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第三章 秘伝の弟子
112 色々考えているようです
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2019. 5. 19
**********
統二は自分でも驚くほど落ち着いていた。斜め後ろには、いつも絡んでくる同級生の二葉がいる。それなのに、これほど落ち着いていられるというのが不思議だった。
理由の一つは少しでも高耶の役に立てたという満足感から。もう一つは隣を歩く俊哉の存在だ。
小学校を何事もなく出た統二達は、それから数分は何一つ喋ることなく駅へ真っ直ぐに向かっていた。
因みに、小学校から最寄りの駅までは徒歩二十分強というところだ。
会話が始まったのは、それを半分も行かないうちだった。
「なあお前、なんであんなことしたんだ?」
「っ……」
「……和泉さん?」
唐突に二葉へと向けられた質問の意味が統二には分からなかった。
「だってこいつだろ? コックリさんをあの学校で流行らせたの」
「……で、ですが……」
それは確かに、現状から見ればその可能性が高いことは、統二も理解していた。
「なんか似てる子どもいたし。あれ、お前の従兄弟か?」
「っ、はい……」
「和泉さん……なんで従兄弟だと?」
この人、結構鋭いなと統二は感心しながら質問する。
「だって、こいつは電車を使うんだろ? けど、あの小学生はあの辺の家だ。なら、親戚関係って感じだろ? お前も高耶となんとなく似てるし」
「えっ、に、似てますか?」
「う~ん。声とか似てるぞ。あと、雰囲気」
「そ、そうですかっ」
明らかに声が明るくなった。
「嬉しそうな顔しちゃって……高耶の事好きなんだなあ」
「はい! 心から尊敬してます! 兄さんのためなら実の兄や父親も捨てられますよ! というか、実際に見捨てました!」
「お、おう……結構過激な子だった……」
俊哉もタジタジだ。熱がすごい。
「……兄さんって……従兄弟じゃないのか? それも本家の人じゃないんだろ……」
「確かに高耶兄さんは分家の人ですけど、尊敬するっていうのは家なんて関係ないし……?」
統二は、二葉が何を言いたいのか分からない。
そこで俊哉が首を傾げて気付いたことを口にする。
「本家とか分家ってのを気にしてんのか?」
「っ……なんで……」
二葉はなぜ気付かれたのかと驚いている様子だ。
「いや、だってよ、普通は本家だ分家だってあんま言わねえし。寧ろ本家とか分家ってのが分からんし。それを言うってことは、そういうのを気にする家ってことだよな?」
「そういうものなんですか?」
統二は本家の人間だ。統二としては本家だ分家だということにはうんざりしていた。だが、確かに学校や外ではそんな話など関係なくいられる。
「おう。まあ俺んとこは道場持ってるじいちゃんの兄の所が本家ってことになるんだろうなあとは思うけど。だからって『本家行ってくる』とか『うちは分家だから』とか会話になった事ねえからなあ……正確なところは知らん。気にもならんし」
「う~ん。でも普通の家はそういうものかもしれませんね……」
「けど、高耶に聞いたが、お前んとこはそういうのはっきりしてんだろ?」
二葉のことなど気にせず、俊哉は統二に話かけてくる。まだ駅は遠い。
「そうですね。父や兄、その門下の師範とか本家の関係者は煩かったです。高耶兄さんが当主に決まってるのに、難癖つけまくってました」
「高耶はあんま気にしてなかったみたいだけどな。俺が仲悪いのかって聞いた時も確か『普通に家に入れてもらえないくらいだ』って言ってたし」
俊哉が思い出すように、顎に手を当てて遠くを見る。これに統二は頷く。
「ええ……入れなかったです。僕が本家に兄さんが来たのを見たのも、珀豪さん達でカチコっ……道場破りみたいな感じで来た時くらいですし」
「今カチコミっつた? 何その楽しそうなイベント」
「イベ……確かにイベントでしたね。すごかったですよ。普通に家が倒壊しましたから。人も沢山飛んでました」
「それマジで? すっげえ見たい」
完全に食いついていた。
面白くなった統二がその時を思い出す。実の父や兄のことであっても、尊敬する高耶の式神達が活躍した時のことを思い出すのは気分が良い。
「実の兄は垣根に頭から突っ込んでいましたし、父は砂の中から出てきたんじゃないかってくらい汚れてました。あの安倍家のご当主が結界を張ってなかったらパトカーとか来てたと思います」
「そんなすごかったんだ~。あ、キショウさんも活躍したか!?」
「え? ええ。生き埋めにしてました。胸から上しか出てない人達がいっぱいいましたよ」
「すげぇストイック……キショウさんらしいぜっ」
あれをストイックと言うのだろうか。そこはちょっと同意できなかった。
「そういや、お前も今日結界張ってたなっ」
「え? あ、はい。役に立てて良かったです」
「やっぱ陰陽師だなあ……式神さんも綺麗な人だったし」
「ありがとうございますっ」
籐輝のことを綺麗だと褒められて、素直に嬉しい統二だ。
そこで二葉の声が聞こえた。
「陰陽師……?」
「ん? 見てなかったのか? こいつん家は陰陽師だぞ?」
「正確には陰陽武道というものです。武道の方が本業ですから。さっきの本家としての考え方だと、あまり武道が得意じゃない僕は本家の人間としては失格ってことになります」
「へえ。ってか、そういうの本家って大変だよな」
「はい……だから父も兄もあれだけ高耶兄さんに楯突いてたんだと思います……本家としての重圧はありますから」
本家は分家だからと見下すのではない。何かあった時、見下すことしかできないのだ。絶対に劣ってはならないという矜持があるから。
本家として何かを継いでいかなくてはならないという使命があるからだ。
「……本家って大変なのか……」
二葉の呟きに統二が答える。
「責任はあります。過去から受け継ぐべきものを絶対に絶やしてはいけないんですから。それは血という場合もありますし、技術であったりしますけど……それでも何事にも絶対なんてないですから……それを絶対にしなくてはならないっていう責任が辛いと思う人もいるでしょうね」
「……そうか……なら、分家の方が気楽なのか……」
二葉は何か考えているようだった。自分の中に何かを見つけたような。答えが出る前のようなそんな雰囲気だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
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統二は自分でも驚くほど落ち着いていた。斜め後ろには、いつも絡んでくる同級生の二葉がいる。それなのに、これほど落ち着いていられるというのが不思議だった。
理由の一つは少しでも高耶の役に立てたという満足感から。もう一つは隣を歩く俊哉の存在だ。
小学校を何事もなく出た統二達は、それから数分は何一つ喋ることなく駅へ真っ直ぐに向かっていた。
因みに、小学校から最寄りの駅までは徒歩二十分強というところだ。
会話が始まったのは、それを半分も行かないうちだった。
「なあお前、なんであんなことしたんだ?」
「っ……」
「……和泉さん?」
唐突に二葉へと向けられた質問の意味が統二には分からなかった。
「だってこいつだろ? コックリさんをあの学校で流行らせたの」
「……で、ですが……」
それは確かに、現状から見ればその可能性が高いことは、統二も理解していた。
「なんか似てる子どもいたし。あれ、お前の従兄弟か?」
「っ、はい……」
「和泉さん……なんで従兄弟だと?」
この人、結構鋭いなと統二は感心しながら質問する。
「だって、こいつは電車を使うんだろ? けど、あの小学生はあの辺の家だ。なら、親戚関係って感じだろ? お前も高耶となんとなく似てるし」
「えっ、に、似てますか?」
「う~ん。声とか似てるぞ。あと、雰囲気」
「そ、そうですかっ」
明らかに声が明るくなった。
「嬉しそうな顔しちゃって……高耶の事好きなんだなあ」
「はい! 心から尊敬してます! 兄さんのためなら実の兄や父親も捨てられますよ! というか、実際に見捨てました!」
「お、おう……結構過激な子だった……」
俊哉もタジタジだ。熱がすごい。
「……兄さんって……従兄弟じゃないのか? それも本家の人じゃないんだろ……」
「確かに高耶兄さんは分家の人ですけど、尊敬するっていうのは家なんて関係ないし……?」
統二は、二葉が何を言いたいのか分からない。
そこで俊哉が首を傾げて気付いたことを口にする。
「本家とか分家ってのを気にしてんのか?」
「っ……なんで……」
二葉はなぜ気付かれたのかと驚いている様子だ。
「いや、だってよ、普通は本家だ分家だってあんま言わねえし。寧ろ本家とか分家ってのが分からんし。それを言うってことは、そういうのを気にする家ってことだよな?」
「そういうものなんですか?」
統二は本家の人間だ。統二としては本家だ分家だということにはうんざりしていた。だが、確かに学校や外ではそんな話など関係なくいられる。
「おう。まあ俺んとこは道場持ってるじいちゃんの兄の所が本家ってことになるんだろうなあとは思うけど。だからって『本家行ってくる』とか『うちは分家だから』とか会話になった事ねえからなあ……正確なところは知らん。気にもならんし」
「う~ん。でも普通の家はそういうものかもしれませんね……」
「けど、高耶に聞いたが、お前んとこはそういうのはっきりしてんだろ?」
二葉のことなど気にせず、俊哉は統二に話かけてくる。まだ駅は遠い。
「そうですね。父や兄、その門下の師範とか本家の関係者は煩かったです。高耶兄さんが当主に決まってるのに、難癖つけまくってました」
「高耶はあんま気にしてなかったみたいだけどな。俺が仲悪いのかって聞いた時も確か『普通に家に入れてもらえないくらいだ』って言ってたし」
俊哉が思い出すように、顎に手を当てて遠くを見る。これに統二は頷く。
「ええ……入れなかったです。僕が本家に兄さんが来たのを見たのも、珀豪さん達でカチコっ……道場破りみたいな感じで来た時くらいですし」
「今カチコミっつた? 何その楽しそうなイベント」
「イベ……確かにイベントでしたね。すごかったですよ。普通に家が倒壊しましたから。人も沢山飛んでました」
「それマジで? すっげえ見たい」
完全に食いついていた。
面白くなった統二がその時を思い出す。実の父や兄のことであっても、尊敬する高耶の式神達が活躍した時のことを思い出すのは気分が良い。
「実の兄は垣根に頭から突っ込んでいましたし、父は砂の中から出てきたんじゃないかってくらい汚れてました。あの安倍家のご当主が結界を張ってなかったらパトカーとか来てたと思います」
「そんなすごかったんだ~。あ、キショウさんも活躍したか!?」
「え? ええ。生き埋めにしてました。胸から上しか出てない人達がいっぱいいましたよ」
「すげぇストイック……キショウさんらしいぜっ」
あれをストイックと言うのだろうか。そこはちょっと同意できなかった。
「そういや、お前も今日結界張ってたなっ」
「え? あ、はい。役に立てて良かったです」
「やっぱ陰陽師だなあ……式神さんも綺麗な人だったし」
「ありがとうございますっ」
籐輝のことを綺麗だと褒められて、素直に嬉しい統二だ。
そこで二葉の声が聞こえた。
「陰陽師……?」
「ん? 見てなかったのか? こいつん家は陰陽師だぞ?」
「正確には陰陽武道というものです。武道の方が本業ですから。さっきの本家としての考え方だと、あまり武道が得意じゃない僕は本家の人間としては失格ってことになります」
「へえ。ってか、そういうの本家って大変だよな」
「はい……だから父も兄もあれだけ高耶兄さんに楯突いてたんだと思います……本家としての重圧はありますから」
本家は分家だからと見下すのではない。何かあった時、見下すことしかできないのだ。絶対に劣ってはならないという矜持があるから。
本家として何かを継いでいかなくてはならないという使命があるからだ。
「……本家って大変なのか……」
二葉の呟きに統二が答える。
「責任はあります。過去から受け継ぐべきものを絶対に絶やしてはいけないんですから。それは血という場合もありますし、技術であったりしますけど……それでも何事にも絶対なんてないですから……それを絶対にしなくてはならないっていう責任が辛いと思う人もいるでしょうね」
「……そうか……なら、分家の方が気楽なのか……」
二葉は何か考えているようだった。自分の中に何かを見つけたような。答えが出る前のようなそんな雰囲気だった。
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