秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
184 / 403
第四章 秘伝と導く音色

184 胡散臭いですよね

しおりを挟む
鬼と対峙してから一週間が経った。

あれから土地神も見つけ、力も安定させた。未だ守護範囲の土地全てに加護は届いていないが、順調に力を付けつつある。ようやく霊穴を閉じる目処も立ち、ほっとした所だ。

この間、鬼渡薫きどかおるも救出された。だが、かなり衰弱しているらしく、目を覚ます兆候が見られないらしい。連盟で厳重に監視され、治療を受けているという。

今日は、別荘で今回の件についての説明をこの家の持ち主である霧矢修きりやしゅうにすることになっていた。

別荘の状態も見たいということで、修の付き添いとして稲船陽いなふねよう野木崎仁のぎさきひとしもやって来ている。

三人がソファに座ると、向かいに橘蓮次郎と高耶が座った。

「はじめまして。『幻幽会』首領の橘蓮次郎と申します」

『幻幽会』という表向きの名前を使うのは、こういう時くらいだろう。高耶達は昔の名残りから、連盟と口にするが、組織としての正式名称は『幻幽会』となっている。

陰陽師や魔術師達が手を組んだ連盟としての発足で、『幻幽会連盟』とした方が怪しまれずに済むという意見もあったのだが、怪しがられて何が悪いと開き直った結果がこれだった。

「……は、はい……」

修が不安そうに顔をしかめる。これは『幻幽会』と聞いての正しい反応だ。たいてい、怪しい宗教団体だという印象になる。

「ふふ。すみません。怪しいでしょうが、まあ、高耶君の同僚だと思っていただければ結構です」
「あ、はい。なるほど。首領……ですし、上司? の方で……」

首領というのもおかしいだろうが、それも昔からの名残りなので仕方がない。

修の言葉に、蓮次郎はクスクスと笑って否定する。

「いえ、九人の首領によって陰陽師は束ねられています。九人の内の一人が私であり、高耶君なのです」
「……高耶君も……そう……でしたか。お若いのに高耶君はしっかりしていますしね」
「そうなのです。我々大人の出る幕が無くて困っていますよ。中々頼ってもらえなくて」
「なるほど。それほど長い付き合いではありませんが、高耶君らしいと思えてしまいますね」
「そうでしょう?」

なぜか意気投合しだした。高耶は内心首を捻る。だが、距離感は縮まったので良しとしよう。

「では、説明いたします」

そうして、蓮次郎はことの経緯を話し出す。こちらが管理すべきものであったと謝罪し、以後は安全になったと説明した。

「建物に問題はなくなりましたが、解体する場合は、こちらの業界から業者を派遣させていただくことになります。大元の所は排除されていますが、まだ何があるか分かりません。最後まで浄化もした上でお引き渡しさせていただきたい」

このまま壊しても、不吉な事故などが起きるということはないだろう。だが、奥は社があるはず。そして、墓となっていたはずなのだ。

「いくら隠し部屋の下であるとはいえ、家の下に墓があるのは気分の良いものではないでしょう」
「確かにそうですね……あなた方にお任せすれば、後々の心配もなくなると……分かりました。野木崎さん、リフォームがやり辛いと言っていましたよね」

建築家である仁の見立てでは、柱が立つ場所一つ取っても、リフォームするには面倒な状態らしい。

「ああ。意味不明な場所に柱があり過ぎる。リフォームは出来れば遠慮したい」
「野木崎さんは建築家だそうです」

そう高耶が蓮次郎に告げると、蓮次郎は納得した。

「そうでしたか。この家は、奥のものを封じるために我々の業界の建築士が設計したものです。柱や梁一つ一つに意味があるのですよ。ただ、一般的な建築士の方から見ると『なってない家』となるらしいですが」
「わざとなんですね。いやあ、申し訳ない。どこの素人が建てたのかと思ってしまったもので」
「いえいえ。理解されないのが普通ですよ。お気になさらず」

こちらの業界の特別な建築士達は、いちいちそんな言葉に気持ちを左右されるようなまともな人ではない。



『え? なになに? コレの良さが分かんねえの? ぷぷっ。この凄さが分かんねえの? ぷぷっ。これだから芸術的センスもないヤツはダメだよね~』



これを普通に達喜とかの前で言う。そしてぶっ飛ばされる。そのあと、痛みで『閃いた! オレっち天才!』とか叫んで部屋に引き籠る。

変人さんだ。連盟の中でも癖が強い方なので仕方がない。

「では、こちらで更地にするということでよろしいですか? もちろん、費用はこちらで待ちます」
「え? いえ、そんなっ」

修がそれではいけないと慌てる。仁と陽も目を丸くしていた。

「ご迷惑をおかけしたのです。当然です。なんでしたら、新しい建物の費用も半分まではお出しできますよ?」
「……へ? な、なぜそんなことに?」

不思議に思うのは当然だ。

「ここは、この地の土地神の加護が一番強い土地となりました。我々がここを更地にして清めることで、土地神はまた力を増すでしょう。そうして、この地に建てられた家に住む者にも強い守護がかけられます」

神に恩を売るというのは言い方が悪いが、印象を良くすることは、術者達にとって必要なことなのだ。だからこそ、最大限サポートする。

「恐らく、年老いた者ならば寿命が延びましょう。若い方ならば良縁に恵まれます。ですから、長く保つ良い家が建つのを我々は願います」
「……」

修は興奮していた。もちろん、仁や陽もだ。そんな幸せが約束された家など聞いたことがない。

「本来ならば、こういった場所には、我々の業界の者が住みます。ここにその分家があったのもそれがあったからでしょう。土地神が存在する限り、一族繁栄が約束された地となるのですから」

麻谷家が絶えたのは、土地神が消えたためだ。それだけ加護の強い場所だった。

「そのような土地に……私が住んでもよろしいのでしょうか……」
「我々が選ぶものではありません。これも縁です。ですが、そうですね……一つだけお願いを聞いていただけますか? それで解体費、お祓い代の全額と建築代の半分を全て負担させていただきます」
「……そ、それは……」

下手なセールスのようで、修が気の毒だった。何度か高耶の方に視線が寄こされる。それに、高耶は笑って頷いてみせた。

「……何をすればよろしいですか?」

修は覚悟を決めたらしい。

「ふふ。大丈夫です。あなたの専門分野ですよ。ただ……ピアノを弾いていただければ良いのです」
「え? ピアノ……ですか?」

まったく関係ないような、そんなお願いだったことに修は驚いた。そんな修に嘘くさい笑いを向けて、蓮次郎は告げた。

「ええ。この地に住んでいた『風鳴りの耳』を持った者が作った曲を土地神に奉納するだけです」
「「「えぇ!?」」」

奉納と言われて修が驚きの声を上げるのは、予想していなかった仁や陽と同時だった。

************
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

処理中です...