秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
201 / 412
第五章 秘伝と天使と悪魔

201 巻き込みます

しおりを挟む
誠が高耶を不思議そうに見る。最初に見た寝ぼけたままのようなぼんやりした様子は全く見られない。

「何か気になることがありましたか?」
「っ……」

声をかければ、高耶と俊哉の間に目線を彷徨わせる。しかし、意を決したように口を開いた。警戒しているわけではないらしい。

「呼ばれてるって……学園のこととか……由姫先輩のことをなんで知ってるんですか?」

これに、蓮次郎が先に反応した。

「え? ユキって、由姫家の? そういえば、双子がって……あそこの子、あの学園に通ってるの?」
「ええ。伶と津が。力の制御を気にして、あそこに入ったんです。ただ、高校は別の所にと家から言われているようですけど」
「中学受験してまた高校受験とか、大変だねえ」

完全に他人事ではあるが、少しは気の毒そうにしてやってほしい。本人たちが居なくてよかった。

そんな話の最中、俊哉が誠へ説明してくれていた。

「だから、由姫の双子は高耶達側なんだよ。そういう家系の人だ」
「そう、だったんですね……なら、それで知ってコレ……」
「ん? なんだ? もしかしてそのピアス、由姫の双子にもらったん?」
「もらったわけじゃないんですけど……腕輪やお守りじゃなくてピアスにしろって、勧められて……穴を空けてくれたのもお二人に……」
「へえ……だってよ」
「……あいつら……」

恐らく、気付いていてそれを勧めたのだ。高耶はイラッとしながら蓮次郎は目を向ける。こちらも少し引っかかりを覚えたようだ。

「その二人、実戦投入は?」
「昨年から少しずつ始めてましたが、今は受験を控えているので……」
「ふ~ん」

その場合どうしようかなと蓮次郎は頬杖を突き、もう片方のテーブルに置いた指の爪をカツカツと鳴らす。不満そうなその表情を見て、高耶も決めた。

「ただ、だからと言って、毎日真面目に勉強するような奴らじゃありません。何事も実践は必要かと」
「だよね! よし、やらせよう。今度の土日で構わないし、社会勉強は必要だよね! 由姫家へは高耶くんが……」
「安倍御当主にお願いしておきます」

間髪入れずに答えた高耶に、蓮次郎は目を瞬かせた。そして、納得する。

「高耶くん……由姫家に狙われてる?」
「……」

目をそらした。それでも蓮次郎は真っ直ぐに見つめて問いかけてくる。

「襲われた?」
「……お陰で若干未だに女性恐怖症ですよ……」

正直に答えた高耶に、蓮次郎は爆笑した。

「あははははっ。幾つの時に襲われたのさっ。なにそれっ。もう、うん……絶対にあの家の女は今後一切、高耶くんに近付けないから安心して」
「……お願いします……」
「うんうん。お義父様に任せなさいっ」
「……」

笑いがいつの間にか黒くなったが、どうやら守ってくれるらしい。だが、最後のはどう反応すべきかわからなかった。

「さてと。とりあえず、君たちの家の問題は週末の土日に解決しよう。それで確認だけど、お狐様との契約はどうする?」
「え?」

確認されたいづきと瀬良の両親は困惑する。口を開いたのはいづきだ。

「それは、このまま継続することも可能だということですか?」
「もちろん。リスクを理解した上で契約を続行するということは可能だよ。ただ、何度も我々も手を貸したりしない。お狐様関係は面倒だし、何より、自分達で撒いた種だ。それに最後まで責任を取れないってのはね……我々の世界では許せることじゃない」

何百年と能力を継承し、引き継ぐことを誇りとして生きるのが蓮次郎達だ。

こういったお狐様関係はいわば、危ないよと忠告したにも関わらず、素人がこちら側に片足を突っ込んだようなもの。半端に手を出して、手に負えなくなったから助けてくれと言われて助けてやる義理はない。

「で? どうする?」

改めて問われても、答えなど決まっているだろう。

いづきは瀬良の両親と三人で目を合わせて頷き合う。そうして口を開いた。

「継続はしません。お願いします」
「うん。そっちの子達もそれでいいかな?」

次に問いかけたのは智世と誠へだ。

「え? 私?」
「お願いします!」

誠は立ち上がって頭を下げた。これに智世は目を丸くする。

「マコ?」
「僕は……もう逃げたくないんです。視えることからも……あの狐からもっ」
「マコ……」
「あれは……人がどうにかできるものじゃないです……っ」

誠は震えていた。そんな誠の肩へ高耶が手を置いた。

「落ち着いて。大丈夫だ」
「っ、僕は……っ、す、すみません……っ、すみません……っ」

震えて涙を流す誠に、高耶はしっかりと熱が伝わるように触れる。

「瀬良と、君はしばらくここに滞在してもらうことになる。ここにいれば安全だ」
「っ、ほ、本当に……っ、本当に、あの夢……夢も見ませんかっ?」
「ああ」
「よかっ……よかった……っ、ぅっ……っ」
「マコ……」
「誠……」

ずっと、彼は一人で耐えていたのだと知って、智世や母親だけでなく、父親も気まずげに誠へと歩み寄っていった。

「誠……気付かなくて、すまなかった」

そう口にした父親は、高耶と蓮次郎へ深々と頭を下げた。

「よろしくお願いします」

彼も受け入れたのだ。

「仕方ないね。なんとかするよ」
「なんとかします」
「ありがとうございます……」

高耶も蓮次郎も任せてくれとは言わない。それが気になったのは、首を傾げた俊哉だけだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 547

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

処理中です...