147 / 411
第四章 秘伝と導く音色
147 物件確認
しおりを挟む
週明けの月曜日。
大学の講義は午前の二枠のみだったこともあり、昼をゆっくり取ってから、稲船陽との待ち合わせ場所へ向かった。
《また曰く付きの物件か? あの社長はそういうの好きだなあ》
「好きなわけじゃないだろ……まあ、良い。じいさんはどうする?」
《源龍の所にいく。相談があると言われててな》
「わかった。あんま迷惑かけんなよ」
《子どもじゃないわいっ》
充雪はここ最近、話し相手が多いため、かなりテンションが高めだ。ちょっとは落ち着けと言いたいが、言っても変わらないのは目に見えている。こうして別行動をする時は一気に静かになる気がして何ともいえない気分だ。
寂しいとも感じるし、うるさくなくてほっとするとも言える。充雪はずっと憑いて、付きっ切りというわけではないので、今まであまり気にしていなかったが、充雪も話し相手が高耶だけというのは寂しかったのかもしれない。
家族に話すことで変化したことを思っていると、待ち合わせ場所に着いた。どうやら、陽も今着いたようだ。
「おっ、高耶くん! いつも悪いねえ」
「いえ。こちらは仕事ですから。それで、そちらのお二人も立会いですか?」
「ああ。彼らの担当物件だったからね」
陽の後ろにいたのは、二人の男性。彼らは美奈深と由香理の夫だ。
「はじめまして。秘伝高耶と申します。今日はよろしくお願いします」
実は、土曜日の夕食の時。紹介された後に、彼らにこの仕事のことを話していた。すると、陽から聞いていたらしく、同席するというのも決まっていたらしい。陽が彼らに高耶を引き合わせようと気を利かせたのだ。
だが、そこでこうして会っていることは口にできない。なので、初めて会ったというように対応することにしたのだ。
「はじめまして! 宮島智紀です」
「来海浩司です。よろしく」
美奈深の夫が智紀。由香理の夫が浩司だ。緊張気味な所も上手く作用したらしく、陽が不審に思う様子はなかった。
「早速、その物件を見せてください」
案内されたのは、外観も綺麗な二世帯用の住宅だった。
「新築ですか?」
「ああ……まあな。建てて一組すぐに入ったんだが、半年でノイローゼになって実家に戻ったらしい」
「……その後は誰も?」
「紹介しようとすると、酷い家鳴りが聞こえてな……一部の場所は、電気の調子が悪くなったり……まあ、そんな感じで決まらないんだ」
引っ越した後でなかっただけ良かったと思うべきかもしれない。
「開けてくれ」
「はい」
陽に呼ばれ、智紀が持っていた鍵を出してドアを開けた。
「っ……」
それだけで、高耶には独特のとある臭いがあることに気付いた。
「陽さん。ちょっと待ってください」
「ん? もう何かあったのかい?」
「ええ……ちょっとマズイですね……仕方ない……応援を呼びます。絶対に入らないでください」
「ああ……応援?」
こんなことはなかったので、陽も不思議そうにしている。
少し離れてから、メールを送った。すると、数秒で電話がかかってくる。やはり、メールアドレスは教えないようにしようと心に決めた。
「……来られるのか?」
『すぐに行くから! 他に誰も呼ばないでよ!? 俺だけで十分だからね!』
「はいはい……」
呆れながら電話を切ると、陽に提案する。
「一度鍵をかけてもらえますか。それで、先に庭を見せてください」
「わかった」
智紀も首を傾げながらも鍵をする。そして、庭に案内してくれた。
「陽さん、この家が建つ前の資料はありますか?」
「そう言うと思って、調べさせていた。来海、資料を」
「はい。これです」
「拝見します」
敷地がどこまでであったか。どんな家が建っていたか。それらの資料を確認して、一つの庭石に目を向ける。すると、家の窓が不自然にカタカタと鳴った。
「なんだ? 風?」
「あんな音したか?」
智紀と浩司が家へ目を向ける。
「これは当たりか……危ないので、こっちへ。そろそろ応援も来ると思います」
しきりに首を傾げる智紀と浩司とは違い、陽の顔色は悪くなっていた。早足で近付いてきて確認する。
「高耶くん……今回のヤバイのかい?」
「ええ……妖ではないです」
「それってっ……霊ってこと? そういう資料はなかったはずだけど……」
「死を納得して迎えられる人は少ないですから」
「そ、そうか……」
ここに居るのは間違いなく霊だ。それも怨霊だろう。今まであまり酷いことにならなかった理由は、上手く封印されるような何かがあったのではないかと考えられる。
独特の臭いを感じるほどの怨霊ならば、人死にを出していてもおかしくないのだから。
「見届けたいと言われるのでしたら、護符を渡します。どうしますか?」
「あいつらの分もあるか?」
「はい。中では浄化能力の高い式も出しますから、手は出させませんが、気持ちの良いものではありません。見えるようになると思いますから」
「……確認してくる」
二人も同席するかどうか。陽は離れていた二人に確認にいった。
その時、家の前に車が到着する。そして、そこから颯爽と現れたのは、三先迅だった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
大学の講義は午前の二枠のみだったこともあり、昼をゆっくり取ってから、稲船陽との待ち合わせ場所へ向かった。
《また曰く付きの物件か? あの社長はそういうの好きだなあ》
「好きなわけじゃないだろ……まあ、良い。じいさんはどうする?」
《源龍の所にいく。相談があると言われててな》
「わかった。あんま迷惑かけんなよ」
《子どもじゃないわいっ》
充雪はここ最近、話し相手が多いため、かなりテンションが高めだ。ちょっとは落ち着けと言いたいが、言っても変わらないのは目に見えている。こうして別行動をする時は一気に静かになる気がして何ともいえない気分だ。
寂しいとも感じるし、うるさくなくてほっとするとも言える。充雪はずっと憑いて、付きっ切りというわけではないので、今まであまり気にしていなかったが、充雪も話し相手が高耶だけというのは寂しかったのかもしれない。
家族に話すことで変化したことを思っていると、待ち合わせ場所に着いた。どうやら、陽も今着いたようだ。
「おっ、高耶くん! いつも悪いねえ」
「いえ。こちらは仕事ですから。それで、そちらのお二人も立会いですか?」
「ああ。彼らの担当物件だったからね」
陽の後ろにいたのは、二人の男性。彼らは美奈深と由香理の夫だ。
「はじめまして。秘伝高耶と申します。今日はよろしくお願いします」
実は、土曜日の夕食の時。紹介された後に、彼らにこの仕事のことを話していた。すると、陽から聞いていたらしく、同席するというのも決まっていたらしい。陽が彼らに高耶を引き合わせようと気を利かせたのだ。
だが、そこでこうして会っていることは口にできない。なので、初めて会ったというように対応することにしたのだ。
「はじめまして! 宮島智紀です」
「来海浩司です。よろしく」
美奈深の夫が智紀。由香理の夫が浩司だ。緊張気味な所も上手く作用したらしく、陽が不審に思う様子はなかった。
「早速、その物件を見せてください」
案内されたのは、外観も綺麗な二世帯用の住宅だった。
「新築ですか?」
「ああ……まあな。建てて一組すぐに入ったんだが、半年でノイローゼになって実家に戻ったらしい」
「……その後は誰も?」
「紹介しようとすると、酷い家鳴りが聞こえてな……一部の場所は、電気の調子が悪くなったり……まあ、そんな感じで決まらないんだ」
引っ越した後でなかっただけ良かったと思うべきかもしれない。
「開けてくれ」
「はい」
陽に呼ばれ、智紀が持っていた鍵を出してドアを開けた。
「っ……」
それだけで、高耶には独特のとある臭いがあることに気付いた。
「陽さん。ちょっと待ってください」
「ん? もう何かあったのかい?」
「ええ……ちょっとマズイですね……仕方ない……応援を呼びます。絶対に入らないでください」
「ああ……応援?」
こんなことはなかったので、陽も不思議そうにしている。
少し離れてから、メールを送った。すると、数秒で電話がかかってくる。やはり、メールアドレスは教えないようにしようと心に決めた。
「……来られるのか?」
『すぐに行くから! 他に誰も呼ばないでよ!? 俺だけで十分だからね!』
「はいはい……」
呆れながら電話を切ると、陽に提案する。
「一度鍵をかけてもらえますか。それで、先に庭を見せてください」
「わかった」
智紀も首を傾げながらも鍵をする。そして、庭に案内してくれた。
「陽さん、この家が建つ前の資料はありますか?」
「そう言うと思って、調べさせていた。来海、資料を」
「はい。これです」
「拝見します」
敷地がどこまでであったか。どんな家が建っていたか。それらの資料を確認して、一つの庭石に目を向ける。すると、家の窓が不自然にカタカタと鳴った。
「なんだ? 風?」
「あんな音したか?」
智紀と浩司が家へ目を向ける。
「これは当たりか……危ないので、こっちへ。そろそろ応援も来ると思います」
しきりに首を傾げる智紀と浩司とは違い、陽の顔色は悪くなっていた。早足で近付いてきて確認する。
「高耶くん……今回のヤバイのかい?」
「ええ……妖ではないです」
「それってっ……霊ってこと? そういう資料はなかったはずだけど……」
「死を納得して迎えられる人は少ないですから」
「そ、そうか……」
ここに居るのは間違いなく霊だ。それも怨霊だろう。今まであまり酷いことにならなかった理由は、上手く封印されるような何かがあったのではないかと考えられる。
独特の臭いを感じるほどの怨霊ならば、人死にを出していてもおかしくないのだから。
「見届けたいと言われるのでしたら、護符を渡します。どうしますか?」
「あいつらの分もあるか?」
「はい。中では浄化能力の高い式も出しますから、手は出させませんが、気持ちの良いものではありません。見えるようになると思いますから」
「……確認してくる」
二人も同席するかどうか。陽は離れていた二人に確認にいった。
その時、家の前に車が到着する。そして、そこから颯爽と現れたのは、三先迅だった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
121
お気に入りに追加
1,407
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる