137 / 403
第三章 秘伝の弟子
137 トラウマがありました
しおりを挟む
雪女を知らないならどうしようかと、意外にも面倒見の良い津は悩んでいた。
「な、なら、雨女は?」
「えんそくの日とかあめになっちゃう子でしょ? おにいちゃんたちそうなの? ハレオンナさんをさがしたほうがいいよ?」
「……なるほど……妖怪関係の知識がないのは分かったわ」
「ん? ちがうの?」
これは説明するの大変だなと遠い目をする伶と津。雨女は晴れ女によって相殺されると思っているということも微妙だ。
「優希。とりあえず、そのお兄さん達は魔法少女じゃないんだ。ほら、お風呂に入っておいで」
高耶の提案に優希が振り返った。
「ハクちゃんと、はいっていい?」
「いや……黒艶と天柳、綺翔と行ってきな。可奈ちゃんと美由ちゃんも一緒にな」
「は~い。エンねえとテンねえちゃん、ショウちゃんいこー」
《良いぞ。風呂の中で雪女と雨女について教えてやろう》
《のぼせない程度にね。行きましょうか》
《ん……》
三人娘達は回収されていった。
「今時の子どもって知らないんだ……ちょっとなんでかショック……」
津が地味にダメージを受けていた。
「なんか変な提案されたな……寧ろ、遠足とか行ったことないし……」
「休んだもんね~。ってか、ボクらが行けば雨でも晴れにしたわよ」
「時間かけて台風さえ避けさせたよな……」
どっちかというと、究極の晴れ男なのだが、残念ながら遠足も、体育祭も一度も出たことがなかった。なので、その恩恵を同級生達が受けたことはない。
「雪女だから名字がユキなの? いいわねそれっ。っていうか、それでからかわれたりしてない?」
「ユキって女の子が来ると思ってたものね~」
美奈深の見解は間違っていない。由姫という名字の綺麗な男の子なのだから。
「そうですね。それもユが由来とか由縁の由で、キが姫という字ですから」
「それはからかうわ。絶対やるっ」
「でも名字に姫の字って、ちょっと憧れる~」
「それはある! 名前じゃなくて名字ってのがポイントよね! でもあの女偏が上手く書けないのよ。女っていう字、バランス難しくない?」
「うんうん。どうしても形が整わないよね~。懸賞のハガキに性別書く時に気になるもん」
「分かるっ。アレが綺麗に書けたら目に止まるでしょって思うもんっ」
なぜこんな話になっているのだろうか。女性って不思議だ。
「ボクら、名字嫌いだったけどさ……なんかちょっと今無性に書きたいかも……」
「俺も……これまで書いてきたのを誇って良いかも……」
彼女たちが言うほど、二人は女偏は苦手ではなくなっていた。寧ろ多分、上手いと思う。これは長年書いてきた成果だ。
名字のコンプレックスは、思わぬ形で解消されようとしていた。
「そんで? 雪女の子孫って女じゃねえんだな。雪男じゃん」
俊哉が気になっていたことを、はっきりとここで口にした。変に気負わない言い方は俊哉らしい。答えたのは源龍だ。
「由姫家は雪女だけじゃなくて、雨女とかも混じっているらしくてね。だから、男児が生まれるのはとっても珍しいんだよ」
「へえ。やっぱ、女だから能力を受け継ぐとかあるとか?」
「そうだね。あるって聞くよ」
そうでなくても、女の陰陽師というのは今でも珍しい。逆に特殊な力を持つ家系は女の方が力を持っていたりするのだ。
高耶がしみじみと食事を進めながら呟く。
「由姫家はな……女系で特に女が強いんだ……血族の結婚相手は一族総出で選別するし……」
「あ~、本当に怖いよね……屋敷に呼ばれたら最後だって冗談じゃないからね……」
源龍が同意しながら遠い所を見ていた。
「もしかして、源龍さん、連れ込まれそうになったこと……」
「……あるよ……まだ当主として顔出し前だったからね……そういう高耶くんは?」
「仕事先で由姫家の当主をはじめとした人達に囲まれました……全員、容赦なく返り討ちにしましたけど……未だに当主に色々と面倒事を押し付けられるんですよ……」
「あ、気に入られちゃったんだね」
思い出したアレコレのせいで、高耶の手が止まりかけていた。
「高耶、あんた女の人とかも殴り飛ばしたりしてないわよね?」
美咲の問いかけに高耶はちょっと目をそらす。
「術で吹っ飛ばした。だいたい、中坊が二十代から三十代くらいの色欲全開の十数人の女の人に押し倒されてみろ。トラウマになって良いレベルの恐怖だぞ。倒されたと思った時には何人か服脱いでるし、脱がされてるし……混乱してキレても仕方ないだろ」
「「「「「……」」」」」
誰も否定できなかった。
高耶はやけ食い気味に手を早める。
「その時は逃げ切ったと思ったのに、次の日には学校から帰る時に車に連れ込まれるし。屋敷に着いてすぐに逃げたけどな。それが一週間ぐらい続いて……さすがに対処の仕方が分からないから安倍の当主に頭下げたんだ……めちゃくちゃ笑われたけど……」
焔泉に本気で泣きついたのは、後にも先にもあれだけだ。
「……高耶くん……大変だったね……」
「イケメンも良いことばかりじゃないのね……」
「高耶、お前が恋愛できないの、そのせいじゃねえの?」
「俺もちょっとそう思ってるよ……」
あの肉食系女子を見た後では、色々と世界が変わる。
「高耶、悪かったわ。それは正当防衛ね。女の人でも危なかったなら殴ってもいいわ!」
「高耶くんっ、高耶くんが中々結婚しなくても、僕は文句言わないよ! じっくり、ゆっくり好きな人を見つけてね?」
「お、おう……」
両親の同情はちょっと引くくらいすごかった。
一方、双子もこれは初耳だったらしく、青ざめながら高耶を見つめる。
「すみません、高耶兄さん……俺たちがもっとしっかりしてれば……もうあの人達に手は出させないから」
「あのババア共……兄さまに吊り合うわけないじゃない……絶対に身の程を教えてやるわ」
今までにない程の力が瞳に宿るのが見えた。何か決意したようだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「な、なら、雨女は?」
「えんそくの日とかあめになっちゃう子でしょ? おにいちゃんたちそうなの? ハレオンナさんをさがしたほうがいいよ?」
「……なるほど……妖怪関係の知識がないのは分かったわ」
「ん? ちがうの?」
これは説明するの大変だなと遠い目をする伶と津。雨女は晴れ女によって相殺されると思っているということも微妙だ。
「優希。とりあえず、そのお兄さん達は魔法少女じゃないんだ。ほら、お風呂に入っておいで」
高耶の提案に優希が振り返った。
「ハクちゃんと、はいっていい?」
「いや……黒艶と天柳、綺翔と行ってきな。可奈ちゃんと美由ちゃんも一緒にな」
「は~い。エンねえとテンねえちゃん、ショウちゃんいこー」
《良いぞ。風呂の中で雪女と雨女について教えてやろう》
《のぼせない程度にね。行きましょうか》
《ん……》
三人娘達は回収されていった。
「今時の子どもって知らないんだ……ちょっとなんでかショック……」
津が地味にダメージを受けていた。
「なんか変な提案されたな……寧ろ、遠足とか行ったことないし……」
「休んだもんね~。ってか、ボクらが行けば雨でも晴れにしたわよ」
「時間かけて台風さえ避けさせたよな……」
どっちかというと、究極の晴れ男なのだが、残念ながら遠足も、体育祭も一度も出たことがなかった。なので、その恩恵を同級生達が受けたことはない。
「雪女だから名字がユキなの? いいわねそれっ。っていうか、それでからかわれたりしてない?」
「ユキって女の子が来ると思ってたものね~」
美奈深の見解は間違っていない。由姫という名字の綺麗な男の子なのだから。
「そうですね。それもユが由来とか由縁の由で、キが姫という字ですから」
「それはからかうわ。絶対やるっ」
「でも名字に姫の字って、ちょっと憧れる~」
「それはある! 名前じゃなくて名字ってのがポイントよね! でもあの女偏が上手く書けないのよ。女っていう字、バランス難しくない?」
「うんうん。どうしても形が整わないよね~。懸賞のハガキに性別書く時に気になるもん」
「分かるっ。アレが綺麗に書けたら目に止まるでしょって思うもんっ」
なぜこんな話になっているのだろうか。女性って不思議だ。
「ボクら、名字嫌いだったけどさ……なんかちょっと今無性に書きたいかも……」
「俺も……これまで書いてきたのを誇って良いかも……」
彼女たちが言うほど、二人は女偏は苦手ではなくなっていた。寧ろ多分、上手いと思う。これは長年書いてきた成果だ。
名字のコンプレックスは、思わぬ形で解消されようとしていた。
「そんで? 雪女の子孫って女じゃねえんだな。雪男じゃん」
俊哉が気になっていたことを、はっきりとここで口にした。変に気負わない言い方は俊哉らしい。答えたのは源龍だ。
「由姫家は雪女だけじゃなくて、雨女とかも混じっているらしくてね。だから、男児が生まれるのはとっても珍しいんだよ」
「へえ。やっぱ、女だから能力を受け継ぐとかあるとか?」
「そうだね。あるって聞くよ」
そうでなくても、女の陰陽師というのは今でも珍しい。逆に特殊な力を持つ家系は女の方が力を持っていたりするのだ。
高耶がしみじみと食事を進めながら呟く。
「由姫家はな……女系で特に女が強いんだ……血族の結婚相手は一族総出で選別するし……」
「あ~、本当に怖いよね……屋敷に呼ばれたら最後だって冗談じゃないからね……」
源龍が同意しながら遠い所を見ていた。
「もしかして、源龍さん、連れ込まれそうになったこと……」
「……あるよ……まだ当主として顔出し前だったからね……そういう高耶くんは?」
「仕事先で由姫家の当主をはじめとした人達に囲まれました……全員、容赦なく返り討ちにしましたけど……未だに当主に色々と面倒事を押し付けられるんですよ……」
「あ、気に入られちゃったんだね」
思い出したアレコレのせいで、高耶の手が止まりかけていた。
「高耶、あんた女の人とかも殴り飛ばしたりしてないわよね?」
美咲の問いかけに高耶はちょっと目をそらす。
「術で吹っ飛ばした。だいたい、中坊が二十代から三十代くらいの色欲全開の十数人の女の人に押し倒されてみろ。トラウマになって良いレベルの恐怖だぞ。倒されたと思った時には何人か服脱いでるし、脱がされてるし……混乱してキレても仕方ないだろ」
「「「「「……」」」」」
誰も否定できなかった。
高耶はやけ食い気味に手を早める。
「その時は逃げ切ったと思ったのに、次の日には学校から帰る時に車に連れ込まれるし。屋敷に着いてすぐに逃げたけどな。それが一週間ぐらい続いて……さすがに対処の仕方が分からないから安倍の当主に頭下げたんだ……めちゃくちゃ笑われたけど……」
焔泉に本気で泣きついたのは、後にも先にもあれだけだ。
「……高耶くん……大変だったね……」
「イケメンも良いことばかりじゃないのね……」
「高耶、お前が恋愛できないの、そのせいじゃねえの?」
「俺もちょっとそう思ってるよ……」
あの肉食系女子を見た後では、色々と世界が変わる。
「高耶、悪かったわ。それは正当防衛ね。女の人でも危なかったなら殴ってもいいわ!」
「高耶くんっ、高耶くんが中々結婚しなくても、僕は文句言わないよ! じっくり、ゆっくり好きな人を見つけてね?」
「お、おう……」
両親の同情はちょっと引くくらいすごかった。
一方、双子もこれは初耳だったらしく、青ざめながら高耶を見つめる。
「すみません、高耶兄さん……俺たちがもっとしっかりしてれば……もうあの人達に手は出させないから」
「あのババア共……兄さまに吊り合うわけないじゃない……絶対に身の程を教えてやるわ」
今までにない程の力が瞳に宿るのが見えた。何か決意したようだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
96
お気に入りに追加
1,303
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を
紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※
3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。
2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。
いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。
いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様
いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。
私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる