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第五章 秘伝と天使と悪魔
229 頼みがあったようです
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この地の土地神は、穏やかな美しい青年姿の神だった。見た目の年齢は、高耶と同じくらいだろう。
《水神に聞いてね。いつ出会えるかと、楽しみにしていたんだ》
そこで高耶も気付く。あの水神の川は、この土地に続いていたのだ。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
《いいよ。気にしないで。私は比較的若い方だしね。君が加護を受けている神々からすれば、ひよっこだ。だから、こちらから挨拶するのも間違ってないよ》
「……ありがとうございます」
《うん》
本当に気にするなということらしい。
確かに、水神をはじめとして、清雅の家に関係のある山神も、瑤迦さえ、この土地神よりも上だろう。神の世界では力よりも年功序列が重んじられているというのもある。
この土地神は、先代と交代して間もないらしく、本当に若い神なのだ。とはいえ、その交代も二百年ほどは前だ。ここを、橘家が管理するようになってからだという。
《聞いてた通り、今時の子にしては、礼儀正しいよね。わざわざ、お邪魔しますって、挨拶しようとしてくれるんだもの》
「そうすべきだと思っていますので……」
《うんうん。そういうところ、大好きだよっ》
なんだか、この土地神。蓮次郎と通じるものがあるような気がしてならない。
《そうそう。君に会いたかったのはねえ、お願いもあったからなんだ》
「お力になれることならば、構いません」
《そう!? なら、あそこの山のところなんだけど、昔、呪具が仕掛けられていてねえ、処分してくれたのは良かったんだけど、影響が残っちゃって》
指を差す先には、滝が見えた。それは、周りに木々がないからだ。丸裸のような感じで、痛々しい。
《ここから滝が見えるのも良いんだけどねえ。やっぱり気持ち悪くて》
そこだけ、どうしても力が行き渡らないらしい。不快さが取れないのだという。
《水神も、あそこだけは嫌みたいでね。もし、用事でここに君が来たら、頼んでみてくれと言われてたんだ》
「……なるほど……」
水神の川にも繋がる滝らしい。わざわざ呼びつけるのは気が引けるから、もしも来たらとして話をしていたようだ。
「分かりました。では、式を喚ばせていただきます」
《うん。君のならいくらでも許すよ。それが何であってもね》
ついでに、天使や悪魔も構わないとの許可をもらった。
「ありがとうございます。【果泉】、【常盤】」
《ここに》
《は~い》
常盤は人化して丁寧に胸に手を当てて頭を下げ、果泉は元気いっぱいに右手を挙げて返事をする。
そんな果泉は、すぐにタタタと高耶に駆け寄ると、抱っこというように両手を上げた。それを自然に抱き上げ、滝の場所を見せる。
「果泉。あそこ、分かるか? 土地神様が、あそこを治して欲しいそうだ。できるか?」
《できるよ! 神さまのお兄ちゃん、気もちわるい?》
《なんて可愛いっ。うん。ちょっと気持ち悪いねえ》
《なら、お手てかして~》
《ん? 手かい?》
差し出された小さな果泉の手に、土地神は片手を近付ける。その手をむぎゅっと掴んだ果泉は、少しだけ力を注いだようだ。
《はい! げんきちゅうにゅ~う♪》
《んん!?》
《これでだいじょうぶ! いまから、あそこもげんきにしてくるね!》
《なにこれ!? 力が強くなったよ!?》
神も驚く。以前聞いた瑤迦の話からすると、植物に栄養剤を与えるような効果があるらしい。『果泉ねえ、ドリンクなの!』と本人も言っていたので、間違いではないだろう。
「常盤、果泉を連れて行ってやってくれ」
《承知しました》
常盤は、大きな光り輝く鳳の姿になり、果泉を乗せるべく体勢を低くする。
《トキワお兄ちゃん、まぶしいねえ》
《……これくらいならどうです》
《うん。これくらいなら、お目めいたくならないっ》
《乗れるか?》
《だいじょうだよ! はやくいこ!》
《しっかり掴まるように》
《キレイなハネがぬけちゃうよ?》
《問題ない》
《う~、わかった。あるじさま、いってきます!》
《行って参ります》
「ああ。頼んだ」
すぐに終わるだろう。任せることにする。
飛び立った常盤と果泉を見送ると、そこでようやくレスター達が目に入った。高耶の目には、土地神しか映っていなかったのだ。気にしていなかったともいう。
「あ……」
そう。案の定というか、神に耐性のないほとんどの人々が、気絶していたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
仕事の関係で、別作品も含めて分量が少なくなる可能性があります。
よろしくお願いします。
《水神に聞いてね。いつ出会えるかと、楽しみにしていたんだ》
そこで高耶も気付く。あの水神の川は、この土地に続いていたのだ。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
《いいよ。気にしないで。私は比較的若い方だしね。君が加護を受けている神々からすれば、ひよっこだ。だから、こちらから挨拶するのも間違ってないよ》
「……ありがとうございます」
《うん》
本当に気にするなということらしい。
確かに、水神をはじめとして、清雅の家に関係のある山神も、瑤迦さえ、この土地神よりも上だろう。神の世界では力よりも年功序列が重んじられているというのもある。
この土地神は、先代と交代して間もないらしく、本当に若い神なのだ。とはいえ、その交代も二百年ほどは前だ。ここを、橘家が管理するようになってからだという。
《聞いてた通り、今時の子にしては、礼儀正しいよね。わざわざ、お邪魔しますって、挨拶しようとしてくれるんだもの》
「そうすべきだと思っていますので……」
《うんうん。そういうところ、大好きだよっ》
なんだか、この土地神。蓮次郎と通じるものがあるような気がしてならない。
《そうそう。君に会いたかったのはねえ、お願いもあったからなんだ》
「お力になれることならば、構いません」
《そう!? なら、あそこの山のところなんだけど、昔、呪具が仕掛けられていてねえ、処分してくれたのは良かったんだけど、影響が残っちゃって》
指を差す先には、滝が見えた。それは、周りに木々がないからだ。丸裸のような感じで、痛々しい。
《ここから滝が見えるのも良いんだけどねえ。やっぱり気持ち悪くて》
そこだけ、どうしても力が行き渡らないらしい。不快さが取れないのだという。
《水神も、あそこだけは嫌みたいでね。もし、用事でここに君が来たら、頼んでみてくれと言われてたんだ》
「……なるほど……」
水神の川にも繋がる滝らしい。わざわざ呼びつけるのは気が引けるから、もしも来たらとして話をしていたようだ。
「分かりました。では、式を喚ばせていただきます」
《うん。君のならいくらでも許すよ。それが何であってもね》
ついでに、天使や悪魔も構わないとの許可をもらった。
「ありがとうございます。【果泉】、【常盤】」
《ここに》
《は~い》
常盤は人化して丁寧に胸に手を当てて頭を下げ、果泉は元気いっぱいに右手を挙げて返事をする。
そんな果泉は、すぐにタタタと高耶に駆け寄ると、抱っこというように両手を上げた。それを自然に抱き上げ、滝の場所を見せる。
「果泉。あそこ、分かるか? 土地神様が、あそこを治して欲しいそうだ。できるか?」
《できるよ! 神さまのお兄ちゃん、気もちわるい?》
《なんて可愛いっ。うん。ちょっと気持ち悪いねえ》
《なら、お手てかして~》
《ん? 手かい?》
差し出された小さな果泉の手に、土地神は片手を近付ける。その手をむぎゅっと掴んだ果泉は、少しだけ力を注いだようだ。
《はい! げんきちゅうにゅ~う♪》
《んん!?》
《これでだいじょうぶ! いまから、あそこもげんきにしてくるね!》
《なにこれ!? 力が強くなったよ!?》
神も驚く。以前聞いた瑤迦の話からすると、植物に栄養剤を与えるような効果があるらしい。『果泉ねえ、ドリンクなの!』と本人も言っていたので、間違いではないだろう。
「常盤、果泉を連れて行ってやってくれ」
《承知しました》
常盤は、大きな光り輝く鳳の姿になり、果泉を乗せるべく体勢を低くする。
《トキワお兄ちゃん、まぶしいねえ》
《……これくらいならどうです》
《うん。これくらいなら、お目めいたくならないっ》
《乗れるか?》
《だいじょうだよ! はやくいこ!》
《しっかり掴まるように》
《キレイなハネがぬけちゃうよ?》
《問題ない》
《う~、わかった。あるじさま、いってきます!》
《行って参ります》
「ああ。頼んだ」
すぐに終わるだろう。任せることにする。
飛び立った常盤と果泉を見送ると、そこでようやくレスター達が目に入った。高耶の目には、土地神しか映っていなかったのだ。気にしていなかったともいう。
「あ……」
そう。案の定というか、神に耐性のないほとんどの人々が、気絶していたのだ。
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