秘伝賜ります

紫南

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第五章 秘伝と天使と悪魔

228 若者の問題

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野外の解放的で広い場所で散らばっているとは言っても、怒鳴り声というのは聞こえるものだ。それは怒気が乗っているから。離れていても気になってしまう。だから、その内誰か来るだろう。

「『わざわざ来てやった俺らに! 礼儀がなってないのはそっちだろ!!』
「『だいたい、ガキが出張ってくんじゃねえよ! 親はどうした!』」
「『はあ!? お前らこそ! 自分たちで責任も取れんガキなのか!? 親呼んでどうすんだよ! バカか!?』」

これはどうしようかなと、高耶は少し遠い目をする。統二の言葉遣いがすごい。早く誰か来てくれないだろうか。もう高耶は面倒になってきていた。

「……どんな英語を勉強してるんだ……」

ちょっと下がって呟く高耶。それを勇一が拾った。

「あの……一体、統二はなにを……」
「その辺の不良もびっくりな言葉を使っている……」
「英語ですよね……学校で……?」
「いや、これは友達とだろ……」

そんな話の間にも、ヒートアップしていく。思わず『若いな』と高耶は言いそうだった。

「はあ……」

大きくため息を吐いた所で、蓮次郎が、あちらの代表と共にやってきた。そう。あちらは社長というか、会長のような一番の代表がいる。現在の代表は今年で六十だという男性だった。名をレスターという。

「なに? なに絡んでるの?」
「『お前たち、何をしている!』」

さすがに代表の顔は知っているらしい。

「『っ、あ、だ、代表っ……っ』」
「『こ、これは、わ、我々をバカにしたので……っ』」
「『ほお……挨拶のために声をかけたのでもないと?』」
「『あ、挨拶? 相手は子どもです』」
「『聞いていないのか? 例えば未成年であろうと、こちらの当主は、上司や師と同じ。礼を持って接するべきだ』」

タジタジとする青年達。けれど、納得できなかったようだ。察しが悪いともいう。そこに、彼らの上司らしき者達が慌ててやってきた。

「『代表! こ、こやつらがなにか』」

レスターよりも十は下だろう男性と、その補佐らしき者数人が問題を起こした青年達を睨み付ける。

これに、青年達は反論した。

「『俺たちは悪くない。こいつが突っかかってきたんだ』」
「『だいたい、当主だって実力で決まるんじゃないんでしょ? こっちは人数制限までされたのに、なんで明らかに見学するってくらいのやつが居るんですか』」
「『当主だって、分かるはずないし』」
「『お、お前たちっ……!』」

上司は怒りで顔が真っ赤だ。

「ねえ、レスター。さすがに、ここまでのおバカちゃん達が増えてるって聞いてないけど?」
「……申し訳ない……最近は素質があっても、それを磨けないような若者ばかりで……それも、少し力が使えるからと、居丈高に自慢する始末……」

レスターもこれには頭を悩ませているらしい。

「ヒーロー気取りのおバカちゃん達だねえ。もしかして、普通に見せびらかしたりとか?」
「いや……そうですね。あります。面白半分で使い魔を召喚したり……とはいえ、ぬるい修行をしている程度の低い者たちです。隠せないほどのバカはできません」
「指導しないの?」

そんな問題児と分かっているならば、つきっきりで指導するだろう。

「質が落ちている上に、多くの者が引退しました。指導者が足りないのです……」
「ああ~、だから、最近は師匠一人に三人くらい弟子がいるのね? 若い子が増えて良いな~って思ってたけど、問題あったんだねえ」
「はい……」

これは、下の指導が間に合わなくなるはずだ。一人の師につき一人の弟子が普通だった所に、この変化。行き届かないのも頷ける。

「けど、それで質が落ちたらダメでしょう」
「おっしゃる通りで……」

今回、人が多かったのも、本来は一人で封印できていたものが、二人、三人で一つを封印するくらいの力しかなかったためらしい。

「それで、この子たちはどうしようねえ。他にも同じような子いるかな」
「……いますね……」
「仕方ないね。なら、さっさと挨拶しようかな。高耶くん。おいで」
「はい」

手招きされ、未だごちゃごちゃと言い訳のようなものを上司に向かって喋っている青年達から離れる。その際、統二と勇一も回収していく。

「ご、ごめんなさい。兄さん。つい……」

統二は、ようやく頭が冷えたらしい。

「元気な啖呵だったな」
「っ……」

恥ずかしそうに顔を俯ける統二の頭に軽く触れ、蓮次郎に歩み寄った。そして、レスターに挨拶する。

「『お久しぶりです。レスターさん。今年はあまり顔を出せず申し訳ありません』」
「『いやっ、そ、そんなことはありません! 来ていただけるだけでありがたく思っております!』」

軍人のように、ピシっと姿勢を正して返事をするのはやめてほしいと、切実に思う高耶だ。

当然だが、事情を知らない青年達が不可解そうな顔でこちらを見てくる。

「ふふふっ。さあ、高耶くん。始めようか」
「はい」

青年達がまた突っかかってくる前にと、高耶は蓮次郎とレスターについていく。

そうすると、段々と散らばっていた者たちが集まり出した。

用意されていた朝礼台のようなものに、蓮次郎が上る。その下に通訳をする者が控えた。高耶とレスターもそこだ。統二と勇一は高耶の後ろに控えた。

「私は今回の連盟代表になる橘蓮次郎だ。これより、作戦を説明する」

同じことを通訳が話すのを待って、蓮次郎は続けた。

「それぞれの鎧を橘家の結界内で組み立ててもらう。恐らく、それほど難しくはないだろう。勝手に組み上がるはずだ。ただし、合わない場合は、動かない」

三つずつある金と銀の鎧。部品の見た目は同じでも、本当に一致するのは一つらしい。

「合わなかった場合は、合う物の所に移動させることになる。まあ、パズルみたいなものだね。合うのは一つだ。正しく組み上げてほしい」

簡単に言うが、とても面倒くさい。それもそのはず。干渉し合わないように、距離を置いて組み立てるのだから。

「見えるかな。結界に色もつけた。金は白い方。銀は青い方で頼むよ」

そこで、手が上がった。真面目そうな若い青年の一人だ。

「質問かな? どうぞ?」
「『はい。ここまで、それぞれ封印しながらこちらへ運びました。手にしても問題ないのでしょうか』」

当然の疑問だ。慎重に、余分に憑いていた悪魔を祓い、それぞれ封印して持ち込んできたのだ。そのまま触れて、持ち運んで大丈夫かと思うだろう。

「全て検査済みだ。封印したのは、それ以降、また新たに悪魔や妖が憑かないようにするためでね。組み上がるまでは、本来無害らしい」
「『……らしいとは……』」
「ああ、大丈夫。確かな情報だ。だから、最後の一つである兜だけは、別で集めて結界内で保管してある。他の全てが組み上がったら、安全のため、離れてもらう」

これは玻璃の情報。この鎧は、全てが揃って初めて、その鎧に憑いた悪魔と天使が目覚めるのだ。

「ここまでいいかな?」

そこで、また手が上がった。

「そこの君。なにかな?」
「『代表の隣にいるのは、見学される御子息ですか』」

不満そうな顔の青年が目を向けたのは、高耶だ。御子息と言われて蓮次郎は満々の笑みを浮かべた。

「御子息だって! 高耶くん! やっぱり養子においで!」
「無理です……」

レスターが気の毒そうに目を向けてくるが、目を合わせないようにした。

そこで、高耶を知っている年配の者たちが、顔を青ざめさせているのに気づく。レスターも気付いたようだ。

「橘さん、きちんと説明すべきです。これ以上、若い者に無礼を働かせるわけにはいきません」
「ふふふ。そうだね。ここにいるのは、秘伝家当主、高耶くんだ。若い子達は知らないかな。そっちでは『高耶様』って呼ばれてると思うけど」

これに青年達が騒つく。

今回の比率でいえば、連盟が三分の一、残り三分の二の内、半分と少しが若者だ。連盟側は、高耶の事を年齢に関係なく見知っていた。この間の霊穴の件に参加した者が大半だったのだ。

だから、三分の一以上の協会の若者達が高耶を知らなかった。

「『噂で聞く、精霊王の?』」
「『だって、若いぞ? 俺らとタメだろ』」
「『当主だって持ち上げられてるだけじゃね?』」

どうやら、誰も噂で聞く高耶のことを信じていないようだ。

「これこれ。この反応っ。笑えるよねっ」
「わ、笑い事ではないでしょうっ」

レスターが焦っている。

「だって、代表の君が頭下げても、今時の子は信じないよ」
「そんなっ」

これ以上、高耶に失礼があってはならないと、レスターは本気で焦っていた。

「もう良いじゃない。さっさとやろうよ。どうせ、高耶くんの力を見ることになるんだから、その時に……後悔するといいよ」
「っ……」

蓮次郎は実はちょっとイラついていたらしい。黒い笑みを浮かべていた。

「じゃあ、始めるよ」

その顔が作った笑顔だとは分からないだろう。そのまま、蓮次郎が手を一つ打つと、行動開始となった。そして、振り返った蓮次郎が高耶にさっそくお願いする。

「高耶くん。ここら一帯に結界お願いできる?」
「……先に土地神に挨拶してきます……」
「あ、そっか。分かった。なら早く……っ」

その時、まさにその土地神がふわりと高耶の前に現れた。人の姿をした神だ。

《こっちから来てしまったよ。はじめまして。神々の申し子よ》

当然だが、これを目撃することとなった者たちは、口をぽかんと開けて見ていることしかできなかった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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