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第三章 秘伝の弟子
127 建築ラッシュだそうです
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高耶のプチ撮影会は、何故か母である美咲や美奈深、由佳理、校長まで巻き込んでのものになった。
「ねえねえ、高耶君っ。待ち受けにして良い? なんか運気上がりそう」
「確かにっ。良いわ~ぁ」
「いや、旦那さんに誤解されますから……せめて優希たちと一緒ならいいかもしれませんけど……」
「「それよっ!!」」
「……」
若いママさんパワーに始終押され気味だ。
「わ、私は良いわよね? 息子の写真だもの。待ち受けにしたって良いはずだわ」
「美咲さ~ん。僕にも送ってくださ~い」
「もちろんよっ」
照れながらも待ち受けにしようと画策する美咲に、樹も同意したらしい。二十を目前にした息子の写真を待ち受けにするのはどうかと思うと、今すぐに言えないのは、未だに撮影会が終わらないからだ。
因みに、瑶迦の方はもう先に散々撮影を楽しんで、今はパソコンで出力中だった。
「この表情良くありませんっ?」
「ちょっと困惑しながらも微笑む感じがステキっ」
「ならばこれも出力して保存ですわねっ。那津さんも要りますでしょう?」
「いただきますわっ」
校長……旧姓で氷上那津が瑶迦とはしゃいでいた。
「なあ、高耶。俺とも撮ろうぜ~。その辺のモデルにも負けてねえし、めっちゃ自慢できそう」
「兄さんっ。僕ともお願いします!」
「お、俺も……その……」
俊哉と統二、二葉までが便乗しようとしていた。そんな一同を源龍と時島が少し羨ましそうに見つめている。
「私もちょっと撮りたいなあ」
「あの中に入っていくのは難しそうですね」
二人で苦笑いだ。
《さすがは師匠! モデル並みに素敵過ぎです!》
《ファッション雑誌を読み漁った我々の勝利ですわね!》
《ん……カッコいい……》
高耶をコーディネートした松と柊、そして綺翔は、大変満足気だ。
「……あの……俺を撮るよりもっと良い景色を撮ってはどうかと思うんですけどね」
「っ、あら。あらあら、そうだったわ」
この言葉でようやく瑶迦が我に返った。
「高耶さんが戻って来たら案内することになっていたわね。そちらの子も大分、疲弊しているようだし。行きましょうか」
「あ……えっと……俺……まだ挨拶してなくて……二葉拓真です……よろしくお願いします」
「ええ。ゆっくり癒されていってちょうだい」
「っ、ありがとうございます……」
きちんと挨拶ができる拓真を見て、高耶は微笑ましいものを見るように目を細め、穏やかに笑う。
するとカメラマンもびっくりな反応で、複数のシャッター音が響いた。
「「「「今の良いわ~っ」」」」
「……」
すぐに遠い目をして表情が消えたのは仕方がなかったと思う。それからもしばらく続き、結局全員それぞれツーショットを撮ってから、なんとか終了した。
◆ ◆ ◆
そこは、瑶迦が作り上げた楽園だ。
四季に関係なく花は咲き乱れ、澄み切った川や海、水晶が生えたように見える山が見える。
入り口として設定されているのは、そんな景色が一望できる丘の上だった。
「すごい……まるで異世界ね……」
「ちゃんと太陽もあるわよ? 風も雲も……本当にこれ、作られた場所なの?」
瑶迦が作ったと聞いて『世界を作った』と考えられるものではないだろう。まだこちらの業界のことに不慣れな者達は仕方ないが、長くこの業界にいる源龍でさえ信じられない思いでその地に立っていた。
「いくら魔女様でも、ここまでのことができるなんて、信じられないよ……」
力を知るからこそ、ここまでのものを実現するのにどれだけの力が必要となるのかと恐ろしく感じてしまうのだ。源龍は、景色の美しさに鳥肌を立てているのか、その絶大な力故なのか分からなくなっていた。
「さあさあ、こちらですわ♪」
あの地からそうそう動くことのできない瑶迦であっても、この世界に来るのは問題ない。土地に縛られる瑶迦は、何日もあの地を離れることができないのだが、土地から動いたわけではなく、あくまでもこの地は土地の中にあるというものなのだ。
例え、この世界が地球の何十分の一という、それなりの広さを持っていたとしても、それは変わらない。
「綺麗な道が出来ているんだな……」
時島が丘の上から続く真っ直ぐで横幅三メートルはある石畳みの道の滑らかさに感心する。すると、清晶が思わずとある情報を開示した。
《この石畳み、綺翔がやってた》
「き、キショウさんがこれをっ。あの見た目で職人レベルの仕事ができるとか、どんだけ俺をギャップ萌えさせんの!?」
《……別にあんたを喜ばせるためじゃないし……》
「和泉……本当にお前は……」
時島が俊哉を見る目は、確実に『どうしようもない奴』を見る目へと固定され始めていた。
「あっ、ハチがいる……っ」
「だいじょうぶだよ。ここのハチさんはささないんだって。カムどくをもったムシもいないの。けど、あんまりとったりころしたりしちゃダメだよ?」
「そうなの? わかったっ」
「あと、おへやにかざったり、たべるためとかじゃないなら、おハナとかもあまりとらないでね?」
優希は可奈ちゃんと美由ちゃんに色々と説明しているようだ。
この世界には毒虫はいない。噛みはするかもしれないが、針も持っていない。そんな少し変わった生態の生き物達が棲んでいる。
特別な環境のせいなのか、それらはとても穏やかな気性だ。
三分ほど歩くと、目の前にはもはや隠しきれない豪邸が並んでいた。木や色合いなどで丘の上からでは全容が見えなかったのだ。しかし、今や高級ホテルかと思えるものがいくつも見えていた。
これには高耶も言わずにはおれない。
「……瑶迦さん……先日までは二棟しかなかったはずですが……?」
この場所には、旅館風の建物とリゾートホテル風の建物の二つがかなり離れて建っていただけだったはずだ。
それが、隣の建物までは五分ほど離れていそうだが、パッと見えるだけでも五つのホテルがそれぞれの向きで建っていた。その五つもデザインは様々。
南国風、ヨーロッパ風、日本風とテーマがありそうだ。
そして、ふっと視線を動かし、建物と建物の間からその先を見て愕然とした。
「……よ、瑶迦さん……あっちの方に……西洋の城があるんですが……」
「はい♪ 現在、建築ラッシュですの♪ エルさんから毎日、図面がファックスされてきますのよ? 作らないと損ですわ♪」
「……」
まさかのエルラントの関与に頭を抱える。ここで『いやいや、そういう問題ではない』とツッコめるだけの気力が既に現在の高耶には残っていなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
できたら週末にもう一話。
2019. 7. 31
「ねえねえ、高耶君っ。待ち受けにして良い? なんか運気上がりそう」
「確かにっ。良いわ~ぁ」
「いや、旦那さんに誤解されますから……せめて優希たちと一緒ならいいかもしれませんけど……」
「「それよっ!!」」
「……」
若いママさんパワーに始終押され気味だ。
「わ、私は良いわよね? 息子の写真だもの。待ち受けにしたって良いはずだわ」
「美咲さ~ん。僕にも送ってくださ~い」
「もちろんよっ」
照れながらも待ち受けにしようと画策する美咲に、樹も同意したらしい。二十を目前にした息子の写真を待ち受けにするのはどうかと思うと、今すぐに言えないのは、未だに撮影会が終わらないからだ。
因みに、瑶迦の方はもう先に散々撮影を楽しんで、今はパソコンで出力中だった。
「この表情良くありませんっ?」
「ちょっと困惑しながらも微笑む感じがステキっ」
「ならばこれも出力して保存ですわねっ。那津さんも要りますでしょう?」
「いただきますわっ」
校長……旧姓で氷上那津が瑶迦とはしゃいでいた。
「なあ、高耶。俺とも撮ろうぜ~。その辺のモデルにも負けてねえし、めっちゃ自慢できそう」
「兄さんっ。僕ともお願いします!」
「お、俺も……その……」
俊哉と統二、二葉までが便乗しようとしていた。そんな一同を源龍と時島が少し羨ましそうに見つめている。
「私もちょっと撮りたいなあ」
「あの中に入っていくのは難しそうですね」
二人で苦笑いだ。
《さすがは師匠! モデル並みに素敵過ぎです!》
《ファッション雑誌を読み漁った我々の勝利ですわね!》
《ん……カッコいい……》
高耶をコーディネートした松と柊、そして綺翔は、大変満足気だ。
「……あの……俺を撮るよりもっと良い景色を撮ってはどうかと思うんですけどね」
「っ、あら。あらあら、そうだったわ」
この言葉でようやく瑶迦が我に返った。
「高耶さんが戻って来たら案内することになっていたわね。そちらの子も大分、疲弊しているようだし。行きましょうか」
「あ……えっと……俺……まだ挨拶してなくて……二葉拓真です……よろしくお願いします」
「ええ。ゆっくり癒されていってちょうだい」
「っ、ありがとうございます……」
きちんと挨拶ができる拓真を見て、高耶は微笑ましいものを見るように目を細め、穏やかに笑う。
するとカメラマンもびっくりな反応で、複数のシャッター音が響いた。
「「「「今の良いわ~っ」」」」
「……」
すぐに遠い目をして表情が消えたのは仕方がなかったと思う。それからもしばらく続き、結局全員それぞれツーショットを撮ってから、なんとか終了した。
◆ ◆ ◆
そこは、瑶迦が作り上げた楽園だ。
四季に関係なく花は咲き乱れ、澄み切った川や海、水晶が生えたように見える山が見える。
入り口として設定されているのは、そんな景色が一望できる丘の上だった。
「すごい……まるで異世界ね……」
「ちゃんと太陽もあるわよ? 風も雲も……本当にこれ、作られた場所なの?」
瑶迦が作ったと聞いて『世界を作った』と考えられるものではないだろう。まだこちらの業界のことに不慣れな者達は仕方ないが、長くこの業界にいる源龍でさえ信じられない思いでその地に立っていた。
「いくら魔女様でも、ここまでのことができるなんて、信じられないよ……」
力を知るからこそ、ここまでのものを実現するのにどれだけの力が必要となるのかと恐ろしく感じてしまうのだ。源龍は、景色の美しさに鳥肌を立てているのか、その絶大な力故なのか分からなくなっていた。
「さあさあ、こちらですわ♪」
あの地からそうそう動くことのできない瑶迦であっても、この世界に来るのは問題ない。土地に縛られる瑶迦は、何日もあの地を離れることができないのだが、土地から動いたわけではなく、あくまでもこの地は土地の中にあるというものなのだ。
例え、この世界が地球の何十分の一という、それなりの広さを持っていたとしても、それは変わらない。
「綺麗な道が出来ているんだな……」
時島が丘の上から続く真っ直ぐで横幅三メートルはある石畳みの道の滑らかさに感心する。すると、清晶が思わずとある情報を開示した。
《この石畳み、綺翔がやってた》
「き、キショウさんがこれをっ。あの見た目で職人レベルの仕事ができるとか、どんだけ俺をギャップ萌えさせんの!?」
《……別にあんたを喜ばせるためじゃないし……》
「和泉……本当にお前は……」
時島が俊哉を見る目は、確実に『どうしようもない奴』を見る目へと固定され始めていた。
「あっ、ハチがいる……っ」
「だいじょうぶだよ。ここのハチさんはささないんだって。カムどくをもったムシもいないの。けど、あんまりとったりころしたりしちゃダメだよ?」
「そうなの? わかったっ」
「あと、おへやにかざったり、たべるためとかじゃないなら、おハナとかもあまりとらないでね?」
優希は可奈ちゃんと美由ちゃんに色々と説明しているようだ。
この世界には毒虫はいない。噛みはするかもしれないが、針も持っていない。そんな少し変わった生態の生き物達が棲んでいる。
特別な環境のせいなのか、それらはとても穏やかな気性だ。
三分ほど歩くと、目の前にはもはや隠しきれない豪邸が並んでいた。木や色合いなどで丘の上からでは全容が見えなかったのだ。しかし、今や高級ホテルかと思えるものがいくつも見えていた。
これには高耶も言わずにはおれない。
「……瑶迦さん……先日までは二棟しかなかったはずですが……?」
この場所には、旅館風の建物とリゾートホテル風の建物の二つがかなり離れて建っていただけだったはずだ。
それが、隣の建物までは五分ほど離れていそうだが、パッと見えるだけでも五つのホテルがそれぞれの向きで建っていた。その五つもデザインは様々。
南国風、ヨーロッパ風、日本風とテーマがありそうだ。
そして、ふっと視線を動かし、建物と建物の間からその先を見て愕然とした。
「……よ、瑶迦さん……あっちの方に……西洋の城があるんですが……」
「はい♪ 現在、建築ラッシュですの♪ エルさんから毎日、図面がファックスされてきますのよ? 作らないと損ですわ♪」
「……」
まさかのエルラントの関与に頭を抱える。ここで『いやいや、そういう問題ではない』とツッコめるだけの気力が既に現在の高耶には残っていなかった。
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2019. 7. 31
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