129 / 415
第三章 秘伝の弟子
129 『休日のお父さん』計画?
しおりを挟む
ジャンケンに勝ったのは清晶。ということで珀豪と清晶監修の南国リゾート風ホテルに決まった。
案内された部屋は、仲間内で泊まれるようにと作られた最上階の半分を使ったスイートルーム。
部屋に入って直ぐが全員で集まれるリビングダイニングになっており、この左右には三人ずつ泊まれる部屋が六つ。寝室だけではなく、きっちり一部屋ずつが寝室、リビング、バス、トイレ付きだ。
「これを貸し切り……贅沢過ぎやしないか?」
時島はここへ来てようやく意見を口にできた。驚き過ぎて何も言えなかったのだ。
「いやいや、先生。世界丸ごと貸し切りなんスよ? ここ貸し切りって今更っぽくないっスか?」
「……和泉……今日ほどお前の存在が頼もしく思えたことはないよ」
「あ、マジ? もっと頼って良いっスよ?」
「……お前は本当に……いや、うん。私もちょっとお前を見習ってみることにする……」
ちょっとした皮肉も通じない俊哉に、時島は改めて感心しているようだった。
「先生も彼ほどとはいかなくとも、もう少しここでは肩の力を抜いてみるといいですよ。どうせここには常識なんてほとんど無いんですから」
「その……榊さんでしたか……この年になると肩の力の抜き方というのがわからないのですよ」
機嫌良く笑う源龍に肩を叩かれ、時島は困惑するしかない。
「ああ、なるほど。では、私と先ずは『休日のお父さん』というのを体験してみましょう。因みにお子さんは?」
「堅物な息子が一人……所帯を持っていますが、ここ数年はほとんど顔を見ておりません。そろそろ小学校に上がる孫娘もおりますが、懐きませんで……」
「おや、それはそのお孫さんは損をしますね」
「はい?」
源龍の言っている意味が分からない時島は顔をしかめる。
「だってそうでしょう。この世界を知り得ないのですから」
「あ……そうですね。こういう世界を教えられないのは残念です」
「ええ。なので沢山楽しんでみましょう。いつか教えられる時もあるでしょうから」
「なるほど。ははっ、では、精一杯自慢できるように楽しんでみます。ちょうど良い息子役も居ますしね」
「あ~、確かに良さそうです」
二人で見つめたのは、子ども達と一緒に大きな窓に張り付いている俊哉だ。息子としてはちょっとどうかと思うが、まあいいかと思う時島は大分、肩の力が抜けているようだった。
「父親役の見本としては珀豪君が良さそうですしね」
「あの方は……本当に父親の見本のような方ですね」
開けてくれとせがむ優希達を落ち着かせながら、珀豪がバルコニーに続く窓を開ける。いくら安全な柵があるとはいえ、飛び出して行ってしまわないように気をつけながらというのが実に彼らしい。
《バルコニーでは走り回ってはいかんぞ?》
「「「は~い」」」
そうして、子ども達を引き連れながら珀豪はバルコニーへ出て行く。
それを大人たちも追った。
解放的な広いバルコニーから見える景色は絶景だった。あの丘の上から見た景色とはまた違う。
それを堪能していると、高耶と瑶迦が遅れて部屋へやってきた。
因みに部屋には自動ロック機能はない。元々、身内しか使わないので、出入り自由にしているのだ。もしもこの先、それが必要になった場合は部屋の前に式を一人警備として配置することになっている。
ただ、鍵がないわけではなく、中からはかけられるようになっている。この中の部屋もそうだ。なので、特に不安というものはないだろう。
「あ、兄さん。何かあったんですか?」
「ん? いや、ただここの責任者に挨拶されただけだよ」
「ごめんなさいね。あの子達がどうしてもというものだから」
ホテルに入ってすぐに高耶は瑶迦に連れられて行ってしまったのだ。統二は何かあったのではないかと思ってしまった。
「挨拶ですか?」
「ええ。高耶さんが一番はじめに泊まるというので、あの子達が張り切ってしまって」
「あ……なんかわかりました……」
「……」
統二が気の毒そうな顔を高耶へ向けた。
「いや、まあ……歓迎してくれてるみたいで良かったよ……ただ、ちょっと気合いの入れ方が違ってな……」
「ふふ、ここに就職すると決めたあの子達は、張り切って現地で研修を受けてきたんですのよ?」
「現地?」
これには、統二の隣で聞いていた拓真が反応した。
「直接リゾートホテルの接客というのを見に行って、人に紛れて密かに実地研修も」
「……やったんですか……」
「やって来たみたいですわ」
「うわぁ……」
統二がそれはさすがにないわと声を上げるのに対して、拓真もまさかと察していた。
「えっと……内緒でってことですか?」
「大丈夫です。そういうところはバレずに上手くやりますわ♪」
「普通はダメですからね?」
瑶迦は当たり前のように言っているが、本来は良くない。
「それで昔、旅館に迷惑をかけたでしょう」
高耶が苦笑しながら言えば、瑶迦はそんなことありましたわねとコロコロ笑う。
「昔の話ですわ。それに、お客様には迷惑をかけていませんもの」
「いや、従業員の人達が怖い思いをしていてはダメですよ……」
そうこう話していると、話を聞いていた那津が近付いてくる。
「瑶姫様、怒られていますの?」
「そうなのです。ちょっと幽霊騒ぎで旅館を潰しかけたというだけなのですけど……あら?」
「「「……」」」
残念ながら瑶迦に味方はできなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
できたらまた週末に。
2019. 8. 7
案内された部屋は、仲間内で泊まれるようにと作られた最上階の半分を使ったスイートルーム。
部屋に入って直ぐが全員で集まれるリビングダイニングになっており、この左右には三人ずつ泊まれる部屋が六つ。寝室だけではなく、きっちり一部屋ずつが寝室、リビング、バス、トイレ付きだ。
「これを貸し切り……贅沢過ぎやしないか?」
時島はここへ来てようやく意見を口にできた。驚き過ぎて何も言えなかったのだ。
「いやいや、先生。世界丸ごと貸し切りなんスよ? ここ貸し切りって今更っぽくないっスか?」
「……和泉……今日ほどお前の存在が頼もしく思えたことはないよ」
「あ、マジ? もっと頼って良いっスよ?」
「……お前は本当に……いや、うん。私もちょっとお前を見習ってみることにする……」
ちょっとした皮肉も通じない俊哉に、時島は改めて感心しているようだった。
「先生も彼ほどとはいかなくとも、もう少しここでは肩の力を抜いてみるといいですよ。どうせここには常識なんてほとんど無いんですから」
「その……榊さんでしたか……この年になると肩の力の抜き方というのがわからないのですよ」
機嫌良く笑う源龍に肩を叩かれ、時島は困惑するしかない。
「ああ、なるほど。では、私と先ずは『休日のお父さん』というのを体験してみましょう。因みにお子さんは?」
「堅物な息子が一人……所帯を持っていますが、ここ数年はほとんど顔を見ておりません。そろそろ小学校に上がる孫娘もおりますが、懐きませんで……」
「おや、それはそのお孫さんは損をしますね」
「はい?」
源龍の言っている意味が分からない時島は顔をしかめる。
「だってそうでしょう。この世界を知り得ないのですから」
「あ……そうですね。こういう世界を教えられないのは残念です」
「ええ。なので沢山楽しんでみましょう。いつか教えられる時もあるでしょうから」
「なるほど。ははっ、では、精一杯自慢できるように楽しんでみます。ちょうど良い息子役も居ますしね」
「あ~、確かに良さそうです」
二人で見つめたのは、子ども達と一緒に大きな窓に張り付いている俊哉だ。息子としてはちょっとどうかと思うが、まあいいかと思う時島は大分、肩の力が抜けているようだった。
「父親役の見本としては珀豪君が良さそうですしね」
「あの方は……本当に父親の見本のような方ですね」
開けてくれとせがむ優希達を落ち着かせながら、珀豪がバルコニーに続く窓を開ける。いくら安全な柵があるとはいえ、飛び出して行ってしまわないように気をつけながらというのが実に彼らしい。
《バルコニーでは走り回ってはいかんぞ?》
「「「は~い」」」
そうして、子ども達を引き連れながら珀豪はバルコニーへ出て行く。
それを大人たちも追った。
解放的な広いバルコニーから見える景色は絶景だった。あの丘の上から見た景色とはまた違う。
それを堪能していると、高耶と瑶迦が遅れて部屋へやってきた。
因みに部屋には自動ロック機能はない。元々、身内しか使わないので、出入り自由にしているのだ。もしもこの先、それが必要になった場合は部屋の前に式を一人警備として配置することになっている。
ただ、鍵がないわけではなく、中からはかけられるようになっている。この中の部屋もそうだ。なので、特に不安というものはないだろう。
「あ、兄さん。何かあったんですか?」
「ん? いや、ただここの責任者に挨拶されただけだよ」
「ごめんなさいね。あの子達がどうしてもというものだから」
ホテルに入ってすぐに高耶は瑶迦に連れられて行ってしまったのだ。統二は何かあったのではないかと思ってしまった。
「挨拶ですか?」
「ええ。高耶さんが一番はじめに泊まるというので、あの子達が張り切ってしまって」
「あ……なんかわかりました……」
「……」
統二が気の毒そうな顔を高耶へ向けた。
「いや、まあ……歓迎してくれてるみたいで良かったよ……ただ、ちょっと気合いの入れ方が違ってな……」
「ふふ、ここに就職すると決めたあの子達は、張り切って現地で研修を受けてきたんですのよ?」
「現地?」
これには、統二の隣で聞いていた拓真が反応した。
「直接リゾートホテルの接客というのを見に行って、人に紛れて密かに実地研修も」
「……やったんですか……」
「やって来たみたいですわ」
「うわぁ……」
統二がそれはさすがにないわと声を上げるのに対して、拓真もまさかと察していた。
「えっと……内緒でってことですか?」
「大丈夫です。そういうところはバレずに上手くやりますわ♪」
「普通はダメですからね?」
瑶迦は当たり前のように言っているが、本来は良くない。
「それで昔、旅館に迷惑をかけたでしょう」
高耶が苦笑しながら言えば、瑶迦はそんなことありましたわねとコロコロ笑う。
「昔の話ですわ。それに、お客様には迷惑をかけていませんもの」
「いや、従業員の人達が怖い思いをしていてはダメですよ……」
そうこう話していると、話を聞いていた那津が近付いてくる。
「瑶姫様、怒られていますの?」
「そうなのです。ちょっと幽霊騒ぎで旅館を潰しかけたというだけなのですけど……あら?」
「「「……」」」
残念ながら瑶迦に味方はできなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
できたらまた週末に。
2019. 8. 7
161
お気に入りに追加
1,455
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる