秘伝賜ります

紫南

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第三章 秘伝の弟子

097 お迎えが来てました

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2019. 2. 27

**********

昼食を取ってから大学の校舎を出ると、東側の門へと向かう。

大学は南に正門があるが、他の三方にも門がある。細い道を挟んで東と西に別棟があるし、北にはテニスコートがある。

東門を出ると、その道に黒のセダンが、ハザードランプをつけて止まっていた。

高耶が出てきたのを確認したのか、その運転席から男が降りてくる。そして、助手席側の後部座席のドアを開けて頭を下げた。

「お疲れ様です。どうぞ、お乗りください」
「ありがとうございます」

礼を言って肩がけしていたリュックを前に抱えながら乗り込む。因みに、既に今は仕事仕様にスタイルチェンジ済みだ。ここまで来る間、すれ違う人たちにものすごく見られた。

運転席の後ろの座席では、榊源龍がいつものように穏やかな笑みを浮かべて待っていた。

「お待たせしてすみません」
「いや、突然迎えに行くと言ったのはこちらだからね。丁度出ていたものだから、こっちの方が早いんじゃないかと思ったんだ」
「助かります」

昼食を食べている最中に源龍からメールが入ったのだ。仕事で近くを通るから、待ち合わせ場所ではなく迎えに行くとのこと。結構焦った。

「大学は楽しそうで良いね。やっぱり、高校とは違う?」
「そうですね……短大は忙しいようですけど、必須科目だけでは半分も埋まらないですし、のんびりやれますから、自由度は高いです」
「高耶くんはほとんど埋めてそうだけど?」
「そんなことないですよ。埋めすぎると仕事に差し支えますから」
「はは、それもそうか」

なるべくならば高校から上がった習慣のまま、全コマを埋めたかった。サボろうと思えばいくらでもサボれてしまうのが大学だ。

とはいえ、規定の数の単位は取らなくてはならない。後で苦しむよりも、先に数をこなしてしまった方が良い。だが、その方が良いと思っていてもサボりたくなるのが人だ。

後先考えられない者は結構多い。

高耶はそれが分かっているので、仕事をこなせるギリギリを見定めて受講していた。

「大学生か……良いよね。行ってみたかったな」
「榊家ほどの一族の当主となれば、中々時間は取れませんよね……」
「ふふ。高耶くんだってそうだろう? 私は単純に自分には無理だと思ったんだ。仕事と一族と学業……その全てを両立させる自信がなかったんだよ」

源龍は分家の出だ。本家の血筋が絶えたことにより、養子として迎えられた。そんな立場だからこそ、自由を望むことができなかったのだろう。求められる当主でなくてはならなかったから。

「君を尊敬するよ」
「よしてください。ただ、面倒事を本家に押し付けているだけです。当主と認められていないのを良いことに本家を良いように使ってるんですから」
「そこがすごいんじゃないか。私も君のところの本家筋はどうかと思うし、それを上手く使うのは良いことだよ」

当主として必要な時は高耶も出張っていくが、多くの場合、自分達が正当な当主だと言って、はばからなかった秀一や勇一をこれ幸いと使っていたのだ。

全て一人で背負おうとする源龍とは違う。

「当主の在り方が、他の陰陽師の家とは違いますから、それもあるんだと思います」
「なるほど……それはあるかもしれないね。当主選定をするのが唯一絶対の一人っていうのは分かりやすくて羨ましいよ」
「それでもああなんですが……」
「そういえばそうだね。ははっ、ままならないものだ」

そんな話をしているうちに目的地に着いたらしい。

「着いたね。案内するよ」

そこは榊家の分家。源龍の生家でもある。

「焼失した屋敷はもう建て替えられてしまっていてね」

今回の目的は、源龍が生まれた日に焼失したとされる屋敷であったことを視ることだ。

その日、金白色の浄化の焔が上がったという。そして、そこで双子の妹と両親が亡くなった。その妹というのが鬼渡薫という人物ではないかと思われている。彼女は鬼を各地で甦らそうとしているのだ。

一度は高耶が捕まえた彼女は、まんまと脱走してしまった。身元や事情を聞く前に消えてしまったのだ。

一体、この場で何があったのか。それを視るのが今回の高耶の役目である。

「今は残った叔父夫婦達が暮らしているんだけど……その人たちがすごく問題でね……」

源龍が困ったように顔をしかめた。本気で困っていそうだ。そして、それがやって来た。

「おおっ、源龍っ。久しいではないかっ」

あ、これだめだと思った。

まったく当主として見ていない。彼は源龍の叔父であるという驕りがあるのだろう。こういったことは結構ある。

そこで、源龍付きの者なのだろう。別の車で先に来ていた者が前に出る。

「当主に何という口の利き方をされるのか」
「何を言う! 甥に話しているんだ。お前たちとは違うわ!」
「……」

源龍は呆れてしまっていた。いつもこうなのだろう。

「大事なお客の前です。もう少し落ち着いていただけますか?」
「っ、客だと? 子どもではないか」
「秘伝の御当主です」
「そんなわけあるか。あそこの御当主はもっと上のはずだ」

一気に高耶も面倒くさくなった。

「源龍さん、案内してください。早く終わらせましょう」
「そうだね。行こうか」

源龍も相手にしたくないのだ。そして、男を追い越していく。

しかし、やっぱりというか、お約束というか、簡単には引き下がらないのがこの人種の嫌なところだ。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
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