秘伝賜ります

紫南

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第四章 秘伝と導く音色

157 犬派らしい

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狛犬を預けた先である清雅家には、泉一郎に連絡を取っていた。一度狛犬の成長を確認に行くと電話すると『いつでも是非に!』と大歓迎だった。

そして、今日の夕方三時に伺うということになり、現地で源龍と落ち合った。お互い、繋いだ扉は公民館だ。高耶が着て三分と待たない内に源龍は現れた。

「すまない。待たせたかな」
「いえ、俺もつい先程です。まだ予定時間前ですし」

寧ろ、もっと早く来て、土地の様子を見ようかと思っていたのだが、ギリギリになってしまったのだ。

「今日も学校だったのかい?」
「ええ。もう夏休み前の最後の授業で、教授によっては内容を張り切って詰め込むみたいで、少しバタつきました」

夏休み中にレポートを予定していたが、その課題が決まっていなかった。それを最後まで言い忘れるという、うっかりをやらかしてくれた。解散となってからハッとなって、数人で慌てて教授を探し回ったのだ。メールで繋がらない教授だから尚更焦った。

「そっか。夏休みかあ。いいねえ」

学生時代が遠い昔だと懐かしむ源龍は、しみじみと呟く。

高耶は清雅家への道を先導しながら聞いた。既に夏休みに入っている子ども達の楽しそうな声が路地から聞こえていた。だが、そこで源龍は気付いたらしい。

「あれ? 高耶君って夏休みとか冬休みに休んでないよね? 去年とか、海外の方に毎日のように出かけてなかった?」
「そうですね。今年もあちらに行く予定がありますし……そもそも、夏休みって、学校の授業が休業になるだけですよね? どこか遊びに行くのは変わりないですし、十分、休みを満喫していると思うんですけど」
「……高耶君……」

とっても不憫な子を見る目で見られた。

「うん。今回は私も付き合うし、仕事はさっさと終わらせようね。それで、ほら、あの高耶君のお友達の和泉君とか、統二君……は君に似て真面目そうだからダメか。うん。夏休みの正しい学生の過ごし方を和泉君に教えてもらおうね」
「はあ……」

トントンと肩を叩かれながら、高耶は一応頷いた。

しばらくして、清雅家の前に着いた。

「石段良いね。秘伝家も石段あったよね? これだけでも運動になっていいなあ」
「運動……気になってるんですか?」
「最近、高耶君と行動するとね。やっぱり実感するっていうのかな……」

そこもしみじみ言われると、ちょっと申し訳なくなってくる。

そこに、石段の上から、トテっ、トテっと白い子犬が降りてきた。見上げていた源龍が目を瞬かせる。

「あれ……もしかして……?」
「狛犬の葵と常盤です。前よりも階段を降りるのが上手になりました」
「っ、可愛すぎないっ?」
「可愛いですよね」

源龍が見たかったのはこの狛犬の子犬だ。神使のブリーダーがいるため、まず幼い狛犬など見る機会はない。

「そういえば、源龍さんは珀豪も好きでしたね」
「そうだよっ。式神であの姿とか、イメージで変わると知っていたら挑戦したのにっ」
「そうでしたか……」

式神と契約する時、イメージは大切だと言われる。そのイメージとは、主に顕現させることだ。四神の姿を目に焼き付けて育つ陰陽師達は、姿を特に意識しなくても問題ないくらいにイメージできている。だが、そこに別の姿となると難しい。

高耶の例があるため、何人か四神以外の姿で挑戦したらしいが、誰も成功しなかったという。お陰で他に何かやらなかったかとか、意見を聞きに来る者がいた。最終的に、秘伝だけの秘技だろうと勝手にそこで納得してくれたので助かった。

「あ、分かってるよ? 出来ないんだよね? まあ、絶対的なイメージを持ってしまっているからね。期待するなら、次代かその次だって密かに決まったみたい」
「……知りませんでした」

そこまで考えられているとは思わなかった。

降りてきた狛犬達に、源龍が手を伸ばそうとする前に片膝をついた。

「触れてもよろしいですか?」

許可を取るのは、陰陽師としての神に仕える者に対する礼儀だ。

《……クゥン》
《キャン》
「ありがとうございます」

源龍の好意も、その人柄も狛犬達は察して許可を出した。そっと二匹を抱き上げると、源龍は本当に嬉しそうな笑みを見せる。

そして、狛犬達を心配して泉一郎が顔を出した。

「おや。やはり高耶君だったか。そちらは……っ、あ、ああ、双子だと言っていたね……」

泉一郎は、源龍の顔を見て薫のことを思い出した。そっくりではあるが、見た目は源龍の方が大人びている。細身とはいえ、男らしい体つきはしていた。

高耶はきちんと今回、薫の双子の兄である源龍を連れていくと伝えていたのだ。

「本当によく似ている……だが……双子……? にしては見た目の年齢が違うが……」

階段を登りながら、高耶が源龍を見てそういえばと思った。薫はどう見ても高校生頃にしか見えなかった。だが、源龍は確か三十近いはずだ。

「そうですねえ。私も不思議に思っているんです。生まれは間違いないので双子ではあるのですが……」

源龍も気になっていたようだ。

「特殊な場所に居たためだろうと考えていますが……やはり、私はご遠慮しましょうか」

薫が泉一郎達に何をしたのか。それを源龍は知っている。だが、泉一郎はすぐに手を振った。

「いえいえ。あなたがあの子ではないのは確かです。事情も聞いております。それに、その狛犬達を見れば分かります。あなたは良い方だ」

狛犬達は、すっかり源龍の腕の中で寛いでいた。彼らは薫を近付けない。そう聞いているのだ。そんな狛犬達が心底信頼するように身を預けているのだから、害はない。

「ありがとうございます。では、お邪魔いたします」

そうして、源龍と高耶は清雅家に招かれたのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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