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第三章 秘伝の弟子
125 お約束です
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ヒラヒラとした薄い衣を纏い。その下に幾重にも着物のように衣を重ねる服。黒く艶やかな長い髪はサラサラと肩を滑り、両耳の上辺りには横髪を束ねるようにレースをあしらった白いリボンが結ばれている。
幼い顔立ちは、本来の年齢など絶対に想像できないだろう。天女か巫女かというような美しい少女の姿をしている。
そして、その声や仕草も可愛らしいものだ。
「はじめまして。この屋敷の主の瑶迦です」
指先を重ねる所作さえ美しく、お姫様だと誰もが認めるだろう。
瑶迦は、皆に蕩然と見惚れられていることに気付くこともなく、品良く笑いながら目を細めた。
「こんなにたくさんの方に来ていただいて嬉しいわ。どうぞゆっくりして行ってくださいね」
「っ、ありがとうございます……」
辛うじて、時島が返事を返すことに成功した。
そこに、遅れて高耶と源龍がやって来た。すると、瑶迦は可憐な笑顔を更に弾けさせる。
「あ、高耶さんっ、それに榊の当代当主っ。いらっしゃい」
「こんにちは瑶迦さん。お邪魔します」
「はじめてお目にかかります。榊源龍と申します。少しの間、ご厄介になります」
源龍は緊張しているらしく、丁寧に頭を深く下げた。
「ふふっ。そんなにかしこまらないでくださいな。源龍さんとお呼びしても?」
「っ、もちろんです。瑶姫様」
「では、こちらも瑶迦と呼んでくださいね」
「そ、そんな……っ」
畏れ多いと思っている源龍は、困惑していた。仕方なく、高耶が助け舟を出す。
「瑶迦さん。急には無理かもしれませんからね。落ち着くまで待ってください」
「そう……無理強いはダメよね。分かりました。でも、早く呼べるようになってください」
「は、はい……」
高耶も源龍がそのうち慣れるだろうと特に気にしてはいなかった。そこで、ようやく部屋に校長がいることに気付いたのだ。
「っ、先生、どうして……」
「ふふふ。こんにちは、ご当主。その節はお世話になりました」
「いいえ。こちらこそ、快く協力していただき、助かりました。それにしても、どうされたのですか?」
穏やかな笑みを浮かべて、高耶のそばまでやって来た校長は今回ここまで来た理由を告げる。
「実は、ご当主に相談したいことがあって……何度も足を運んでいただくのもと思ったの。それで厚かましくもこちらにまで上げていただいて……」
振り返って、母の美咲や父の樹と笑い合う。
「校長先生が、高耶の知り合いで、仕事のことも知ってるなんて聞いたら、お話してみたくって。そうしたら、校長先生の実家も陰陽師の家系だっておっしゃるんだもの」
どうやら、美咲が連れ込んだ犯人のようだ。
「私も噂で聞く瑶姫様にお会い出来るなんて思わなくてっ。一族中に自慢できますわっ」
「……そうですか……」
本気で嬉しそうな校長に、高耶は力なく相槌を打つ。
「ふふっ。ほら高耶さん。そろそろ皆さんに座っていただきたいわ」
「そうですね。お茶の用意を……」
いつものように高耶はそちらへ回ろうとする。その理由は自分の今日の出で立ちに気付いてしまったからだ。
《それは橘がしておりますわ。それよりも、高耶さん。お仕事であったのは分かっていますが、またそのような色味の少ない服を……》
「っ、い、いえ。今回はさすがに汚れるかもしれなかったですし……」
《清晶さんがいればそんなもの関係ないはずでは?》
「……はい……」
高耶は必死で目を逸らしていた。やはり藤には弱い。
《お分かりならば良いのです。では……柊、松》
はっ!
《高耶さんがお召し替えになります》
お任せを!!
出てきたのは、ハキハキとキレの良い動きと返事をする二人の女性。そして、高耶へ駆け寄った二人はキラキラとした笑みを向けた。
《お久しぶりです! 師匠! 今日もカッコいいです!》
《僭越ながら、師匠のお召し物をお選びいたします!》
「あ……ああ……」
二人は、ここでは珍しい体育会系女子だ。そして、二人は綺翔に憧れている。
「【綺翔】……一緒に行くか?」
《行く》
綺翔姐さん!
「キショウさん!」
「ん?」
他の所からも声が上がった。俊哉だ。
《……》
綺翔が困っているので、ここはとりあえずと、高耶は珀豪と綺翔以外のここに居ない他の式達を喚ぶことにした。
「【天柳】【清晶】【常盤】【黒艶】ここは頼む」
そうして、半ば引き摺られるようにして高耶は綺翔、柊、松と共に部屋を後にした。
「あの子ったら、毎回こうなるのね」
美咲が呆れたように言えば、瑶迦がクスクス笑った。
「高耶さんらしいといえば、らしいと思いますわ」
そんな様子を、まだ状況の呑み込めない一同が困惑して見つめていた。
これに仕方がないと珀豪達が動き出すのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 21
幼い顔立ちは、本来の年齢など絶対に想像できないだろう。天女か巫女かというような美しい少女の姿をしている。
そして、その声や仕草も可愛らしいものだ。
「はじめまして。この屋敷の主の瑶迦です」
指先を重ねる所作さえ美しく、お姫様だと誰もが認めるだろう。
瑶迦は、皆に蕩然と見惚れられていることに気付くこともなく、品良く笑いながら目を細めた。
「こんなにたくさんの方に来ていただいて嬉しいわ。どうぞゆっくりして行ってくださいね」
「っ、ありがとうございます……」
辛うじて、時島が返事を返すことに成功した。
そこに、遅れて高耶と源龍がやって来た。すると、瑶迦は可憐な笑顔を更に弾けさせる。
「あ、高耶さんっ、それに榊の当代当主っ。いらっしゃい」
「こんにちは瑶迦さん。お邪魔します」
「はじめてお目にかかります。榊源龍と申します。少しの間、ご厄介になります」
源龍は緊張しているらしく、丁寧に頭を深く下げた。
「ふふっ。そんなにかしこまらないでくださいな。源龍さんとお呼びしても?」
「っ、もちろんです。瑶姫様」
「では、こちらも瑶迦と呼んでくださいね」
「そ、そんな……っ」
畏れ多いと思っている源龍は、困惑していた。仕方なく、高耶が助け舟を出す。
「瑶迦さん。急には無理かもしれませんからね。落ち着くまで待ってください」
「そう……無理強いはダメよね。分かりました。でも、早く呼べるようになってください」
「は、はい……」
高耶も源龍がそのうち慣れるだろうと特に気にしてはいなかった。そこで、ようやく部屋に校長がいることに気付いたのだ。
「っ、先生、どうして……」
「ふふふ。こんにちは、ご当主。その節はお世話になりました」
「いいえ。こちらこそ、快く協力していただき、助かりました。それにしても、どうされたのですか?」
穏やかな笑みを浮かべて、高耶のそばまでやって来た校長は今回ここまで来た理由を告げる。
「実は、ご当主に相談したいことがあって……何度も足を運んでいただくのもと思ったの。それで厚かましくもこちらにまで上げていただいて……」
振り返って、母の美咲や父の樹と笑い合う。
「校長先生が、高耶の知り合いで、仕事のことも知ってるなんて聞いたら、お話してみたくって。そうしたら、校長先生の実家も陰陽師の家系だっておっしゃるんだもの」
どうやら、美咲が連れ込んだ犯人のようだ。
「私も噂で聞く瑶姫様にお会い出来るなんて思わなくてっ。一族中に自慢できますわっ」
「……そうですか……」
本気で嬉しそうな校長に、高耶は力なく相槌を打つ。
「ふふっ。ほら高耶さん。そろそろ皆さんに座っていただきたいわ」
「そうですね。お茶の用意を……」
いつものように高耶はそちらへ回ろうとする。その理由は自分の今日の出で立ちに気付いてしまったからだ。
《それは橘がしておりますわ。それよりも、高耶さん。お仕事であったのは分かっていますが、またそのような色味の少ない服を……》
「っ、い、いえ。今回はさすがに汚れるかもしれなかったですし……」
《清晶さんがいればそんなもの関係ないはずでは?》
「……はい……」
高耶は必死で目を逸らしていた。やはり藤には弱い。
《お分かりならば良いのです。では……柊、松》
はっ!
《高耶さんがお召し替えになります》
お任せを!!
出てきたのは、ハキハキとキレの良い動きと返事をする二人の女性。そして、高耶へ駆け寄った二人はキラキラとした笑みを向けた。
《お久しぶりです! 師匠! 今日もカッコいいです!》
《僭越ながら、師匠のお召し物をお選びいたします!》
「あ……ああ……」
二人は、ここでは珍しい体育会系女子だ。そして、二人は綺翔に憧れている。
「【綺翔】……一緒に行くか?」
《行く》
綺翔姐さん!
「キショウさん!」
「ん?」
他の所からも声が上がった。俊哉だ。
《……》
綺翔が困っているので、ここはとりあえずと、高耶は珀豪と綺翔以外のここに居ない他の式達を喚ぶことにした。
「【天柳】【清晶】【常盤】【黒艶】ここは頼む」
そうして、半ば引き摺られるようにして高耶は綺翔、柊、松と共に部屋を後にした。
「あの子ったら、毎回こうなるのね」
美咲が呆れたように言えば、瑶迦がクスクス笑った。
「高耶さんらしいといえば、らしいと思いますわ」
そんな様子を、まだ状況の呑み込めない一同が困惑して見つめていた。
これに仕方がないと珀豪達が動き出すのだった。
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