秘伝賜ります

紫南

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第三章 秘伝の弟子

134 チョロいらしい

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ものすごい吹雪だった。

高耶は眉根をキツく寄せて一人バルコニーに出る。

「あ、ちょっと、高耶君。危ないわよ?」
「すご~い。吹雪いてるわね~。でも部屋の中は温度変わってないわね」

大きく張り出したバルコニーは、三分の一ほど建物の屋根で雪や雨が吹き込んでくるのを防がれていた。

「あらあら……これは困りますわ」
「ちょっと一発食らわしてきます」
「ええ。連れてきてくださいな」

ここは瑶迦の作り出した世界だ。どれだけ他者の影響を受けたところでどうとでもなる。しかし、それをするよりも本人にどうにかさせた方がいい。

「けどよ、これじゃカートも動かせねぇんじゃね? もう結構積もってんぞ?」

俊哉が下へ目を向けながら予想する。

《ならば下を行かねば良いのだ。主よ。久し振りに夜空のデートだ》
「吹雪いてて夜空も何もないだろうが……まあいい。黒艶頼む」
《うむ。そのまま帰って来られず泊まりになるかもしれんな》
「なるかっ」

いつもの調子のまま黒艶はバルコニーを進む。そして、そこから飛び降りた。

「「え……」」

美奈深と由香理は悲鳴ではなく信じられないものを見たというような声を出した。

誰も悲鳴を上げない。咄嗟の事態の時、悲鳴が出る人は少ないだろう。

そして、そのまま高耶もひょいっと飛び降りた。これには流石に駆け寄ろうとしている。それを珀豪達が止めていた。

《心配いらん。ほれ》

白い吹雪の中だから見える。夜で明かりがなくとも、それは吹雪に負けることなく力強く羽ばたいていた。

「っ……ドラゴンっ……!」

拓真が呟く。

「マジかっ。そっか、そうじゃん! ドラゴンだって言ってたわっ! スゲェっ!!」

俊哉は大興奮だった。

「なになにあれ! すごいんだけどぉぉぉっ」
「乗ってみた~いっ!」

子どものようにはしゃぐお姉さん達の後ろでは、三人娘が静かにキラキラとした瞳で食い入るように見つめていた。

「ファンタジーだな……」
「ファンタジーですね~」

時島と那津はほのぼのと頷いている。もう驚き慣れたらしい。

「いやあ、初めて見たな。あれはすごい。いいなあ」
「あ、榊様でも見ていなかったんですか?」
「流石にね? アレはあっちではダメだよ」
「ダメですね」

いいなと呟きながらも、普段は飛ばせないよねと笑い合う源龍と統二だ。

「明日乗せてもらいましょうね。土下座してでも」
「そうだね。お願いしよう。土下座してでも」

どうして土下座になるのか分からないが、美咲と樹は楽しそうだ。

「さぁ、食事を続けましょう。大丈夫ですわ。高耶さんならすぐに帰ってきますもの」

瑶迦の言葉で部屋に入る一同。外はやはり寒かった。すっかり冷えた彼らに、デキるホテルの式神達は、暖かい飲み物をすかさず出してくる。

衝撃の生き物を見た後だというのに、まだまだ出てくる美味しい料理に心は落ち着いていった。

◆  ◆  ◆

黒艶に乗り、飛び立った高耶は『大氷晶湖畔』と名が付いた湖へ向かう。

《あれだけ凍ればスケートができそうだな。どうだ主殿。四回転決めてみるか》
「やらん。というか、この姿でやる気だろ! やめろよ!?」

久し振りに二人っきりなため、黒艶は嬉しくて仕方がないのだ。高耶を乗せたまま黒艶がドラゴンの姿で四回転しそうだった。

《むっ、主と遊びたいという我の気持ちが届かぬ……普段もあまり側に置いてくれぬし……我も珀豪達のように一緒にいたいのだぞ?》

珍しく悲しそうな声で言われて、高耶もドキリとした。そのため、こんな言葉も思わず出る。

「くっ……分かった分かった。ちゃんと黒艶もこれからはなるべく呼ぶし、遊ぶから」

思えば、黒艶のこの本来の姿のこともあり、式達の中で一番呼び出すことが少ない。闇を司るからとかそういう属性については全く関係ない。

《本当か!? 本気か!? 押してダメなら引いてみろが効いた!? こんなに簡単に!? 主殿よ、チョロ過ぎるぞ!?》
「……おい。聞こえてんぞ……?」

やられたようだ。

イライラとしたその時、タイミングを計ったように宮殿へ着いた。

《主殿。我があやつを引っ張ってこようぞ! 頼りになる所を見よ!》
「……」

こちらの返事を聞く間もなく、黒艶は人化すると、そのまま宮殿へ窓から飛び込んで行った。

そして、悲鳴が響いた。

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読んでくださりありがとうございます◎
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