90 / 405
第三章 秘伝の弟子
090 承りました……
しおりを挟む
2019. 1. 16
**********
「昔やったな~」
高耶の予想通り、俊哉も体験済みだったらしい。
「懐かしがるな。まったく……」
「だってよお。やっぱやりたくなる時ってあるじゃん」
仲間内でやってみようとなれば、面白がってやってみてしまうという時期があるものだ。しかし、それでも高耶のような生業の者からすれば、軽々しくやって良いものではない。
しかし、人は集まるとその場のノリでやってみたいと思うのだ。もし本当だったら凄いよねという軽い気持ち。実際に勝手に手が動いたりすれば、ただ事では済まないだろうに。
「あんなの、本当にやれるわけねえんだろ? 誰かが操作してたり、手の震えが関係してるとか聞くじゃん」
色々と可能性を検証されたりと、確実にコックリさんを信じない者が増えている。それでもやる者は後を絶たない。
「形式も書式もデタラメなのが多いし、本来の事象が起きることはまずないんだが、学校っていう場所とやらかす年代が問題なんだよ」
「学生ってことか?」
「ああ……妖ってのは、子ども好きというか、信じる奴が好きでな……あるだろ。お化けを信じてる時期」
「あ~」
妖は、怖がってくれたり、少しでも影響を信じてくれる者が好きだ。それによって溢れ出す感情がエサとなるのだから当たり前だろう。
「学校ってのは、大抵が土地神の強い影響下にある場所に建てられる。子どもを守って欲しいっていう願いが神を動かすからな。けど、そういう場所は、信仰が薄れたりすると歪みができやすい」
力ある神が守ってきた場所。その力が弱まれば、妖達にとっては良い住処となる。あちらの世界に近い揺らぎが生まれるためだ。ただ、神域に近い場所であるため、弱い妖は近付けない。よって、厄介なことにそれなりの力を持った妖達が集まってきてしまうのだ。
「それ言ったら、どこの学校も危ねぇじゃん」
「ああ。まぁ、そこまでなるのには条件があってな……」
どこの学校もそうではない。これらは、特定の条件下に置かれた時に起きる事態だ。
「一つは神の力が弱まった所であること。二つ目がコックリさんのようなことを頻繁に行った場所であること。三つ目が妖の好む強い不満の感情があること。四つ目が妖やコックリさんのことを極端に信じていない者がいることだ」
これは、長年陰陽師達の経験に基づいて知り得たこと。これだけの条件が揃わなければ、ほとんど問題になるようなことにはならない。
「三つ目と四つ目は、子ども達に限ったことじゃないのかしら?」
「ええ。この地にいる者が対象ですから。職員も含みます。特に四つ目の信じない者というのは職員であることが多いですね」
信じないと決めた者の想いはとても強いことが多い。いないものをいないと証明するのは難しい。だからこそ、信じないという何よりも確かな強い意思が必要なのだ。
「そう……あら? ならもしかして、その人が考え方を変えれば問題はなくなるってことかしら?」
「問題が既に起きている場合はなくなるということはありませんが、影響は薄くなりますね。こちらも対処しやすくなるといいますか……」
意味ありげに微笑まれ、高耶は少しだけ目をそらす。
「神さまの力を元に戻すなんてこと、ご当主ならばできますわよね?」
「……精一杯、尽力させていただきます……」
「うふふ。良かったわ」
昔も今も、この人はしたたかだ。
「それで、今日中にというのは無理かしら?」
「見回ってみないと状況がどこまで進んでいるのかが分かりません。土地神には先ほど許可を得ましたので、式に探らせます」
秘伝の仕事とは違い、即日即効解決というのは無理だ。
「歪みや小さな穴が既にいくつか出てきてしまっているようですが、無理やり元に戻すことはできません。更に歪みを作り出してしまいますし、下手をすれば、更に穴を空けてしまいかねませんから」
「そうなの? そういえば、昔実家でそういう注意を受けていたのを聞いたことがあるわ……陰陽師って、どうしてもお札で一発解決って感じだから勘違いしてしまうわね」
お祓いをして終わりというのは、本来ならばほとんどない。力づくで封じたり滅したりすることはあるが、その後に必ず土地の状態を確認する作業がある。
その地の神に伺いを立てたり、力の調整を行なったりしなくてはならないのだ。しかし、そういう手順を省く陰陽師も多い。
そもそも、神と対話することのできるほど力が強くない者は、そうなりがちだ。一般的なイメージの中の陰陽師になってしまうのである。
「蔦枝……は陰陽師なのか……?」
それまで口を挟まず、聞くに徹していた時島が尋ねてきた。
「はあ、まあ一応そうですね……」
こうして、知り合いに知られる時はとても緊張する。陰陽師なんていう職種は一般的ではない。だからこそ、受け入れられる者と受け入れられない者の差が大きいのだ。
不安を抱きながら時島を見つめていると、校長が自慢げに笑った。
「彼は陰陽師でもトップクラスですよ? あの安倍のご当主の信頼も篤いんですもの。その上に秘伝家のご当主だもの。お若いのにすごいわっ」
「……当主……」
時島に校長が説明を始める。秘伝家とはどういう家かと。しかし、そこで彼女が気付いたようだ。
「あら? そろそろ一年生の下校の時間だわ。お迎えなのよね?」
「ええ……」
微妙に忘れかけていた。
「ご当主の今日のこの後のご予定は?」
「……特にありませんが、今日できることは少ないですよ?」
「それでもできることはあるのね。何をされます?」
全てをやりきるのに数日かかるというのは納得しているようで、完全に彼女は高耶に任せるつもりらしい。ならばと予定を立てて今日できることを考える。
「式達に見回りをさせて……この後、音楽室って使えますか?」
「ええ。音楽室なら今日はもう使わないはずよ」
「なら、ピアノを少し弾かせてください。それで歪みを少し抑えられます。土地神にも力を分けられますので」
「すごいわっ。そんなことできるのねっ」
これは高耶だからできる方法だ。陰陽師らしくはないかもしれない。
未だ少し懐疑的な目をしている時島に気付きつつも、高耶はまずはと式を呼んだ。
「【綺翔】【常盤】」
「っ……!?」
高耶の座るソファの後ろに、人化した綺翔と常盤が現れる。突然現れた二人に、時島は目を見開いて息を一瞬止めていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
**********
「昔やったな~」
高耶の予想通り、俊哉も体験済みだったらしい。
「懐かしがるな。まったく……」
「だってよお。やっぱやりたくなる時ってあるじゃん」
仲間内でやってみようとなれば、面白がってやってみてしまうという時期があるものだ。しかし、それでも高耶のような生業の者からすれば、軽々しくやって良いものではない。
しかし、人は集まるとその場のノリでやってみたいと思うのだ。もし本当だったら凄いよねという軽い気持ち。実際に勝手に手が動いたりすれば、ただ事では済まないだろうに。
「あんなの、本当にやれるわけねえんだろ? 誰かが操作してたり、手の震えが関係してるとか聞くじゃん」
色々と可能性を検証されたりと、確実にコックリさんを信じない者が増えている。それでもやる者は後を絶たない。
「形式も書式もデタラメなのが多いし、本来の事象が起きることはまずないんだが、学校っていう場所とやらかす年代が問題なんだよ」
「学生ってことか?」
「ああ……妖ってのは、子ども好きというか、信じる奴が好きでな……あるだろ。お化けを信じてる時期」
「あ~」
妖は、怖がってくれたり、少しでも影響を信じてくれる者が好きだ。それによって溢れ出す感情がエサとなるのだから当たり前だろう。
「学校ってのは、大抵が土地神の強い影響下にある場所に建てられる。子どもを守って欲しいっていう願いが神を動かすからな。けど、そういう場所は、信仰が薄れたりすると歪みができやすい」
力ある神が守ってきた場所。その力が弱まれば、妖達にとっては良い住処となる。あちらの世界に近い揺らぎが生まれるためだ。ただ、神域に近い場所であるため、弱い妖は近付けない。よって、厄介なことにそれなりの力を持った妖達が集まってきてしまうのだ。
「それ言ったら、どこの学校も危ねぇじゃん」
「ああ。まぁ、そこまでなるのには条件があってな……」
どこの学校もそうではない。これらは、特定の条件下に置かれた時に起きる事態だ。
「一つは神の力が弱まった所であること。二つ目がコックリさんのようなことを頻繁に行った場所であること。三つ目が妖の好む強い不満の感情があること。四つ目が妖やコックリさんのことを極端に信じていない者がいることだ」
これは、長年陰陽師達の経験に基づいて知り得たこと。これだけの条件が揃わなければ、ほとんど問題になるようなことにはならない。
「三つ目と四つ目は、子ども達に限ったことじゃないのかしら?」
「ええ。この地にいる者が対象ですから。職員も含みます。特に四つ目の信じない者というのは職員であることが多いですね」
信じないと決めた者の想いはとても強いことが多い。いないものをいないと証明するのは難しい。だからこそ、信じないという何よりも確かな強い意思が必要なのだ。
「そう……あら? ならもしかして、その人が考え方を変えれば問題はなくなるってことかしら?」
「問題が既に起きている場合はなくなるということはありませんが、影響は薄くなりますね。こちらも対処しやすくなるといいますか……」
意味ありげに微笑まれ、高耶は少しだけ目をそらす。
「神さまの力を元に戻すなんてこと、ご当主ならばできますわよね?」
「……精一杯、尽力させていただきます……」
「うふふ。良かったわ」
昔も今も、この人はしたたかだ。
「それで、今日中にというのは無理かしら?」
「見回ってみないと状況がどこまで進んでいるのかが分かりません。土地神には先ほど許可を得ましたので、式に探らせます」
秘伝の仕事とは違い、即日即効解決というのは無理だ。
「歪みや小さな穴が既にいくつか出てきてしまっているようですが、無理やり元に戻すことはできません。更に歪みを作り出してしまいますし、下手をすれば、更に穴を空けてしまいかねませんから」
「そうなの? そういえば、昔実家でそういう注意を受けていたのを聞いたことがあるわ……陰陽師って、どうしてもお札で一発解決って感じだから勘違いしてしまうわね」
お祓いをして終わりというのは、本来ならばほとんどない。力づくで封じたり滅したりすることはあるが、その後に必ず土地の状態を確認する作業がある。
その地の神に伺いを立てたり、力の調整を行なったりしなくてはならないのだ。しかし、そういう手順を省く陰陽師も多い。
そもそも、神と対話することのできるほど力が強くない者は、そうなりがちだ。一般的なイメージの中の陰陽師になってしまうのである。
「蔦枝……は陰陽師なのか……?」
それまで口を挟まず、聞くに徹していた時島が尋ねてきた。
「はあ、まあ一応そうですね……」
こうして、知り合いに知られる時はとても緊張する。陰陽師なんていう職種は一般的ではない。だからこそ、受け入れられる者と受け入れられない者の差が大きいのだ。
不安を抱きながら時島を見つめていると、校長が自慢げに笑った。
「彼は陰陽師でもトップクラスですよ? あの安倍のご当主の信頼も篤いんですもの。その上に秘伝家のご当主だもの。お若いのにすごいわっ」
「……当主……」
時島に校長が説明を始める。秘伝家とはどういう家かと。しかし、そこで彼女が気付いたようだ。
「あら? そろそろ一年生の下校の時間だわ。お迎えなのよね?」
「ええ……」
微妙に忘れかけていた。
「ご当主の今日のこの後のご予定は?」
「……特にありませんが、今日できることは少ないですよ?」
「それでもできることはあるのね。何をされます?」
全てをやりきるのに数日かかるというのは納得しているようで、完全に彼女は高耶に任せるつもりらしい。ならばと予定を立てて今日できることを考える。
「式達に見回りをさせて……この後、音楽室って使えますか?」
「ええ。音楽室なら今日はもう使わないはずよ」
「なら、ピアノを少し弾かせてください。それで歪みを少し抑えられます。土地神にも力を分けられますので」
「すごいわっ。そんなことできるのねっ」
これは高耶だからできる方法だ。陰陽師らしくはないかもしれない。
未だ少し懐疑的な目をしている時島に気付きつつも、高耶はまずはと式を呼んだ。
「【綺翔】【常盤】」
「っ……!?」
高耶の座るソファの後ろに、人化した綺翔と常盤が現れる。突然現れた二人に、時島は目を見開いて息を一瞬止めていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
93
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる