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第五章 秘伝と天使と悪魔
214 小さい子に振り回されます
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森に一瞬の強い光と濃い影が落ちる。
雷のような音はしないが、光だけが落ちていくようだ。
《おお、えらい剣幕だ。アレが天使とは、イメージが崩れるのではないか? さすがは狂戦士、ベルセルクとまで呼ばれて恐れられた天使だ》
黒艶がゆったりとした足取りで近付いてきてニヤリと笑った。
果泉がトテトテと黒艶に向かって駆けていく。
《ねえ、ねえ、エン姉ちゃん。ベル? セ? ってなに?》
式神達は幼い姿の果泉を誰もが可愛がっており、黒艶も常とは違う慈しむような笑みを浮かべて果泉を抱き上げた。
《ベルセルクな。異能の戦士という意味だが……瑠璃は悪魔相手となると、途端に加減が分からなくなってな。狂ったように戦うのだ。殲滅しないと正気に戻らんくらいにスイッチがな……》
《ふ~ん? ねえ、あるじさま、ルリお姉ちゃんには、引きこもりな妹がいるってほんとう?》
「……ああ……ハリな……」
《ハリお姉ちゃん?》
今は瑠璃が追い込みながら、弱い者から順に倒して行っているので、もう少し放っておいても大丈夫だろう。
自分の力を見せつけて、怖いものがあるのだと教え込んでから叩くのが瑠璃流の悪魔の倒し方だ。ただ、下位の悪魔はそんな感情も生まれないので、それらは処置なしとすぐに処分する。
高耶も悪魔を乱取り相手として使うことを知っているため、間引く意味でも下位の者から順に処理するのだ。
「玻璃は悪魔だ。といっても、中身は天使に近くてな……天使が悪魔に堕ちることはあっても、悪魔が天使になることはないから悪魔のままだが、良い悪魔だぞ」
《へえ~。あたらしいお姉ちゃん! あいたい!》
「あ~……悪魔の掃除が終わったらな。瑠璃が、他の悪魔に玻璃を見られるのを嫌がるんだ」
《そうなの? わかった! なら、早くあくまさんたちをどっかやる!》
果泉がやる気になった。そして、ずっと果泉をキラキラとした目で見つめている土地神へその手を伸ばした。
《お姉さん、手》
《ん? なあに? つなぐの?》
嬉しそうに手を伸ばす土地神。そこで高耶はハッとなった。
「あっ」
《んん? な、なにが……?》
土地神に果泉から力が渡る。握られた手から光が溢れ、土地神を飲み込んでいく。
そして、次の瞬間、成長した土地神の姿があった。
《な、なに!?》
《お姉さん、おっきくなったよ~♪ 森も元気になったー》
《んんん!?》
土地神が木に宿っていることを忘れていた。これは果泉と相性が良すぎる。枯れかけた木々を若返らせるほどの力を持つ果泉だ。土地神にもその力を使ったらしい。
《こ、これはなんてこと……っ、今ならこの土地全てを聖域に出来るわ!》
「あ、ちょっ」
まずい。
《ふっふっふっ。悪魔なんて、わたくしが全て浄化してみせるわ!》
「あ~……」
ふわりと神聖な力が土から立ち昇るのを感じる。そして、それらは一気に上空まで広がり、悪魔達が消滅していく。
「……稽古の相手が……」
がっくりと肩を落とす高耶。結果的には良い事だが、残念だ。
《お姉さんすご~い! イヤなのいなくなった!》
《ふふふっ。今のわたくしに不可能はないわ!》
《かっこい~!》
果泉に小さな手でパチパチと拍手され、土地神は上機嫌だ。
《よろしい。わたくしの加護をあなたの主にあげるわ! この先、森で実ったものが見つけやすくなるわよ!》
どの森でも森の恵みがすぐに見つけられるようになるらしい。良いものなので一応もらっておく。
「……有り難くいただきます……」
《ふふっ。では、早く穴を塞いでしまってちょうだい!》
「……はい……」
《あるじさま! 果泉のあたらしいお姉ちゃんは?》
「……」
こうして、果泉に振り回されながら、あっさり悪魔は片付いてしまったのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
雷のような音はしないが、光だけが落ちていくようだ。
《おお、えらい剣幕だ。アレが天使とは、イメージが崩れるのではないか? さすがは狂戦士、ベルセルクとまで呼ばれて恐れられた天使だ》
黒艶がゆったりとした足取りで近付いてきてニヤリと笑った。
果泉がトテトテと黒艶に向かって駆けていく。
《ねえ、ねえ、エン姉ちゃん。ベル? セ? ってなに?》
式神達は幼い姿の果泉を誰もが可愛がっており、黒艶も常とは違う慈しむような笑みを浮かべて果泉を抱き上げた。
《ベルセルクな。異能の戦士という意味だが……瑠璃は悪魔相手となると、途端に加減が分からなくなってな。狂ったように戦うのだ。殲滅しないと正気に戻らんくらいにスイッチがな……》
《ふ~ん? ねえ、あるじさま、ルリお姉ちゃんには、引きこもりな妹がいるってほんとう?》
「……ああ……ハリな……」
《ハリお姉ちゃん?》
今は瑠璃が追い込みながら、弱い者から順に倒して行っているので、もう少し放っておいても大丈夫だろう。
自分の力を見せつけて、怖いものがあるのだと教え込んでから叩くのが瑠璃流の悪魔の倒し方だ。ただ、下位の悪魔はそんな感情も生まれないので、それらは処置なしとすぐに処分する。
高耶も悪魔を乱取り相手として使うことを知っているため、間引く意味でも下位の者から順に処理するのだ。
「玻璃は悪魔だ。といっても、中身は天使に近くてな……天使が悪魔に堕ちることはあっても、悪魔が天使になることはないから悪魔のままだが、良い悪魔だぞ」
《へえ~。あたらしいお姉ちゃん! あいたい!》
「あ~……悪魔の掃除が終わったらな。瑠璃が、他の悪魔に玻璃を見られるのを嫌がるんだ」
《そうなの? わかった! なら、早くあくまさんたちをどっかやる!》
果泉がやる気になった。そして、ずっと果泉をキラキラとした目で見つめている土地神へその手を伸ばした。
《お姉さん、手》
《ん? なあに? つなぐの?》
嬉しそうに手を伸ばす土地神。そこで高耶はハッとなった。
「あっ」
《んん? な、なにが……?》
土地神に果泉から力が渡る。握られた手から光が溢れ、土地神を飲み込んでいく。
そして、次の瞬間、成長した土地神の姿があった。
《な、なに!?》
《お姉さん、おっきくなったよ~♪ 森も元気になったー》
《んんん!?》
土地神が木に宿っていることを忘れていた。これは果泉と相性が良すぎる。枯れかけた木々を若返らせるほどの力を持つ果泉だ。土地神にもその力を使ったらしい。
《こ、これはなんてこと……っ、今ならこの土地全てを聖域に出来るわ!》
「あ、ちょっ」
まずい。
《ふっふっふっ。悪魔なんて、わたくしが全て浄化してみせるわ!》
「あ~……」
ふわりと神聖な力が土から立ち昇るのを感じる。そして、それらは一気に上空まで広がり、悪魔達が消滅していく。
「……稽古の相手が……」
がっくりと肩を落とす高耶。結果的には良い事だが、残念だ。
《お姉さんすご~い! イヤなのいなくなった!》
《ふふふっ。今のわたくしに不可能はないわ!》
《かっこい~!》
果泉に小さな手でパチパチと拍手され、土地神は上機嫌だ。
《よろしい。わたくしの加護をあなたの主にあげるわ! この先、森で実ったものが見つけやすくなるわよ!》
どの森でも森の恵みがすぐに見つけられるようになるらしい。良いものなので一応もらっておく。
「……有り難くいただきます……」
《ふふっ。では、早く穴を塞いでしまってちょうだい!》
「……はい……」
《あるじさま! 果泉のあたらしいお姉ちゃんは?》
「……」
こうして、果泉に振り回されながら、あっさり悪魔は片付いてしまったのだった。
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