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第四章 秘伝と導く音色
148 間違いなく怨霊です
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陽に断りを入れてから車をこの家の車庫に入れた三先迅は、嬉しいという表情を隠すことなく高耶の前に立った。
「お待たせ!」
「……落ち着いてくれるか?」
「心配しないで! 俺はいつでもどこでも、どんな時でも平常心が売りだからね!」
陽達へ目を向けると、何者だろう不思議そうにしていた。その中にほんの少しの不安もないのは、応援だといって呼んだ高耶を信頼しているからだろうか。
「すみません、こんな落ち着きない感じですけど、この人刑事なんです」
「あ、そ、そうなのかい? それは……うん、事の重大さが分かったよ」
刑事ということで納得しているが、テンションが高いことについては触れなかった。陽は、それだけ今回の件に嫌な予感がしているのだ。顔色も先ほどから悪い。
「どうしますか? 俺とあの人だけでも構わないのですが」
高耶がやる気十分な様子の迅を指すと、陽はゆっくりと首を横に振った。
「預かったからには、どんな物件であっても、きちんとどうなったか、どうなっているのかを確認しておきたいんだ。あの二人も付いて行くと言っている」
今回のこの物件は、他の不動産から回ってきたものだった。その時はおそらく、少し変だなという理由で送られてきたのだが、陽が売るとなるのなら、買い手が安心して受け取れるものにすべきだと考えているのだ。
智紀と浩司が曰く付きの物件を受け持つのは初めてのこと。陽の会社で扱う物件にはこういうものもあるのだということを知ってもらいたいとも考えているのだろう。
今日まで何度かお客にこの物件を紹介していたことを考えると、智紀と浩司はおかしい物件だと気付かなかったのだ。陽が知って、初めてこういうものもあるのだと知ることになった。
「きちんと説明はしておいた。二人も、覚悟は出来ているらしい」
「そうですか……わかりました。護符をお渡しします。これを内ポケットに入れておいてください」
「わかった」
護符を三つ陽に手渡すと、高耶は迅へ声をかけた。
「迅さん、護りは大丈夫ですか」
「なに、その他人行儀な感じ! 迅って呼んでよ! 護りは大丈夫だよ! ほらっ」
首から守護石の入ったお守りを下げているらしい。連盟の仕事に関わる以上、そういった護りはきちんとするように通達がされているのだ。
「ならいい。レベル三の怨霊だ。十分に気を付けるように」
「レベル三かあ……死体はありそうなの?」
「いや。ないはずだが、もしかしたら、事件としてはあった可能性はあるがな」
「あ、だから呼んだんだね。待って、今調べる!」
そんな高耶と迅の会話を陽達は聞いていたらしい。あからさまに顔を歪める。
「し、死体……」
「あ、大丈夫ですよ。そこまでの反応はないです」
「いや、だが……」
ここまで具体的な話が出るケースは、陽もはじめてなのだ。
「大丈夫です。今、事件がなかったか確認しています」
「あ、ああ……」
迅が少し離れた場所で、タブレット端末を使って情報を整理していた。しばらくして、それを手に戻ってくる。
「あったよ。当時、ここに住んでいた親子の父親が行方不明になってる。失踪届けを出したのは息子で、行方不明になってひと月も経ってからだね。不審に思われたんだけど、父親は庭師で、山とかで木や石を見つけてきたりすることがあったみたい。届けが出た時も、山へ行ったってことになってる」
庭の様子を見て、なるほどと内心納得する。建物と庭のイメージが少し合わない気がしていたのだ。
「半年後に遺体は見つかってるよ」
「その親子の関係は?」
「頑固な職人肌の父親と、その後継だから、口喧嘩は絶えなかったみたい。息子が結婚してからは、お金のことでもよく揉めてたって証言もある」
それらの事情が怪しいなと考えながら、気になっている庭石のある方を見た。そこに何かがあるのは確実なのだ。死体ではないだろうが、こういった場合には迅のような者を呼ぶことにしている。
「わかった。なら、行くか」
「うん!」
高耶は心の準備をして待っていたらしい陽達に声をかける。
「開けてください。先頭は俺が行きます」
「最後尾は俺ね!」
そうして、家のドアを再び開けてもらった。やはり、独特の臭いがある。怨霊は、術者に存在をアピールしたがるのだ。特にレベルで言えば、三以降が酷い臭いになる。因みに、レベルは五が最大だ。五まで行くと、鈍感な人でも感じられるようになる。とはいえ、怨霊の出す臭いであるというのは分かるはずがない。
「【常盤】」
《はっ!浄化し、 先行いたします》
「頼む」
「「「「っ……」」」」
光を纏って現れた美青年に、陽達だけでなく、迅も驚いていた。そういえば、迅にも人型の式神は見せていないなと気付く。これは後で煩そうだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「お待たせ!」
「……落ち着いてくれるか?」
「心配しないで! 俺はいつでもどこでも、どんな時でも平常心が売りだからね!」
陽達へ目を向けると、何者だろう不思議そうにしていた。その中にほんの少しの不安もないのは、応援だといって呼んだ高耶を信頼しているからだろうか。
「すみません、こんな落ち着きない感じですけど、この人刑事なんです」
「あ、そ、そうなのかい? それは……うん、事の重大さが分かったよ」
刑事ということで納得しているが、テンションが高いことについては触れなかった。陽は、それだけ今回の件に嫌な予感がしているのだ。顔色も先ほどから悪い。
「どうしますか? 俺とあの人だけでも構わないのですが」
高耶がやる気十分な様子の迅を指すと、陽はゆっくりと首を横に振った。
「預かったからには、どんな物件であっても、きちんとどうなったか、どうなっているのかを確認しておきたいんだ。あの二人も付いて行くと言っている」
今回のこの物件は、他の不動産から回ってきたものだった。その時はおそらく、少し変だなという理由で送られてきたのだが、陽が売るとなるのなら、買い手が安心して受け取れるものにすべきだと考えているのだ。
智紀と浩司が曰く付きの物件を受け持つのは初めてのこと。陽の会社で扱う物件にはこういうものもあるのだということを知ってもらいたいとも考えているのだろう。
今日まで何度かお客にこの物件を紹介していたことを考えると、智紀と浩司はおかしい物件だと気付かなかったのだ。陽が知って、初めてこういうものもあるのだと知ることになった。
「きちんと説明はしておいた。二人も、覚悟は出来ているらしい」
「そうですか……わかりました。護符をお渡しします。これを内ポケットに入れておいてください」
「わかった」
護符を三つ陽に手渡すと、高耶は迅へ声をかけた。
「迅さん、護りは大丈夫ですか」
「なに、その他人行儀な感じ! 迅って呼んでよ! 護りは大丈夫だよ! ほらっ」
首から守護石の入ったお守りを下げているらしい。連盟の仕事に関わる以上、そういった護りはきちんとするように通達がされているのだ。
「ならいい。レベル三の怨霊だ。十分に気を付けるように」
「レベル三かあ……死体はありそうなの?」
「いや。ないはずだが、もしかしたら、事件としてはあった可能性はあるがな」
「あ、だから呼んだんだね。待って、今調べる!」
そんな高耶と迅の会話を陽達は聞いていたらしい。あからさまに顔を歪める。
「し、死体……」
「あ、大丈夫ですよ。そこまでの反応はないです」
「いや、だが……」
ここまで具体的な話が出るケースは、陽もはじめてなのだ。
「大丈夫です。今、事件がなかったか確認しています」
「あ、ああ……」
迅が少し離れた場所で、タブレット端末を使って情報を整理していた。しばらくして、それを手に戻ってくる。
「あったよ。当時、ここに住んでいた親子の父親が行方不明になってる。失踪届けを出したのは息子で、行方不明になってひと月も経ってからだね。不審に思われたんだけど、父親は庭師で、山とかで木や石を見つけてきたりすることがあったみたい。届けが出た時も、山へ行ったってことになってる」
庭の様子を見て、なるほどと内心納得する。建物と庭のイメージが少し合わない気がしていたのだ。
「半年後に遺体は見つかってるよ」
「その親子の関係は?」
「頑固な職人肌の父親と、その後継だから、口喧嘩は絶えなかったみたい。息子が結婚してからは、お金のことでもよく揉めてたって証言もある」
それらの事情が怪しいなと考えながら、気になっている庭石のある方を見た。そこに何かがあるのは確実なのだ。死体ではないだろうが、こういった場合には迅のような者を呼ぶことにしている。
「わかった。なら、行くか」
「うん!」
高耶は心の準備をして待っていたらしい陽達に声をかける。
「開けてください。先頭は俺が行きます」
「最後尾は俺ね!」
そうして、家のドアを再び開けてもらった。やはり、独特の臭いがある。怨霊は、術者に存在をアピールしたがるのだ。特にレベルで言えば、三以降が酷い臭いになる。因みに、レベルは五が最大だ。五まで行くと、鈍感な人でも感じられるようになる。とはいえ、怨霊の出す臭いであるというのは分かるはずがない。
「【常盤】」
《はっ!浄化し、 先行いたします》
「頼む」
「「「「っ……」」」」
光を纏って現れた美青年に、陽達だけでなく、迅も驚いていた。そういえば、迅にも人型の式神は見せていないなと気付く。これは後で煩そうだ。
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