131 / 405
第三章 秘伝の弟子
131 隠れ家的なやつです
しおりを挟む
高耶がお姉さん二人に遊ばれている頃。
優希、可奈、美由の三人は珀豪とホテルから十分ほど移動した草原に来ていた。
「こっちこっちっ」
「まって~」
「うわぁ、あそこにキレイなちょうちょがいたよっ」
《優希。後ろを見ながら走ると危ないぞ》
優希に案内されてやってきたのは、雪のような真っ白な小さな花が絨毯になった丘の上。花畑を両脇に見て、綺麗に均されて作られた道を辿る。そして、その中心には大きな大木があり、立派なツリーハウスがあった。
「じゃ~んっ」
「「すごぉい!!」」
木の幹に沿ってぐるりと回るようにして広めに作られている階段。その上にテラス席まで作られた木の家だ。
「ハクちゃんがつくってくれた、ユウキのべんきょうべやなのっ」
「ここでべんきょうするの?」
「いいな~ぁ」
「えへへ。はいって~」
秘密基地が欲しいと言った優希のために作ったツリーハウスで、ここで勉強したら楽しいだろうと言ってお披露目したのだが、それを優希はそのまま受け取ったらしい。
気遣い屋の珀豪らしく、階段には低めの手すりと大人用の手すりが付いており、テラスから落ちないようにきっちりと柵も作って安全対策はバッチリだ。
因みに中にはシャワー室にトイレ、洗面台もある。
高耶が女の子は難しいと常々言っているので、珀豪も育児書などを読み漁った。そこで、一人になる所も必要だというのを見つけ、ならばここにいざという時に家出して来られる場所を作ってしまえという考えで作りあげた。
知らない所に家出されるより良いだろう。ただし立派すぎではある。
「なにこれ~。フワフワじゅうたん?」
「つくえとイスもかわいいっ」
靴を脱いで上がれるようにしたので、絨毯にも拘った珀豪だ。
《その絨毯は、実際に貴族が使うようなものだ。気持ちがいいだろう》
「すごくいいっ」
可奈ちゃんが座り込んで撫で続けていた。
「ねえっ、カナちゃんこっちきてっ」
「え?」
美由が優希に案内されていたのは、キレイな衝立の向こう。そこには大きなベッドがあった。
「お、オヒメサマのベッド……っ」
「いいでしょ~。おひるねもできるのっ」
「すごすぎっ」
三人で転がっても余裕なキングサイズのベッドは、薄桃色の天蓋付きだ。
ひとしきり興奮した三人は、そこで横になって少しの間うたた寝してしまう。それを珀豪が穏やかに見つめていた。
一方、その上の学生組といえば、釣りがしたいとのことで、大きな湖に向かっていたのだが、その移動手段は歩きではなかった。
「移動にこんなゴルフカート? ってかランドカー? 用意してるとか、もう本当になんでもありじゃん」
それなりにこの世界は広いので、一般的な移動はこれでと提供された乗り物を見て、俊哉は初めて見たと言って興奮していた。
「それも自動運転も可とかすご過ぎ!」
現在はその自動運転になっており、目的地は『大氷晶湖畔』と表示されている。おもちゃの車で遊ぶように、俊哉は自分では動かせないハンドルを意味もなく掴んではしゃいでいた。
その後ろに乗っているのは統二と拓真だ。拓真は美しい周りの景色に見とれているようで、俊哉の興奮気味な言葉など聞こえていないようだ。なので、付き合っているのは統二だった。
「優希ちゃん達がいますからね。行き先を入力するだけで移動できます。万が一迷子になっても誰かは気付きますけど、そこは頼り切らなくても良いようにというか……」
「お~、まあ、自由に満喫したいもんなっ」
「はい。遠くに行って、戻って来られなくなっても、一応はこれで移動できる三十分圏内には泊まれる小屋や休憩所があります」
「『近くの休憩所』ってのがそれか」
その小屋や休憩所には『呼出』の鐘があり、それを鳴らせば、お世話をしてくれる式が来てくれるので安心だ。
「もちろん、自動運転ですから、寝ていてもあのホテルには戻れますけどね」
「マジで子ども用の対策って感じ?」
「というより、優希ちゃん用の対策です」
「そこは高耶じゃねえんだ?」
「いえ、兄さんの提案なので」
「なるほど~」
そういえば立派なシスコンになってたわと俊哉が納得した。
到着した湖は、大きくて美しかった。
中央に小島があり、キラキラと輝く水晶の山のようなものが生えている。
「すごい……きれいだ……」
先ほどから拓真は明るい表情でいろんなものに見惚れている。心が開いている証拠だ。普段の学校での様子とはまるで違う。
「いいでしょう? あれ、水晶じゃなくて氷なんだ。あそこの中央には氷でできた宮殿があるんだよ?」
「え? 宮殿?」
「うん。あれはすごいよ? 兄さんの水の式神の清晶さんが作ったんだけど、ちょっと凝り過ぎちゃったらしくて……」
最初は塔のようなものをと思っていたらしい。だが、優希にせがまれ、城のようなものになり、あまり高さを出すのもと思い横に広がって宮殿になっていた。
「氷だけど、温度調節をしてて不思議とそんなに寒くないんだ。ベッドとかもあるし、内装は意外と普通でね」
とはいえ、宮殿だ。内装もそれ相応のものになっている。
「今はもう見えないけど、お昼の十二時と夜の十二時に一時間ずつ、あの辺りに小島へ続く道が出来るんだよ」
「……見てみたいな……」
呆れるのではなく、拓真は何にでも興味津々だ。それが統二には自然に見えた。いつも何かに耐えるように見えた拓真を知っているからこそ、とても好ましく映る。
「なら、明日のお昼にね。せっかくなら道を渡って行きたいでしょう? 帰りは別にボートもあるから」
「っ、いいのか?」
「うん。お昼をそこで食べてもいいしね。魚料理がすっごく美味しいんだ」
「その宮殿で?」
「そうだよ? 高級レストランって感じかな。タダだけど」
「はっ、贅沢すぎっ」
そんな話をしている間に、既に俊哉は釣りを始めていた。楽しそうに笑い合う二人からは離れ、俊哉は実の兄のように優しく見守っていた。
しかしその時、その宮殿から同じように俊哉達へ何者かが視線を向けているとは思いもしないのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 14
優希、可奈、美由の三人は珀豪とホテルから十分ほど移動した草原に来ていた。
「こっちこっちっ」
「まって~」
「うわぁ、あそこにキレイなちょうちょがいたよっ」
《優希。後ろを見ながら走ると危ないぞ》
優希に案内されてやってきたのは、雪のような真っ白な小さな花が絨毯になった丘の上。花畑を両脇に見て、綺麗に均されて作られた道を辿る。そして、その中心には大きな大木があり、立派なツリーハウスがあった。
「じゃ~んっ」
「「すごぉい!!」」
木の幹に沿ってぐるりと回るようにして広めに作られている階段。その上にテラス席まで作られた木の家だ。
「ハクちゃんがつくってくれた、ユウキのべんきょうべやなのっ」
「ここでべんきょうするの?」
「いいな~ぁ」
「えへへ。はいって~」
秘密基地が欲しいと言った優希のために作ったツリーハウスで、ここで勉強したら楽しいだろうと言ってお披露目したのだが、それを優希はそのまま受け取ったらしい。
気遣い屋の珀豪らしく、階段には低めの手すりと大人用の手すりが付いており、テラスから落ちないようにきっちりと柵も作って安全対策はバッチリだ。
因みに中にはシャワー室にトイレ、洗面台もある。
高耶が女の子は難しいと常々言っているので、珀豪も育児書などを読み漁った。そこで、一人になる所も必要だというのを見つけ、ならばここにいざという時に家出して来られる場所を作ってしまえという考えで作りあげた。
知らない所に家出されるより良いだろう。ただし立派すぎではある。
「なにこれ~。フワフワじゅうたん?」
「つくえとイスもかわいいっ」
靴を脱いで上がれるようにしたので、絨毯にも拘った珀豪だ。
《その絨毯は、実際に貴族が使うようなものだ。気持ちがいいだろう》
「すごくいいっ」
可奈ちゃんが座り込んで撫で続けていた。
「ねえっ、カナちゃんこっちきてっ」
「え?」
美由が優希に案内されていたのは、キレイな衝立の向こう。そこには大きなベッドがあった。
「お、オヒメサマのベッド……っ」
「いいでしょ~。おひるねもできるのっ」
「すごすぎっ」
三人で転がっても余裕なキングサイズのベッドは、薄桃色の天蓋付きだ。
ひとしきり興奮した三人は、そこで横になって少しの間うたた寝してしまう。それを珀豪が穏やかに見つめていた。
一方、その上の学生組といえば、釣りがしたいとのことで、大きな湖に向かっていたのだが、その移動手段は歩きではなかった。
「移動にこんなゴルフカート? ってかランドカー? 用意してるとか、もう本当になんでもありじゃん」
それなりにこの世界は広いので、一般的な移動はこれでと提供された乗り物を見て、俊哉は初めて見たと言って興奮していた。
「それも自動運転も可とかすご過ぎ!」
現在はその自動運転になっており、目的地は『大氷晶湖畔』と表示されている。おもちゃの車で遊ぶように、俊哉は自分では動かせないハンドルを意味もなく掴んではしゃいでいた。
その後ろに乗っているのは統二と拓真だ。拓真は美しい周りの景色に見とれているようで、俊哉の興奮気味な言葉など聞こえていないようだ。なので、付き合っているのは統二だった。
「優希ちゃん達がいますからね。行き先を入力するだけで移動できます。万が一迷子になっても誰かは気付きますけど、そこは頼り切らなくても良いようにというか……」
「お~、まあ、自由に満喫したいもんなっ」
「はい。遠くに行って、戻って来られなくなっても、一応はこれで移動できる三十分圏内には泊まれる小屋や休憩所があります」
「『近くの休憩所』ってのがそれか」
その小屋や休憩所には『呼出』の鐘があり、それを鳴らせば、お世話をしてくれる式が来てくれるので安心だ。
「もちろん、自動運転ですから、寝ていてもあのホテルには戻れますけどね」
「マジで子ども用の対策って感じ?」
「というより、優希ちゃん用の対策です」
「そこは高耶じゃねえんだ?」
「いえ、兄さんの提案なので」
「なるほど~」
そういえば立派なシスコンになってたわと俊哉が納得した。
到着した湖は、大きくて美しかった。
中央に小島があり、キラキラと輝く水晶の山のようなものが生えている。
「すごい……きれいだ……」
先ほどから拓真は明るい表情でいろんなものに見惚れている。心が開いている証拠だ。普段の学校での様子とはまるで違う。
「いいでしょう? あれ、水晶じゃなくて氷なんだ。あそこの中央には氷でできた宮殿があるんだよ?」
「え? 宮殿?」
「うん。あれはすごいよ? 兄さんの水の式神の清晶さんが作ったんだけど、ちょっと凝り過ぎちゃったらしくて……」
最初は塔のようなものをと思っていたらしい。だが、優希にせがまれ、城のようなものになり、あまり高さを出すのもと思い横に広がって宮殿になっていた。
「氷だけど、温度調節をしてて不思議とそんなに寒くないんだ。ベッドとかもあるし、内装は意外と普通でね」
とはいえ、宮殿だ。内装もそれ相応のものになっている。
「今はもう見えないけど、お昼の十二時と夜の十二時に一時間ずつ、あの辺りに小島へ続く道が出来るんだよ」
「……見てみたいな……」
呆れるのではなく、拓真は何にでも興味津々だ。それが統二には自然に見えた。いつも何かに耐えるように見えた拓真を知っているからこそ、とても好ましく映る。
「なら、明日のお昼にね。せっかくなら道を渡って行きたいでしょう? 帰りは別にボートもあるから」
「っ、いいのか?」
「うん。お昼をそこで食べてもいいしね。魚料理がすっごく美味しいんだ」
「その宮殿で?」
「そうだよ? 高級レストランって感じかな。タダだけど」
「はっ、贅沢すぎっ」
そんな話をしている間に、既に俊哉は釣りを始めていた。楽しそうに笑い合う二人からは離れ、俊哉は実の兄のように優しく見守っていた。
しかしその時、その宮殿から同じように俊哉達へ何者かが視線を向けているとは思いもしないのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 14
94
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる