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第三章 秘伝の弟子
087 惚れっぽい?
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2018. 12. 28
**********
高耶は、受け取った鉢植えを確認する。苗木であるそれは、高耶には温かい光を纏っているように見えた。
「これは何の木でしょうか」
「わからないんだよね~。でも、感じる力から、絶対手に負えなくなるって思ったみたい。ちょっと前に、封印術がどうのって騒動あったでしょ?」
「ええ……」
おそらく、それは鬼の封印の確認の時のことだろう。雛柏教授の血筋に繋がっている陰陽師の家は日凪家。昔から祓い屋として連盟に名を連ねていた。封印を施した数も多い方だろう。
その封印場所と、何を封じているのかをきちんと確認するようにというのが、少し前に連盟から全ての陰陽師達に下された指令だった。
鬼が封印されているのならば、その強化と鬼を復活させようとする鬼渡への対策のため、場所と状態を報告しなくてはならなかった。騒動と言えるほど、これに陰陽師の家の者達は駆けずり回っていたのだ。
「その封印場所の一つにあったんだってさ。悪い感じはしないけど、力は持ってるみたいだから、どうしようかってことになって、僕に相談されたってわけ」
教授ならば、高耶に渡りを付けられると思われたらしい。
「それでなんで俺に……」
「だって、高耶君なら何かあっても大抵対処できるでしょ?」
「……」
この信頼はなんだろう。けれど、日凪家が心配になるのも仕方がないかもしれない。確かに、強い力を感じているのだから。
「はぁ……【綺翔】」
呼んだのは、土の属性を司る綺翔だ。最近はもっぱら人の姿をしているので、今もその姿で現れた。
発光するような薄い金の短い髪と白に近い瞳。表情は変わらず無表情。高耶よりも十センチほど低い。童顔で十代後半から二十才ごろに見える。
服装は現代に合わせて母が揃えたもので、性別の特にない式神ではあるが、綺翔は女の子寄りと認識されていた。そのため、足首が見えるくらいの短めの灰色のパンツに、Vネックのピンクのプルオーバーを着ている。
「綺翔、これが何か分かるか?」
《……仙桃……》
「えっ……本物か?」
《是》
高耶はマジマジとそれを見つめてしまった。同じように聞いていた雛柏教授は飛び上がって喜んだ。
「本物!? 本物なの!? あの伝説の!?」
《間違いない……》
綺翔がきちんとそこまで言うということは、確かに間違いではないのだろう。
仙桃は伝説にある不老不死の妙薬。数千年に一度実をつけるとか言われているものだ。
「どうしよう、高耶君! 君が不老不死になっちゃう!」
「いや、寧ろこれが実をつけるの、言い伝え通りなら何千年か先なんですけど……」
「あ、そっか。あ~、よかった~」
教授の先ほどのはしゃぎようでは、不老不死になって欲しいのか、ならないで欲しいのかわからなかった。
《瑶迦に渡す……》
「そうだな。瑶迦さんなら問題ないだろう」
「うわぁ、伝説の魔女様でしょう? すごいなぁ。これ以上ないってくらい安心だね」
教授は、これが仙桃であることは日凪家には伏せることにしたらしい。ただ、高耶から瑶迦に渡ったということだけ伝えるということで落ち着いた。瑶迦は有名なのだ。
「よし、なら綺翔、これを瑶迦さんの所へ……何してんだ?」
鉢をそのまま綺翔に渡そうと振り返った高耶は、綺翔の前で片膝をついている俊哉を見て固まった。
「和泉俊哉、十九才。ふたご座B型、人間の男です! 一目惚れしました! 一生、死んでも魂までも添い遂げると誓うので、結婚を前提に付き合ってください!」
「怖ぇよ……」
ドン引きした。
《……あるじ……》
その時、珍しく綺翔が表情を見せていた。困ったという表情だ。ほとんどの事に動じないというのに、腰も引けている。
「おい俊哉……」
「何がダメっすか!? 人間だからダメだとかあります? なら今すぐ人間やめてみせます!」
完全に血迷っていた。
高耶が正気に戻れと俊哉の頭を叩くと、綺翔は子猫の姿になって高耶の肩に飛び乗って避難する。
「いてぇっ! うぉ、めっちゃ可愛い! その姿でも愛せる!!」
「落ち着けバカ! 綺翔が怯えてんだろっ」
「くっ、高耶をお父さんと呼ぶ覚悟もできてんだぞっ」
「呼ぶなっ。ってか覚悟してんじゃねぇよ」
縋り付いてくる俊哉に、これはダメだと呆れ、軽く蹴飛ばして転ばせておいた。それでもめげないのが困るところだ。
「いいじゃんかぁ。だいたい、交際は本人同士の問題であって、親が出てくるもんじゃねぇじゃん」
「本人同士の片方が怖がってんだから諦めろ。それと俺を勝手に親認定するな」
こいつを友人にしておくのを本気で考え直す勢いだ。
「綺翔、これを瑶迦さんの所に持って行ってくれ」
《諾……》
机の上に置いた鉢に綺翔が擦り寄る。それが俊哉の琴線に触れたらしく、酷く感動していた。
《……》
「ん? どうした?」
俊哉からはしっかりと距離を取って、綺翔は前足を鉢に添えながら高耶を見上げる。何か言いたそうだ。綺翔は言いたいことがあると、目が合うまで待ち続ける。
《……学校……一緒に行く……から……》
「学校……ああ、優希のか。そうだな……分かった。また呼ぶよ」
《ん……》
そうして、綺翔は少し嬉しそうな雰囲気を見せて鉢と共に姿を消した。それがまた、俊哉の心に突き刺さったらしい。
「あぁぁぁっ、キショウさぁぁぁん!」
「煩ぇよ」
「だってよぉぉぉっ……ぅ」
泣くのがまた鬱陶しかった。しかし、こんな時に切り替えが早いのも俊哉のすごい所だ。
「で? どこ行くって?」
「……」
抜け目はなかった。
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高耶は、受け取った鉢植えを確認する。苗木であるそれは、高耶には温かい光を纏っているように見えた。
「これは何の木でしょうか」
「わからないんだよね~。でも、感じる力から、絶対手に負えなくなるって思ったみたい。ちょっと前に、封印術がどうのって騒動あったでしょ?」
「ええ……」
おそらく、それは鬼の封印の確認の時のことだろう。雛柏教授の血筋に繋がっている陰陽師の家は日凪家。昔から祓い屋として連盟に名を連ねていた。封印を施した数も多い方だろう。
その封印場所と、何を封じているのかをきちんと確認するようにというのが、少し前に連盟から全ての陰陽師達に下された指令だった。
鬼が封印されているのならば、その強化と鬼を復活させようとする鬼渡への対策のため、場所と状態を報告しなくてはならなかった。騒動と言えるほど、これに陰陽師の家の者達は駆けずり回っていたのだ。
「その封印場所の一つにあったんだってさ。悪い感じはしないけど、力は持ってるみたいだから、どうしようかってことになって、僕に相談されたってわけ」
教授ならば、高耶に渡りを付けられると思われたらしい。
「それでなんで俺に……」
「だって、高耶君なら何かあっても大抵対処できるでしょ?」
「……」
この信頼はなんだろう。けれど、日凪家が心配になるのも仕方がないかもしれない。確かに、強い力を感じているのだから。
「はぁ……【綺翔】」
呼んだのは、土の属性を司る綺翔だ。最近はもっぱら人の姿をしているので、今もその姿で現れた。
発光するような薄い金の短い髪と白に近い瞳。表情は変わらず無表情。高耶よりも十センチほど低い。童顔で十代後半から二十才ごろに見える。
服装は現代に合わせて母が揃えたもので、性別の特にない式神ではあるが、綺翔は女の子寄りと認識されていた。そのため、足首が見えるくらいの短めの灰色のパンツに、Vネックのピンクのプルオーバーを着ている。
「綺翔、これが何か分かるか?」
《……仙桃……》
「えっ……本物か?」
《是》
高耶はマジマジとそれを見つめてしまった。同じように聞いていた雛柏教授は飛び上がって喜んだ。
「本物!? 本物なの!? あの伝説の!?」
《間違いない……》
綺翔がきちんとそこまで言うということは、確かに間違いではないのだろう。
仙桃は伝説にある不老不死の妙薬。数千年に一度実をつけるとか言われているものだ。
「どうしよう、高耶君! 君が不老不死になっちゃう!」
「いや、寧ろこれが実をつけるの、言い伝え通りなら何千年か先なんですけど……」
「あ、そっか。あ~、よかった~」
教授の先ほどのはしゃぎようでは、不老不死になって欲しいのか、ならないで欲しいのかわからなかった。
《瑶迦に渡す……》
「そうだな。瑶迦さんなら問題ないだろう」
「うわぁ、伝説の魔女様でしょう? すごいなぁ。これ以上ないってくらい安心だね」
教授は、これが仙桃であることは日凪家には伏せることにしたらしい。ただ、高耶から瑶迦に渡ったということだけ伝えるということで落ち着いた。瑶迦は有名なのだ。
「よし、なら綺翔、これを瑶迦さんの所へ……何してんだ?」
鉢をそのまま綺翔に渡そうと振り返った高耶は、綺翔の前で片膝をついている俊哉を見て固まった。
「和泉俊哉、十九才。ふたご座B型、人間の男です! 一目惚れしました! 一生、死んでも魂までも添い遂げると誓うので、結婚を前提に付き合ってください!」
「怖ぇよ……」
ドン引きした。
《……あるじ……》
その時、珍しく綺翔が表情を見せていた。困ったという表情だ。ほとんどの事に動じないというのに、腰も引けている。
「おい俊哉……」
「何がダメっすか!? 人間だからダメだとかあります? なら今すぐ人間やめてみせます!」
完全に血迷っていた。
高耶が正気に戻れと俊哉の頭を叩くと、綺翔は子猫の姿になって高耶の肩に飛び乗って避難する。
「いてぇっ! うぉ、めっちゃ可愛い! その姿でも愛せる!!」
「落ち着けバカ! 綺翔が怯えてんだろっ」
「くっ、高耶をお父さんと呼ぶ覚悟もできてんだぞっ」
「呼ぶなっ。ってか覚悟してんじゃねぇよ」
縋り付いてくる俊哉に、これはダメだと呆れ、軽く蹴飛ばして転ばせておいた。それでもめげないのが困るところだ。
「いいじゃんかぁ。だいたい、交際は本人同士の問題であって、親が出てくるもんじゃねぇじゃん」
「本人同士の片方が怖がってんだから諦めろ。それと俺を勝手に親認定するな」
こいつを友人にしておくのを本気で考え直す勢いだ。
「綺翔、これを瑶迦さんの所に持って行ってくれ」
《諾……》
机の上に置いた鉢に綺翔が擦り寄る。それが俊哉の琴線に触れたらしく、酷く感動していた。
《……》
「ん? どうした?」
俊哉からはしっかりと距離を取って、綺翔は前足を鉢に添えながら高耶を見上げる。何か言いたそうだ。綺翔は言いたいことがあると、目が合うまで待ち続ける。
《……学校……一緒に行く……から……》
「学校……ああ、優希のか。そうだな……分かった。また呼ぶよ」
《ん……》
そうして、綺翔は少し嬉しそうな雰囲気を見せて鉢と共に姿を消した。それがまた、俊哉の心に突き刺さったらしい。
「あぁぁぁっ、キショウさぁぁぁん!」
「煩ぇよ」
「だってよぉぉぉっ……ぅ」
泣くのがまた鬱陶しかった。しかし、こんな時に切り替えが早いのも俊哉のすごい所だ。
「で? どこ行くって?」
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抜け目はなかった。
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