秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
125 / 419
第三章 秘伝の弟子

125 お約束です

しおりを挟む
ヒラヒラとした薄い衣を纏い。その下に幾重にも着物のように衣を重ねる服。黒く艶やかな長い髪はサラサラと肩を滑り、両耳の上辺りには横髪を束ねるようにレースをあしらった白いリボンが結ばれている。

幼い顔立ちは、本来の年齢など絶対に想像できないだろう。天女か巫女かというような美しい少女の姿をしている。

そして、その声や仕草も可愛らしいものだ。

「はじめまして。この屋敷の主の瑶迦です」

指先を重ねる所作さえ美しく、お姫様だと誰もが認めるだろう。

瑶迦は、皆に蕩然と見惚れられていることに気付くこともなく、品良く笑いながら目を細めた。

「こんなにたくさんの方に来ていただいて嬉しいわ。どうぞゆっくりして行ってくださいね」
「っ、ありがとうございます……」

辛うじて、時島が返事を返すことに成功した。

そこに、遅れて高耶と源龍がやって来た。すると、瑶迦は可憐な笑顔を更に弾けさせる。

「あ、高耶さんっ、それに榊の当代当主っ。いらっしゃい」
「こんにちは瑶迦さん。お邪魔します」
「はじめてお目にかかります。榊源龍と申します。少しの間、ご厄介になります」

源龍は緊張しているらしく、丁寧に頭を深く下げた。

「ふふっ。そんなにかしこまらないでくださいな。源龍さんとお呼びしても?」
「っ、もちろんです。瑶姫様」
「では、こちらも瑶迦と呼んでくださいね」
「そ、そんな……っ」

畏れ多いと思っている源龍は、困惑していた。仕方なく、高耶が助け舟を出す。

「瑶迦さん。急には無理かもしれませんからね。落ち着くまで待ってください」
「そう……無理強いはダメよね。分かりました。でも、早く呼べるようになってください」
「は、はい……」

高耶も源龍がそのうち慣れるだろうと特に気にしてはいなかった。そこで、ようやく部屋に校長がいることに気付いたのだ。

「っ、先生、どうして……」
「ふふふ。こんにちは、ご当主。その節はお世話になりました」
「いいえ。こちらこそ、快く協力していただき、助かりました。それにしても、どうされたのですか?」

穏やかな笑みを浮かべて、高耶のそばまでやって来た校長は今回ここまで来た理由を告げる。

「実は、ご当主に相談したいことがあって……何度も足を運んでいただくのもと思ったの。それで厚かましくもこちらにまで上げていただいて……」

振り返って、母の美咲や父の樹と笑い合う。

「校長先生が、高耶の知り合いで、仕事のことも知ってるなんて聞いたら、お話してみたくって。そうしたら、校長先生の実家も陰陽師の家系だっておっしゃるんだもの」

どうやら、美咲が連れ込んだ犯人のようだ。

「私も噂で聞く瑶姫様にお会い出来るなんて思わなくてっ。一族中に自慢できますわっ」
「……そうですか……」

本気で嬉しそうな校長に、高耶は力なく相槌を打つ。

「ふふっ。ほら高耶さん。そろそろ皆さんに座っていただきたいわ」
「そうですね。お茶の用意を……」

いつものように高耶はそちらへ回ろうとする。その理由は自分の今日の出で立ちに気付いてしまったからだ。

《それは橘がしておりますわ。それよりも、高耶さん。お仕事であったのは分かっていますが、またそのような色味の少ない服を……》
「っ、い、いえ。今回はさすがに汚れるかもしれなかったですし……」
《清晶さんがいればそんなもの関係ないはずでは?》
「……はい……」

高耶は必死で目を逸らしていた。やはり藤には弱い。

《お分かりならば良いのです。では……柊、松》

《高耶さんがお召し替えになります》


出てきたのは、ハキハキとキレの良い動きと返事をする二人の女性。そして、高耶へ駆け寄った二人はキラキラとした笑みを向けた。

《お久しぶりです! 師匠! 今日もカッコいいです!》
《僭越ながら、師匠のお召し物をお選びいたします!》
「あ……ああ……」

二人は、ここでは珍しい体育会系女子だ。そして、二人は綺翔に憧れている。

「【綺翔】……一緒に行くか?」
《行く》

「キショウさん!」
「ん?」

他の所からも声が上がった。俊哉だ。

《……》

綺翔が困っているので、ここはとりあえずと、高耶は珀豪と綺翔以外のここに居ない他の式達を喚ぶことにした。

「【天柳】【清晶】【常盤】【黒艶】ここは頼む」

そうして、半ば引き摺られるようにして高耶は綺翔、柊、松と共に部屋を後にした。

「あの子ったら、毎回こうなるのね」

美咲が呆れたように言えば、瑶迦がクスクス笑った。

「高耶さんらしいといえば、らしいと思いますわ」

そんな様子を、まだ状況の呑み込めない一同が困惑して見つめていた。

これに仕方がないと珀豪達が動き出すのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 21
しおりを挟む
感想 566

あなたにおすすめの小説

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

処理中です...