118 / 411
第三章 秘伝の弟子
118 熱い人達みたいで……
しおりを挟む
何かスゴイのが来たというのが高耶の感想だった。
思わず身構えてしまったのは、彼らからの気迫が強かったから。若干、迎撃態勢に入ってしまったのも仕方がないと言える。
しかし、彼らはこのゴロゴロと石の転がる河原でスライディング土下座を決めた。
「っ!?」
痛いだろうと目を見開く高耶の前で彼らは頭を上げることなく、大きな声で叫ぶように告げる。
因みに、彼らのズボンは特別性で、石も刺さらない。特殊な精霊が織った布で、銃弾もはね返すと言われている。
「我ら、清掃部隊! ご当主様へのこれまでの数々のご無礼! 謝罪をいたしたく参りました!!」
「え? いや、え?」
高耶も何がなんだかわからない。
そんな中、清晶は警戒しながら高耶にこれ以上彼らが近付かないように密かに結界を張っている。
《なんなのこいつら……》
清晶が結界を張ったのは条件反射のようなものだったのだ。暑苦しいのが高耶に抱きつくんじゃないかと思ったら全力で張っていたらしい。
触って欲しくないということだ。
「秘伝のご当主は秘伝秀一という方だと思っておりました……なので、ご当主の名を騙っているのだとばかり……」
「清掃部隊である我らは、他の陰陽師の方達に下に見られることが多く……下っ端の見習い陰陽師風情が指図をと……少々卑屈になっておりました……」
「はあ……」
よくわからない話が始まった。
それを聞いていると、どうやら、彼らの仕事を軽視する者が陰陽師の中にいるようだ。確かに清掃部隊はゴミ掃除をするというイメージがある。
実際は確かにこうしたゴミを処理するのはもちろんなのだが、場を清める前の下準備までをするのが彼らの仕事の一つだ。
時には、術によって荒れてしまった場所を整地し、元のように整えるという仕事もある。力仕事にも定評のある彼らは、儀式場を作ることもあった。
彼らは陰陽師達の裏方。黒子のようなもの。なくてはならない存在なのだが、どうしても特別な力があるのだと驕ってしまう最近の陰陽師達は軽視してしまうらしい。
「いつも我らが到着するとご当主は場を整えてくださっていました。やるべきことをやりやすいようにとしてくださっているのがよくわかります……」
「最初はただの偶然だと思いました。ですが違う……そう気付いたのは、お恥ずかしいことについ最近です……」
散らかしたら散らかしたままの陰陽師達とは違う。ここからここまでの範囲という場の保全も的確だった。
その上、高耶は仕事を頼んだ次の日には清掃部隊にきっちりと報酬を振り込むし、酷く大変な仕事の後には心付けとして差し入れも送っていた。
差し入れとしては、町や集落から送られてくることもあったので、特に気にしてはいなかったのだ。
「その気付くきっかけは神楽部隊でした」
「あれらとは、神楽の舞台の設営でよく仕事を一緒にします。そこでご当主のことを聞いたのです……」
神楽部隊は、何気ない様子で高耶に頼まれて行った神楽の話をしていただけだった。
『本当に秘伝のご当主には頭が下がりますよ。あれでまだ確か二十になっていませんでしたよね?』
『そうですよ。いやあ、思い出しますね……まだ高校生になったばかりの頃のご当主に、我々は辛く当たってしまっていて……』
『本当ですよ……今思うと本当に大人気ない……あの年でこちらのことまで気遣ってくださる方などそうそういませんよ』
いつからだっただろう。彼ら神楽部隊が、こうして穏やかに談笑しながら仕事をするようになったのは。それに気付いた時、ふとそれがとても気になった。
『秘伝のご当主はお若かったですかな?』
秘伝の当主は自分たちとそう変わらない壮年の、気遣いなどという言葉とは無縁な神経質な男だったはずだ。
『そうですよ? あ、もしや本家の方と勘違いされていませんか?』
『はい?』
当主なのだから本家だろうと、何を言っているのかわからなかった。
『秘伝のご当主は血ではなく、素質で決まるそうです。今の正式なご当主は分家筋から出られた方ですよ? とても真面目で博識で……常に努力を怠らない素晴らしい青年です』
研究に余念のない、どちらかといえば頭の固い方の神楽部隊の者が褒めるほどの人物。それに心当たりは全くなかった。
『きっとあのご当主のことです。あなた方のお仕事にも気を遣っておられるのではないでしょうか。少なくとも、彼ならば場を散らかしたまま後は頼んだと放置されるようなことはしませんよ』
『……あ……っ』
そこでようやく思い当たった。
いつも電話で丁寧に、申し訳なさそうに依頼してくる青年がいること。受付担当は、また当主を騙るバカな青年からの依頼だと連絡がある。しかし、その現場はそんな当主を騙るような者がいた場所なのかと不思議に思えるものだった。
『本物の当主だったのか……』
気付いてすぐに受付担当達を張り倒した。
受付は持ち回りでしている。だから、ほとんど全員だった。けれど、この頃になると高耶はすぐに対応してもらえないことが分かっているために、直接の電話ではなく依頼書ということで次の日に回すようになっていた。
場の保管はきっちりしてくれているので、すぐに急行する必要がなかったのだ。他の急務となる場所が終わってからで良いといつも一筆書かれていた。
どうしてこれに今まで気付かなかったのかと頭を抱えるしかない。因みに下の者たちを張り倒した手前、自分たちにもこれには罰をと思い、このふた月は休み返上で毎日働き続けていた。
そんな中、ようやくこうして会える機会がやってきたのだ。
「本当にっ、本当に申し訳ありませんでした!」
「今後はいつでもその場でお電話いただければすぐに駆けつけますっ。寧ろ、他の奴らなど後回しにします! あいつらはちょっと困ればいい!」
「そうですっ。現場をむちゃくちゃにして『後よろしく~』などというバカ共などちょっと警察に捕まればいいのです」
「器物破損で訴えられて、賠償金でひぃひぃ言えばちっとは大人しくなるわいっ」
「それだ! もうご当主との依頼しか受けないと宣言してやりますぞ!」
「……え~っと……」
色々と溜まっていたものまでブチまけはじめた二人に、高耶は困惑するしかなかった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
思わず身構えてしまったのは、彼らからの気迫が強かったから。若干、迎撃態勢に入ってしまったのも仕方がないと言える。
しかし、彼らはこのゴロゴロと石の転がる河原でスライディング土下座を決めた。
「っ!?」
痛いだろうと目を見開く高耶の前で彼らは頭を上げることなく、大きな声で叫ぶように告げる。
因みに、彼らのズボンは特別性で、石も刺さらない。特殊な精霊が織った布で、銃弾もはね返すと言われている。
「我ら、清掃部隊! ご当主様へのこれまでの数々のご無礼! 謝罪をいたしたく参りました!!」
「え? いや、え?」
高耶も何がなんだかわからない。
そんな中、清晶は警戒しながら高耶にこれ以上彼らが近付かないように密かに結界を張っている。
《なんなのこいつら……》
清晶が結界を張ったのは条件反射のようなものだったのだ。暑苦しいのが高耶に抱きつくんじゃないかと思ったら全力で張っていたらしい。
触って欲しくないということだ。
「秘伝のご当主は秘伝秀一という方だと思っておりました……なので、ご当主の名を騙っているのだとばかり……」
「清掃部隊である我らは、他の陰陽師の方達に下に見られることが多く……下っ端の見習い陰陽師風情が指図をと……少々卑屈になっておりました……」
「はあ……」
よくわからない話が始まった。
それを聞いていると、どうやら、彼らの仕事を軽視する者が陰陽師の中にいるようだ。確かに清掃部隊はゴミ掃除をするというイメージがある。
実際は確かにこうしたゴミを処理するのはもちろんなのだが、場を清める前の下準備までをするのが彼らの仕事の一つだ。
時には、術によって荒れてしまった場所を整地し、元のように整えるという仕事もある。力仕事にも定評のある彼らは、儀式場を作ることもあった。
彼らは陰陽師達の裏方。黒子のようなもの。なくてはならない存在なのだが、どうしても特別な力があるのだと驕ってしまう最近の陰陽師達は軽視してしまうらしい。
「いつも我らが到着するとご当主は場を整えてくださっていました。やるべきことをやりやすいようにとしてくださっているのがよくわかります……」
「最初はただの偶然だと思いました。ですが違う……そう気付いたのは、お恥ずかしいことについ最近です……」
散らかしたら散らかしたままの陰陽師達とは違う。ここからここまでの範囲という場の保全も的確だった。
その上、高耶は仕事を頼んだ次の日には清掃部隊にきっちりと報酬を振り込むし、酷く大変な仕事の後には心付けとして差し入れも送っていた。
差し入れとしては、町や集落から送られてくることもあったので、特に気にしてはいなかったのだ。
「その気付くきっかけは神楽部隊でした」
「あれらとは、神楽の舞台の設営でよく仕事を一緒にします。そこでご当主のことを聞いたのです……」
神楽部隊は、何気ない様子で高耶に頼まれて行った神楽の話をしていただけだった。
『本当に秘伝のご当主には頭が下がりますよ。あれでまだ確か二十になっていませんでしたよね?』
『そうですよ。いやあ、思い出しますね……まだ高校生になったばかりの頃のご当主に、我々は辛く当たってしまっていて……』
『本当ですよ……今思うと本当に大人気ない……あの年でこちらのことまで気遣ってくださる方などそうそういませんよ』
いつからだっただろう。彼ら神楽部隊が、こうして穏やかに談笑しながら仕事をするようになったのは。それに気付いた時、ふとそれがとても気になった。
『秘伝のご当主はお若かったですかな?』
秘伝の当主は自分たちとそう変わらない壮年の、気遣いなどという言葉とは無縁な神経質な男だったはずだ。
『そうですよ? あ、もしや本家の方と勘違いされていませんか?』
『はい?』
当主なのだから本家だろうと、何を言っているのかわからなかった。
『秘伝のご当主は血ではなく、素質で決まるそうです。今の正式なご当主は分家筋から出られた方ですよ? とても真面目で博識で……常に努力を怠らない素晴らしい青年です』
研究に余念のない、どちらかといえば頭の固い方の神楽部隊の者が褒めるほどの人物。それに心当たりは全くなかった。
『きっとあのご当主のことです。あなた方のお仕事にも気を遣っておられるのではないでしょうか。少なくとも、彼ならば場を散らかしたまま後は頼んだと放置されるようなことはしませんよ』
『……あ……っ』
そこでようやく思い当たった。
いつも電話で丁寧に、申し訳なさそうに依頼してくる青年がいること。受付担当は、また当主を騙るバカな青年からの依頼だと連絡がある。しかし、その現場はそんな当主を騙るような者がいた場所なのかと不思議に思えるものだった。
『本物の当主だったのか……』
気付いてすぐに受付担当達を張り倒した。
受付は持ち回りでしている。だから、ほとんど全員だった。けれど、この頃になると高耶はすぐに対応してもらえないことが分かっているために、直接の電話ではなく依頼書ということで次の日に回すようになっていた。
場の保管はきっちりしてくれているので、すぐに急行する必要がなかったのだ。他の急務となる場所が終わってからで良いといつも一筆書かれていた。
どうしてこれに今まで気付かなかったのかと頭を抱えるしかない。因みに下の者たちを張り倒した手前、自分たちにもこれには罰をと思い、このふた月は休み返上で毎日働き続けていた。
そんな中、ようやくこうして会える機会がやってきたのだ。
「本当にっ、本当に申し訳ありませんでした!」
「今後はいつでもその場でお電話いただければすぐに駆けつけますっ。寧ろ、他の奴らなど後回しにします! あいつらはちょっと困ればいい!」
「そうですっ。現場をむちゃくちゃにして『後よろしく~』などというバカ共などちょっと警察に捕まればいいのです」
「器物破損で訴えられて、賠償金でひぃひぃ言えばちっとは大人しくなるわいっ」
「それだ! もうご当主との依頼しか受けないと宣言してやりますぞ!」
「……え~っと……」
色々と溜まっていたものまでブチまけはじめた二人に、高耶は困惑するしかなかった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
124
お気に入りに追加
1,407
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる