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第三章 秘伝の弟子
140 ダメ出しです
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儀式の打ち合わせは、昔から気が重かった。
「形式は水神様も見ておいでなので、今回は正式なものでお願いします」
当主としては若すぎる高耶は、それでも仕事は大人顔負けにこなしていた。これにより、こうした儀式を執り行う必要のある案件もそれなりに扱う機会があった。
「それと、恐らく結界の範囲が広くなります。そこはこちらで補助させてください」
実力主義なこの業界であっても、後見人もなしに子ども一人で事に当たるということは今まであり得なかった。よって、当然ながら高耶はかなり舐められた。
「そんなっ、ご当主様にそこまでやっていただくわけには参りませんっ」
「いや、ですがいつもは……」
専門の者達が儀式をするのだが、本来ならば立ち会ったり、様子を離れた所から確認するまでが仕事。だが、子どもであった高耶は邪魔だとされていた。儀式中に姿を見せることさえ嫌がられたのだ。
とはいえ、あからさまにそうして追い出すのは、仮にも当主に対して失礼になる。そこで『なら、結界くらい張っていただけますか』という話になり、高耶は儀式場を結界で覆うという役目をいつも負っていたのだ。
それでも迷惑になるのだと感じた高耶は、あまり儀式に口を出さなくなったのだが、それはどうも違うらしい。
源龍が綺麗な顔を歪めていた。
「高耶君……本来は一族の者に頼んだりするんだけど……もしかして、本当に全部一人でやっていたのかい?」
「え? ええ。ただ、儀式の邪魔になると言われて、いつもは外の結界を担当してました。あ、子どもの頃ですよ? 最近はここまでしっかりした儀式の必要はなかったですし」
子どもは邪魔になりますものねと付け足せば、この場にいる全員が顔をしかめた。
「あの? 何かいけない所がありましたか?」
結界もやるべきではなかったのだろうかと心配になって尋ねる。それを、焔泉がため息をついて答えた。
「仮にも当主が……儀式に参列しないのであれば、確認するための物見の席を用意されこそすれ、結界を張るか……どうなっておる?」
目を向けられた儀式担当の者が冷や汗をかきながら答える。
「はっ、はい……た、確かにそのような事があったと聞いております……申し訳ありませんでした……っ」
本当に申し訳ないと机に頭を擦り付けるどころか、椅子から滑り降りて床に膝を突いて頭を下げていた。今にも土下座が完成しそうだ。
「え!? ちょっ、いえいえっ。こちらが申し出たことでもありますし、儀式を万全にしていただければそれで構わなかったのでっ」
慌てて土下座を阻止し、椅子に座らせる。顔が真っ青だった。だが、焔泉は不服そうだ。
「土下座で許されると思わぬことだ。まったく、どいつもこいつも見た目に騙されおって。力量くらい察せられねばこの業界では役に立たんわ」
「っ、申し訳ありません……」
焔泉の言葉に、恐縮する一同を前に、高耶は困惑していた。
「そんな大した問題じゃないですよ?」
「高坊……仕事は出来るからと放っておいたのが間違いだったわ……榊の、当主らしさを教えとき」
「承知しました」
「えっと……」
なんだかダメ出しされているようで気まずい。
「シャンとしい。高坊はもっと貫禄を付けなあかんね。まあ、それはおいおいや。今回の儀式は任しとき。ただ、結界は任せよか。水神様の意向を叶えられんのは高坊くらいやでね」
「分かりました」
いつもはもっと長引くのだが、かなりあっさり終わった。
「ああ、そうや。せっかくやしね。水神様に許可をもらうんやったら、子どもらにも見せたりい」
「あ……はい……」
言ってもいないのに、焔泉には筒抜けだったらしい。後で相談しようとしていたので、良かったということにしておこう。
そうして、高耶と源龍は再びあの世界へと戻った。
「丁度昼だそうです。俺たちも行きましょう」
「それはいい時に帰ってこられたね」
二人で向かったのは大氷晶湖畔のレストランだった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
「形式は水神様も見ておいでなので、今回は正式なものでお願いします」
当主としては若すぎる高耶は、それでも仕事は大人顔負けにこなしていた。これにより、こうした儀式を執り行う必要のある案件もそれなりに扱う機会があった。
「それと、恐らく結界の範囲が広くなります。そこはこちらで補助させてください」
実力主義なこの業界であっても、後見人もなしに子ども一人で事に当たるということは今まであり得なかった。よって、当然ながら高耶はかなり舐められた。
「そんなっ、ご当主様にそこまでやっていただくわけには参りませんっ」
「いや、ですがいつもは……」
専門の者達が儀式をするのだが、本来ならば立ち会ったり、様子を離れた所から確認するまでが仕事。だが、子どもであった高耶は邪魔だとされていた。儀式中に姿を見せることさえ嫌がられたのだ。
とはいえ、あからさまにそうして追い出すのは、仮にも当主に対して失礼になる。そこで『なら、結界くらい張っていただけますか』という話になり、高耶は儀式場を結界で覆うという役目をいつも負っていたのだ。
それでも迷惑になるのだと感じた高耶は、あまり儀式に口を出さなくなったのだが、それはどうも違うらしい。
源龍が綺麗な顔を歪めていた。
「高耶君……本来は一族の者に頼んだりするんだけど……もしかして、本当に全部一人でやっていたのかい?」
「え? ええ。ただ、儀式の邪魔になると言われて、いつもは外の結界を担当してました。あ、子どもの頃ですよ? 最近はここまでしっかりした儀式の必要はなかったですし」
子どもは邪魔になりますものねと付け足せば、この場にいる全員が顔をしかめた。
「あの? 何かいけない所がありましたか?」
結界もやるべきではなかったのだろうかと心配になって尋ねる。それを、焔泉がため息をついて答えた。
「仮にも当主が……儀式に参列しないのであれば、確認するための物見の席を用意されこそすれ、結界を張るか……どうなっておる?」
目を向けられた儀式担当の者が冷や汗をかきながら答える。
「はっ、はい……た、確かにそのような事があったと聞いております……申し訳ありませんでした……っ」
本当に申し訳ないと机に頭を擦り付けるどころか、椅子から滑り降りて床に膝を突いて頭を下げていた。今にも土下座が完成しそうだ。
「え!? ちょっ、いえいえっ。こちらが申し出たことでもありますし、儀式を万全にしていただければそれで構わなかったのでっ」
慌てて土下座を阻止し、椅子に座らせる。顔が真っ青だった。だが、焔泉は不服そうだ。
「土下座で許されると思わぬことだ。まったく、どいつもこいつも見た目に騙されおって。力量くらい察せられねばこの業界では役に立たんわ」
「っ、申し訳ありません……」
焔泉の言葉に、恐縮する一同を前に、高耶は困惑していた。
「そんな大した問題じゃないですよ?」
「高坊……仕事は出来るからと放っておいたのが間違いだったわ……榊の、当主らしさを教えとき」
「承知しました」
「えっと……」
なんだかダメ出しされているようで気まずい。
「シャンとしい。高坊はもっと貫禄を付けなあかんね。まあ、それはおいおいや。今回の儀式は任しとき。ただ、結界は任せよか。水神様の意向を叶えられんのは高坊くらいやでね」
「分かりました」
いつもはもっと長引くのだが、かなりあっさり終わった。
「ああ、そうや。せっかくやしね。水神様に許可をもらうんやったら、子どもらにも見せたりい」
「あ……はい……」
言ってもいないのに、焔泉には筒抜けだったらしい。後で相談しようとしていたので、良かったということにしておこう。
そうして、高耶と源龍は再びあの世界へと戻った。
「丁度昼だそうです。俺たちも行きましょう」
「それはいい時に帰ってこられたね」
二人で向かったのは大氷晶湖畔のレストランだった。
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