149 / 409
第四章 秘伝と導く音色
149 見えてます?
しおりを挟む
中はどうってことない普通の家だ。キッチンやトイレも最新式、お風呂もバスタブは大きく広さが意外にもあり、売るのに問題のない物件であることが分かる。
だが、術者である高耶や迅にはどうしても暗く見えてしまう。迅は連盟の担当であることもあり、それらを見る力は持っている。昔から不思議な体験をすることが多々あったらしい。それが本格的に関わるようになって強くなったのだ。
「うわぁ……これは凄いね。いかにもって感じ。レベル三なら、いつもはまだ辛うじて感じるくらいなのに、肌に感じるよ」
「俺が居るからな……」
「え? だって、別に術者と一緒で強まるとか聞かないけど?」
「……」
あまり言いたくない。それが常盤に伝わったらしい。
《主と相性が良いのでしょう。好意的感情も強いようですし》
「わっ、そ、そうなの? 相性かあ!」
「……」
だから言いたくなかったのだと高耶は眉を寄せた。それに気付いて、常盤が声を落とす。
《余計なことでしたでしょうか》
「いや、他の奴に説明されるよりは良い……ありがとな」
《っ、いえ……》
珍しく常盤が照れたように表情を変えていた。そういえば、こうして常盤だけを頼って喚ぶのは久し振りだと、こんな状況でも呑気に思う。
《主、あそこのようです》
常盤はきちんと気持ちを切り替えてそこを指した。
「あ……れ? さっき、電気……付けたよな?」
「そういえば……消えてる……わけじゃない? 付いてる……けど……っ」
智紀と浩司は、入ってくる途中で電気のボタンは押していた。廊下に電気は付いている。だが、どうしてか暗い。それは、黒い瘴気が天井付近を覆っているからだ。
「うわあ……これはマスクしたいね」
常盤が浄化しながら進んでいるので、今でも溢れ出てくる瘴気が天井付近に残っているだけだ。高耶達の顔の辺りはしっかり浄化されているので問題はない。だが、見えているというだけで、口を覆いたくなるのだ。
「あ……えっと……黒い……霧?」
「本当だ……急に見えるようになった」
「おい。あまり注意して見るな」
「「はい……」」
注意する陽の表情は強張っていた。そんな三人の様子を後ろから見て、迅は明るく意見する。
「大丈夫だよ。護符を持ってれば、影響はないから」
「そんなに凄いものなんですか……」
「高耶君のだからね。連盟の……術者の中でもあの若さでトップクラスなんだ」
「へえ……凄い」
「でしょ、でしょ?」
「……」
もう迅は放っておこうと決める高耶だ。
「さて、あれだな」
やってきたのは庭の見えるリビング。その中心に黒い固まりがあった。
「……あんなの、前はなかった……」
「見えなかっただけじゃ……」
「そうだろうな……」
智紀と浩司、陽は警戒しながらそれを見つめた。
「電気つける?」
「ああ。あまり変わらんが、気持ちは変わるだろ」
「はいは~い」
迅の調子は変わらない。そうして、リビングの電気を付けた。多少は変わったように感じるが、本当に付いているか見上げて確認するくらいには変化がない。
「常盤、可能な限り浄化を」
《承知しました》
すると、黒い固まりは形をなくしていく。そうして、残ったのは黒い楕円の固まり。まるで、暗闇で見る猫のような固まりだ。息をしているように時折少し動く感じもそれっぽい。
そして、聴こえてきた。
《……ネ……コセ……ネ……ネヨコセ……》
「ね?」
迅は童顔に似合いの可愛らしい様子で首を傾げた。
「確か、庭師だし……根っこ? とか?」
何が欲しくて留まっているのかと庭を見て考える。だが、高耶にははっきりと聴こえていた。
「金か」
「え?」
《ヨコセェェェェッ!!》
「わわっ」
「「「っ……!」」」
呑気にしていた迅も、これには驚く。そして、彼は腰を抜かした三人の前に咄嗟に躍り出していた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
だが、術者である高耶や迅にはどうしても暗く見えてしまう。迅は連盟の担当であることもあり、それらを見る力は持っている。昔から不思議な体験をすることが多々あったらしい。それが本格的に関わるようになって強くなったのだ。
「うわぁ……これは凄いね。いかにもって感じ。レベル三なら、いつもはまだ辛うじて感じるくらいなのに、肌に感じるよ」
「俺が居るからな……」
「え? だって、別に術者と一緒で強まるとか聞かないけど?」
「……」
あまり言いたくない。それが常盤に伝わったらしい。
《主と相性が良いのでしょう。好意的感情も強いようですし》
「わっ、そ、そうなの? 相性かあ!」
「……」
だから言いたくなかったのだと高耶は眉を寄せた。それに気付いて、常盤が声を落とす。
《余計なことでしたでしょうか》
「いや、他の奴に説明されるよりは良い……ありがとな」
《っ、いえ……》
珍しく常盤が照れたように表情を変えていた。そういえば、こうして常盤だけを頼って喚ぶのは久し振りだと、こんな状況でも呑気に思う。
《主、あそこのようです》
常盤はきちんと気持ちを切り替えてそこを指した。
「あ……れ? さっき、電気……付けたよな?」
「そういえば……消えてる……わけじゃない? 付いてる……けど……っ」
智紀と浩司は、入ってくる途中で電気のボタンは押していた。廊下に電気は付いている。だが、どうしてか暗い。それは、黒い瘴気が天井付近を覆っているからだ。
「うわあ……これはマスクしたいね」
常盤が浄化しながら進んでいるので、今でも溢れ出てくる瘴気が天井付近に残っているだけだ。高耶達の顔の辺りはしっかり浄化されているので問題はない。だが、見えているというだけで、口を覆いたくなるのだ。
「あ……えっと……黒い……霧?」
「本当だ……急に見えるようになった」
「おい。あまり注意して見るな」
「「はい……」」
注意する陽の表情は強張っていた。そんな三人の様子を後ろから見て、迅は明るく意見する。
「大丈夫だよ。護符を持ってれば、影響はないから」
「そんなに凄いものなんですか……」
「高耶君のだからね。連盟の……術者の中でもあの若さでトップクラスなんだ」
「へえ……凄い」
「でしょ、でしょ?」
「……」
もう迅は放っておこうと決める高耶だ。
「さて、あれだな」
やってきたのは庭の見えるリビング。その中心に黒い固まりがあった。
「……あんなの、前はなかった……」
「見えなかっただけじゃ……」
「そうだろうな……」
智紀と浩司、陽は警戒しながらそれを見つめた。
「電気つける?」
「ああ。あまり変わらんが、気持ちは変わるだろ」
「はいは~い」
迅の調子は変わらない。そうして、リビングの電気を付けた。多少は変わったように感じるが、本当に付いているか見上げて確認するくらいには変化がない。
「常盤、可能な限り浄化を」
《承知しました》
すると、黒い固まりは形をなくしていく。そうして、残ったのは黒い楕円の固まり。まるで、暗闇で見る猫のような固まりだ。息をしているように時折少し動く感じもそれっぽい。
そして、聴こえてきた。
《……ネ……コセ……ネ……ネヨコセ……》
「ね?」
迅は童顔に似合いの可愛らしい様子で首を傾げた。
「確か、庭師だし……根っこ? とか?」
何が欲しくて留まっているのかと庭を見て考える。だが、高耶にははっきりと聴こえていた。
「金か」
「え?」
《ヨコセェェェェッ!!》
「わわっ」
「「「っ……!」」」
呑気にしていた迅も、これには驚く。そして、彼は腰を抜かした三人の前に咄嗟に躍り出していた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
98
お気に入りに追加
1,329
あなたにおすすめの小説
聖人様は自重せずに人生を楽しみます!
紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。
人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。
そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。
助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。
裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く!
『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』
ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜
紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇
『ふぁんたじーってやつか?』
定年し、仕事を退職してから十年と少し。
宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。
しかし、その内容は怪しいものだった。
『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』
そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。
ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!?
ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!?
シルバー舐めんなよ!!
元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる