だ初老にも差し掛かっていないが、普段の様子や関係性は、まさに祖父母と孫だった。
「二人とも出不精で。たまに外に連れ出さないと、体に悪いんですよ。研究ばかりで、寝たい時に寝て、食べたい時に食べる生活で……悠々自適なスローライフとか言ってますけど、間違いなく不健康な生活をしてますから」
寿命の終わりが見えないのは不安なものだ。だから興味ある研究をして、気を紛らわせているということもある。友人や弟子を可愛がっても、自分より先に逝くと分かっているので、関係も薄くなる。
そうすると、本当に家から出なくなるのだ。
「最近は、こちらも忙しくてメールだけになってたんで、今回のはいい機会です」
「「……」」
そこで、何もない所に、唐突に豪華な白い扉が現れた。場所は、結界の外側だ。細工も美しい扉がゆっくりと開くと、そこから水色の可愛らしいワンピースを着た女性が駆け出してくる。そして、そのまま高耶へ両手を広げて抱きついた。
「高耶ちゃんっ」
ふわふわの茶金色の髪は肩に付かないギリギリの長さ。まん丸パッチリの大きな茶色の瞳。背の高さは百六十くらいだろうか。小柄で可愛らしい人。この人が最古の魔女のキルティスだ。
「高耶ちゃん、また大きくなったねっ。あっ、お小遣いあるよ! 貰って、貰って~」
「いや……もうすぐ成人なんですけど……」
「え? 成人したらあげちゃいけないの? ねえ、ティア、おばあちゃんなら孫にお小遣い、何歳になってもあげるよね?」
抱き着いたまま、キルティスは後ろを振り向いて、扉をくぐって来た男性に問いかける。
「ああ、間違いねえよ。孫に小遣いは一生やるもんだ」
「だよねっ! あのね~、あのね~、ヨウちゃんに、折り紙の本を送ってもらったのっ。可愛い袋が出来たんだよっ。ほら、うさちゃんっ。それで、こっちはクマさんだよ! どっちもあげる!」
可愛く折ってある。折り紙サイズの紙ではなく、わざわざ切り出した用紙だろう。多分、折り紙の本にあった出来上がりサイズより三倍は大きい。
だが、それは仕方がない。多分、入らなかったのだ。入れたい金額が。
「……あの……」
「多くないよ?」
「でも……」
「ずっと会えなかったでしょ?」
「……ふ、二つは……」
「一つじゃ入りきらなかったからっ」
「……ありがとうございます……」
「うんっ」
断れなかった。
そして、こっちも来た。
「じゃあ、じいちゃんからも受け取れ」
「……はい……ありがとうございます」
「うむ」
ここで彼からのを断れば、『俺からのは受け取れないってえのか? あ?』とメンチを切られ、無理やりポケットに押し込まれるのは目に見えていた。
イスティアは、見た目四十前半。あり得ないほど綺麗な銀髪で、顔も小さく背も高い。間違いなく美形。なのに、言葉遣いはヤンチャなじいちゃん。中身と外見がチグハグ過ぎて、大抵の人は戸惑う。
普通に違う人が喋ったと思って、周りを見回す。これが稀代の大魔術師イスティアだ。
そんな二人と違い、見た目も中身も大人なのがエルラントだった。
「はははっ。二人とも、嬉しいのはよく分かるが、今回は仕事だよ。珍しくも彼の方から助けてくれと言われたんだ。頼りになる所を是非とも見せなくてはね」
「エルラントさん……」
なんだかほっとした。
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