187 / 405
第五章 秘伝と天使と悪魔
187 休日デート
しおりを挟む
夏休みの大半を仕事で留守にしていた高耶は、小学生の夏休みの最終日。危機に立たされていた。
「ゆ、優希……っ」
「っ、うっ、うっ、だ、だって、お兄ちゃんっ、お、おしごとだって、わかってるけどっ、うわぁぁぁん」
「ちょっ、優希っ、ごめん。分かった。今日は一緒に出かけようっ。な? 公園か? 遊園地か? 買い物か?」
大学はまだひと月近く休みだ。だが、小学生である優希には最後の一日。そこまで高耶は全くと言っていいほど家族で過ごすことが出来なかったのだ。
優希にとっては許せなかったようだ。
「うっ、うっ、お、おかいもの……」
「買い物か……」
予想外だった。
どうやら、優希にとっては瑶迦の所が公園や遊園地の代わりになっているようなのだ。そんな場所より楽しいとのこと。
確かに、高耶が帰って来なかった間に、あの瑶迦が作った世界には、大きな遊園地が出来ていたのだ。観覧車なんて設計上無理だろうと思えるような大きさになっていた。
というか、その観覧車の頂点でも乗り降りでき、雲の上の王国として、空飛ぶ城への入り口にしていたのだ。
子ども達は大喜びで通ったらしい。
そんなものが手近に、それも常に貸し切り状態であれば、他などどうでも良くなるだろう。
「ひゃっかてん! 『北海道物産展』! さいごの日なの!」
「最後……ああ、最終日か」
優希は、テーブルに広げられていたチラシを引っ掴んで見せてきた。そして、その一つを指差す。
「ここ! ケーキ! バイキング!」
「……天柳と行くか?」
「お兄ちゃんといくの!! これ、男女ペアでやすくなる!」
「……誰だここまで読み込ませたやつ……」
教えた奴は誰だと少しイラついた。
「……わかった。なら行くか」
「うん! ムクちゃん、いくよー!」
《むむ~。おでかけ~♪》
高耶のつけた優希専属の護衛式。クマのぬいぐるみであるムクは、随分と喋れるようになったようだ。何より、仲良くやっていた。
ムクは、珀豪に作ってもらったという斜めがけのフリル付きの可愛らしい優希のポーチを掲げて持ってきた。
《カバン!》
「ありがとうムクちゃん」
優希が受け取り、カバンをかける。すると、ムクはそのポケットに小さくなって自分で入り込む。ちょっとジタバタする仕草は可愛い。
「駅の隣の図書館まで扉を繋げるぞ」
「は~い」
《む~》
もう優希も扉には慣れてしまったようだ。素早く何事もなかったように扉から出て、百貨店のある駅に向かうのも慣れたものだ。
最終日。それも、夏休みも最終日ということで、人の多さを警戒していたが、それほどでもなかった。
「バイキングは……あそこか」
「いこ!」
優希に手を引かれながらそこへ向かった。
正式な店ではなく、仮テナントなので、店構えなどにためらうような可愛らしさはなかったのはいい。
「あっちのラーメン美味そうだな……」
非常に、隣のラーメンが気になった。
「もうっ。ラーメンはあと! まずケーキ!」
「お、おう」
後で寄ってもいいらしい。それならばとその店のベースに向かった。
「あ、あれ? シュンヤお兄さんだ。デート?」
「……俊哉だな……」
そこに居たのは、俊哉と同じ年頃の女性が二人。二人だった。俊哉もこちらに気付いたらしい。
「ん? うおっ。高耶じゃん! やっほー!」
「……」
相変わらず賑やかだ。
「お、優希ちゃんも一緒か。なに? デート?」
「うん! 今日のお兄ちゃんはわたしのなの」
「へえっ。良かったなあ」
隣の席に座ることになった。ここは、バイキングといっても、注文制らしい。いくつか注文した後、優希が俊哉へ確認した。
「シュンヤお兄さん……ふたまた? よくないよ?」
「っ、ぐふっ! ちょっ、優希ちゃん!?」
普通にむせる俊哉を、優希は真っ直ぐ見つめる。この瞳には勝てないだろう。
だが、俊哉が弁明するより先に、女性達が笑った。
「あはははっ。ふたっ、二股って、和泉がそんなモテるわけないって」
「やっぱり女の子ってこういうの知るの早いわよね」
「あれ? っていうか……蔦枝くん?」
「うわっ、そうじゃん? ってか、かっこよくない!?」
「……」
こういう女性、高耶は苦手だ。だが、どうやら自分を知っているらしい。
「私のこと覚えてない? ほら、時島先生のクラスで一緒だった瀬良智世」
「同じく、伊原久美だよ」
「……悪い……」
正直に記憶にないと申告した。小学生の頃は、それこそ修行で手一杯だったのだから。
「そっかあ。けど、うん。なんとなくそんな気がしてた。蔦枝くん、浮いてたもんね」
「……」
浮いていたと言われて、どう反応すればいいのか。
「あのね~。和泉とは、さっきそこで会ったの。もう一人和泉の友達がいたんだけど、今は外で買い物中みたい。男二人、女二人ならせっかくだしって誘ったんだ。安くなるしね」
「そうか……」
この二人の女子に使われたようだ。まあ、俊哉は嫌そうではないので問題ないだろう。寧ろ、ケーキが食べられてラッキーと思ってそうだ。
俊哉は案外、甘い物好きなのだ。
「それでさあ、話してたんだけど、今度同窓会しない?」
「同窓会?」
「そう! 和泉が時島先生と連絡取れるって聞いてね」
「そうか……」
「ね? どう?」
「いや、どうと言われても……まあ、時島先生が来るなら行きたいが……予定がな」
「バイト? 大学はまだ休みでしょ?」
普通の大学生ならば、予定といえば大半はバイトだろう。だが、高耶は違う。それを知っている俊哉が口を挟む。
「高耶は忙しいぞー。俺と遊ぶ時間もないほどな」
「わたしとデートもできないくらいねー」
「「ねー」」
「……」
俊哉と優希が二人で責めてくる。
「え~。何してんのよ」
「働いてるとか?」
「……家の問題だ」
「ふぅん。そういえば、蔦枝くんって小学校の頃も、遊びの約束断ってたよね」
「そうそう。感じ悪いって言われてたよ」
「そうか」
あまり気にしていない。やるべきことのためなのだ。仕方ないだろう。
その時だ。
ジリリリリリ!
警報音が鳴り響いたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「ゆ、優希……っ」
「っ、うっ、うっ、だ、だって、お兄ちゃんっ、お、おしごとだって、わかってるけどっ、うわぁぁぁん」
「ちょっ、優希っ、ごめん。分かった。今日は一緒に出かけようっ。な? 公園か? 遊園地か? 買い物か?」
大学はまだひと月近く休みだ。だが、小学生である優希には最後の一日。そこまで高耶は全くと言っていいほど家族で過ごすことが出来なかったのだ。
優希にとっては許せなかったようだ。
「うっ、うっ、お、おかいもの……」
「買い物か……」
予想外だった。
どうやら、優希にとっては瑶迦の所が公園や遊園地の代わりになっているようなのだ。そんな場所より楽しいとのこと。
確かに、高耶が帰って来なかった間に、あの瑶迦が作った世界には、大きな遊園地が出来ていたのだ。観覧車なんて設計上無理だろうと思えるような大きさになっていた。
というか、その観覧車の頂点でも乗り降りでき、雲の上の王国として、空飛ぶ城への入り口にしていたのだ。
子ども達は大喜びで通ったらしい。
そんなものが手近に、それも常に貸し切り状態であれば、他などどうでも良くなるだろう。
「ひゃっかてん! 『北海道物産展』! さいごの日なの!」
「最後……ああ、最終日か」
優希は、テーブルに広げられていたチラシを引っ掴んで見せてきた。そして、その一つを指差す。
「ここ! ケーキ! バイキング!」
「……天柳と行くか?」
「お兄ちゃんといくの!! これ、男女ペアでやすくなる!」
「……誰だここまで読み込ませたやつ……」
教えた奴は誰だと少しイラついた。
「……わかった。なら行くか」
「うん! ムクちゃん、いくよー!」
《むむ~。おでかけ~♪》
高耶のつけた優希専属の護衛式。クマのぬいぐるみであるムクは、随分と喋れるようになったようだ。何より、仲良くやっていた。
ムクは、珀豪に作ってもらったという斜めがけのフリル付きの可愛らしい優希のポーチを掲げて持ってきた。
《カバン!》
「ありがとうムクちゃん」
優希が受け取り、カバンをかける。すると、ムクはそのポケットに小さくなって自分で入り込む。ちょっとジタバタする仕草は可愛い。
「駅の隣の図書館まで扉を繋げるぞ」
「は~い」
《む~》
もう優希も扉には慣れてしまったようだ。素早く何事もなかったように扉から出て、百貨店のある駅に向かうのも慣れたものだ。
最終日。それも、夏休みも最終日ということで、人の多さを警戒していたが、それほどでもなかった。
「バイキングは……あそこか」
「いこ!」
優希に手を引かれながらそこへ向かった。
正式な店ではなく、仮テナントなので、店構えなどにためらうような可愛らしさはなかったのはいい。
「あっちのラーメン美味そうだな……」
非常に、隣のラーメンが気になった。
「もうっ。ラーメンはあと! まずケーキ!」
「お、おう」
後で寄ってもいいらしい。それならばとその店のベースに向かった。
「あ、あれ? シュンヤお兄さんだ。デート?」
「……俊哉だな……」
そこに居たのは、俊哉と同じ年頃の女性が二人。二人だった。俊哉もこちらに気付いたらしい。
「ん? うおっ。高耶じゃん! やっほー!」
「……」
相変わらず賑やかだ。
「お、優希ちゃんも一緒か。なに? デート?」
「うん! 今日のお兄ちゃんはわたしのなの」
「へえっ。良かったなあ」
隣の席に座ることになった。ここは、バイキングといっても、注文制らしい。いくつか注文した後、優希が俊哉へ確認した。
「シュンヤお兄さん……ふたまた? よくないよ?」
「っ、ぐふっ! ちょっ、優希ちゃん!?」
普通にむせる俊哉を、優希は真っ直ぐ見つめる。この瞳には勝てないだろう。
だが、俊哉が弁明するより先に、女性達が笑った。
「あはははっ。ふたっ、二股って、和泉がそんなモテるわけないって」
「やっぱり女の子ってこういうの知るの早いわよね」
「あれ? っていうか……蔦枝くん?」
「うわっ、そうじゃん? ってか、かっこよくない!?」
「……」
こういう女性、高耶は苦手だ。だが、どうやら自分を知っているらしい。
「私のこと覚えてない? ほら、時島先生のクラスで一緒だった瀬良智世」
「同じく、伊原久美だよ」
「……悪い……」
正直に記憶にないと申告した。小学生の頃は、それこそ修行で手一杯だったのだから。
「そっかあ。けど、うん。なんとなくそんな気がしてた。蔦枝くん、浮いてたもんね」
「……」
浮いていたと言われて、どう反応すればいいのか。
「あのね~。和泉とは、さっきそこで会ったの。もう一人和泉の友達がいたんだけど、今は外で買い物中みたい。男二人、女二人ならせっかくだしって誘ったんだ。安くなるしね」
「そうか……」
この二人の女子に使われたようだ。まあ、俊哉は嫌そうではないので問題ないだろう。寧ろ、ケーキが食べられてラッキーと思ってそうだ。
俊哉は案外、甘い物好きなのだ。
「それでさあ、話してたんだけど、今度同窓会しない?」
「同窓会?」
「そう! 和泉が時島先生と連絡取れるって聞いてね」
「そうか……」
「ね? どう?」
「いや、どうと言われても……まあ、時島先生が来るなら行きたいが……予定がな」
「バイト? 大学はまだ休みでしょ?」
普通の大学生ならば、予定といえば大半はバイトだろう。だが、高耶は違う。それを知っている俊哉が口を挟む。
「高耶は忙しいぞー。俺と遊ぶ時間もないほどな」
「わたしとデートもできないくらいねー」
「「ねー」」
「……」
俊哉と優希が二人で責めてくる。
「え~。何してんのよ」
「働いてるとか?」
「……家の問題だ」
「ふぅん。そういえば、蔦枝くんって小学校の頃も、遊びの約束断ってたよね」
「そうそう。感じ悪いって言われてたよ」
「そうか」
あまり気にしていない。やるべきことのためなのだ。仕方ないだろう。
その時だ。
ジリリリリリ!
警報音が鳴り響いたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
126
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる