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第四章 秘伝と導く音色
180 方針は一応決まりました?
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高耶自身、報告を聞いて先に鬼をどうにかすべきではないかと考えてはいた。
何より、このままでは高耶は動けない。だが、一つ問題もあった。
それを口にしたのは、一歩前に出た常盤だ。
《発言をお許しいただいてもよろしいでしょうか》
「なんや。礼儀正しい式やねえ……構へんよ」
式神は基本、主人にしか従わない。だが、常盤はこの場の代表である焔泉に確認を取った。そもそも、式神は人の区別がつけにくいらしいのだ。主かそうでないかの区別しかできない。知性、知能があっても判別できないのが普通なのだ。
主人に命じられたら個人を覚えられるが、下位の式だとそれも難しいという。
だが、高耶の式神達は全員が当たり前のように個を区別できる。それは高位のものである証であり、喚び出した者の力量によるものが大きい。
焔泉が驚いたのは、それがはっきりと認識できてしまったためだ。少し考えれば分かっただろう。よく側にいた珀豪も、きちんと焔泉達を一人一人認識していた。それが当たり前のようになっていたことに、今気付いたのだ。
《失礼。主には、今回のように土地神が未だ不安定な場所での活動は控えていただいております。もし、鬼と相対されるようでしたら、皆様には戦いの場に結界を全力で張っていただく必要があるでしょう》
「……なぜやの?」
《『瑶姫』》
「っ、なるほど……」
焔泉だけでなく、達喜や蓮次郎も『瑶姫』という単語だけで察した。瑶迦が土地神となってしまった経緯については、連盟にも上がっている。
ではと、蓮次郎が尋ねた。
「もし、鬼と戦うとなれば、どの辺りがよろしいかお分かりになりますか?」
常盤を高位の存在と認め、蓮次郎は丁寧に常盤へ確認した。
《この庭ならばまだいいでしょう。神とも少し繋がっています。まったく力の届いていない場所ではいけません》
「空白になっている場所がダメということですね」
《はい。それと同時に聖域の保護も必要でしょう。そちらは……主》
常盤が高耶へ少しだけ頭を下げる。
「ああ……果泉か」
《は~い♪》
待っていたかのように、綺翔の背に跨った果泉が右手を元気よく上げて登場した。
《おしごと?》
綺翔に乗って、高耶の隣まで来た果泉。その頭を撫でて高耶は目元を和ませる。
「俺が仕事をしている間、ここの土地神を守ってくれるか?」
《うん! 元気になるおまじないもするー》
「……そうだな。頼もうか」
《は~い!》
高耶は少し考えた。果泉の能力は、はっきりいって底が見えない。だが、常盤が大丈夫だと保証しているようなのだ。ならば出来るのだろう。
そう考えながら常盤へ目を向けると胸に手を当てて頷いた。
《果泉に聖域を安定させます》
「……分かった。お前が補佐につくか?」
《私は主のお側に》
《私が果泉といる……力の相性も良いから……》
綺翔が完全には納得できないようだが、やると宣言した。
「頼むぞ、綺翔」
《ん!》
途端にやる気が出たようだ。
《いこー、綺翔お姉ちゃん!》
《行く……落ち着いたら戻る》
「無理するなよ」
二人は森の方へ消えて行った。
「のお、高坊……あの小さいのは樹精かや? 見たことも、感じたこともない者だったなあ」
焔泉の言葉に、達喜達も同意した。唯一、果泉のことを知っているのは源龍だけだ。
高耶はここで言わないのもと思い、正直にも話すことにした。
「……仙桃樹の樹精です」
「……仙……」
「は?」
「はあ……」
息を詰まらせる焔泉。達喜は呆け、蓮次郎はもう何を聞いても驚けないと思考を半ば放棄していた。
「何か分かんないけど、すごそうっ。さすが高耶くん!」
「はっはっはっはっ。恐れ入りましたぞ、御当主! 伝説の存在を式になさるとは!」
「素晴らしいねえ。これも御当主だからこそでしょう」
迅はいつも通り、褒め称える。清掃部隊の代表と神楽部隊の伊調は笑いながら肯定。
特に後者の反応を見てしまうと、隠そうかどうしようかと一瞬でも悩んだ自分がバカバカしくなる。
「はあ~……高坊にはほんまに驚かされるわ……さすがに、もう出し惜しみしとるもんは秘伝の技以外はないやろなあ」
「……恐らく?」
どうだろうか。微妙に断言できない。
源龍がすっと目を逸らしたのが証拠だ。もうこの際だとぶちまけることにした。後でとか面倒くさいというのが少しある。
「あ、義妹が神子のようです。登録の書類、待機している間に用意してもいいですか?」
「……特大のが来たわ……」
「……マジか……コレはあれか? 引きが強いとかいうやつか?」
焔泉は頭を抱えた。達喜はもう笑い出しそうだ。そんな中、蓮次郎は少し動揺していた。その理由は恐らく、後見している神子が居るからだろう。
「高耶くん……その子、今どこに? 一般的な家庭に置いておくのは危険ですよ?」
「護衛をつけました。問題はないかと」
「神子に? 護衛? 神子を外に出すのは危険ですよ?」
「はい。なので、護衛です」
「……」
「ん?」
高耶は首を傾げて見せる。微妙に噛み合っていないのは分かっていた。折れたのは蓮次郎だ。それも、何故か弱ったような表情から、突然キリリとした。
「分かりました。今回の件が片付いたら、お宅にお邪魔します」
「はあ……分かりました。一度義妹には会ってもらいたかったので」
「待ってもらえるかえ?」
焔泉が割って入る。
「神子の後見のためやろ? なら、橘やのおてええよなあ」
「そうだよな? ってか、橘んとこは一人居るだろ一族に。そこにもう一人は無理だろ」
「あの……後見だけで優希の面倒は家で見るので……後日決めていただければ結構です」
「……分かりました。では、後日、お宅には伺います!」
「……はい……」
この後、焔泉や達喜も来ると宣言し、一応この場はおさまった。
そして次の日。
鬼と対峙する時がやって来た。
************
読んでくださりありがとうございます◎
何より、このままでは高耶は動けない。だが、一つ問題もあった。
それを口にしたのは、一歩前に出た常盤だ。
《発言をお許しいただいてもよろしいでしょうか》
「なんや。礼儀正しい式やねえ……構へんよ」
式神は基本、主人にしか従わない。だが、常盤はこの場の代表である焔泉に確認を取った。そもそも、式神は人の区別がつけにくいらしいのだ。主かそうでないかの区別しかできない。知性、知能があっても判別できないのが普通なのだ。
主人に命じられたら個人を覚えられるが、下位の式だとそれも難しいという。
だが、高耶の式神達は全員が当たり前のように個を区別できる。それは高位のものである証であり、喚び出した者の力量によるものが大きい。
焔泉が驚いたのは、それがはっきりと認識できてしまったためだ。少し考えれば分かっただろう。よく側にいた珀豪も、きちんと焔泉達を一人一人認識していた。それが当たり前のようになっていたことに、今気付いたのだ。
《失礼。主には、今回のように土地神が未だ不安定な場所での活動は控えていただいております。もし、鬼と相対されるようでしたら、皆様には戦いの場に結界を全力で張っていただく必要があるでしょう》
「……なぜやの?」
《『瑶姫』》
「っ、なるほど……」
焔泉だけでなく、達喜や蓮次郎も『瑶姫』という単語だけで察した。瑶迦が土地神となってしまった経緯については、連盟にも上がっている。
ではと、蓮次郎が尋ねた。
「もし、鬼と戦うとなれば、どの辺りがよろしいかお分かりになりますか?」
常盤を高位の存在と認め、蓮次郎は丁寧に常盤へ確認した。
《この庭ならばまだいいでしょう。神とも少し繋がっています。まったく力の届いていない場所ではいけません》
「空白になっている場所がダメということですね」
《はい。それと同時に聖域の保護も必要でしょう。そちらは……主》
常盤が高耶へ少しだけ頭を下げる。
「ああ……果泉か」
《は~い♪》
待っていたかのように、綺翔の背に跨った果泉が右手を元気よく上げて登場した。
《おしごと?》
綺翔に乗って、高耶の隣まで来た果泉。その頭を撫でて高耶は目元を和ませる。
「俺が仕事をしている間、ここの土地神を守ってくれるか?」
《うん! 元気になるおまじないもするー》
「……そうだな。頼もうか」
《は~い!》
高耶は少し考えた。果泉の能力は、はっきりいって底が見えない。だが、常盤が大丈夫だと保証しているようなのだ。ならば出来るのだろう。
そう考えながら常盤へ目を向けると胸に手を当てて頷いた。
《果泉に聖域を安定させます》
「……分かった。お前が補佐につくか?」
《私は主のお側に》
《私が果泉といる……力の相性も良いから……》
綺翔が完全には納得できないようだが、やると宣言した。
「頼むぞ、綺翔」
《ん!》
途端にやる気が出たようだ。
《いこー、綺翔お姉ちゃん!》
《行く……落ち着いたら戻る》
「無理するなよ」
二人は森の方へ消えて行った。
「のお、高坊……あの小さいのは樹精かや? 見たことも、感じたこともない者だったなあ」
焔泉の言葉に、達喜達も同意した。唯一、果泉のことを知っているのは源龍だけだ。
高耶はここで言わないのもと思い、正直にも話すことにした。
「……仙桃樹の樹精です」
「……仙……」
「は?」
「はあ……」
息を詰まらせる焔泉。達喜は呆け、蓮次郎はもう何を聞いても驚けないと思考を半ば放棄していた。
「何か分かんないけど、すごそうっ。さすが高耶くん!」
「はっはっはっはっ。恐れ入りましたぞ、御当主! 伝説の存在を式になさるとは!」
「素晴らしいねえ。これも御当主だからこそでしょう」
迅はいつも通り、褒め称える。清掃部隊の代表と神楽部隊の伊調は笑いながら肯定。
特に後者の反応を見てしまうと、隠そうかどうしようかと一瞬でも悩んだ自分がバカバカしくなる。
「はあ~……高坊にはほんまに驚かされるわ……さすがに、もう出し惜しみしとるもんは秘伝の技以外はないやろなあ」
「……恐らく?」
どうだろうか。微妙に断言できない。
源龍がすっと目を逸らしたのが証拠だ。もうこの際だとぶちまけることにした。後でとか面倒くさいというのが少しある。
「あ、義妹が神子のようです。登録の書類、待機している間に用意してもいいですか?」
「……特大のが来たわ……」
「……マジか……コレはあれか? 引きが強いとかいうやつか?」
焔泉は頭を抱えた。達喜はもう笑い出しそうだ。そんな中、蓮次郎は少し動揺していた。その理由は恐らく、後見している神子が居るからだろう。
「高耶くん……その子、今どこに? 一般的な家庭に置いておくのは危険ですよ?」
「護衛をつけました。問題はないかと」
「神子に? 護衛? 神子を外に出すのは危険ですよ?」
「はい。なので、護衛です」
「……」
「ん?」
高耶は首を傾げて見せる。微妙に噛み合っていないのは分かっていた。折れたのは蓮次郎だ。それも、何故か弱ったような表情から、突然キリリとした。
「分かりました。今回の件が片付いたら、お宅にお邪魔します」
「はあ……分かりました。一度義妹には会ってもらいたかったので」
「待ってもらえるかえ?」
焔泉が割って入る。
「神子の後見のためやろ? なら、橘やのおてええよなあ」
「そうだよな? ってか、橘んとこは一人居るだろ一族に。そこにもう一人は無理だろ」
「あの……後見だけで優希の面倒は家で見るので……後日決めていただければ結構です」
「……分かりました。では、後日、お宅には伺います!」
「……はい……」
この後、焔泉や達喜も来ると宣言し、一応この場はおさまった。
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