秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
169 / 403
第四章 秘伝と導く音色

169 まずいのは同意します

しおりを挟む
迅が居るのはまあ予想していた。だが、電話をくれた達喜が居ることと、焔泉が居るとはまず考えていなかった。

「なんで……」

どうしてここにと尋ねる間に、達喜も焔泉も扉を潜り、こちら側へ出てくる。そんな二人に、エリーゼがスリッパまで用意していた。

「ほぉ、ようできた式や。ん? 屋敷精霊か?」
「マジ? 俺、屋敷憑き初めて見るわ。ってか、主人が居るのか?」

屋敷精霊、屋敷憑きと呼ばれるのは、家守りの最高位。こうして人と変わらない様子で姿を見せることが可能で、大きな屋敷のメイドや女中として働く。

主人以外の記憶にはあまり残らないという不思議ちゃんだ。

焔泉達が注目する中、エリーゼは最後に出てきた迅にもスリッパを用意して、美しく一礼していた。静かに控える様子は、先ほどとは全く違う。

「本当に高耶くんって凄いよね……家守りを仮契約で屋敷精霊にまでしてしまうんだから……」
「「仮契約!?」」
「え、ええ……」

達喜と焔泉に詰め寄られ、高耶は仰反のけぞる。

「奥に居るものに負けてもらっては困るので、仮で契約したんです。それで、力を分けられるので……」
「……分からんでもないが……普通、うちのもんでも無理やで?」
「安倍家でも無理とか……お前はどんだけやらかしてんだよ」
「すいません……」

高耶の基準はいつだって自分だ。出来るか出来ないか。それだけ。なので、こういうことも多々起こる。

焔泉は気を取り直し、いつもの扇で口元を隠すと、コロコロと笑う。

「ええよ、ええよ。高坊はそれで問題あらへん。そんで……ちょい見してもらおか」
「だな。高耶が応援を呼ぶほどだ。相当厄介なことだろうしな」

普段通りの呑気な様子から一変、二人は真剣な表情で奥へ向かった。だが、一番奥までは行かない。結界が張られているとはいえ、感じるのだ。

「……これはあかんな」
「これが鬼か……ヤバイな」

戻ってきた二人は、ソファに深く身を沈めた。顔色が悪い。力を持っているからこそ、アレの危険度がよく分かる。

《どうぞ。熱い緑茶にいたしました。御茶菓子をご用意できず申し訳ございません》
「ああ、ええよ。すまんのぉ」
「おう。助かる」

軽く当てられた感じのある二人へ、エリーゼは熱めのお茶を出した。というか、高耶も知らないうちにエリーゼはお茶を用意していた。別人かと思える動きだ。

「……エリーゼ……いや、あっちの棚に茶菓子を出すから」
《っ、はい》

どうですかというように得意げに向けられた目を見て、エリーゼが完璧なメイドを演じようとしているのがわかった。

なので、野暮なことは言いっこなしだ。戸棚を繋いで茶菓子を用意する。今日の和菓子は葛餅だった。

《こちらをどうぞお召し上がりください》
「美味しそうやね」
「ほっとするわ~。落ち着く……」
《そちらの方もどうぞ》
「あ、ありがとうございます! いやあ、メイドさん可愛いなあ」

迅はずっとデレっとした表情でエリーゼを見ていた。メイドさんが気に入ったようだ。嬉しそうにお茶とお菓子を受け取っていた。

迅と源龍は焔泉達とは別の机に付き、落ち着いたようだ。

高耶は焔泉に手招かれ、二人の前に座った。

《どうぞ、ご主人様》
「ああ……」

ちょっと調子が狂う。

「ふぅ……ようやっと心臓の音が落ち着いてきたわ。アレはあかんで。ここに坊が来いひんかったら危なかったえ?」
「そう……ですね。間に合って良かったです」

今日この日に来なければきっとあの鬼と融合した家守りはこの世に放たれていただろう。

「……なんでうちが来たか不思議に思おたやろ」
「はい……」
「ここにな、芦屋の分家があったんよ……」

安倍家の当主の口から芦屋と聞けばわかる。安倍晴明と因縁ある者のこと。

「あの血族の中には、同じような思想の持ち主がおってなあ。注視はしとった。けど……さすがに血も薄うなっとるでな。ここ数代で、監視もせんようになった」
「一族に力がほとんど継がれていなかったからな。その証拠に、一度も連盟にあの家の関係者が登録することはなかった」

連盟には、血族を検索する術がある。これに、芦屋の名は一度も出てこなかったらしい。異能者の噂があれば、調査する部署もあるが、そちらでも引っかかることはなかったという。

「油断しとったわ……こんなもんを隠しもっとるとはな……」
「ですが、家守りです。呪文は……確かに怪しいですが……」
「それやわ。もしかしたら、その呪文……霊穴を開けるものかもしれん。禁呪指定しとるやつや。霊紙を持ってきた。写してもらえるか?」
「分かりました」
「あ、それ、私がやるよ」

源龍が今日は何もやってないからとそれを引き受けてくれた。力を持った者が普通の紙に書くだけで効果が発現されてしまう恐れがあるため、霊紙という特別な紙が必要だった。しばらくすると、タイミング良くそれが聞こえ始める。

「アレか……やはり可能性がありそうや」
「そうですか……」
「どうするよ。先に霊穴を閉じるか? まあ、大きさによっちゃ、相当大きな儀式になるが……」

霊穴を閉じる儀式は、その穴の大きさによって一日から七日まで規模も時間も変わる。

「どうだ? じいさん。大きさは?」

高耶は呼びかけるように上を向く。霊穴を見て戻ってきた充雪に声を掛けたのだ。

充雪は空中で腕を組み、胡座あぐらをかいた状態で告げた。

《ありゃあ、七日でも閉じるか微妙だぞ。奇跡的にあの辺の樹精や精霊がそれぞれの身を守るための結界を張っててな。それが上手いこと蓋をしている。場所も結構な深さの洞窟の奥だからな。運が良かった》

大きさがあるにも関わらず、外への影響が少ないのはそのお陰らしい。

「戻って早急に対策を考えるわ。扉はそのままで頼むえ」
「高耶はこのままここに残ってくれ。結界が破られんとも限らん」
「分かりました」

慌しく焔泉達が戻っていく。だが、迅と源龍は留まるらしい。

「いいんですか?」
「使ってよっ。伝言とかに走り回るのもいいよー。メイドさんも居るし!」
「君一人残すのはね……不安だからね」
「ありがとうございます」

こうして、爆弾を隣にして眠るような、そんな不安な滞在が始まった。

************
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

処理中です...