秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
106 / 405
第三章 秘伝の弟子

106 落ち着いて待っていてください

しおりを挟む
2019. 4. 17

**********

高耶が来たことで、張り詰めていた空気が緩んだようだ。

「高耶くんっ」
「お兄さんっ」

カナちゃんとミユちゃんの母親達が思わずというように声を上げた。

「えっ、高耶くん。外に骸骨いたでしょう?」
「大丈夫ですよ。今はもうこの部屋の前には居ません」
「そうなの? なら帰れる……?」

これに高耶は申し訳ないと眉を寄せる。

「少なくとも、この状況を作った者を捕まえない限りは、外には出られません。この部屋はこの二人のお陰で大丈夫ですが、部屋の外は有害な空気があります。危険なので、処理が終わるまで待っていてください」
「そ、そう……」

さすがに骸骨の落ち武者を実際に見てしまっては、これらを受け入れざるを得ないだろう。それぞれ娘を抱き寄せて椅子に深く座り直していた。

「なあ、高耶。隣、先生達は大丈夫なのか? 倒れてるみたいだし、その有害な空気? のせいじゃねえの?」

俊哉は取り乱すことなく、落ち着いた様子で尋ねてきた。こういう態度は助かる。俊哉のような者がパニックを起こせば、この場は大変なことになっていただろう。

お陰で子ども達がこの状況でも大人しくしていてくれている。

「職員室の方は対処した。多少は影響があるかもしれないが、問題ない。今は眠っているだけだ」
「そっか。なら安心だなっ。隣で人死にが出てたらどうしようかと思った」
「縁起でもない……」

そんな俊哉の隣で、時島がほっと胸を撫で下ろしていた。

どんな状況かを納得してもらえた所で、清晶が近付いてきた。

《主様。上に鬼渡がいる》
「……そうか。珀豪はそっちか?」
《うん。生徒もいるらしいから》

中に入ったことで、高耶はかつて対峙した鬼渡がいるというのには気付いていた。

この地に鬼が封じられている感じはないので、そこは安心しているが、何が目的なのかと考える。

「……わかった。清晶と統二はこのままここを頼めるか?」
《……ぬ、主様と一緒がいいけど……そうしろって言うなら……》
「頼むよ」
《ん……》

ちょっと納得できないという顔をしながらも頷く清晶の頭を撫でる。

それから統二を見た。

「清晶の力を少し解放する。それで結界が強化されるはずだ。そんなに時間はかけるつもりはない。もう少しだけここで頑張ってくれ」
「はいっ」

素直な子だ。目は潤んだままだが、大丈夫だろう。

「優希、カナちゃん達とここでもう少しだけ待っててくれるか?」
「うんっ。でも、もうちょっとだけだよ?」
「ああ。ちょっとだけだ」

笑ってポンポンと頭を優しく叩くと校長を見る。

校長は立ち上がってこちらを真剣な目で見ていた。なんとなく言いたい事はわかっていた。

「私も連れていってくれないかしら」
「……本気ですか?」
「もちろんよ。そこでご相談なのだけれど、薙刀はあります?」

とってもお茶目な表情で校長は首を傾げて見せた。

それを見て顔をしかめる高耶の肩に源龍が手を置いた。

「高耶君。何かを決意した女性というのは、強いものだよ。それに、彼女はかなりの使い手のようだ」
「はぁ……強いことは知っているのですが……仕方ないですね。残っているという生徒を頼むとします」
「任せてちょうだいっ」

高耶は前に手をかざす。すると、高耶の足下から光を纏った棒が生えてくる。それは、棒ではなく薙刀だった。藍色と銀の細工が美しい薙刀だ。

「……きれい……っ」
「すてき……」
「すごいわ……」

校長だけでなく、母親達も見惚れていた。

「『十六夜いざよい』です」
「こんな立派なもの、お借りして良いの?」
「たまに使わないと怒るんで、寧ろ使ってください」

神刀レベルのもので、高耶が保管しているのだ。この関係の物は扱いが難しい。人と同じで、機嫌が悪くなるのだ。それを調整するのも預かっている高耶の仕事だった。

「っ、ありがとう。それでは時島先生。ここはお任せします」
「わかりました。蔦枝……気をつけてな」
「はい」

頭を下げて高耶と源龍、校長を入れた三人で上階へ向かった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
今週、もう一話上げます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...