秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
87 / 419
第三章 秘伝の弟子

087 惚れっぽい?

しおりを挟む
2018. 12. 28

**********

高耶は、受け取った鉢植えを確認する。苗木であるそれは、高耶には温かい光を纏っているように見えた。

「これは何の木でしょうか」
「わからないんだよね~。でも、感じる力から、絶対手に負えなくなるって思ったみたい。ちょっと前に、封印術がどうのって騒動あったでしょ?」
「ええ……」

おそらく、それは鬼の封印の確認の時のことだろう。雛柏教授の血筋に繋がっている陰陽師の家は日凪家。昔から祓い屋として連盟に名を連ねていた。封印を施した数も多い方だろう。

その封印場所と、何を封じているのかをきちんと確認するようにというのが、少し前に連盟から全ての陰陽師達に下された指令だった。

鬼が封印されているのならば、その強化と鬼を復活させようとする鬼渡への対策のため、場所と状態を報告しなくてはならなかった。騒動と言えるほど、これに陰陽師の家の者達は駆けずり回っていたのだ。

「その封印場所の一つにあったんだってさ。悪い感じはしないけど、力は持ってるみたいだから、どうしようかってことになって、僕に相談されたってわけ」

教授ならば、高耶に渡りを付けられると思われたらしい。

「それでなんで俺に……」
「だって、高耶君なら何かあっても大抵対処できるでしょ?」
「……」

この信頼はなんだろう。けれど、日凪家が心配になるのも仕方がないかもしれない。確かに、強い力を感じているのだから。

「はぁ……【綺翔】」

呼んだのは、土の属性を司る綺翔だ。最近はもっぱら人の姿をしているので、今もその姿で現れた。

発光するような薄い金の短い髪と白に近い瞳。表情は変わらず無表情。高耶よりも十センチほど低い。童顔で十代後半から二十才ごろに見える。

服装は現代に合わせて母が揃えたもので、性別の特にない式神ではあるが、綺翔は女の子寄りと認識されていた。そのため、足首が見えるくらいの短めの灰色のパンツに、Vネックのピンクのプルオーバーを着ている。

「綺翔、これが何か分かるか?」
《……仙桃……》
「えっ……本物か?」
《是》

高耶はマジマジとそれを見つめてしまった。同じように聞いていた雛柏教授は飛び上がって喜んだ。

「本物!? 本物なの!? あの伝説の!?」
《間違いない……》

綺翔がきちんとそこまで言うということは、確かに間違いではないのだろう。

仙桃は伝説にある不老不死の妙薬。数千年に一度実をつけるとか言われているものだ。

「どうしよう、高耶君! 君が不老不死になっちゃう!」
「いや、寧ろこれが実をつけるの、言い伝え通りなら何千年か先なんですけど……」
「あ、そっか。あ~、よかった~」

教授の先ほどのはしゃぎようでは、不老不死になって欲しいのか、ならないで欲しいのかわからなかった。

《瑶迦に渡す……》
「そうだな。瑶迦さんなら問題ないだろう」
「うわぁ、伝説の魔女様でしょう? すごいなぁ。これ以上ないってくらい安心だね」

教授は、これが仙桃であることは日凪家には伏せることにしたらしい。ただ、高耶から瑶迦に渡ったということだけ伝えるということで落ち着いた。瑶迦は有名なのだ。

「よし、なら綺翔、これを瑶迦さんの所へ……何してんだ?」

鉢をそのまま綺翔に渡そうと振り返った高耶は、綺翔の前で片膝をついている俊哉を見て固まった。

「和泉俊哉、十九才。ふたご座B型、人間の男です! 一目惚れしました! 一生、死んでも魂までも添い遂げると誓うので、結婚を前提に付き合ってください!」
「怖ぇよ……」

ドン引きした。

《……あるじ……》

その時、珍しく綺翔が表情を見せていた。困ったという表情だ。ほとんどの事に動じないというのに、腰も引けている。

「おい俊哉……」
「何がダメっすか!? 人間だからダメだとかあります? なら今すぐ人間やめてみせます!」

完全に血迷っていた。

高耶が正気に戻れと俊哉の頭を叩くと、綺翔は子猫の姿になって高耶の肩に飛び乗って避難する。

「いてぇっ! うぉ、めっちゃ可愛い! その姿でも愛せる!!」
「落ち着けバカ! 綺翔が怯えてんだろっ」
「くっ、高耶をお父さんと呼ぶ覚悟もできてんだぞっ」
「呼ぶなっ。ってか覚悟してんじゃねぇよ」

縋り付いてくる俊哉に、これはダメだと呆れ、軽く蹴飛ばして転ばせておいた。それでもめげないのが困るところだ。

「いいじゃんかぁ。だいたい、交際は本人同士の問題であって、親が出てくるもんじゃねぇじゃん」
「本人同士の片方が怖がってんだから諦めろ。それと俺を勝手に親認定するな」

こいつを友人にしておくのを本気で考え直す勢いだ。

「綺翔、これを瑶迦さんの所に持って行ってくれ」
《諾……》

机の上に置いた鉢に綺翔が擦り寄る。それが俊哉の琴線に触れたらしく、酷く感動していた。

《……》
「ん? どうした?」

俊哉からはしっかりと距離を取って、綺翔は前足を鉢に添えながら高耶を見上げる。何か言いたそうだ。綺翔は言いたいことがあると、目が合うまで待ち続ける。

《……学校……一緒に行く……から……》
「学校……ああ、優希のか。そうだな……分かった。また呼ぶよ」
《ん……》

そうして、綺翔は少し嬉しそうな雰囲気を見せて鉢と共に姿を消した。それがまた、俊哉の心に突き刺さったらしい。

「あぁぁぁっ、キショウさぁぁぁん!」
「煩ぇよ」
「だってよぉぉぉっ……ぅ」

泣くのがまた鬱陶しかった。しかし、こんな時に切り替えが早いのも俊哉のすごい所だ。

「で? どこ行くって?」
「……」

抜け目はなかった。
しおりを挟む
感想 566

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...