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第五章 秘伝と天使と悪魔
211 あっちもこっちもお任せください
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そこには、祭壇が用意されていた。
「おおっ。すげえ、祭壇っぽい」
俊哉の感想を聞きながら、瀬良姉弟も呆けるようにして感心を向ける。日常で、祭壇など見る機会などないだろう。
しかし、御身体はあるべき場所にまだ置かれていない。それには誰も触れていないのだ。能力者が触れるのが一番危ない。力を吸われたり、知らず渡してしまったりするため、暴走させる要因になる。
もちろん、こういった場合、完全に自分の力を遮ることのできる特別な部隊の手を借りる時もある。
「あれ? 黒子部隊呼ばなかったの?」
「安倍家の方の神事に駆り出されているので」
「ああ。神事だと全員持っていかれるね」
黒子部隊は少数精鋭。よって、手を割けない場合は多い。優先度の高いものに割り当てられるのが当然だ。
「因みに、高耶くんはあの部隊にも好かれてるの?」
「もって……いえ、接点がないので」
「もしかして、一度も?」
「はい」
高耶が黒子部隊に頼ったことは今まで一度もない。祭壇を作る場合でも、清掃部隊や神楽部隊が手配するため、呼んでも出会うことはない。
何よりの理由がこれだ。
《やろうと思えば、あいつらと同じこと出来るからな》
「じいさん……」
霊穴の様子を見てもらっていた充雪がフワリと頭上に現れた。
「おっ。この人が高耶のご先祖様か」
そう口にしたのは俊哉だ。しっかりと彼はその姿を視認している。これに改めて気付いて顔をしかめた。
「俊哉……お前、いつから視えてる……」
思えば、あの神木の神の姿も視えているようだった。式達は視えるようにしているので、これまで気にならなかったが、間違いなく視えるようになっている。
「結構前から。姫様に御守りももらってるから、問題ないぞ」
瑤迦と交流を持つようになり、俊哉はいつの間にか視える側にきていたようだ。あの家は、素質のある者が行くと、座敷童子達によってその力を解放されてしまう傾向があると失念していた。
「まったく……それで、じいさん。霊穴の方はどうだ?」
《おう。そのことで、お前に頼もうと思ってな》
「ん?」
少し嫌な予感がするのは、ニヤリと充雪が嬉しそうに笑ったからだ。これは、暴れられる機会を見つけた時の顔だった。
《俺をあっちに送ってくれ》
「……門を開けろと……? 場所もだが、日も悪いんだが?」
《だってよお。あっち側の奴を倒さんことには、閉じられんぞ》
「確認できたのか」
《ああ。鬼だな。ただ、半端者だ。どうにも人間臭い。あの鬼渡の女と同じだな》
あの海の見える別荘で高耶と対峙した純粋な鬼とは違う。人が混じった存在だと感じたようだ。
《アレはもう、自力ではこちら側へもあちら側へも行けん。あの狭間で邪魔するだけだ》
ならば、こちら側に引っ張ってこれば良いのではないかと思うが、こちら側への穴を開けられるのは現状困る。だから、充雪はあちら側で対処するつもりなのだ。
ついでにあちら側ならば実体を持ったようなものになるため、戦えるというわけである。
「……分かった。蒼翔さん。橘の力をお借りしたいんですが、可能でしょうか」
「えっと、霊門? を開くから、それを高耶くんごと結界で完全に隔離して欲しいってことだよね? え? 霊門が開けるの? 一人で!?」
当然だが、驚かれた。普通ではない。
「はい。あ、儀式は始めておいてくれ。瀬良も、誠くんも手順は大丈夫だよな」
「え、あ、うん。何十回と練習したから……」
「大丈夫です」
屋敷に閉じこもっているしか出来なかった瀬良姉弟。よって、過去の儀式を確認した高耶の指導の下、その練習を完全に体に覚え込ませるほどやらせていた。誠は補佐的な立場でお願いしている。
「少し俺はこの場からは離れる。何かあれば式が対応するようにしておくし、伶と津も居る。不安がらずやってくれ」
「分かった」
「分かりました」
この間、蒼翔が式で蓮次郎に連絡を取っており、橘の者を手配していた。どのみち霊穴の方は、お狐様のことと狭間に居る鬼渡らしき者の対処が終わらなければ手が出せない。
「すぐに戻る」
そうして、高耶は少しだけこの場を離れることになったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「おおっ。すげえ、祭壇っぽい」
俊哉の感想を聞きながら、瀬良姉弟も呆けるようにして感心を向ける。日常で、祭壇など見る機会などないだろう。
しかし、御身体はあるべき場所にまだ置かれていない。それには誰も触れていないのだ。能力者が触れるのが一番危ない。力を吸われたり、知らず渡してしまったりするため、暴走させる要因になる。
もちろん、こういった場合、完全に自分の力を遮ることのできる特別な部隊の手を借りる時もある。
「あれ? 黒子部隊呼ばなかったの?」
「安倍家の方の神事に駆り出されているので」
「ああ。神事だと全員持っていかれるね」
黒子部隊は少数精鋭。よって、手を割けない場合は多い。優先度の高いものに割り当てられるのが当然だ。
「因みに、高耶くんはあの部隊にも好かれてるの?」
「もって……いえ、接点がないので」
「もしかして、一度も?」
「はい」
高耶が黒子部隊に頼ったことは今まで一度もない。祭壇を作る場合でも、清掃部隊や神楽部隊が手配するため、呼んでも出会うことはない。
何よりの理由がこれだ。
《やろうと思えば、あいつらと同じこと出来るからな》
「じいさん……」
霊穴の様子を見てもらっていた充雪がフワリと頭上に現れた。
「おっ。この人が高耶のご先祖様か」
そう口にしたのは俊哉だ。しっかりと彼はその姿を視認している。これに改めて気付いて顔をしかめた。
「俊哉……お前、いつから視えてる……」
思えば、あの神木の神の姿も視えているようだった。式達は視えるようにしているので、これまで気にならなかったが、間違いなく視えるようになっている。
「結構前から。姫様に御守りももらってるから、問題ないぞ」
瑤迦と交流を持つようになり、俊哉はいつの間にか視える側にきていたようだ。あの家は、素質のある者が行くと、座敷童子達によってその力を解放されてしまう傾向があると失念していた。
「まったく……それで、じいさん。霊穴の方はどうだ?」
《おう。そのことで、お前に頼もうと思ってな》
「ん?」
少し嫌な予感がするのは、ニヤリと充雪が嬉しそうに笑ったからだ。これは、暴れられる機会を見つけた時の顔だった。
《俺をあっちに送ってくれ》
「……門を開けろと……? 場所もだが、日も悪いんだが?」
《だってよお。あっち側の奴を倒さんことには、閉じられんぞ》
「確認できたのか」
《ああ。鬼だな。ただ、半端者だ。どうにも人間臭い。あの鬼渡の女と同じだな》
あの海の見える別荘で高耶と対峙した純粋な鬼とは違う。人が混じった存在だと感じたようだ。
《アレはもう、自力ではこちら側へもあちら側へも行けん。あの狭間で邪魔するだけだ》
ならば、こちら側に引っ張ってこれば良いのではないかと思うが、こちら側への穴を開けられるのは現状困る。だから、充雪はあちら側で対処するつもりなのだ。
ついでにあちら側ならば実体を持ったようなものになるため、戦えるというわけである。
「……分かった。蒼翔さん。橘の力をお借りしたいんですが、可能でしょうか」
「えっと、霊門? を開くから、それを高耶くんごと結界で完全に隔離して欲しいってことだよね? え? 霊門が開けるの? 一人で!?」
当然だが、驚かれた。普通ではない。
「はい。あ、儀式は始めておいてくれ。瀬良も、誠くんも手順は大丈夫だよな」
「え、あ、うん。何十回と練習したから……」
「大丈夫です」
屋敷に閉じこもっているしか出来なかった瀬良姉弟。よって、過去の儀式を確認した高耶の指導の下、その練習を完全に体に覚え込ませるほどやらせていた。誠は補佐的な立場でお願いしている。
「少し俺はこの場からは離れる。何かあれば式が対応するようにしておくし、伶と津も居る。不安がらずやってくれ」
「分かった」
「分かりました」
この間、蒼翔が式で蓮次郎に連絡を取っており、橘の者を手配していた。どのみち霊穴の方は、お狐様のことと狭間に居る鬼渡らしき者の対処が終わらなければ手が出せない。
「すぐに戻る」
そうして、高耶は少しだけこの場を離れることになったのだ。
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