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第四章 秘伝と導く音色
147 物件確認
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週明けの月曜日。
大学の講義は午前の二枠のみだったこともあり、昼をゆっくり取ってから、稲船陽との待ち合わせ場所へ向かった。
《また曰く付きの物件か? あの社長はそういうの好きだなあ》
「好きなわけじゃないだろ……まあ、良い。じいさんはどうする?」
《源龍の所にいく。相談があると言われててな》
「わかった。あんま迷惑かけんなよ」
《子どもじゃないわいっ》
充雪はここ最近、話し相手が多いため、かなりテンションが高めだ。ちょっとは落ち着けと言いたいが、言っても変わらないのは目に見えている。こうして別行動をする時は一気に静かになる気がして何ともいえない気分だ。
寂しいとも感じるし、うるさくなくてほっとするとも言える。充雪はずっと憑いて、付きっ切りというわけではないので、今まであまり気にしていなかったが、充雪も話し相手が高耶だけというのは寂しかったのかもしれない。
家族に話すことで変化したことを思っていると、待ち合わせ場所に着いた。どうやら、陽も今着いたようだ。
「おっ、高耶くん! いつも悪いねえ」
「いえ。こちらは仕事ですから。それで、そちらのお二人も立会いですか?」
「ああ。彼らの担当物件だったからね」
陽の後ろにいたのは、二人の男性。彼らは美奈深と由香理の夫だ。
「はじめまして。秘伝高耶と申します。今日はよろしくお願いします」
実は、土曜日の夕食の時。紹介された後に、彼らにこの仕事のことを話していた。すると、陽から聞いていたらしく、同席するというのも決まっていたらしい。陽が彼らに高耶を引き合わせようと気を利かせたのだ。
だが、そこでこうして会っていることは口にできない。なので、初めて会ったというように対応することにしたのだ。
「はじめまして! 宮島智紀です」
「来海浩司です。よろしく」
美奈深の夫が智紀。由香理の夫が浩司だ。緊張気味な所も上手く作用したらしく、陽が不審に思う様子はなかった。
「早速、その物件を見せてください」
案内されたのは、外観も綺麗な二世帯用の住宅だった。
「新築ですか?」
「ああ……まあな。建てて一組すぐに入ったんだが、半年でノイローゼになって実家に戻ったらしい」
「……その後は誰も?」
「紹介しようとすると、酷い家鳴りが聞こえてな……一部の場所は、電気の調子が悪くなったり……まあ、そんな感じで決まらないんだ」
引っ越した後でなかっただけ良かったと思うべきかもしれない。
「開けてくれ」
「はい」
陽に呼ばれ、智紀が持っていた鍵を出してドアを開けた。
「っ……」
それだけで、高耶には独特のとある臭いがあることに気付いた。
「陽さん。ちょっと待ってください」
「ん? もう何かあったのかい?」
「ええ……ちょっとマズイですね……仕方ない……応援を呼びます。絶対に入らないでください」
「ああ……応援?」
こんなことはなかったので、陽も不思議そうにしている。
少し離れてから、メールを送った。すると、数秒で電話がかかってくる。やはり、メールアドレスは教えないようにしようと心に決めた。
「……来られるのか?」
『すぐに行くから! 他に誰も呼ばないでよ!? 俺だけで十分だからね!』
「はいはい……」
呆れながら電話を切ると、陽に提案する。
「一度鍵をかけてもらえますか。それで、先に庭を見せてください」
「わかった」
智紀も首を傾げながらも鍵をする。そして、庭に案内してくれた。
「陽さん、この家が建つ前の資料はありますか?」
「そう言うと思って、調べさせていた。来海、資料を」
「はい。これです」
「拝見します」
敷地がどこまでであったか。どんな家が建っていたか。それらの資料を確認して、一つの庭石に目を向ける。すると、家の窓が不自然にカタカタと鳴った。
「なんだ? 風?」
「あんな音したか?」
智紀と浩司が家へ目を向ける。
「これは当たりか……危ないので、こっちへ。そろそろ応援も来ると思います」
しきりに首を傾げる智紀と浩司とは違い、陽の顔色は悪くなっていた。早足で近付いてきて確認する。
「高耶くん……今回のヤバイのかい?」
「ええ……妖ではないです」
「それってっ……霊ってこと? そういう資料はなかったはずだけど……」
「死を納得して迎えられる人は少ないですから」
「そ、そうか……」
ここに居るのは間違いなく霊だ。それも怨霊だろう。今まであまり酷いことにならなかった理由は、上手く封印されるような何かがあったのではないかと考えられる。
独特の臭いを感じるほどの怨霊ならば、人死にを出していてもおかしくないのだから。
「見届けたいと言われるのでしたら、護符を渡します。どうしますか?」
「あいつらの分もあるか?」
「はい。中では浄化能力の高い式も出しますから、手は出させませんが、気持ちの良いものではありません。見えるようになると思いますから」
「……確認してくる」
二人も同席するかどうか。陽は離れていた二人に確認にいった。
その時、家の前に車が到着する。そして、そこから颯爽と現れたのは、三先迅だった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
大学の講義は午前の二枠のみだったこともあり、昼をゆっくり取ってから、稲船陽との待ち合わせ場所へ向かった。
《また曰く付きの物件か? あの社長はそういうの好きだなあ》
「好きなわけじゃないだろ……まあ、良い。じいさんはどうする?」
《源龍の所にいく。相談があると言われててな》
「わかった。あんま迷惑かけんなよ」
《子どもじゃないわいっ》
充雪はここ最近、話し相手が多いため、かなりテンションが高めだ。ちょっとは落ち着けと言いたいが、言っても変わらないのは目に見えている。こうして別行動をする時は一気に静かになる気がして何ともいえない気分だ。
寂しいとも感じるし、うるさくなくてほっとするとも言える。充雪はずっと憑いて、付きっ切りというわけではないので、今まであまり気にしていなかったが、充雪も話し相手が高耶だけというのは寂しかったのかもしれない。
家族に話すことで変化したことを思っていると、待ち合わせ場所に着いた。どうやら、陽も今着いたようだ。
「おっ、高耶くん! いつも悪いねえ」
「いえ。こちらは仕事ですから。それで、そちらのお二人も立会いですか?」
「ああ。彼らの担当物件だったからね」
陽の後ろにいたのは、二人の男性。彼らは美奈深と由香理の夫だ。
「はじめまして。秘伝高耶と申します。今日はよろしくお願いします」
実は、土曜日の夕食の時。紹介された後に、彼らにこの仕事のことを話していた。すると、陽から聞いていたらしく、同席するというのも決まっていたらしい。陽が彼らに高耶を引き合わせようと気を利かせたのだ。
だが、そこでこうして会っていることは口にできない。なので、初めて会ったというように対応することにしたのだ。
「はじめまして! 宮島智紀です」
「来海浩司です。よろしく」
美奈深の夫が智紀。由香理の夫が浩司だ。緊張気味な所も上手く作用したらしく、陽が不審に思う様子はなかった。
「早速、その物件を見せてください」
案内されたのは、外観も綺麗な二世帯用の住宅だった。
「新築ですか?」
「ああ……まあな。建てて一組すぐに入ったんだが、半年でノイローゼになって実家に戻ったらしい」
「……その後は誰も?」
「紹介しようとすると、酷い家鳴りが聞こえてな……一部の場所は、電気の調子が悪くなったり……まあ、そんな感じで決まらないんだ」
引っ越した後でなかっただけ良かったと思うべきかもしれない。
「開けてくれ」
「はい」
陽に呼ばれ、智紀が持っていた鍵を出してドアを開けた。
「っ……」
それだけで、高耶には独特のとある臭いがあることに気付いた。
「陽さん。ちょっと待ってください」
「ん? もう何かあったのかい?」
「ええ……ちょっとマズイですね……仕方ない……応援を呼びます。絶対に入らないでください」
「ああ……応援?」
こんなことはなかったので、陽も不思議そうにしている。
少し離れてから、メールを送った。すると、数秒で電話がかかってくる。やはり、メールアドレスは教えないようにしようと心に決めた。
「……来られるのか?」
『すぐに行くから! 他に誰も呼ばないでよ!? 俺だけで十分だからね!』
「はいはい……」
呆れながら電話を切ると、陽に提案する。
「一度鍵をかけてもらえますか。それで、先に庭を見せてください」
「わかった」
智紀も首を傾げながらも鍵をする。そして、庭に案内してくれた。
「陽さん、この家が建つ前の資料はありますか?」
「そう言うと思って、調べさせていた。来海、資料を」
「はい。これです」
「拝見します」
敷地がどこまでであったか。どんな家が建っていたか。それらの資料を確認して、一つの庭石に目を向ける。すると、家の窓が不自然にカタカタと鳴った。
「なんだ? 風?」
「あんな音したか?」
智紀と浩司が家へ目を向ける。
「これは当たりか……危ないので、こっちへ。そろそろ応援も来ると思います」
しきりに首を傾げる智紀と浩司とは違い、陽の顔色は悪くなっていた。早足で近付いてきて確認する。
「高耶くん……今回のヤバイのかい?」
「ええ……妖ではないです」
「それってっ……霊ってこと? そういう資料はなかったはずだけど……」
「死を納得して迎えられる人は少ないですから」
「そ、そうか……」
ここに居るのは間違いなく霊だ。それも怨霊だろう。今まであまり酷いことにならなかった理由は、上手く封印されるような何かがあったのではないかと考えられる。
独特の臭いを感じるほどの怨霊ならば、人死にを出していてもおかしくないのだから。
「見届けたいと言われるのでしたら、護符を渡します。どうしますか?」
「あいつらの分もあるか?」
「はい。中では浄化能力の高い式も出しますから、手は出させませんが、気持ちの良いものではありません。見えるようになると思いますから」
「……確認してくる」
二人も同席するかどうか。陽は離れていた二人に確認にいった。
その時、家の前に車が到着する。そして、そこから颯爽と現れたのは、三先迅だった。
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